緻密な世界設定が細部まで編みこまれた、〈あまりにも完璧な〉神話ファンタジー群像劇。
ストーリーは「終焉にまつわる予言が伝わる」北欧神話をモチーフにしたファンタジー世界を舞台に、五人の主人公の視点を通して進行します。途中で切り替わるのではなく、一人目の主人公⇒二人目⇒三人目⇒……と、クリアしていく毎に新しいストーリーが解放されていく仕組みです。美少女ゲームのルート解放に近しいものがあります。他にもメタ的な視点(登場人物たちの物語が描かれている本を屋根裏にいる少女が読む)も持ち込まれ、最後の方はメタを活かしたゲームだからこそ可能な、なかなか野心的な演出も。
複数主人公による群像劇であるばかりか、時系列がきれいにシャッフルされており、登場人物の多さや世界観の複雑性も相まって、序盤は読者を置いてきぼりにしかねない展開が続きます。いくつかの国や陣営の思惑が絡み合い、「何かこの人たちは何かを巡って戦争してるんだなあ」みたいな認識です。ファンタジーにありがちな、ふわふわとした設定が小出しにされてゆく感じや、登場人物たちの背景や抱える問題が徐々に徐々に明らかになっていく様はじれったさこそ感じはすれ、架空世界に引き込まれていく、物語に没入していく酩酊感が強く、とても楽しめました。
絵本のような、というと語弊があるかもですが、空想世界に没入するのを妨げないよう、随所に工夫が凝らされていました。なかでも「いいな」と思ったのが、ストーリーが「〇章〇幕」のように、細かく枝分かれている点。「場」とでもいえばいいか、適度に休憩も挟めるし、横画面で行われる登場人物たちの会話は、気の利いたセリフ回しも手伝って、まるで演劇を観ているかのような独特な雰囲気があります。あれです、これだけは絶対に言いたかったのだけどFateを筆頭に型月作品が好きな人は絶対にやりましょう。
グウェンドリンは実質人妻になったセイバー。(妄言)
……。
複数主人公についても、それぞれに陣営や本拠地があり、隠れた関係性や秘める信念、希望や絶望を喜劇・悲劇の中で魅せていく作りは、一つの壮大な叙事詩を観ているがの如くでした。(まあ、叙事詩を基に作られているのだから当たり前だけど)
ゲームと複数視点は相性がいいと個人的には思っていて、「人それぞれ見えているものが違う」「それぞれの物語が一つに繋がっていく」という、言ってしまえば一つの物語の中に小さな物語をごく自然な形でいくつも配置できるという点で、ゲームという媒体はとても優れています。小説や漫画で一つのシーンを何回も視点を変えて書いても冗長さや間延びを感じさせるでしょうし、効果を産めるかというとなかなか難しいように思います。ゲームならではの、tipsやテキスト資料をプレイヤーが自発的に読んで謎解きをしたり、空想世界の国家や大陸の歴史を紐解いていく感じは堪りません。やっぱ子供に限らずファンタジーって良いな。
他にも登場人物たちの物語の進行につれて段々とその不穏な影を強めていく「終末の予言」に関わる伏線回収、舞台装置の多さには唸らされました。正直初見では把握できなかったり拾えなかったりした箇所が多かったので、強くてニューゲームで時間をおいてやり直したくもあります。
それにしてもこのゲーム、空想世界を魅せるために画面の様々な箇所に工夫を凝らしています。二次元的なようでいて奥行きのある背景や、時間と共にその様相を変える自然物のグラフィックなど、中学生の時初めてモンハンをやって、え、魚が川泳いでるし草がちゃんとそよいでる! とか狩りそっちのけで背景に感動していたような記憶がありますが、それに近い。本当に丁寧な造りの作品で、「オーディンスフィア」な感じを醸成しています。
因みにプレイ済の方向けに書くと、私のお気に入りは三章の「妖精の国の物語」です。メルセデスかわいい。この辺りから一章で不明瞭だった結晶炉周りの設定が明らかになり始め、世界背景が見え始めてきた感じがします。
~感じ、みたいな表現が多発されましたが、案外、幼少期や子供時代に触れた印象に残る物語はそんなものではないでしょうか。曖昧でいて繊細な感性というか、稚気と好奇に満ちた世界への態度。年々そのような感性が磨滅していくのを薄々と感じていますが、偶にならばこういう純粋な気持ちに返っても良いでしょう。オーディンスフィア・レイヴスラシル、<童心に返るのに>あまりにも完璧なゲームでした。