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minadukinanokaさんのこなたよりかなたまでの長文感想

ユーザー
minadukinanoka
ゲーム
こなたよりかなたまで
ブランド
F&C
得点
80
参照数
419

一言コメント

シナリオの良い萌えゲー・・・になるはずだったのに、特に肝心のクリスルートが上手くいっていないような気がします。主人公の考え方を受け入れられるかどうかも鍵です。過度の期待は禁物だと思います。●絵(非常に良い)●音楽(良い)●シナリオ(良い)/ネタバレ度:大

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●絵について
くっきり鮮明というわけではありませんが、絵画風で独特の味がある塗りですね。思わず見入ってしまいます。ノベル形式なのが残念です。一見、塗りのせいでぼんやりして見えるかもしれませんが、むしろ表示は「巣作りドラゴン」よりもずっと綺麗です。
原画も可愛らしくて魅力的ですが、さすがに二十重はテキストの説明との乖離が激しいですね。とても切れ長の目には見えません(^^; 

●音楽について
エロゲでKOTOKO氏の歌を聞くのはこれが初めてですが、2年前のアニメ「神無月の巫女」で上手いことはわかっていました。ただ、このようにしっとり聴かせる曲ではクセのある歌い方が気になります。もう少し丁寧に歌って欲しいところです。EDは安心して聴ける出来です。
BGMも無難な出来ですが、あまり印象には残りませんでした。

●シナリオについて
悪いとまではいいませんが、特に肝心のクリスルートに問題が多いような気がします。

まず構成についてですが、何故ループにしたのでしょうか?冒頭とラストが違うだけで、他の部分はほぼ共通です。これでは、わざわざループにする意味はないのではないでしょうか。まあ、それだけ一周目の最後の別れのシーンを見せたかったということでしょうが、そのシーンにそれだけの意味があるとは思えません。二周目の冒頭に追加されるシーンは、一周目のラストシーンではなく小さい頃の思い出のはずなのですから。それに、二周目でもバッドエンドとして見られるようにしているのですから、それが一周目であってもたいして問題はないはずです。
ループ前提であえて説明を省いたと思われる箇所がいくつかあって、そのせいで一周目のプレイでは訳が分からなかったり納得いかなかったりする部分があります。そのため、一周目の後味はあまり良くないです。
私には、一周目のラストシーンを妙に気に入った製作陣が、シナリオ上それほど重要な意味がないにも係わらず、そのシーンにこだわりすぎて失敗したように見えます。確かに良いシーンだとは思いますが、あくまでバッドエンドに過ぎません。

次に内容についてですが、

「・・・在りたいように在るには、他人を考えずに行動しなければならない。しかし、おおよそ人間は他人の感情を無視して行動することを良しとしない。だからこそ時に人は迷い、そして予期せぬ生き方を強いられる。・・・」

彼方は耕介に殴られても佳苗を受け入れず、クリスに泣きつかれてもその吸血鬼の部分を否定します。もちろん「迷」っていないわけではありませんが、それよりも、その頑固といってもいいほどの鉄の意志の方がずっと印象に残ります。
それに、彼方はクリスを利用して佳苗を遠ざけ、その後始末を耕介に任せています。おそらく作中で彼方ほど「他人の感情を無視して行動」している人間はいないでしょう。特に佳苗のことを考えていません。彼方が佳苗の立場だったらどう考えるのかを。
結局、彼方は他人に甘えて自分の我がままを押し通した、と言えなくもありません。あまり「他人」に「予期せぬ生き方を強いられ」ているようには見えないのです。寿命が短いというだけで。私にはライターが書きたかったテーマと実際の内容が微妙にずれているように感じられました。
序盤もしくは回想で、彼方が他人に振り回されてグチャグチャになるシーンが必要だったのではないでしょうか。そこらへんはプレイヤー個人の体験に丸投げしたのかもしれませんが。書かなくてもわかってよ、と。

●まとめ?
上では思ったよりも彼方のことを叩いてしまいましたが、その気持ちが分からない訳ではありません。ただ、自分が間違っていたことに気づいたのなら、やっぱり謝らないと・・・。結局、最後まで彼方は佳苗に謝りませんでしたね。頑固なまでに自分の考えを貫くだけに、彼方の考えを受け入れられない人は途中で投げてしまうかもしれません。いいところも有るんですけどね・・・。
どのキャラもなかなか魅力的ですし、場面の盛り上げ方も上手くて感動の一歩手前ぐらいまではいきます。シナリオで泣けるというよりもシーンで泣けるという感じです(泣ける人なら)。シナリオ的にはやや期待はずれでした。絵が非常に良いのでこの点数です。