戦闘機乗り野郎の熱い物語 長文はルート別感想
一周目ユキカゼルート固定、二周目よりアイラ・メルティナ・リアのルートが開放される。
各ルート毎に主人公の戦争観、死生観に一定の答えを見出させるような形になっているのは読んでいて非常に面白かった。
が、リアルートを最後に読んでしまった為に読後感はあまりよくなかった。これから手をつける人はなるべく早めに読んでしまったほうがいいかもしれない。リアの不死設定の重さを最後の最後に台無しにした意味が私には理解できない。死生観を語るなら最も分かりやすい設定になっていたはずなのに非常に残念。
反面アイラルートは非常に良くできたと感じた。
過去語りが中心となるので、某海賊漫画の仲間になる前の長ったらしい回想モードなどが嫌いな人は特に受け付けづらいプロットだったかもしれないが、終始力強く不遜な態度を取っていた主人公が唯一心を折られ、それをヒロインが叱咤する描写があるこのルートは、他のルートでは無かった情動を誘われた。偏に清玉さんの演技力の賜物であるといえる。
またこのルートで特筆するべき点は、共通から登場するダモンとミスカのコンビの結末が見られる点にある。敵国であるヴィスラ公国に籍を置いてはいるが、どこと無く憎みきれないダモンの性格と、長い付き合いから部下とは思えない態度をとりつつもしっかりと仕事をこなすミスカの凸凹コンビの存在は、「勝者がいれば必ず敗者がいる」という当たり前のことを、戦争という舞台でより強く描写している。
共通、個別、エピローグ含めて一番のオススメルートなので、順番としては最後をお薦めしたい。
メルティナルートも、彼女の無邪気さと困難に立ち向かっていく直向さ、それを支える周りの仲間達の存在に心打たれるシナリオ構成ではあったが、如何せん初登場時から続く「おバカキャラ」なシーンの多さとラスボスの小物感ゆえにイマイチ感動まで結びつかなかった印象がある。
またこれは先述のアイラルート、後述のユキカゼルートにも該当することではあるが、ルート確定後の他キャラとの絡みの薄さが非常に気になる。ユキカゼルートはトカゲ族陣営のキャラの多さで若干薄らいでいるが、取り巻きが少ないアイラルート、特に時々出てくる親友三人組しか主な接点が無いメルティナルートは、もう別の作品をやっているかと錯覚を起こしてしまいそうになるほど絡みが無い。
最終プロットの都合上、仲間達がちりぢりばらばらになる為に仕方の無い部分も認めはするが、折角バラウールという多種族混合レジスタンスという舞台を整えたのだから、せめて最終プロットに入る前にもっと絡みの描写があればよかったのではないかと非常に残念に思う。
一方メインルートとされているユキカゼルートだが、こちらもメインの割にはラスボス戦が案外しょっぱかったり、前章から引き継がせたユキカゼの妹、セツナとの決着も微妙な描写で終わらせてしまっているのが勿体無く感じる。
さらにセツナが何故主人公達の敵側、ヴィスラ公国側につくことになったのかのきっかけとなった部分で、セツナが夜盗に乱暴されたという記述があるのにもかかわらず、X-RATED版においてもその描写を挟まなかった点は理解に苦しむ。そのくせ飛龍娘数名に妄想Hシーンと回想Hシーンを入れるという謎の気遣い。何のためのX-RATEDなのかを逆に考えさせられる。
またユキカゼというヒロインのヒロイン力が圧倒的に不足している点(かわしまさんのお陰で大分誤魔化せてはいたが)も無視できない。これなら飛龍娘たちの成長物語として最終出撃の再に4ルートへ分岐させたプロットのほうが読み応えがあったように思う。
特に若い飛龍たちに嘗て自分達が主人公から受け取った教えをそのまま実践させている部分などは感じ入るものがあったし、攻略対象ではないのにもかかわらず一人一人バックストーリーを用意しているところなどを見るにつけて、実は最初は飛龍娘4人衆メインのゲームだったのではないかと疑いたくなる。FDが出るとしたら間違いなくぶっこんで来るだろうが、個人的には大いに望むところである。
最後にリアルートだが、先述したとおり読後感はあまりいいものではないので、言葉は悪いが出来れば速めに処理しておくことをお薦めする。
ゾンビ族として唯一永遠の生命が宿った娘であり、サブキャラであるオゾスによる記憶操作によって記憶や知能に規制が掛かっていたため、全シナリオ中最も死生観を訴えることが出来た「はず」の構成であったのだが、何故か最後に分けの分からない終止符を持ってきて全てが台無しになっている。
しかしながら何故かこのルートだけは他種族キャラたちが殆ど登場するため、そういう意味では共通ルートの延長線上というイメージは最もしやすかったように思う。共通から個別に入るにあたってのブツギリ感は最も少なかったが、ラストのラストでマグロの解体ショー並みのブツギリが待っている分たちが悪いといえなくも無い。
所々穴や不足を感じる作品ではあったが、主人公の性格がとにかく最後までぶれなかったことがこの作品の評価を大いに上げているように思う。
主人公の設定とサブキャラの良し悪しがこの手の作品の評価を大きく左右するわけだが、そういった意味ではこの作品は大いにその基準を満たしていたと評価できる。特に主人公が持ち込むオーバーテクノロジーに唯一理解を示せる「名護」の存在はサブキャラたちの中でも群を抜いていた。個人的には一番お気に入りのキャラである。
出来ればヴィスラ公国側にも名護のようなキャラがおり、テクノロジー戦のような描写もあればなおよかったのではないかと非常に残念に思う。
最後になるが、どっしりと腰を落ち着かせ、考えながら読む作品を探しているのならお薦めしたい一作である。