key作品で一番好きかも。屈指の完成度の泣きゲー。
六年ほど前から積んでいたゲーム。タブレットでプレイした。
プレイ時間二時間ほどの短いゲームだが、終わった後にはいい映画を観終わった後のエンドロールのような、心地いい疲労感に包まれる。ノベルゲームにありがちな引き伸ばしか冗長とも言える掛合いなどもなく、無駄な文章がなく読んでいて心地が良い。
荒廃した都市で来るはずもないプラネタリウムの客をけなげに待ち続けるロボットのヒロイン、人類が滅びかけた未来世界で「プラネタリウムを見る」というストーリー、語り手の置かれている過酷な状況、ルビが乱舞するSF設定など、ともすれば過多になりがちな要素のどれもが世界観に寄与していて、なかでもヒロイン「ほしのゆめみ」の可愛さ、無邪気さは残酷な世界に疲弊した主人公及び読者の心を癒してくれる。
Kanon、AIR、CLANNADなど、Key作品というと(少し乱暴な言い方だけれど)、身体や頭が弱い(可哀想な)ヒロインを皮肉屋で斜に構えた主人公が所有するという図式(別に鍵に限ったことではないかもだけど)が頻繁に見受けられる印象はあるが、本作はそんなヒロインの萌え要素を、ロボットであるという点、プラネタリウムのお姉さんであるという立場などで巧妙に演出している。また、少女特有の無垢とか純粋性とかを祭り上げるようなことはなく、外の世界の状況を把握できていないという設定でそれらの、いわば足りなさを補い、巧みに隠蔽している。上手く伝わればいいのだけど、鍵作品にしては硬質な、ハードな作品だった。謎のギャグシーンも少なく、世界描写も緻密だ。硬さが文を通じて伝わってきて、硬い文章を読むのが好きな私にとっては相性が良かった。
しかし、前述したようなものはあくまで付随する要素に過ぎない。私が本作で最も感銘を受けた、というか涙しそうになったのはヒロインの健気さや、プラネタリウムでの細やかで微笑ましい交流、ましてや別れの切なさなどよりも、いつの時代も人々をひきつけてやまない星空の魅力……それを題材として昇華しきっていることである。
プラネタリウムを未来世界で見るという図式が、過去とこの世界のつながりを感じさせ、どんなに救いのない世界にも一縷に希望を感じとらせる。ヒロインが主人公へ懸命にプラネタリウムの解説をし続けるシーンなどでは、思わず涙腺が緩んだ。戦闘や恋愛や死など、劇的な要素をわざとらしく盛り込まなくとも魅力的な展開は自然に作れるのだと感じた。目の前で実際にプラネタリウムが上映されているかのような、そんな清澄な雰囲気だった。美しいBGMも素晴らしい。
画面についても工夫が見えて面白かったので言及したい。本作の画面構成は、まるで映画館のように、画面中央から少し上位にスクリーンが表示され、その横に立ち絵が表示される形式となっている。まるで、実際にプラネタリウムや映画館で座席に座って「上映」を観ているかのような画面構成に唸らされた。こういう画面上の演出の工夫も魅力的だった。
短くはあったが心に残るシーンは多々あり、余計な引き伸ばしもなく描写もすっきりと分かりやすく伝わる、完成度の高いゲームだった。長らく積んでいたが、漸くプレイできてよかったこと、また私自身一時期天文部に属していたこともあり思い出や切なさを刺激されたこと、あとは単純に変化する人間と変化しないロボットとの切ない交流ものが好きなこともあって、この高得点にしました。