理亜とマリア
好きな作品のFDということで、気楽に楽しめばいいかなと考えていたら理亜√で持ってかれました。
正直プレイ直後の感想は、他の方々と同じくモヤっとする部分もあったのですが、考えていくうちにこれは凄い作品なのではないかと思い始めました。
■無印は「理亜」がテーマ
まず前提として無印の理亜√について少し触れます。
私は無印の理亜√とは「理亜が救われる物語」だと考えています。央路がありのままの理亜を愛すること、その央路と日々を過ごすことで、理亜の人生すべてが輝く金色の時間だったと繋がる物語。
金色の象徴であるマリアでいなくても、理亜のままで愛されることができる、素晴らしい日々を過ごすことができるという救いの物語だったのではないかと思います。
私は無印は間違いなくハッピーエンドだったと考えているため、正直GTをプレイする前は不安があったのですが。。
■GTで示された理亜とマリア
さて、今回GTの理亜√をプレイする中で一つ違和感がありました。それはマリアが過度にクローズアップされていることです。
シナリオ選択の画像が理亜でなくマリアであること、ストーリー上必然でない理亜の髪の火傷からマリアとして過ごすこと、特に黒髪で過ごす期間は、マリアを演じているわけでもないため名前欄は「理亜」で良いはずなのに、頑なに「マリア」とされていること。
GTは絢華、ミナとメインヒロインが金髪でないことや、「金色以外の色」をテーマに掲げていることから、金髪でないマリアに焦点を当てているとも取れます。それにしてもHシーンもマリアで通し、名前欄が理亜に戻るのはソルティレージュに旅立って電話をした時、とまでなるとある種やり過ぎ感というか、示唆を感じました。
プレイ後にふと無印の理亜√を思い返し、GTは「マリアも救われる物語」だったのではないかと思い当たりました。
マリアは理亜にとって金色の象徴として表現されますが、無印では理亜が救われる過程を示す上で、マリアであることを辞めることが必然になります。
なぜならマリアを続けながら物語を進めると、その後央路と素晴らしい日々を過ごしたとしても、それは金色の象徴であるマリアのおかげ、という側面が生まれるからです。
ありのままの理亜の人生が金色だった、ということを示すには、対比的にマリアは除かなければならないのです。
確かにマリアは最高の金色の時に暮れていきましたが、その後の理亜を描く以上、無印ではどうしても霞んでしまう。
無印では象徴的に取り除かれてしまったマリアを救う物語、それがGTの理亜√ではないかと思います。
■シルヴィの存在
最高の時に続く時間もまた素敵な時間であると、シルヴィは理亜に話します。その言葉がきっかけとなり、理亜はマリアを続け、かつ央路と幸せな未来を築くための選択をします。
理亜のそばで世界一カッコよくあり続けた無印と比べ、GTでの央路は取り残され気味で、理亜がソルティレージュ行きを打ち明けるシーンでは、自分のことを「カッコ悪い」と表す言葉さえ出てきます。
それはおそらくマリアがこのストーリーにおけるテーマの一つであるからです。央路はマリアの大ファンですが、あくまで一番好きなのは理亜のこと。また、理亜ではなくマリアから見た央路は、いちファンでしかないのです。共演するという小さい頃からの夢を共有していた、シルヴィこそマリアにとってのキーパーソンになるのです。
無印では央路が前面に出ていた代わりに、シルヴィにはあまりスポットが当たらなかった(もちろん重要な立ち位置ではあるのですが)。反対にGTではシルヴィにスポットが当たります。
物語は主人公の央路視点で進むため、央路がソルティレージュでシルヴィと再会するまで、直接的にはシルヴィにスポットは当たりません。
ただ、このシーンによってシルヴィが半年間どんな気持ちで過ごしていたかを知らされることになります。
大切な人が、命を失うかもしれないのに未来を掴むための決断をした。止められる立場でありながらもそれを後押しした。これだけでもどれほどつらい思いでいたのか計り知れません。しかしそれだけではありません。シルヴィはおそらく、カッコよくあり続けるために、半年間理亜の前で明るく振る舞っていたのでしょう。彼女がそうすることは想像に難くありません。
その様子が目に浮かび、それが無印の央路と重なり、さらにシルヴィの泣きじゃくる様子も無印の葬儀後の央路と重なり・・・と初見時は一気にいろんな思いが押し寄せて、とても耐えられませんでした。
無印で理亜と死別したことで、マリアを産み育てる存在となったシルヴィですが、無印で理亜が生存した場合、ある意味シルヴィは物語に不要なキャラクターになってしまいます。もちろん理亜にとってシルヴィは大切な人である前提は覆りませんが、物語上は必然性がなくなってしまう。
金色ラブリッチェは3人の関係性あってのものなのに、それを否定しかねない「理亜生存」はとても取り扱いの難しい未来なのだと思います。
GTで本当に素晴らしかったのは、マリアもテーマに含んだから、シルヴィに重要でつらい役割を背負わせたからこそ、理亜と央路だけでない、3人が最上の未来を掴んだという形にしたことだと思います。
私たちが望んでいたのか望んでいなかったのか、分からないほど微妙な理亜生存の√を、これほどまでに見事に書き切って下さったのは感嘆の一言です。
■理亜の失明
GTは単なるご都合主義のハッピーエンドではなく、理亜の失明という喪失を含ませています。
その上でハッピーエンドを描くことで、理亜の死という喪失があった無印もバッドエンドではないということを、逆説的に示しているのではないかと思ったりもしますが、これはこじつけかな。
私は無印の、理亜のためにカッコよくあり続けた央路や、金色の持つ意味などがたまらなく好きなので、プレイ前には無印を超えることなどないだろうと思ってました。
しかし、無印とは別のテーマを示しつつ、無印を否定しない中で素晴らしく完成された3人の物語を見せられると、GTのテーマ通り、超える超えないの評価はできませんでした。
というわけで可愛いモードの理亜があまり見られなかった分ちょっとだけ引いて、92点とさせていただきます。
素晴らしい作品をありがとうございました。