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miyato10さんの眠れヘリオトロープの長文感想

ユーザー
miyato10
ゲーム
眠れヘリオトロープ
ブランド
パラドラスト
得点
75
参照数
81

一言コメント

普通でいられず孤独な時間を過ごした主人公。ヒロインの人生に関わる傷を負わせてしまった主人公。そんな過去の傷と向き合いながら歩む姿、どうにもならない無力感がいい作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

自身のブログより転載
https://miyato102.blog.fc2.com/blog-entry-75.html

全体感想
2人の関係性という本筋に入る前に、一度NO委員会の活動という成功体験を積ませておくのが良かった。その後のナナカ周りの病気などは割と「やりたいこと」優先で荒っぽく見えます。紙芝居までの信頼の貯金があったので強引な部分はスルーしつつ最後までプレイ出来ました。

NO委員会という「高貴なるもの高貴なる義務を果たす」委員会に所属していたにも関わらず、あの中学校においてナナカは持たざるものの側でしかなかったというのは残酷ですね。

ミオ先輩が唐突に退学してしまうところ。
ボンクラなため全然気が付かなかったけれど、三年生にもなって委員会に所属している意味。作中の人物同様、それを理解していなかった。
紙芝居を経て、こんな時間が続いていくんだと思わせておいてミオ先輩、ナナカ、アヤチカ、それぞれボロボロになっていく様にショックを受ける。そのショックこそが後半のプレイを進める原動力でした。

終わり方ですが、自分は「プレイヤーがプレイしたこの作品自体がアヤチカが紡いだもので、2人の約束である紙芝居の未来の姿」と解釈しています。ただあまりピンと来ませんでした。作品タイトルに関して「そんなの、決まってるじゃないですか」と作中で言っていますが、ヘリオトロープの話って出てきましたっけ? 「私の作品はあなたが今プレイしている、これですよ」という意味での「決まっているじゃないですか」という解釈でいいのでしょうか。
個人的にはあれがなくても十分な満足感で終わることが出来たのでモヤモヤしています。
ちなみにノベルゲームという媒体は紙芝居と例えられることが現実でも多いですが、自分は人形劇のほうが適切だと思っています。

好きな場面
ミオ先輩が唐突に制服を脱いで下着姿になったところ。
何が好きって、自分の内心に芽生えた「嫌悪感」。理屈抜きで「嫌だな」「気持ち悪いな」と思ったんですよ。性的なものってそういう負の感情も持っていて、それが呼び起こされた。物語に大きく関わることはないんですけど、嫌な楔を打ち込んできた描写でした。
これのせいでナナカのことをセクシャルな目で見てしまう場面もあり、アヤチカの罪悪感をより刺激する。同級生のそういう姿を想像することに対しての罪悪感とは違った、罪人が人を好きになってはいけない自罰的なもの。

アヤチカとナナカの関係性
この作品の肝の一つである関係性。
二人の小学生時代に起きたのは、照れ隠しが原因となった事故というシンプルなものでした。ただ、その傷の影響は現在でも続きます。
事故の前に2人が持っていた気持ちは純粋なもの。事故が起きてしまった後は『罪悪感』という不純物が混じってしまった。これによってアヤチカの人生で、ナナカに関わる選択の全てに「これは『罪悪感』から来ているのではないか?」という疑念がつきまとってしまう。それこそがアヤチカへの罰なんだと思っています。

物語前半で描かれた『ごんぎつね』の紙芝居は贖罪が関わる物語です。アヤチカがごんぎつねを読むのが自分だと思い込んでいたのは、境遇が似ていたからでしょう。

アヤチカが小学生時代に学んだ「普通」であることに対する価値観。そんな望んだはずの「普通の優等生であること」を投げ捨ててでも、ナナカと一緒に学生が出来る時間を守ろうとアヤチカは行動を起こします。
客観的に見れば、ナナカはさっさと退学して自分に合った中学校を探したほうがいいし、病院にも行ったほうがいいという結論になります。けど、"中学生"である"アヤチカ"にはその選択肢は存在しないんですよ。
「普通」でありたい自分、ナナカに対しての好意、ナナカに対しての「罪悪感」、それらが交錯し出力される行動は美しい。

ナナカはアヤチカとの事故を許しているし、アヤチカに事故を気にしないでほしいと願っている。それと同時に事故による現在でも続く辛さも本当のこと。
2人の時間が楽しい時間だったことに偽りはないし、ただ一度の事故で消えて無くなってしまうことが嫌だった。他人から見たらおかしい関係かもしれないけど、ナナカにとってはそれで良かったんだと。
全部ぜーんぶ本当。人間の感情は単純には割り切れないんだよ。2人の関係から事故は切り離せないけど、そんなこととは別に2人が相手のことを想っていてもいいんだよ。

終わりに
最近は雑にいろいろな作品をやっていますが、やはりこういう暗いところがある作品好きですね。見方によって違いますが、中学生のアヤチカにとっては目的が達成できなかったバッドエンド。こういう苦みが好きです。