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minoruさんの21 -Two One-の長文感想

ユーザー
minoru
ゲーム
21 -Two One-
ブランド
BasiL
得点
70
参照数
217

一言コメント

2日あれば容易くフルコンプできる内容量。設定は悪くないがシナリオの掘り下げがはちゃめちゃに薄いので、ドラマティックに仕上げたかったであろうシーンも全く盛り上がらない。反面キャラクター造形ははちゃめちゃに魅力的であり、足して2で割って平均的な作品といった印象。おまけシナリオは神。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

BLESSの印象同様、詩的な言葉使いを多様しているテキストの割りに、それが全く生かされていないシナリオ構成になっているのが非常に鼻につきました。
彼女たちの抱える問題について、それを踏まえたイベントシーンを小出しにするわけでもなく、本人からとにかく口頭で語らせるというやり取りが全編に渡っていたのが薄味の原因かと。
以下各ルートの印象について。


美魚について。
死ぬために生まれてきたんじゃない、生きたい、人魚の家系云々という自分の未来を悲観的に受け止めず最後まで抗ってやりたいという彼女の意志の強さはよく伝わってきました。
キャラクターとしても、とても魅力的です。
ただファーストルートで当てがわれるにしても、「何故彼女がそこまで生きることにこだわるのか」というのが全く伝わってこなくて、「ただ生きたい」という哲学の悟りで流すのではなく、そこは彼女の境遇についてもっと触れたかったです。
人魚一家の定め的なのが後からわかるとしても。後からわからせたかったのかもしれませんが。回想でも何でも。姉妹愛の契りでも何でも。


真魚についていて。
最初から主人公に惚れているという設定については、ただただ素直に愛らしくて、微笑ましかったです。
クールに見えてどこか抜けた要素もある可愛いお姉ちゃん。美魚との対比もとにかく可愛い。
自分が支えになるから主人公に美魚のことを助けてほしいと懇願する一連の流れは、綺麗に整っていた印象です。美魚を治したいから医者を目指したという真魚のバックも効果的。
ただ美魚真魚ルートの場合、何かよくわからない病気が何かよく分からないけど頑張ったら直せたという何かよく分からないテンションでお話の幕が閉じるので、何か…物足りないといえば、激しく物足りなかったです…このシチュエーションは共通ルートとしても扱われるのですが、二人のルートとして考えると特に物足りなさは絶大で……何が欲しかったのか…医療的なドラマとかですかね…。


唯奈について。
自分の力で実現できなかった夢について、その夢を叶えることができる才能を持つ他人を応援することで疑似的に叶った気分を味わおうという唯奈の心理は、非常に合理的。
気持ちを切り替えることで新しい生き甲斐に身を置けるというのも、器用。
マドンナのお眼鏡に主人公が適ったというところで、ルートとしてもほぼ終盤。
真魚や唯奈のシナリオの場合、人魚関連のSFや謎解き要素という作品の核に関わる設定が特に絡まず、彼女の心情の問題で解決するため見栄えはよく感じます。


かすみについて。
何のネタバレもない状態で、彼女に疑惑を抱くとしたら唯奈からかすみ君のことを教えてもらったタイミングになるんですかね?
殺人事件の実行犯ですが、そもそも今作はハウダニットを100%省略しているため、ミステリーとしての見せ場をそもそも殺してしまっているんですよね。これ如何に。
何か握力が強いという設定は、人魚云々が関係あったんですかね?
全てにおいて粗雑。キャラクターとしては一番すっきりばっちり可愛くて大好きです。


紅葉、木葉について。
運命に弄ばれた姉妹。殺人教唆の立場にある紅葉と、それを止めなかった木葉。
彼女たちを縛るものと特に主人公が関わることもなく(血筋で言えば関わる展開を作ることもできたでしょうが)、目的は果たされ、終幕。
ノスタルジックな雰囲気は好きです。


芹について。
超常的な力で成り立つ理想を得るか、自分の能力に留まるかの二択。
作品の締めとしては魅力的でした。


シナリオの魅力としては上記美魚の病気のこととかかすみちゃんの何かすごい握力のこととか、何か、何か。何かなんですが憎めないこの不思議さ。
人魚のお肉のことを院長が素直にお話してくれたのが微笑ましかったです。謎を究明していく展開かと思ったら開幕正答プレゼントじゃないですか。ミステリーとは何ぞや。