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miyato10さんのハルジオンは雨と咲くの長文感想

ユーザー
miyato10
ゲーム
ハルジオンは雨と咲く
ブランド
『縋想』プロジェクト
得点
74
参照数
25

一言コメント

中盤ぐらいまでは割とドタバタしている大学生の日常風景が描かれている作品。大学生活で大きな事件もなく、身近な出来事を通して恋愛や価値観の話が描かれていく。そこがすごく好きでした。終盤に関しては……。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

自身のブログより転載
https://miyato102.blog.fc2.com/blog-entry-66.html


主人公とヒロイン二人共写真部に入ることになるのですが、
写真を撮る理由に対して「関心というか憧れがあるの。私は、怖いんだと思う。ゆっくりと、色々なことを忘れていくのが」
写真が好きな理由が「どこまでも行けるような感覚と、どこにもいけないような空虚感を同時に味わえるから」
撮る理由に関しては割とよくあるものだと思うのですが、その表現がいい。なんというか、宙に浮くふわふわとした感覚に対しての言語化が綺麗。

海で見つけた瓶。その中に詰まった紙片には誰に向かって何が書かれていてほしいか。それがこの写真で伝えたいこと。
→1人でいることの不安とか、苦しみとか、孤独とか、そういうことが書いてあってほしいです。
ここだけ抜き出すと心理テストのようにも見えてしまうのだけど、劇中で出された時には納得感があった。
その感情を自分が持っているわけでもないのに、共感してしまうことが出来た。それが自分にとってこの作品の感傷でした。
過去の名作や偉人の言葉の引用もセンスがあって好きでした。

あくまで私の感想ですが、何気ない日常風景を魅せることが出来るテキストはこのライターさんの武器なので、是非その武器を生かせる作品を作っていって欲しいと思いました。


問題の終盤。具体的には2回目に結夏が消えた後。あらすじに書かれているあたりに関して。
結夏が戻ってきてからの痕跡が人の記憶も含めて全て消えている。それまで現実に近いあたりに引かれたはずのリアリティラインが急にぶれる。実際はあまりブレていないのだけど、記憶の謎が明かされるまではファンタジー感が若干出ていた。

結夏の失踪と同時期に主人公が目にするハルジオン・ヒメジョオンが咲く「人魚の丘」の写真。
「ここに結夏に繋がる何かがあるんじゃないか」という推測が強引すぎて作中で「陰謀論」とまで言われるのだけど、プレイヤーとしてもそう思いました。結夏がハルジオンの丘の写真を見て何か不自然な動きをしたわけでもなく、ただ「ハルジオン」「青井」「海沿いの町」という要素に対して「この町には、絶対に何かがある」と暴走する様子には引きました。ここはもっと行動の導線をしっかり作ってほしかった。じゃないと主人公が壊れたとしか思えないし、展開に乗れない。

そして急に始まる因習村展開。それまでに魅力的と思っていたキャラクターがほぼ出てこず、急に因習村関係のキャラクターたちが登場する。
文字数使って丁寧に展開されていくのだけど、丁寧さがあっても納得が出来る展開でなく、かつ丁寧=展開が遅く興味を持っていない自分からしたら退屈な時間でした。
リアリティラインのブレによる戸惑い→主人公の行動にドン引き→魅力的と思っていたキャラクター・テキストからの剥離、の流れで作品への没入感が薄れてしまい、残念ながら最後まで戻ることはありませんでした。



そんなことは置いておいて、どうしてもツッコミ入れたいところがある。
後輩ヒロインが「主人公に2日後に告白する」というこを聞いたメインヒロイン。その後の行動が後輩ヒロインよりも先に主人公に告白するってどうなのよ??? どう考えてもヤバい女じゃん……僕は好きです!!!(実際かなりヤバい女だった)
その後の人間関係がギスギスするだろうけど、結果的に「それでもあなたが欲しかった」となるのは強いんじゃないかとおもいます。
約束された別れに向けて主人公の記憶に残ろうとしてくるのはたちが悪い。指を噛んで記憶に残そうとするのは悪女か?(好きだよ?)(痛みや触感によって記憶に残ろうとする登場人物どこかで見たことがあるはずだけど思い出せない)

負けヒロイン後輩・綾乃。
印象的な場面としては上でも書いた自分が告白することをヒロインに宣戦布告する場面。その結果まんまと泥棒猫に奪われることとなりました。
どう考えても欲しいものを譲るような人間ではないんですけど、結夏が席を立った後、寂しげな表情をしている。そういうことなんでしょう。結局、好きな人に幸せになって欲しいんでしょう。
結夏の気持ちに勘づいていてる。ならば同様に先輩の心がどこにあるのかもわかってるのは自然。
皐月と結夏がくっついたところで先輩への気持ちは変わっていないし、気持ちは伝え続けるし、自分が先輩を幸せにするというところも諦めていない。見ていて気持ちがいいキャラクターでした。