ErogameScape -エロゲー批評空間-

minami373さんのForestの長文感想

ユーザー
minami373
ゲーム
Forest
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
95
参照数
268

一言コメント

「物語」の織り直しを試みる、最狂のインテリエロゲー。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 いかれた大人の童話。

 というのが、第一印象。

 登場人物は皆、大人と言える年齢だし、阿保みたいな恋愛劇を徒に差し挟むこともない。ナンセンスで、どこか調子の外れた会話の応酬。異界化した新宿で繰り広げられる「リドル」という謎かけ。果ては英国文学を主に引用される膨大な過去の物語。それらを「織る」ように新たに組み合わせ、また一つの物語を紡いでいく。その挑戦的な試みに惹かれた。 

 誰だったかは忘れたが「文学は引用の織物である」みたいなことをいったギリシャだかローマだかの偉い人がいて、本作はそんな言葉や概念を過剰なまでに解体してせしめるメタ・物語の様相を呈しているようにも思えた。アリス、ピーター・パン、ナルニア、クリストファー・ロビン……。何せ童話やメルヘンの登場人物たちをエロゲーに登場させるくらいだ。彼ら古き物語の住人は新たな物語として本作に編み込まれる。物語そのものについての言及(登場人物の役割や、偶然の扱い方)も面白く、本作の「世界」に彩を添えていた。唯一無二の世界観、音楽やCGを合わせたノベルゲームならではの深い没入感も素晴らしく、ノベルゲームの最高傑作と言わしめる貫録を備えていた。

 面白いのが、本編の現在としての物語と並行して「はじまりの物語」なる過去の話が並行して描かれていくこと。こういった視点変換とか過去未来を並行して書く描き方はミステリなどで親しんでいたので、それをノベルゲーでするのは面白い試みだった。世界や物語への没入が凄まじく、夢中で読むことが出来た。貴重な経験である。

 そも、エロゲーとはなんだろうか。大人の醸すエロさと、ゲームという子ども向けのコンテンツ(大友含む)という珍奇な組み合わせ。フォレストはその奇妙な融和と掛け合わせを、甘く芳醇なメルヘンと淫靡で邪悪な薄汚れた大人の世界の醜さを、作品世界に見事に同居させてているように思える。極めて危ういバランスで、あるいは自然な形で。そもそも、子供に与えられる童話こそが大人の世界に潜む残酷性や淫乱さを純真無垢な聞き手に示していると言える。風俗とか不倫とか、なんだかなあ。傘びらき丸のとあるシーンでは笑ってしまった。九月周ちゃん最高かよ。 

 総じて、とても面白かった。粗製濫造が目立つ昨今では、本作に似たような尖がりきった作品はなかなか出てこないのではないかと思う。確たる密度を持った森の産む不思議な世界に、最初から最後まで酔わされっぱなしでした。

 わざと外した? 様なキャラの造形や、魔女アマモリの可愛さ、登場人物たちのちぐはぐなような噛み合ってないような掛合い、過剰な引用によって編みこまれた独特な世界観が渾然一体となって私たちを物語の中へと誘います。総合芸術の佇まいさえ感じさせる、格調高い一品でした。