ストレスなく進められる良質なキャラゲー
またしても戯画マインではなかった戯画の新作。
タグは学園、部活と、これだけ見ればありきたりの量産学園イチャラブーに見えるが、
今作では部活をメインの題材として扱っており、またこの部活の活動内容も今までにない
アプローチの形をとっており、共通目標という読み手に共感を促し易い設定で物語がまとめられている。
今作は同社過去作であり、えろすけではギリギリマイン認定をされかけそうな点数の『ひなたテラス』に
近い雰囲気があるのだが、私個人的の嗜好で言えば『ひなたテラス』自身が大好きな作品だったので
似た感触を味わえた今作は非常に嬉しい結果となった。
プロット構成としては廃部寸前である文芸部に所属する学園三年生の主人公と、それぞれが
特殊な事情から自分の部活を持ちたいと願っている四人のヒロインとが、それぞれの思惑のために
文芸部部室を拠点に新たに「シェア部」として活動を始めるまでを描く共通部と、ヒロインそれぞれの
目標に主人公が一緒になって進んでいく姿を描く個別に分かれる。
分岐地点は特定話にそれぞれ登場する全5回のヒロイン選択パートにて、もっとも多くフラグ点を
稼いだルートへと分岐するタイプなので、主人公とヒロインの関係が深まっていく様や、ヒロインたちの
目標が主人公とのやり取りを通じて次第に明確化されていく様子が綺麗に描かれている。
共通、個別それぞれのボリュームもキャラゲーとしては多すぎずにだれてしまう一歩手前の量に
抑えられており、特に『ひなたテラス』で個人的にもマイナス要素であった個別ルートの不足感が、
今作では目標解決へと向かっていくプロセスがしっかりと描かれており、文章量も表現量も
実に満足のいく質に仕上がっていた点は特筆して評価したい点だ。
主人公の性格も文芸部員の三年生という設定であることもあり地の文も含めて非常に読み易く、
また突っ込みやボケ方もノリや勢いではなく知性を感じさせるうまい具合に仕上がっているので、
戯画作品だけではなくここ近年の作品の主人公の中でも群を抜いてセンスのよい存在といえるだろう。
特に個人的にすきなのは物語冒頭に出てくるヒロイン4人との面接描写。
素っ頓狂な主張をするヒロイン4人に主人公が冷静かつ的確に突っ込んでいく様は読んでいて
非常に面白かった。
その他ヒロインに関してはどの子も公式のキャラ説明を読むだけで分かるおもしろ属性の持ち主で、
その中でも唯一の同級生であるみこは刺激の強いヒロインの中で「普通」であることを強烈な特徴として
描かれており、個人的には全ヒロイン中一番楽しめたと思えるヒロインであった。
しかしながら個々が抱える問題への取り組み、昇華という点ではみこは全ヒロイン中で一番弱く、
その点に関して言えばパッケージにもなっている瞳が一番バランスがよかったのではないだろうか。
主人公目線の地の文と安定感のあるやり取りから生まれる小気味の良いネタの応酬のお陰で
全体的に読み易く、読み手に優しい作品に仕上がってはいるので、悪い点を探すのは骨が折れるが、
それでも悪いところが一切なかったわけではない。
まずこれはライター同士のチェックミスだと思うが、主人公がシェア部という名前を思いついて部活申請書を
生徒会に持っていく描写の前に、主人公がヒロインの一人に対してシェア部の件で相談があるという
セリフを言ってしまっている描写が存在する。
と、実は言ってしまえばこのくらいしか思いつける悪い部分はなかったりする。
むしろ細かい点で言えば評価したい点はたくさんあって、例えば主人公以外のヒロインが主人公を抜きに
SNSのグループを作っていたり、休み時間や休日に遊びに行っていたりと、なんでもかんでも
主人公ありきで進みがちな同系列作品としては非常に上手く学生のリアルを描いているといえるだろう。
後は個別においてはヒロインたちの問題解決ばかりに目が行きがちであるが、
主人公も文芸部からシェア部の部長になるにあたって、部長として部員のやりたいことに全力で
協力していくという目標が出来るので、実を言うと主人公自身もしっかりと目標を達成できていたりする。
以上で総評となるが、ライターのセンスが光る絶妙なプロット構成力と魅せ方で、適切な文章量の中に
綺麗な物語世界を構築してくれたことに最大の感謝を送りたい。
ただ冒頭部分で述べたように、作風は非常に『ひなたテラス』に似ているので、
あれを下地にどう変化を加えようとも生理的に受け付けないような嫌悪感を感じた人たちは
要回避であるとここで忠告しておく。
とはいいつつ似ているといっても『ひなたテラス』での寮母着任から寮取り壊しの流れより、近作の
文学部廃部通告、シェア部発足の流れの方が圧倒的に素早く綺麗に展開していくので、
あのあたりでテンポの悪さを感じて評価を落としたユーザーであるならば問題は無い様に思う。
『ひなたテラス』の「へ~、ふ~ん、そ~なんだ~」の話や、先生と一緒に謎の生物(恐らくG)を撃退する
話が好きな人は、安心してこの作品を手に取るといいだろう。
頼れる主人公とどこかへっぽこなヒロイン4人とのちょっと変わった学園生活を垣間見たいのであれば、
今作はそんな貴方の要望をきっとかなえてくれるに違いない。