CGに助けられて駄作になることを回避できた「超凡作」。シナリオゲーにとっては核ともいえる要素に面白さを見出せなかった。テキストを目で追っていたはずなのに、いつの間にか読んでなかった・・・そんな作品でした。さらに一番期待していたJ・さいろー氏が描くHシーンのテキストも・・・
ネタバレを多く含みます。ご注意ください。
CGは綺麗、相変わらず立ち絵はころころ変化する、登場するキャラクター達もとても可愛らしい。
システム環境も、ちょっとスキップとシーンジャンプが遅いかな?とは思うが、それ以外は特に不満はない。
また、メーカーさんお得意のHシーンも実用度が非常に高い。
アングルも卑猥なCGが多いし、精液などの塗りもいい。一度のHシーンに一枚絵を2~3枚使っているのもうれしい点。
テキストも十分にエロを引き出せているし、こちらに迫ってくるような汁描写もレベルが高いと思う。
原画家さんの絵も、「あまつみそらに」の頃と比べると凄く進化したなぁと思わせてくれた。
しかし、これらの美点がどうでもよくなってしまうほど、この作品は「シナリオがつまらなかった」。
以下、気になった部分を書き殴ってみようと思います。
自分はプレイを終えて、この作品のシナリオにこんな印象を持った。
1、共通ルートが強烈に退屈。そのつまらなさはギブアップ寸前になるほど。
2、個別ルートに入っても、共通ルートの退屈な日常シーンがそのまま続く。
3、突如、突っ込みどころ満載のシリアスシーンが訪れる。
4、それが終わったと思いきや、まだまだ続く日常シーン。
5、と見せかけて、突然のスタッフロール出現→終了。(特にこのか、アイナルート)
ルートによっては多少の差異はあるが・・・これだけ。ほんとにこれだけ。
プレイを終えて感じたことは、「特に印象が残らない、長いだけの退屈なお話」ということだけだった。
何故こんな印象になってしまったのか?
細かい残念点はいくつもあるが、個人的に大きく不満に感じたのは以下の3つ。
〇嘘っぽい世界観と無駄テキストで先が読みたいと思えない
まず感じたのはキャラ同士の会話内容。
この作品、ヒロインに敬語で喋らせたいのだろうか?
年下の雛乃が敬語なのはわかるが、同級生の沙耶香や妹のこのかまでも敬語で話すのは強烈な違和感を覚えた。
こんな喋り方のキャラ同士は、どこか他人行儀で気を許せる仲間同士には見えない。
それどころか、お互いに気を使いながら、無理やりテンション高く会話してるように見える。
また、OTECやら呂蒙の格言やら、ライターさんの知識をひけらかすような会話が多く見られた。
さらに、「掣肘」やら「敷衍」やら、普通の学生ならまず口にしないであろう言葉を使う会話も多い。
特定のキャラのみが口にするのであれば、そういうキャラと納得できるが、登場人物みんなが使っている。
地の文で表現すれば事足りる小難しい言葉を、会話文で学生キャラが喋っているので世界観に嘘っぽさを感じた。
開始30分でこんな印象を持ったので、違和感が緩和されるまでかなりの時間を要した。
さらに、余計な会話が多すぎて物語がなかなか先へ進まない。
例えば、
・部活動中に、アイナの生い立ちの話になる。
・ヴェロニカと詩子の仲直りの場なのにおっぱい談義になる。
・シリアスシーンでもおふざけテキストが混じってくる。
など脱線しまくる印象。
流れに関係ない話題が「必ず」出てきて、話の本筋に戻るまで蛇足な会話を繰り返し、尺が長くなっているシーンが目立つ。
それが面白ければまだ救いはあるのだが、くだらないノリとパロネタ連発で全然面白さを感じなかった。
さっきも書いたが、キャラの言葉使いに違和感があるので、どこか白々しさを感じて読み進めるのが苦痛だった。
物語はこんな展開が延々と進んでいくイメージ。
いつになったら先に進むの?と思うほど退屈な日常シーンを繰り返していた。
作品の世界観に入り込むべき共通ルートから惹きつけられる要素が薄く、先が読みたいと思える展開力を持っていなかった。
〇荒唐無稽な茶番にしか見えないシリアスシーン
この作品のシリアス、骨はいいかも知れないが肉がダメすぎる。
シリアスを組み込むなとは思わないし、各ルートとも決定的な破綻が見られたわけでもない。
しかし、軍用アンドロイド、他国の政治的確執、藤倉永康の陰謀など、スケールだけ大きくしたものの結局失敗してるようにしか見えない。
もうこの際はっきり書くが、雛乃ルート以外の内容は突っ込みどころ満載でただの茶番に成り下がっている。
例えばこのかルート。
個別の中盤までひたすら退屈な日常を繰り返し、突然シリアスを入れて物語を無理やり盛り上げようとする。
バトル描写は1枚絵もなく背景すら変わらず、テキストと効果音だけで表現しようとする手の抜きよう。
前作カミカゼエクスプローラと同じ・・・いや、さらに劣化したといえる手法には正直呆れた。
さらに、戦ってる最中に電話に出る主人公、あっさり白旗を上げる敵役、立ち絵がない人たち同士のシリアスシーン。
臨場感の欠片もないどころか、雰囲気そのものが伝わってこない。
また、アイナルートも同様。
何故主人公はアイナを追いかける?何故アイナは荷物を置いてまで主人公から逃げる?
急いで国外へ脱出しなければならないはずなのに、いきなり二時間も鬼ごっこを始める理由は何?
緊急時なのだから、その場で説明して納得してもらうのが普通ではないのか?
アイナの父親も、自分の娘の命を守るためアイナを一緒に連れて行かなければならないはずなのに、
初めて会った一般人の主人公にあっさり「娘を頼む!」とのたまうなど、もはや意味不明。
普通、親なら首根っこ捕まえてでも娘を一緒に連れて行くのではないのか?
さらにその場で青姦プレイに持ち込むあの展開・・・もう馬鹿だろ?と言う言葉しか出てこない。
他にも、沙耶香ルートでは、赤の他人である沙耶香の説得に、何年もかけて進めてきた計画をあっさり投げる藤倉永康・・・など、
もうシナリオ書くのに疲れてブン投げたようにしか見えないシーン多数。
これは読み手にシナリオを読ませたいのか?それとも失笑でも買いたいのか?
こんな突っ込みどころ満載なシリアスは、ただの荒唐無稽な茶番にしか見えなかった。
〇主人公の存在感がない。
主人公は面白味がない、消極的、そのうえ存在感が希薄という印象。
料理が得意とか、機械いじりが好きとかのキャラ付けはあるものの、他に特徴が見られない。
というより、こいつがいなくても物語の進行に問題がないシーンが多いように見える。
例えば、共通ルートの日常会話シーン。
2~3人ならともかく、皆が集まるシーンでは主人公が会話の中心にいない・・・というか、いなくても成立する会話が多い。
主人公と言えば、誰かが発言した後補足するか、頭の中で思ったことがテキストに出てくるだけのイメージ。
そんな主人公を、周りの人たちは「尊敬する」「認めている」とか持ち上げるが・・・
プレイしてる自分に言わせれば、特徴のないつまらない人間にしか映らない。
いきなり大した抵抗もなく、序盤からヒロイン達を呼び捨てにするなど、どこか人間味も薄い。
こんな主人公に好意を寄せるヒロインたちも不自然に見えてくる。
特にアイナルートは、消極的すぎる主人公に惹かれるアイナに違和感を感じた。
話しかけてもそっけない、何かをしてもらったわけでもない、そしてHの時だけサル脳全開。
いったいこの人物のどこに惹かれるのか?ヒロイン達が恋心を抱く過程に説得力が足りない気がした。
さらに、各ルートのシリアスシーン。
沙耶香ルートでは、主人公はボディーガードに捕まって足を引っ張るだけ。
アイナルートでは、鬼ごっこをしただけで、後はアイナとヴェロニカが物語の中心になる。
雛乃ルートでも、シリアスのラストは藤倉親子が中心になって進行する。
こんな感じで、主人公が存在する意味がないシーンが多かった。
プレイヤーの目となり耳となる主人公に魅力を感じなかったのも、シナリオが退屈に見える一因だった。
乱暴な言い方だが、この主人公は作品の世界観に合っていないのでは?
ヴェロニカを主人公にした方が面白くなったんじゃないのか?と思えるほどつまらない主人公だった。
「先が読みたいと思えない」、「シリアスが茶番に感じる」、「主人公に魅力を感じない」。この3点を強く感じる内容だった。
完全に個人の意見だが、これらの要素はシナリオゲーにとっては核ともいえる点ではないだろうか。
これらに楽しさを見出せなければ、シナリオが面白いと思えるはずもなく・・・当然、「つまらなかった」という感想に終わる。
個別ルートに進むとただクリックするだけの作業になることも、退屈さを助長させている原因の一つ。
Hシーンの実用度の高さや、ルートに入るとわかる雛乃の可愛さなど、見どころもある作品だっだが・・・
CGに助けられて駄作になることを回避できた「超凡作」。それが今作に感じた印象でした。
最後に一つ。
自分が今作で一番期待していたのは、J・さいろー氏が描くHシーンのテキストだった。
いったい彼の描くヒロインは誰なのか?
今作の楽しみ方の一つとして、オールクリアまで担当ライターの詳細情報は見なかった。(どうやら沙耶香ルート担当らしいですね)
が、結論から言うと・・・残念。本当に残念な出来だった。
エロいことはエロい。それは間違いない。
写真を撮られることで絶頂に達してしまうというヒロインの性癖はよく描けている。
シーンも淫靡な雰囲気が出てるし、不快感を感じる書き方も勿論ない。
特に最後の撮影シーンは、今から思うと彼の個性がテキストに出ていた気がしないでもない。
しかし・・・どういうことだ。彼が描く変態性が今回は薄すぎる。
これまで彼の様々な作品を見てきたが、今作は「誰でも書けそうな普通のテキスト」で終わっていた。
沙耶香というアイドル像を大事にしすぎているのか、突き抜けた変態性や下品さが見られない。
崩壊直前までヒロインを壊し、且つそこからヒロインの魅力を底上げするような、いつもの彼の本領がまったく発揮されてない。
それどころか、「エロい」という言葉を使いすぎて、シーンを安っぽいものにしてしまっているように見える。
もっと言うなら、他のライターさん担当の雛乃に尿率(尿率?)で負けているではないか。
正直に言って、ヒロイン4人すべて消化しても誰の担当であるかわからなかったほど、他のライターさんと大差なかった。
今作はシーン数が増えたためか、前作に比べHシーンの尺が全体的に短い(それでも長めですが)。
そのため、彼の思い描く官能がテキストに全て載せきれず、短い尺に押し潰されてしまったのかもしれない。
こんなことなら退屈な日常描写なんかに容量を充てないで、Hシーンの尺を増やしてほしかった。
語彙の貧弱な自分にはうまく書けないが・・・今回は、「前作カミカゼエクスプローラのくるくるには遠く及ばない出来だった」と書くしかない。
J・さいろー氏の描くテキストは、他のライターさんとは一線を画す非凡なものを感じていたが・・・
今回は期待外れと言わざるを得ない出来。次回作に期待しています。