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minoruさんの虹を見つけたら教えて。の長文感想

ユーザー
minoru
ゲーム
虹を見つけたら教えて。
ブランド
ACTRESS
得点
77
参照数
196

一言コメント

ここまで表立って主人公の所属する仲良しグループのギスギスを描写してくる作品も物珍しい。悠紀があまりにも不憫すぎて、開いた口が塞がりませんでした。誉め言葉です。浮気ゲーとしても秀逸。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

スイという緩衝材を中心にすることで、主人公を含むホンワカ仲良しグループは成り立ちます。
やたらと斜めに構えている主人公の態度が鼻に着くものの、その輪の居心地はとてもいいものでした。
スイが消えると同時に仲良しグループは崩壊し、その後の有様の酷っぷりには笑いが止まらなくなります。
ただただ、容赦がなくて。

このゲームのジャンルは、浮気ゲーでもあります。
主人公は同じ医大に通う人気者の女生徒、晴香と物語中盤で正式に彼氏彼女という恋仲を成立させます。
仲良しグループの中でも、二人の関係は公認でした。

大病院の院長を務める父を持つ大学のマドンナ的存在な晴香に、主人公は惹かれていました。
憧れの度合いの方が強かったかもしれません。
作中で晴香が悪いって場面は、殆ど無きに等しいです。
「この場面でこの発言はウザいな…」程度のものは、まあまあ。
とは言え正々堂々と、正面から筋を通し主人公との恋を成就させていた晴香に対し、それはあんまりだよ…という展開が、作中では共通ルートレベルのお話の筋として描写されます。
主人公のアパートのお隣に住んでいる悠紀が、晴香へつっかかるようになったことです。

悠紀は主人公のことが好きでした。
主人公のことが好きだからこそ、主人公の恋人ポジに落ち着いた晴香に、敵対心を向けるようになります。
その悠紀もとにかく不憫で、共通で十中八九実母が亡くなります。
下手をしたらペットのハムスターの命にも危険が迫ります。
小さな少女に、何て惨い運命を背負わせるのでしょう。
家が病院を経営している、お金持ちのお嬢さんである晴香。
病弱な実母の代わりに働いている、常に家計も火の車な悠紀。
この対比すらも涙を煽ってきます。生活保護を頼りな。

悠紀ルートでは精神が崩壊し、主人公から介護を受けるシーン等もありました。
下が垂れ流しになり、小だけでなく大までも主人公が手ずから世話する場面には、開いた口が塞がりませんでした。容赦がなくて。
しっかりイベントCGのご用意というサービスまであって、至れり尽くせりです。

晴香からすれば悠紀は可愛い妹分みたいなポジの子だったでしょうし、一方的に敵意を向けられているのは可哀想でした。
主人公も特に庇ってくれませんでしたし。
恋人としての真摯な姿を全く表現しないこと自体、作品としても割り切っているようで清々しさを覚えたくらいでした。

その上で晴香ルートを語るとすれば、はノーマル扱いのものが一番好みのものでした。
初回プレイでたどり着いたのも、このシナリオです。
主人公も晴香も医大を中退し、仕送りで暮らしているという生活面では結構クズな二人ですが、スイの手術を経て自分の意志を改めて強く持とうとした晴香は魅力的でした。
一番いいEDですと、晴香が妊娠し大学中退というオチになるのですが、そっちよりも未来を見据える晴香の姿勢に好感を得ました。
どっちにしろ医大をサクッと中退してしまうので、そこはもったいないのですが。
サクッと中退できるくらいの熱量で医大に通っていたのも中々に衝撃的ですが。

晴香が可哀想と言えば、音海ルートもヤバかった印象が強いです。
言い寄られただけだ、の一言で晴香のことを片付ける主人公の人間性が大変おかしい。ひたすらクズ。
音海が着用済みの下着で主人公を煽るシーンで、下着のみアップのイベントCGを用意してきたのも狂っている。
最初モニターが汚れているのかと勘違いしてしまいました。
汚れていたのは着用済みの下着でした…悠紀の脱糞シーンといい、自分達が制作したモノの売りどころをよく分かっているにも程があります…。

音海はスイを、主人公は悠紀を、妹分のようなかわいい存在として大事にしてきました。
そんな大切なものを失ったことで、主人公と音海は心を、そして身体を寄り添わせるようになります。
互いの喪失感を埋めるかのように触れ合う姿は、共依存そのものでした。
これを負ではなく二人の始まりの物語みたいなノリで消化してんのも、結構な高レベルです。


さて。
そんな訳で、自分は本作の魅力の一番はヒロイン同士で表現される歪な友情関係の崩壊だと思っています。
主人公の恋心が簡単に動く故の、軽薄さもその要素には深く関わっています。
逆に主人公がまっすぐ、彼女だけを追い求めたという意味で、スイルートだけは異様に小綺麗でした。
過去の事故が原因で知的面で問題が出てしまったという設定のヒロインを主軸に置いている時点で、本作は大分異端でありつつも、お料理の仕方は嫌味なく真摯で唸らされます。
だからこそ他ヒロインルートでのギスギスがさえ渡ると言いますか…。

悠紀と晴香の軋んだ友情については、悠紀ルートですと主人公が悠紀のものになったところで、悠紀が落ち着きをみせマァマァって形で纏まる感じでした。
悠紀はハーレムと悠紀ルート以外ですと、親族さんとこへ行ってしまうお別れオチなため、物理的距離ができた時点で戦況から行くと脱落みたいな。

立ち位置として仲良しグループを崩壊させる過激な達役者の悠紀が、ハーレムルートでは中々に穏やかで、晴香に対しても友好的だったのは印象的でした。
また晴香と違い、主人公と既に肉体関係を持っていたと知っても、悠紀はスイへ一切の嫉妬を抱いていませんでした。
スイが自分と同じ、家族を失ったという境遇の持ち主だったからです。

悠紀の精神が落ち着いているハーレムルートは、それだけでも微笑ましいのですが、一方で音海と晴香の対立が際立っていたのがあまりのも面白かったです。
あっちを立てたらこっちが立たないを地で行く個性の強さを痛感します。
悠紀、スイと3Pを致した後、二人と合流するのですが、晴香を煽る音海の態度と言動はすこぶる不快でした。
意気投合するスイと悠紀のノリに音海は上手に混ざる中、晴香だけがポツンと孤立します。

晴香に対して音海の辺りが強い理由は、嫉妬とストレートに語られます。
悠紀と一緒です。
恋のライバルとして、晴香は常に意識される存在として描写されます。
この徹底もよかったです。
主人公と晴香が前向きな意志をもって医者を目指す、ハーレムルートこそ綺麗な正史っていうノリなのも、よくできていました。