クロノカードシステムやTrueルート終盤の展開は秀逸。しかしこの作品にはどうしても理解できない点が一つあります。長文は今作の感想と、その理解できないある矛盾について
ネタバレを多く含みます。ご注意ください。
この作品、クロノカードシステムが本当によくできていると思います。
プレイを進めるにつれ入手できるカードを「選択肢」としてプレイヤーに提示し、
それによりストーリーの幅を広げる・・・という手法は実にお見事だと思いました。
ちょっと変わった選択肢を選ぶことにより、新たなクロノカードを入手出来たりお馬鹿なバッドエンドになったりするのがとても面白い。
中でも、誰も恋人に出来ないバッドエンドで流れる「無慈悲なレクイエム」は笑わせてもらえました。
かの名作、ときめきメモリアルの「女々しい野郎どもの詩」を思い出しますね。
また、ヒロインと結ばれるまでの過程やTrueルートの盛り上がりも丁寧に描かれていると思います。
特にTrueルートでの、今まで集めてきたクロノカードを駆使してのバトルシーンは燃えました。
「Crossing Desire」の曲にのせて戦う姫百合先輩がすごくかっこよかったです。
さらに終盤の、次々と泉にオリエッタとの思い出を投げ放つシーンも主人公の一生懸命さが出ててとてもよかった。
主人公の仮説がオールビンゴなご都合主義展開や、要所で一枚絵が無いシーンが多かったのは少し残念でしたが、
最後の最後まで作品の核である「クロノカード」の魅力を存分に生かしたシナリオで、読後感が非常によかった作品でした。
しかしこの作品、実は一度投げてしまった作品でもあります。
その原因は、個別シナリオの位置づけであるステディモードが非常に退屈だったから。
この作品の個別シナリオはひたすらヒロインとイチャイチャするだけです。
合間に各ヒロイン共に4回のHシーンを挟みますが、オリエッタシナリオ以外は本当に最後までイチャラブ「だけ」を描いた内容です。
これ自体は丁寧に描かれていて浸れる質がありますが・・・キャラクター達の最終目標が何も無いのは読んでてつらいものがあります。
構成上、主人公は共通ルートで「恋人を作る」という大筋の目標を達成してしまいます。
このため、個別シナリオが単なるアフターストーリーになっていて、目標といえるゴールが無い内容になっていました。
個人的に、読み物において最終目標という要素は読み進める上で重要なモチベーションになるので、
ただイチャイチャするだけのゴールが見えないストーリーはどうしても面白さよりダレを感じてしまいました。
ならばHシーンはと言うと・・・残念ながらこれに関しては個人的に完全にハズレ。
・差分が少ない
・テキストとCGの不一致が目立つ
・エロを感じる構図が少ない
・テキストにもエロを感じない
など、Hシーンは不満点ばかりが目立ってしまいました。
絶頂フラッシュ(?)も無いうえ精液描写も薄いので、いつ射精したのかすら分かりづらかったりします。
また、伏字やピー音を必要とするような卑語が一度も出てこない内容でもありました。
エロゲーをプレイする以上、Hシーンにもそれなりの質を求めますが、これについては残念だったと言わざるを得ません。
決して実用度が高かったと言える内容ではありませんでした。
個別シナリオはこれらがそれなりの長さの尺で展開され、それがヒロイン4人分しっかり用意されている。
私は、秋音→諷歌→姫百合→オリエッタの順に攻略しましたが、3人目の姫百合の途中で一旦プレイを止めました。
Trueルートまでプレイすれば、この個別シナリオですら重要な意味合いを持ってくるという展開の妙は見事でしたが、
そこにたどり着くまで自身のモチベーションが継続しないほど退屈だった、というのが正直な感想です。
個別シナリオの途中でゲームを中断すると続きをプレイするのが面倒くさくなる・・・そんな印象です。
この作品はクロノカード収集とイチャラブ描写、それにTrueルートに魅力が沢山詰まっている内容だと思います。
この辺に楽しさを見出せるかどうかで評価が変わる作品ではないでしょうか。
個人的には、前述したとおりイチャラブ描写が退屈でした。
しかし、ただクリックするだけで恋人になりセックスをして~な他作品に比べると、
考える余地があった分、クロノカード収集やTrueルートは楽しかったですね。
(ここから重度のネタバレになります。ご注意ください)
ところで、私は自身の読解力の無さを十分自覚しています。
その上で書きますが、この作品にはどうしても理解できない点が一つありました。
それは、『何故オリエッタは2回以上ループを繰り返したのか』という点です。
この作品は所謂ループものです。
この展開を持つ作品は珍しくないのかもしれませんが、体験版部分が最初の零周目だったというのは面白い試みですね。
まぁそれはさておき、
この零周目で主人公はオリエッタとイスタリカの目の前で絶命してしまいます。
悲しんだオリエッタは主人公が死んでしまった事実に耐え切れず、時空逆行という超魔法で時間を巻き戻します。
これと同時にイスタリカは主人公たちの記憶を改竄します。
これは、「時間が戻っても主人公たちの記憶がそのままでは同じ結末に辿りついてしまうのではないか」という懸念があったためです。
2人の魔法により主人公たちは1周目の始点に戻る。ここが本編のスタート地点でした。
ここまではいい。
しかし問題はそのループした1周目。
記憶を改竄された主人公はイスタリカの存在に気付くことなく誰かと結ばれハッピーエンドを迎えます。
その誰かの中にはオリエッタである可能性もあったでしょう。
では、何故ふたたび時間が巻き戻り2周目が始まるのでしょうか?
オリエッタは主人公が死んでしまったという事実を消したい一心で時空逆行を行った。
イスタリカは同じ結末に辿りつかないように主人公たちの記憶の改竄を行った。
その結果、両者の思惑通りに事は進み、主人公は誰かと結ばれ「何の問題もなく」ハッピーエンドを迎えたはず。
それなのに、何故オリエッタはふたたび世界をループさせるのでしょうか?
これ以上ループを繰り返す必要がどこにあるというのでしょうか?
有名なループものとして「ひぐらしのなく頃に」という作品があります。
この作品は、”昭和58年夏に行われる惨劇をみんなで回避できるまで”ループを繰り返すという内容だったと記憶しています。
作中では主人公圭一がなんとか活路を見出そうとするものの、結局惨劇を回避できず、
仕方なく(語弊がありますが)ループを繰り返していたという強い説得力を持った作品でした。
しかし今作の場合、この作品のような『ループを繰り返す理由』が最後まで語られていなかったのです。
クロノカードのみ例外で時空逆行の影響を受けない、という設定はいいと思います。
Trueルートではこの設定を生かしてイスタリカを救いに行く展開をとても楽しく読めました。
それだけに、「ループ」という世界観の根底にある現象に疑問を抱いたまま終わってしまったのは本当に残念に感じた点。
考察する余地を残している?
違うと思う。おそらくこれはそこまで綿密にシナリオが構築されていないだけ。
ループものにとって大切な要素が抜け落ちているという印象が残った作品でした。