名作には違いはない。だが、神作というほどでもないかも?
私の場合、あまり作品にいい評価を下さないときは大体以下の三つのどれかに該当することが多いと気が付いた。
① 単純に合わなかった(つまらなかった)
② 「面白さ」のベクトルが違った(相性が悪かった)
③ 事前の期待値が高すぎた(ハードルが上がりすぎていた)
本作の場合、③が主に該当する。というかほぼこれ。
つまらなかったわけではない。寧ろ面白かった。エロゲでは珍しいほどの有能主人公だし、色恋沙汰にも慎重でHなことが苦手というのも親しみが持てて好き。序盤から、ああこれは「信頼できない語り手」だなとか期待が強まり、最後まで読み進められた。
面白さのベクトルが違ったわけでもない。特殊な義務を負わされる社会という設定は面白いし、他の作品では見られないような展開(特に三章)もあり意外性もいい意味である。
期待値が高すぎた要因は、この作品にある「仕掛け」のことである。この存在自体はプレイ前から知っており、ミステリ好きとしてはめちゃくちゃ期待していた。果たしてどのように「どんでん返し」や伏線回収をしてくれるのかと、どのように驚かされるのかと。
だが、少々期待外れというか……肩透かしというか。
本作にある仕掛け自体は面白いと思う。ノベルゲームならではの「一人称≒語り手」という構図や画面構成を活かした「本来見える者が見えていない」系の認識トリック自体は面白いし、この仕掛け自体は好き。独り言が多いのとか、「あんた」とかさ。
ただ、これを「どんでん返し」って呼ぶのはなんか違和感がある。というよりか「信頼できない語り手」とか「叙述トリック」(映像トリック?)なのでは。もっと大きな仕掛けがあるかと想定していたから良くも悪くも拍子抜けだった、本当に。
言葉の定義の話は面倒だから省くけれど、やはり、作品の根幹を揺るがすような大仕掛けや今までの認識が覆されるような展開を待ち望んでいたわけで、なんというか……。
もう少し何かあってもいいんじゃないでしょうか……。多くを望み過ぎたかもしれない。
余計なお世話かもしれないが、私が想像していたようなオチを試し書いてみるのなら、「樋口健」と「森田賢一」が同一人物なのか最後の方まで疑念を抱いたり、半ばクローズド的な場面設定も相まって「登場人物全員で主人公を騙している」だったり「実は車輪の国自体が虚構」(外の世界はいたって普通の世界で、そのことを認識できない)だったり、挙句には「車輪の国の国民全員が史実を小説として認識」しているだとか、実は日本の未来だとか、それはもう変な方向に色々と発想を膨らませたものだから、まあ、変な方向に期待し過ぎたのかもしれない。でも、もっと大掛かりで巧緻にとんだ仕掛けがあると予期していたので(それこそ、〇撃の〇人みたいな)、正直、当てが外れたというか期待がしぼんだ感は否めない。
あとは、本作をインテリだとか社会派と解するのも少し無理があると思う。
基本的にはシリアス成分はあっても明るい話だし、まあ、確かに二章ラストとか三章のあれこれとか衝撃を受けたシーンは数あれ、それほどまでにシリアスで「社会」を描いているとかは特に感じなかった。大音京子さんに関しては、注目されないだけでああいう子供みたいな親は沢山いるのだろうなとは感じた。なんなら身近に心当たりある。堕胎していることも含め、妙に生々しいリアリティ。
社会を描くにしては描写というか掘り下げがもう少し欲しかった。他にどんな義務があるのかたくさん出すとか、法制度、特別高等人関係ももう少し詳しく知りたかった。続編もあるようなので、そちらをしてみるのもいいかもしれない。
よくも歩くも中途半端というか、世俗の垢に塗れた社会悪を糾弾するようなシナリオにするのならもっと深刻でシリアスなシナリオにすべきだし、明るい青春ものにするのなら妙に後味の悪い描写は削除すべきだしで、なんか、悪い意味で中途半端な作品だとは感じた(好きな人御免なさい)。評価が高かったので、やはり、多くを期待し過ぎたのだろう。
好きだったのは二章。あのラストの努力や才能ではどうにもならない感じ、最高です。
法月のとっつぁんは本当にいいキャラですな。人の弱さ、甘えを容赦なく暴き立てられるような語り口は好き。あと、まな。この二人のお陰で退屈な序盤に耐えられたというのはある。
総括するのなら、要所要所で盛り上がるが、どうにも迫力というか凄味のようなものには欠け、色々と肩透かしを食らった感じがある。あと、珍しいことだとは思うけれど、本作のヒロインは三人とも刺さらなかった。Hシーンも実は見ていない。なんでだろうか。
なんだかんだシナリオ好きとか言ってもキャラの魅力も重要なのかもしれませんね。ようわからんけどさ。森田賢一は結構好き。
あと、灯花の「ぶっ〇すぞ!」っていったい何だったんだ……。思わせぶりな癖してこれはよくわからない。徒に読者を混乱させるだけで不必要な描写と感じた。
追記
本作の一つの見所、かなめでもある叙述トリック的仕掛けについてのもやもや。
姉が「世界から存在を認められない義務」という極限の刑罰を負っているということが明かされるタイミング(周囲から透明人間の様に扱われている)が遅かった、というか真相バレの箇所と近すぎるのが、どうしてもアンフェアな印象というか、唐突な感を受ける。もっと序盤からこの事実をヒントとして明かしてほしかったかも。
最序盤を見返して気が付いたが、一番初めに出るCGで森田賢一が画面の端の方に書かれてるのってさ……
「後ろを振り返らずに歩くこと……」。ほんとによくできてるなあ。でもやはりこの仕掛けを大絶賛するとかそういうのはないかなあ。