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minami373さんのCARNIVALの長文感想

ユーザー
minami373
ゲーム
CARNIVAL
ブランド
S.M.L
得点
95
参照数
298

一言コメント

書き割りのような下らない世界の片隅で紡がれる、ひと夏の狂騒。あるいは狂想。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

簡易感想

友人、恋人、家族……他人との間に横たわるどうしようもない溝、半透明の膜で覆われたような気味悪さを描いてたように思う。歪む認識の前では普通のエ○ゲで礼賛されるような恋愛やsex、ヒロインとの”絆”でさえも色や意味を喪う。空疎な狂騒……調子外れの暴想というべきか。とても楽しめた。

長文感想は考え中。

CARNIVAL
以下、長文感想。(2022/8/7)

 正直なところ自分でも、何故こちらの方をSWANSONGよりも高く評価しているのかが解らない。落ち着いた筆致で、限界状況における人間の醜さ、狂気や絶望を描き出してきたSWANと比べ、CARNIVALの筋はあまりに無軌道で、落ち着きがなく、まとまりはない。

 序盤からフルスロットルで暴走し、暴想し、歪みや軋みを残しつつも駆け抜けて見せる。その良くも悪くもの奔放さというか、爆発力のようなモノに惹かれたのかもしれない。

 にしてもこのゲーム、主人公である木村学の行動が意味不明の極みである。完全に行き当たりばったりで行動している。質の悪い事に、狂気のなせる業なのか、それでも一定の結果を出し、多数の人間に被害を与えつつも最後にはヒロインと結ばれる? なんじゃこりゃ、とシナリオ1を読んだ時は感じた。意味がよく分からない。いや、作中でも言及されている通りに意味なんてないのかもしれないけれど、突っ走るようなストーリー展開には脱力しつつも驚かされた。

 バッドエンドで脈絡もなく差し挟まれる容赦のない狂った凌〇パート、主人公の饒舌で自虐的、時に謎の知識をひけらかして見せる頭の良さ? 的なもの、うだるような夏の蒸し暑さ、逃亡中の犯罪者であるという点、様々な要素が物語を掻き立て、CARNIVALを象っている。空疎な狂騒、陳腐なお祭り。小説ではなくノベルゲームという媒体だからこその作品だと思う。緊張感のあるメロディも不穏な感情を芽生えさせられて良かったし、逆に回想シーンで流れる郷愁感ある音楽も良かった。幼少期理沙好き。

 また、本作は三つのシナリオから構成されており、プチ群像劇のような性質も帯びている。
〈人によって見え方が変わる〉……←(この表現、曲がりなりにもアマチュア創作を趣味としている人間からすると些か以上に違和感を覚える。いや当たり前だろ。見え方が変わらなかったら登場人物全員作者の分身みたいな痛々しいことになるので)……ことで、ある人物にとっては重大な意味合いを持っていた出来事が、他の視点から見ると〈なんでもない〉こととして矮小化される。

 如実に表れていたのがシナリオ3の理沙パートの後半だと感じた。武に死体の側で犯され、しかもその事実をクラスメイトや教師や親に知られ(さらっと流されているがだいぶ悲惨と思う。理沙が人気のある女子生徒であることも相まって)、その後の部屋でのシーン。
父親に心配され、 

                    〈なんでもない〉ことなんだよ。

 と答えるシーン。
これがだいぶ、ぐさりと来た。幼少期から父親に性的虐待を受け、しかもその事実を知っているのに助けようともしない母親(台詞やバッドエンドからある程度推察できる)、とんでもない家庭で育った彼女にとって、エロゲで礼賛される性行為は〈なんでもない〉こと。

 だからシナリオ1のラストで描かれたような学と結ばれて、「救い」を与えられ、なんかこれまで色々と辛いこと会ったけどまぁいっか! これからを楽しもう! という態度は本作においてはとることが出来ないだろう。大体そんなものは、主人公からヒロインに一方的に与えられるお仕着せの〈幸せ〉に他ならないのだから。「救ってあげることの暴力性」みたいなテーマ? は、ユーフォリアやフラテルニテに魅せられてこの界隈に滑り込んだものとしては日々思考しているところだ。(可哀想な、傷のある、歪んでしまった女の子を助けるということが、果たしてヒロインの側からして本当に価値のある事なのか?
という命題)

 だから先行きは暗い。
 
 結ばれてハッピー、万々歳。けれどそれでもこれまでのことは全部チャラにはならない。

 だが、その絶望的な救いのなさの中にも、どこか吹っ切れた、清々しいものも感じさせる。シナリオ3を終えた後にシナリオ1に追加される満天の花火を母親と理沙と学が観るというシーン。勿論これは正史ではないifだけれども、虚しさや報われなさを抱えてこれからも生きていくことへの示唆に満ち溢れているし……これは特に言いたいことだが、ヒロインとHして終わり、ではなく、そこをあくまでも通過点として、どんどんその先を目指していくような、突き抜けていくようなラストには少なからず胸を打たれた。可哀そうなヒロインを救った!→大団円、結ばれてハッピーとしなかっただけ、CARNIVALは傷ついた少年少女が愛の逃避行をする、あるいは学園とかいう虚構空間で知性が崩壊した恋愛茶番劇をする凡百の「恋愛もの」の上に位置付けられてしかるべきだと私は考える。学や読者にとってどうかは知らないが、少なくとも、理沙にとっては、それは〈なんでもないこと〉なのだ。


 こんなハイテンションで突き進む、しかもその無軌道さの中に確かなメッセージ性(というと陳腐化か。思想?)を滲ませる筆致だけで、最高だった。SWANはミクロな問題に焦点を当てるあまり(脇役もちゃんと活写しようとするあまり)、どうもこの辺りが消化不良だったような気が。本作のサブヒロインはあくまでサブでしたね。婦警さんは連勤で性欲溜まってたんだろうか。あれはギャグシーン?

 どうも、暗さを孕みながらも何処か軽快なノリで読みやすく、語り掛けるような口調で巧みに物語を展開させるやり口に惹かれているように思える。次はキラ☆キラやろうかな。

 電気サーカスとかも読んで見たいね。