確かにこれはすごい。絶望と感動が同時に襲ってくるとは、まさにこれ。滅び朽ちゆく世界でうたう、やさしくも美しい人間賛歌。Key作品や新島夕の思想が好きなら気に入るはずだがまず手に入らない。以下未購入者向けレビュー
公式HPがあった5年くらい前までは問い合わせればDL販売してくれたんですけどね。
現在その当時でさえ見つからなかったパッケージ版を手に入れるしか入手不可能になった幻の同人ゲーム。
今年ヤフオクでは100万円で入札あり。念のために言いますが、内容にさすがにそこまでの価値はないですよ、コレクター価値を除けば3万円くらいかな。ただし、コミケではなく自家通販という特殊な販売方法や、内容の良さゆえ市場に出まわらない。
当時から観察してるので言いますがパッケージ版は本当に幻。販売方法の特殊性や廃棄される可能性も考えると、現存数はおそらく20本くらいかな。100万円でも納得してしまう自分がいます。
公式に問い合わせた当時まさかこんなことになるとは思っていなかった。
虎の穴で普通に買えた『クリアレイン』もいつの間にか高騰していて驚いたこともあるし、恐ろしいっすね同人ゲーム業界!!
※ 以下内容に触れていきます ※
未購入者が購入を決める参考にでもしてください
(個人的にネタバレとは思っていないが、あらすじなど表面的な部分もネタバレだという人は退避)
【あらすじ】(公式HPより)
全てを捨てる、覚悟を決めた。
地位も名誉も財産も……そして、大切な家族も
全てを置き去りにして、この時代から去ることを決めた。
滅び朽ちる世界に追憶の花束を送りましょう。
これは、色々な形に栄えたそれぞれの時代と、そこで生きる人々のお話。
そして自らの望みを叶えるために時空を超える旅に出た、愚かな男の物語。
長い歴史の流れから見ればほんの一瞬の生でしかない彼女たちは、それぞれの時代を果たしてどのように生きたのでしょう。それぞれの時代に何をなそうとしたのでしょう。
花のように、人はたった一度きりの美しい花を、それぞれの中で咲かせるのだと思います。
今回はそんな、生命力に満ちた物語をお話しましょう。
【紹介文】
未購入者への紹介ということでネタバレは避けていこうと思います。
どういう話かというと……未来にしか飛べないタイムマシーンを開発した科学者がいました。目まぐるしく発達していく科学技術の恩恵の下で彼は思います、自分の抱く理想に到達する未来があるのではないか。地位、名誉、財産、家族も捨て、一方通行のタイムマシーンで、彼は理想の世界を求めて時空を超えていく決断をしました。
果たして彼は理想の時代にたどり着けるのか。未来を見て何を思うのか。
ここまでがプロローグ。
彼が主人公として話が進んでいくのかというと、そうではない。
そういう前提として、8つの花の時代に生きた人々の物語を見ていきます。主人公が違うオムニバス方式。目を引くような展開や驚きをウリにしてるのではなく、そこに生きた人間の生き様や成長譚を主軸にやさしくも美しい世界が描かれていきます。
◆forever(永遠)~薔薇~
永遠の愛を欲した女性の物語。
かつてその醜さゆえに雑草のように虐げられてきた女性は、整形のおかげで、今や誰もが見惚れる薔薇のような存在に。恋人と分かちあう最高の現在を永遠にするため、彼女は不老不死の薬の完成を目指します。
永遠の愛を得るため歩みつづけた彼女の人生、その果てで見る光景とは。
‥‥エピローグを除いた8つの物語の中ではこれが1番好きです。王道ですが。素晴らしいものは素晴らしい。
◆melancholy(憂鬱)~紫陽花~
不変を憂いた女性の物語。
天候が管理された世界は素晴らしいものです。なぜなら必要な時に必要な雨が降る。人の行動を邪魔することなく、梅雨に感じる憂鬱もない。確定した風景は人生を鮮やかにします。本当に、本当にそうでしょうか。定められた雨。決まった日にしか訪れない天候を憂う女性の元に、その装置を作った者の孫がやってきます。遺書の謎を解いてほしい。
すでに鬼籍に入っている彼の祖父は、何を考え、どんな思いを未来に託したのか。
‥‥最後の光景に思うところがありますね。彼らがあれを知らないとは。不変は失われると同義なんですね。
◆abandoned(見捨てられた人々)~向日葵~
娘を失った父親の物語。
仕事でスラム街を訪れた男は、死んだはずの娘とそっくりな少女ブルーと出会います。しかし彼女は普通とは明らかに違う。すぐに物を壊す癖があったのです。壊す。壊す。壊す。なぜそんなことをするのか。彼女の生い立ちに何があるのか。その不思議な行動に込められた意味とは。
‥‥そうですね、確かにそうです。そういうことですよね。ネタバレなしで語るのは難しい。
◆vivid(鮮やかな生)~彼岸花~
人間らしく生きたかった少女の物語。
首に爆弾をまかれ、市街地で殺し合いを命じられた二人の少女、どちらかは一週間以内に死ななければなりません。
どちらかの死が、もう片方を生かす条件です。殺すことに迷いはない。しかし、その行為に心を動かされない自分は、果たして人間らしいと言えるのか。生きていることを証明しよう。この鮮やかな赤色で。
‥‥結構ハード。テーマは同じですが雰囲気はこれだけ異色となります。百合です。真っ赤な百合です。
◆innocent(純粋)~百合~
正義の味方になりたかった子供の物語。
嘘を完璧に見抜く装置「真実の眼」が開発され、正直者が得をする時代がやってきました。月に設立された裁判所“アテネの学堂”では、今日も様々な討論が行われています。そこには裁くことのできない純粋な悪が存在しました。状況的に殺人をしたのは間違いない。にもかかわらず、嘘を見抜く“真実の眼”は無罪を示している。彼女は、殺人を殺人とは思っていないのです。果たして、討論で少女に悪であることを認めさせることができるのか。
‥‥逆転裁判みたいなお話です。純粋な楽しさなら一番かなと思います。
◆circular(循環)~蓮華~
救いを願った少年の物語。
黄金の冠を盗んだ少年は道すがらマゼンタと名乗る女性と出会います。盗品を投げ捨てた池上に突如として姿を現した彼女は、罪に対する救いを説き、性善説をうたいます。底辺は底辺であり続ける現実を知っている少年はそのお気楽な考えを鼻で笑います。損得勘定なしに善意は発生しない。人が本当に親切になれるときはあるのか。罪を犯した者はいつになったら許されるのか。その答えは。
‥‥3番目に好きです。人が罪を許すための物語ですね。行うは難しく、しかし尊いことを説いています。
◆lost(消滅)~忘れな草~
臆病者な男の子の物語。
超能力が身近となり、ユグドラシルと呼ばれる大木で人々が生活するようになったこの時代、世界では終末論がささやかれます。過去のできごとを完璧に当ててきたその予言者の言葉は、人々を怯えさせるには十分でした。
人はどうしたら生きた証を残せるのでしょうか。忘れないでください、私たちを。
‥‥ここから無常観ラッシュですね。ネタバレなしには語れません。
◆dear(親愛なる世界)~たんぽぽ~
最期を見届けた孤独な女性の物語。
国の復興を信じてコールドスリープした人々のなかに、なぜか一人だけ先に目覚めてしまった女性がいました。土地は荒れ果てて元の姿には至っていません。しかし再び眠りにつく方法も分からない。彼女は外から来たという少年とともに荒れ果てた土地を眺め、決断します。目的は達成していないが眠っている人々を起こそう。
その決断はどんな結末をもたらすのか。
‥‥2番目に好きです。帰結が美しいですね
3~4時間程度の短編が8つ。計30時間。それぞれ0章から7章までで一区切り。
読み終わったあと下の方に出てくる花を押して全部の回想シーンを見ると8章が出てくるという構成です。
他の時代ともリンクしていて、別時代も読んでいないと8章が出てこない場合もあります。
それら終えるとエピローグ。エピローグの締め方がすごい好き。FDの内容も本編に入れてほしかったという声もありますが、それは違う。そうするとテーマがブレると思うのですよ。
◆滅び朽ちる世界に追憶の花束を ~present for you~
『滅び朽ちる世界に追憶の花束を』のファンディスク。2時間程度。無料配布で配信終了。
公式の配信はなくなりましたが持ってる人は持ってるので探してください。本編の裏設定を補完する内容で、こちらも終わり方も綺麗。
ですが、幽霊出して登場キャラで語り合うみたいな内容なのでやはり本編に入れてはいけない。FDとしては最高ですけどね。
本作に不満があるとすればログの見にくさ。
もう一つは、見る順番が最初から決まっていないことですかね。
『滅び朽ちる世界に追憶の花束を』を初めてやるなら絶対に時系列順がいい。
自分は時系列順にやらず後悔してます。「lost」からやったんですよね。超能力やらユグドラシルやら出てきて (・・? となってました。
具体的には上に書いてある通り。上から下に、時系列順に8つ並べてあるのでその通りにどうぞ。
SF要素はあまりなく、例えば上記した通り、天候をあやつることのできる装置が開発された時代を舞台にしている、程度のもので、本質はそこで組み上げられた人間賛歌です。
内容は傑作だと断言できますが今から手に入れるのは不可能に近い。
あきらめるにせよ、手を出してみるにせよ、公式HPが消滅してしまった今は判断が難しいと思うので、上記の概要から判断してみてください。手を出すやつは、生涯をささげた生粋のノベルゲーマニアだけだと思います。