CGはエロい。その美麗な塗りは実用度の高いHシーンを演出できている。しかし、説明不足と尺の短さにより世界観の掘り下げが足りず、結果キャラクターたちの行動が不自然なものになってしまっている
ネタバレを多く含みます。ご注意ください。
シナリオが薄いとか尺が短いとか、色々なところでこの作品の悪評を目にします。
どんなものかと私もプレイしてみましたが、なるほど確かにシナリオはあまり楽しめませんでした。
ただ私が楽しめなかったのは、シナリオどうこう以前に「もっと根本的な部分で物語に入り込めなかった」からです。
この作品、はっきり言って登場人物全員『不自然』です。
以下、気になった点を書き殴っていきます。
〇不自然その1・・・主人公について
まず感じたのは、なんでこの主人公こんなに偉そうなの?ということ。
これからお世話になる人たちに向かって「まぁな」「頼む」「いらん」「気をつけろよ」とか、こいつ何様?
これでは一男子生徒というより、どこかの会社の嫌味な上司のようにしか思えません。
他人と深く関わらないように敢えてそっけなく~という、ふてぶてしさの理由はわかるのですが、
物語の序盤から違和感を覚えるほどの横柄な態度には不自然なものを感じました。
それに何がしたいのか不明瞭です。
私の記憶が確かなら、主人公と恋は能力を使わなくて済むように天領村に来たはずです。
それなのに、この主人公は共通ルートの最後にヒロイン達のために力を使いたいと「突然」言い出します。
それ自体に不自然さはありません。が、問題はその「過程」。
いつ、どのタイミングでそんな真逆な考えに至ったのか、テキストで全然説明されてないように見えました。
透香に告白するシーンもそうです。
「この力を使って透香を回復に導きたいから」という理由で告白するのは理解できます。
しかし、いつの間にそんな殊勝な考えを持ったのか。
ついさっきまで透香には近づかないと決めていたはずなのに、何故唐突にそんな考えに至るのか。
こういった過程がテキストで全然説明されていないので、読み手である自分は不自然さしか感じませんでした。
突っ込みどころは沢山ありますが、この主人公はどこか人間らしい思考をしていません。
世界観に入り込むべき共通ルートからまったく感情移入できない人物でした。
〇不自然その2・・・ヒロイン達について
ヒロイン達もやはり不自然です。
他人を気遣うやさしい性格を描きたいのはわかりますが、良い人も度が過ぎると人間味を感じません。
まず、会って間もない横柄な態度の主人公に何故そんなに友好的になれるのか疑問です。
また、「邪魔」「うざい」「暑苦しい」など、恋にあれだけ邪険にされて、どうして何も思わないのでしょうか。
最初の頃だけならともかく、毎日のように余所者に不遜な態度をとり続けられたら嫌悪感を抱くのが普通だと思います。
さらに、やはりと言うか何というか・・・主人公を好きになる理由がわかりません。
個別ルートに入るとあっという間に肉体関係になるだけで、恋愛に至る過程が全然描かれていません。
最初からヒロインの好感度MAXな作品はよく見かけますが、この作品はそれに輪をかけて不自然さを感じました。
というより、ヒロイン達はいつの間に主人公と打ち解けたのでしょうか?
全体を通して暗めな雰囲気だからか、皆が集まるシーンでも楽しい空気を感じられないので、
どんなに日常会話を重ねてもキャラ同士が仲良くなっていく感じが全然しないんですよね。
透香とあやめが丁寧口調なのも「気を許せる仲間同士」というイメージを薄くしてしまっています。
こういう何気ない点も、キャラが不自然に感じる原因の一つでした。
〇不自然その3・・・決定的に不自然に感じたシーンについて
作中、決定的に「これはない」と感じたシーンが3つあります。
・1つ目は、主人公が透香に「死ぬんだな」と言い放つシーン
・2つ目は、恋が透香に「あんたと一緒に潰れればいいのに」と言い放つシーン
・3つ目は、恋が透香を望楼から突き落とそうとするシーン
まず1つ目と2つ目。
普通の感情を持つ人間であれば、まだそこまで親しくないクラスメイトにこんなセリフは言えないと思います。
こんな思いやりの欠片もないセリフを素で言い放つ2人には人間らしい感情を感じません。
また、そんなことを言われた透香本人が普通に会話を続けている様子は不自然を通り越してまるで機械のようでした。
そして3つ目。
触っても全然大丈夫じゃねーか!の一言です。
このライターさんはキャラ設定を真面目に活用する気があるのでしょうか。
「痛み」が作品のテーマの一つと捉えていた私に言わせれば、このシーンは設定を無視した単なる茶番にしか見えません。
この出来事の後、帰宅した恋の足音がいつもと違うというフォローがありましたが、後付けにしか感じませんでした。
書きたいことはまだまだありますが、とにかく不自然なシーンが多い作品だなという印象を持ちました。
これらは全て、テキストによる説明不足が原因だと思います。
・何故主人公と恋は不自然なほど不遜に振る舞うのか。
・何故主人公はヒロインを好きになるのか。
・何故ヒロイン達はこんな主人公に惹かれるのか。
こういった諸々の「過程」がどう見ても描写不足です。
必要最低限の説明すら無いまま各ルートに入るので、ほとんどの展開に説得力を感じませんでした。
これでは方々でシナリオが薄いと言われてしまうのも仕方ないと思います。
ではなぜ説明不足になるのか。
それは作品全体の短すぎる「尺」に問題があると思います。
この作品、共通ルートが1時間半くらいの尺しかないんですよね。
それぞれの個別ルートも普通にプレイすれば2~3時間くらいの内容だったかと思います。
こんな短い内容で世界観やキャラの掘り下げが十分に出来ていたかといえば・・・この作品は完全にNOです。
短い尺が必ずしも悪いとは言いませんが、
今作のような深い背景設定を持つ物語を描く場合、この短い尺は妥当ではなかったでは?と思いました。
こんな感じで、シナリオどうこう以前に根本的な部分で物語に入り込めませんでした。
ただ、ここまで延々と悪い点を挙げてきましたが・・・
HシーンのCG「だけ」はその辺の抜きゲーなんかよりずっとクオリティが高いと思います。
まず、この作品の一番の美点に感じたのは塗り。
光と影のコントラストや建物に差しこむ月の光などの塗りがとてもいい感じです。
少し前に雨芳恋歌という作品をプレイしたとき「塗りが綺麗だなぁ」と思いましたが、今作はそれと同等かそれ以上のクオリティでした。
胸の描き方もいいですね。
乳首のいやらしさや重力に逆らわずに垂れ下がる胸が凄くエロかった。
少し大きすぎるきらいはありますが、個人的には絵から柔らかさが伝わってくる良いおっぱいだったと思います。
CGが元の絵から微妙に変化するのもいい。
キャラの手足が少し移動する程度の変化ですが、こういった微小な変化すらサボるブランドが最近本当に多いと思います。
目パチ口パクはちょっとセリフと同調してないように感じましたが、
これがあるだけでシーンの臨場感がこんなに増すのか!と驚かされた要素でした。
ただ、そんなHシーンでも不満に感じる点があります。
さっき上で散々書きましたが、展開が不自然すぎて興奮できなかったシーンがありました。
〇不自然その4・・・設定を無視したHシーンについて
透香とのHシーンです。
主人公は透香に触れると「内臓を握りしめられたような痛み」が走るそうです。
まぁ主人公の能力を考えると、病気の透香に触ればそうなることは当然なのでしょう。
それなのに・・・なんで普通にセックスしてるのこいつ?
普通、そんな状態でサルのようにセックスできるものでしょうか?
なにやら元気に腰を振っているようですが、こいつは本当に強い痛みに耐えてるのでしょうか?
そしてヤり終わった直後、思い出したように気を失う主人公。
ああ、行為中は痛みを感じることはないんですかそうですか・・・って、ご都合主義もいい加減にしろと言いたい。
上でも少し書きましたが、このライターさんはキャラ設定を自分の都合のいいように改変するのが得意なのでしょうか?
これは個人的に思う事ですが・・・
HシーンはCGはもちろん、それに至る過程やキャラの感情も含めてエロさが出るものだと思います。
こんな設定を無視したご都合主義展開は、いくらエロゲーとはいえエロい雰囲気の前に違和感が先に立ってしまうものです。
なんでエロシーンにまでこんな不自然さを感じなくちゃならんのか・・・
こういった点も物語に入り込めない原因の一つでした。
さらにこの作品、システムに不満全開。
・テキストウィンドウの濃度調節不可
・右クリックでウィンドウが消せない
・バックログが見にくい
・全画面モードでダイアログボックスを出すとマウスポインタが消える場合あり
ゲーム開始5分でこんなに不満点が出ました。
グラフィック等はすごく綺麗なのに、システム環境は一昔前の質だった印象です。
それと、自分の腐れPCのスペックに問題ありなのはわかりますが、全体的に動きも重い。
歩いてる風景がスクロールしたりするのは作りこみを感じますが、
ヒロインの表情が変わったりセリフが入ったりする度に一瞬止まったりするのでイライラしてしまう。
こういったシナリオとは直接関係ない要素も、作品の不自然さを助長させる原因の一つだと感じました。
ちょっと長くなりましたが、これがプレイを終えての正直な感想です。
あえて不自然という言葉を多用しましたが、それくらい説明不足が目についた作品でした。
神作になれるだけの素材は揃っていたと思うのですが、大事な要素が抜け落ちていたという印象です。
あのピザでも入ってんじゃねーか?みたいな馬鹿でかい箱を抱えて電車に乗って家まで持って帰ってきたのに・・・ちょっと残念な出来でした。