FDとは斯く在るべきを体現した珠玉の一作
『蒼の彼方のフォーリズム』FD化計画の第一弾として、ヒロインの一人である有坂ましろをメインに据えたFD。
原作では他三名のヒロインに比べてFC部分がさっくりと描写された為、ましろルートのその後を描いた
今作でも同様にFC部分は今でも積極的に活動を続けているという描写が一二度入る程度に留まり、
メインは主人公との二度目のデートを控えた、ましろの彼女としての奮闘記を描く内容となっている。
プロットとしては主人公の為にオシャレ、料理を頑張るという在り来たりな内容でありながらも、
FDとして許された尺をフルに活用してましろという一ヒロインを極限にまでかわいく描写した手腕は
筆舌に尽くし難い。
加えて原作キャラもサブを含めて多く登場し、一人一人がその個性を生かしてましろへ協力していく姿や、
ましろと主人公の日常を壊すことなく程よく二人の世界に介入してくるさじ加減などもまさに絶妙と言える。
また今作の為に書き下ろされた一枚絵やSD絵の多さもFD水準として考えても非常に多く、
過去回想などの場面で原作からも一枚絵を持ってくるなど、原作からのスパンを考慮した程よい刺激を
与えつつ作品としてのボリューム感アップに活用するなど、上げていけばキリが無いほど細やかな部分で
ファンに対する心配りが伺える。
ちなみに個人的に最も素晴らしいと思えたところは実はOPMovieのキャラクター紹介部分だ。
今作はましろをメインに据えたFDということもあり、明日香やみさき、莉佳のキャラクター紹介時は
必ずましろと絡んでいる一枚絵が差し込まれるなど、今作が如何に
「有坂ましろの為のFD」
ということを大事に思っているかが痛烈に伝わってくる部分だと感じた。
それ以外にもメイド服や水着、浴衣といったFDの強みでもある着せ替え要素を大いに使った点、
場面に応じた適切な髪型をしっかりと描写し、普段とは違ったましろの魅力を描写しきった点も合わせて、
あらゆる点でお手本のような構成力を見せ付けてくれている。
あまりの構成力の高さに私の語彙力の方が追いつかないという悲しい結果となり、
これ以上私の拙い言葉で逆に作品を貶める形になるのも忍びないのでここで総評に移らせてもらうが、
先にも述べたように非の打ち所が無いFDのお手本通りのような仕上がりに加え、
「ヒロインを如何に可愛く魅せるか」
という本編、FDに関係のない点においても学ぶべき部分が多く見られる素晴らしい一作だったと感じた。
どうしてましろというヒロインが愛されたのか、ましろとは本来どういうヒロインなのか、ましろの可愛さとは
一体なんであるか、などといった根底にあるWHYを、どうやったら可愛く描写出来るか、どうすれば
無理の無い展開にもっていけるか、などといったHOWにうまく繋げる事が出来た、恋愛ADVだけではなく
物書きとしての本質的な技術面でも唸らされた、まさに感服の一言に尽きる作品であった。
この出来でFDが出続けるのであれば、あおかなブランドはまた一歩新たなステージへ駆け上がれることだろう。
今後も大いに期待している。