コンセプト通りだがパワーが足りずいま一つ
ensembleから久々の女装潜入物ではないオーソドックスな学園イチャラブコメが登場。
タグは学園、寮、部活、生徒会に加え、元女学園の共学化に伴う極端な男女比という、
女装物ではないが設定としてはあるあるなネタで構成されている。
プロット構成としてはメインヒロインである久遠の護衛をするために主人公が転入し、
そこで久遠とパートナー制度であるシュベスタをお試しで締結し、その期間満了までを共通部とし、
その後久遠と引き続きシュベスタとなるか他のヒロインとなるかの選択肢で個別が決定される。
全体的な尺としてはだいぶさっくり、という印象を持つ程度の量に抑えられており、
似たようなコンセプトを持つ作品であるAXLの『恋する乙女と守護の盾』と比べると「護衛」という要素は
大分おまけ程度の描写に留まっている。
主人公に関しては顔までしっかりと描写されておりそのイケメン度たるや某ラノベのお兄様のようである。
スペックも軒並み高く設定されているが、作中においては自身がガードであることを秘匿し続けているため
分かりやすい部分での高スペック描写は描かれていない。
昨今の高スペック主人公(勉強は上の中・料理人並みの調理スキルと知識・家事全般ALLOK)な主人公が
多い中、今作の主人公は大分アッサリめではあるもののやはりガードという設定がある以上
そういった場面での活躍までも排除されてしまっていたのは読み手側としたら残念に感じる点だ。
ヒロインは先輩、同級生1(護衛対象)、同級生2(幼馴染)、同級生3(生徒会長)、後輩(妹)と
幅広く抑えており、大抵のユーザーのニーズにはかするように出来ていたと思う。
が反面、タイトルから想像できるコンセプトが表現されているヒロインがほぼ存在せず、
主人公との関係進行で次第に素直になっていくヒロイン、という要素を楽しもうと思った場合、
恐らく多くのユーザーが思っていたのと違うという感想を抱くこととなるだろう。
実際のところ素直ではない描写やそれが氷解して素直になる描写などはあるにはあるのだが、
基本的にキャラの設定で「素直ではない」が特徴として挙げられるのが恵梨香ぐらいしかおらず、
それ以外のヒロインに関していえば「素直ではない」ではなく、ただの恋する乙女の秘め事程度にしか
なっていないので、コンセプト通りに作品が進んだかといわれればハッキリとNOと答えられる。
また先にも書いたとおりガードとしての護衛という部分がほぼ描写されておらず、そもそも護衛任務自体が
共通部ラストで終了してしまうので、この「護衛」というジャンルに食指が動いたユーザーも要注意と言える。
一応暴漢を撃退する描写が共通部ラストや一部個別に挟まるが、どれもガードとしての身分を偽るために
最低限の抵抗のみで対応しているために読み手としては爽快感がまるで得られない。
一方よかったといえる点は・・・正直言ってこれだといえる点は上げることが出来ない。
一般的な恋愛ADVの基礎や土台はあるし、これまた要素としては弱いが学園祭を盛り上げようという
共通目標がある分絶望的につまらない作品とまではいってはいないが、なにぶん作品としての「ウリ」が
ないのでそこを起点に作品の良さや特徴が展開されないのでなかなかどうして評価に困るのだ。
絵も従来のensemble作品より若干太く濃い目のタッチになっているためこの点も評価が分かれるだろうし、
正直先輩の美紅に関してはヒロインにしていいのか良く分からない際どいラインのかわいさだと感じた。
筆者的には睡眠導入剤認定してもいいのではとも思える程度に淡白な仕上がりであったが、
よくよく考えてみれば同じく女装物ではない『Golden Marriage』や『恋する気持ちのかさねかた』も似たような
感想を持ったのでもしかしたら同社の非女装物は私にはあっていないのかもしれない。
ただensemble作品の妹は・・・かわいい(切実)
最後に総評となるが、やって後悔はしないまでもやらなくても後悔はしない、といった作品だったと思う。
コンセプト通りに作品を展開できない作品は数多くあるが、今作の場合声優と絵、
主人公の性格のよさでとりあえず60点台作品にはならなかっただけで、一歩踏み外せばそれらの
仲間入りを果たすことになるというなかなかに綱渡りな作品であったのではないだろうか。
というより今作に限ってはensembleが得意とする優しい世界観に、ガードや護衛といった物々しさが
必要なタグを無理やり合わせようとしたのが原因なので、このタイミングで自社のブランドとしての「ウリ」が
なんなのであるかを改めて再認識した方がよいのではとも思う。