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minoruさんの紙の上の魔法使いの長文感想

ユーザー
minoru
ゲーム
紙の上の魔法使い
ブランド
ウグイスカグラ
得点
81
参照数
533

一言コメント

至高の純愛。四条瑠璃と月社妃の、二人が貫いた恋心の成れの果てを楽しむ作品。見届けた先にある真実の容赦無さ、残忍さ、一途であることの儚いまでの美しさ。敷かれた設定をじっくり咀嚼した上で、二人の持つ濃い関係を堪能すること推薦。プレイ後は是非、公式ホームページに掲載されている質問数ランキング1位記念イラストを改めて見に行くべき。あと予約特典パッチは入れるべき。演出ではなく費用削減と言う意味でOPEDが無かったのだとしても、作品の雰囲気を損なっているとは特に感じ無かったので、マイナス要素としては全く捉えていません。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

妃で始まり、妃で終わりました。
主人公が彼女と恋仲である事実が晒された時の驚愕。
瑠璃が妃以外のヒロインを、(本の関わりを除き)女性として全く意識することのない序盤のストイックさ。
ブレ無さ過ぎて、狂気すら覚えました。
だからこそ、妃の後を追って瑠璃が自殺したという真実には、かなりしっくりすることができました。

実際、瑠璃と恋を育む相手はかなただった訳ですけれど。
本の操作でブレた現実の中、ひたむきに妃を愛した瑠璃の恋心自体は偽造でないと思っています。
瑠璃の抱いた盲目な愛情は、「妃と恋仲になった」ことで生まれたものだと思っています。
本の操作はあくまできっかけであり、瑠璃がここまでのめり込んだのも相手が妃だったからこそ、と思っています。

対し妃ですけれど、終盤のラピスラズリで出てきた妹という立場を意識し、二番手でしかいられない無常さを穏やかに受け入れていた所は、かなり印象に残りました。
恋をする相手は瑠璃以外考えられないという過激な一面を持ちながらも、自分の恋を最優先にしない謙虚とも言える意外な我の弱さに、惹かれました。

自分の恋を最期まで貫いた、妃。
敷かれた設定に邪魔をされ、自分の恋を諦めざるを得なかった理央。
目を背けていた自分の恋と向き合ったことで、人として成長を遂げた夜子。
自分の恋を見事最後には成就させた、かなた。

恋の終わり、終わらせ方、そんな細やかな失恋描写には定評のあるライターさんだったようで。
本作のメインテーマにもなっていましたかね。素敵なお話でした。
ノーマルEDでもトゥルーEDでも、自分の殻を壊し、前向きな姿勢をとることができるようになった夜子の成長っぷりには、ああ、このお話の主人公は夜子だったんだなあと改めて感じることができました。

瑠璃も理央も紙の上の存在、クリソベリルも紙、闇子は亡くなり、実際の人間は夜子、汀、かなたの三人だけというこれからは明るい未来しかないよ☆ミって言うノリを持ちつつ負うべき重さもしっかりと存在しているアンバランスさが悪くなかったです。
妃を失った過去へ持つ拘りを絶対に捨てないという蛍のスタンスも、悪くなかったです。