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minami373さんの腐り姫 ~euthanasia~の長文感想

ユーザー
minami373
ゲーム
腐り姫 ~euthanasia~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
80
参照数
204

一言コメント

独特の雰囲気を醸成する、あまり類を見ない作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 所謂ループもの。

 四日間を繰り返す。

 ヒロインが減っていく。

 本作のループは細かな差分を用いた単なる視点変更や群像劇に留まらず、ループするたびにストーリーラインが大幅に様変わりする仕組みなので、そういう意味での「飽き」は来なかった。

 雰囲気ゲーではない。

 よくできた伝奇、ホラーといった感じ。

 最初のヒロインであり主人公の恋人である伊勢きりこの押し付けがましい性格や(あなたのためを思って言っているのです的な)、続く夏生さん編での類型的な三角関係とかには少し辟易したけれども、本作のヒロインは軒並み癖というか、逆に男を食らう勢いなので、そこは結構好き。特に夏生さんの子供の頃憧れていたお姉さん感とか最高。田舎の閉塞的な狭い人間関係もその描写に拍車をかけている。

 こういう、田舎の狭い人間関係(中学高校の知り合いとか先輩と大人になってもつるみ続けるとか、駅前にある地域のなじみの店、とか)みたいなのは正直ピンとこなかったのだけど、田舎特有の褪せた情景、よく言えば風情のある、明け透けに言えば寂れた光景は、創作の中において鑑賞する分には嫌いではない。

 さっきから田舎田舎連呼しているけれど、本作の田舎ゲー感、はちょっといい意味で異常だった。地方の村役場や炭鉱の錆びれた感じとか、褪せた情景とかが、文章とかで表現せずとも画面から匂い立つように伝わってくる。草いきれとかアスファルトから立ち上る雨上がりの匂いとかが、良い意味で生々しい。

 そういう意味で、背景やbgmがあるノベルゲーだからこそ映える作品、演出が非常に巧みな作品だと言える。

 また、田舎をノスタルジーがどうこうとかやたらと美化する(これはこれで舞台づくりとしては良いと思うけれど)とか、過去の想い出を徒に強調することもなく、寧ろ不気味なモノ、得体のしれない空間として仕立て上げ、メインの要素である伝奇要素を際立たせるためにフル活用しているのも好感を持てた。

 まず、とうかんもり、という珍妙な地名がもう絶妙にキャラ立ちしている。

 地名にキャラ立ちも何もあるか、と思うかもだけれど伝奇ホラー、というか民族伝承的な話は舞台設定が肝要だし、都市のように開けた空間ではなく閉じた空間を演出するにはもってこいだ。

 なんか、ノベルゲームを進化しない紙芝居とか揶揄する傾向があるようだけれど、本作においてはその紙芝居、感が上手く、絶妙に作用していると思う。褪せた情景や頽廃的な雰囲気、登場人物たちの抱える情念、そして時折差し挟まれる主人公の喪われた記憶などの演出が、うまい具合に織り込まれている。

 まさしく、ノベル「ゲーム」。

 というか、田舎ゲー? にありがちな過去への身勝手な憧憬、ノスタルジックな感傷を不気味な事件との融合で語る(本作は過去の事件が主人公の喪われた記憶の埋め合わせと共に並行して語られる)ことで、単なる懐古感情に留まらない不気味な演出の妙を感じた。

 褒め倒しているように見えるかもだけれど、正直なところ、表現に窮している感は否めない。

 滅茶苦茶印象に残るシーンや認識を覆されるような衝撃的な展開、鮮やか過ぎる伏線回収と言ったノベルゲームに映える要素は薄く、そう考えると雰囲気ゲーと呼びたくなるのも分からなくはないかも。(ストーリーラインが薄く、世界観とかだけを薄っすらと褒めるためだけに用いられる雰囲気ゲーというレッテルが苦手なのであって、その概念自体を否定するものではない)

 鬱ゲー、電波ゲー、と言われるとそうではなく、(そもそも安易にこういった枠組みに作品を押し込めるのはあまり好きではない)よくできた伝奇オカルトものだという感想。

 インセスト的なのは気分悪くなるから正直合わなかったけれど(ヒロインの殆どが姻戚関係にある女性)、地方の閉塞感や狭い人間関係、頽廃的で淫靡な感じは私の一推しゲーeuphoriaに匹敵するかもしれない。勝るとも劣らず、少なくとも雰囲気的には近い。やはりエ〇は魅せ方というかシチュエーションが大事なのだなと感じる。

 背筋を這うような背徳感がある。

 一周が早く終わり、お気に入りのヒロインの見せ場が早々に終わることもあって、後半は半ば流れ作業、みたいな感じで読み進めたが、十二分に楽しめたので良し。

 三つあるラストの分岐も、それぞれに業のようなものが見えて面白く、本作だからこそ映える結びだった。

 最後に書き忘れたのですが、このゲーム、音楽、というか音を使った演出が尋常じゃないほどいいです。回想やモノローグでも声が出るのとかビビった。