Laplacianらしさが良く出ていた一作
前作の『キミトユメミシ』から引き続き、軽量級SF物として登場。
タグは軽めのSFを基盤にタイムトラベル、偉人の女体化などといったどこかソシャゲ感を漂わせる
どこか危なげな感じを匂わせる具材で構成された、料理で言えばパクチーや紫蘇、ココナッツミルクといった
強烈に人を選びそうなラインナップで構成されている。
プロット構成としてはグランドルートありの作品では定番の、初期ルートロックの掛かった段階的な
分岐方式、俗に言うフラグ折り型の形式を取っているが、今作では最後まで読まなければ分からない
世界の謎や巨大な陰謀といった物は描かれず、作中の言葉を借りるのであれば、あくまで
「規定路線」に如何に近づいた物語になるか、という部分に焦点があったルート構成となっている。
物語としては嗜好者の多いタイムトラベルやタイムパラドックスといったド定番のネタを扱い、
そこに過去の偉人であるアイザック・ニュートンやエドモンド・ハレーといったおっさん達を
女体化させて登場させることで、「テーマを無理やりエロゲに嵌め込んだ」という形を取っている。
SF部分であるタイムトラベル、タイムパラドックスの部分は同じタグを持つ作品と比べると今作はある意味
特徴的で、タグが持つ大筋の流れである
・過去に変えたい出来事があり意識的に時間渡航を行う
・同じ結果に収束する過去、未来の結果を変えるために渡航を繰り返す
・タイムパラドックスを利用した、未来人の知識を武器に物語を有利に進める
・時間渡航の際の知識、記憶の保全に関するトリックや謎の解明
といった氾濫しつつも分かりやすく受け入れられやすい部分は今作では描かれず、
・自己の意思に関係なく過去渡航し、その瞬間意図せずタイムパラドックスを引き起こしてしまう
という形式を取っている。
その為に先にも述べた分かりやすいプロット構成を今作ではとっておらず、タイムパラドックスで
引き起こしてしまった史実とは異なった世界を、
「時間渡航を解決手段として使わずに解決する」
というなかなか面白い試みを取っており、個人的にはこの点はかなり評価したいと思える点である。
ただ作品自体を細分化していくと見えてくる悪い部分はそれなりに目立つ。
何でも数値化することで「分からない」という不安を払拭するように生きてきた四五が、
割とあっさり主人公に対する気持ちを自覚した上に大胆な告白をする点がまず一つ。
母親を助けるための独断専行的な行動と、時間渡航先での主人公との邂逅に
感情を高ぶらせること泣く普通に接し続けたというラビのチグハグな行動が一つ。
アリスの主人公に対する氷解が描写不足により大分あっさりしていたため、段階分岐方のラストを
飾るヒロインにしてはイマイチパンチが足りなかった点が一つ。
と、ヒロイン周りだけで思いついただけでも大体この程度は思いつく。
後はフック失脚までのフローが早足過ぎた点も、主人公=読者となるADVでは事件解決の当事者と
なりえなかった点でかなりのカタルシス不足に陥っているし、反射率1.0以上の物質に関して
ラビラボラトリーを使ってしまったことは、どうにも雑さを感じられずにはいられない。
これは過去作である『キミトユメミシ』でも度々見られていたので最早ワサビ氏の悪癖なのかもしれないが、
所々作品に対しての「飽き」や「思考放棄」が見られるような構成に走ってしまう部分は修正した方が
いいのかもしれない。
特に軽めといいつつSFを題材として扱っているのであれば、ラビの修二の部屋から突然姿を消すくだりの
様な良く分からない要素を用いるのは原理や理屈を追いたくなる同ジャンル内では危険過ぎる描写なので
こういった点もケア出来ればよりよかったのではないかと思う。
また物語を締めくくるBitter Endの形にもパワーが足りず、読者が主人公に十分近づけなかったがために、
最後の引き止める描写での主人公の謎の自制心に説得力がまるで無かった点が非常に勿体無い。
事前の個別ルートへの入り方がそれぞれ最終Endと同じ選択を迫られているのにもかかわらず
あっさりと決断にいたるので余計にその部分が悪い形となって浮き上がってしまっていた点は、
先にも述べた悪癖に通じる部分があるように思える。
と色々書き連ねたが、作品の一つとしてみれば個人的にはかなり気に入っている。
氾濫する過去の偉人の女体化という部分は賛否両論あるかもしれないが、ニュートンのような
生涯独身を貫いたとされている人物に関しては度々女性説が持ち上がる(上杉謙信等)ので、
意図せずチョイスしたかは定かではないがこの点に関しては素晴らしい采配と言えるだろう。
また作中でもあるように、最早科学に覚えが無い人でも知っている歴史的出来事の喪失や、
逆に生まれるその瞬間に立ち会うといったメモリアルな情動は単純に面白かったし、作品自体も
ダレる一歩手前の分量で抑えられていた点も個人的には良いと感じた部分だ。
ただ過去作でもそうであったが、主人公の成長描写が相変わらず弱く、今作に限ってはドモりや
暈しの表現、無計画で行き当たりばったりの発言や展開が多いのはADV作品では割と致命的である為、
この点は先の悪癖と合わせて修正した方が良いのではないだろうか。
最後に総評となるが、氾濫するタグを扱いながらも独特な展開で分かりやすい感動を味わえる半面、
物語部分とは関係ない部分での粗が多く目立つ作品、と評しておく。
Bitter Endの形は昨今のエロゲー愛好者のメインストリームではない上に、許容しない層を納得させるための
技量も要求されてくるので、ワサビ氏自身が語ったように批評が気になるのであれば現在の氏は
避けた方がいい技法だったかもしれない。
とはいいつつ作品傾向や世界観は過去作含めて好きなブランドであるため、今後とも追って行きたい。