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minadukinanokaさんの君が望む永遠 DVD specificationの長文感想

ユーザー
minadukinanoka
ゲーム
君が望む永遠 DVD specification
ブランド
âge(age)
得点
90
参照数
448

一言コメント

一部非現実的な設定はあるものの、キャラの心理描写はあくまでリアル。小説、ドラマ、映画等他メディアでも、心理描写をここまで深く丁寧に描けている作品は少ないでしょう。エロゲの範疇に留まらない名作。なお、一部似たような経験のある私は孝之擁護に回ります。「孝之はヘタレじゃない。経験者ならわかるはず。」●絵(非常に良い)●音楽(非常に良い)●シナリオ(素晴らしい:一部鬼畜のため減点)/ネタバレ度:大

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●第一章での孝之と水月の関係について
私の目から見れば孝之と水月が両想いなのは明らかなのですが、他の人の感想を読むと私と同じ考えの人は少ないような気がしてしまいます。もちろん、書くまでもないことだから書いていないという人もいるでしょうが・・・。

孝之本人は自覚していなくても、日常での言動の端々にそれが感じられます。中でも一番はっきり分かるのは最初に丘で遙に告白されるシーンでしょう。孝之は水月が待っていると思って丘に向かうわけですが、もし孝之が水月に対して恋愛感情を持っていないのなら、ここでは「何と言って断ろうか」と考えるか、あるいは受け入れるか拒否するか迷うところです。あたかも、その時の遙に対する態度のように。少なくとも、決してドキドキはしません。この状況でドキドキするということは、孝之は水月のことが好きなのです。間違いなく。

つまり、孝之は遙に告白される以前から水月のことが好きだったのです。私は、この第一章で孝之と水月の間に遙が割って入ってきたという印象を受けました。水月や遙の視点で見ればまた違うと思いますが、孝之あるいは第三者の視点で見ればそうなります。水月を好きだったにもかかわらず、それまでほとんど面識の無かった遙の告白を受け入れてしまった、それが後の泥沼の根本的な原因です。既に第一章の時点で実質的には三角関係になっていたのです。もし、孝之がきちんと自覚していれば多少修羅場になったとしても○校時代のうちに問題は解決していたことでしょう。まあ、鈍感な孝之くんが悪いといえば悪いのですが、それよりも水月の方が罪が重いかもしれません。

また、第一章での孝之と水月の関係がわかっていれば、第二章冒頭のHシーンも問題なく受け入れられるはずです。私も「ああ、やっぱりね。」と思っただけです。私の受けた印象は「元の鞘に収まった」あるいは「成るべくして成った」というものです。元々両想いだったのですからこうなって当たり前です。それに、孝之と水月の関係は既に第一章で描いているわけですから事故後の3年間を省略しても特に問題はないはずです。

●「時間の重さ」について
確かに、3年間で孝之と水月が培った絆は重いと思いますが、遙が事故の結果失った3年間も決して軽いものではありません。思春期の3年間は老人の3年間とは重さが違います。この3年間のせいで人生が変わってしまったと言っても過言ではありません。まして、孝之は事故に責任を感じているのです(余談ですが、本当に悪いのは事故を起こした車の運転手です。私はプレイ中何度もツッコみました(^^;)。孝之にとって、遙の失った3年間は第三者が考えるよりもずっと重いでしょう。それだけで遙を選択してもおかしくないほどに。私には「時間の重さ」(とその結果としての絆)に関して水月が遙に対してそれほどアドバンテージがあるとは思えません。

私は、水月の遙に対するアドバンテージは「時間の重さ」というよりも「肉体関係があること」と「現に孝之と付き合っていること」(現状の追認)だと思います。この2つを重視する人は文句無く水月の方を選択するでしょう。ただ、このアドバンテージも「もし事故が無かったら遙と・・・」と考えると、それほど確かなものではないような気がします。

私は、この事故とその後の3年間は「究極の二択」を完成させるための設定だったと思います。孝之と遙の関係を保存したまま、孝之と水月の関係を成立させる・・・。他の事情がどうあれ、これで精神的には完璧な三角関係が出来上がります。遙と付き合った状態のまま孝之を水月と浮気させても三角関係になりますが、それでは倫理的に考えて遙の方を選択する人が多くなるでしょう。「究極の二択」にはなりません。そうさせないための「事故」であり「3年間」だったのではないでしょうか。

しかし、「もし事故が無かったら・・・」というのはあくまで仮定の話です。現実に事故は起こってしまったし、その結果水月にアドバンテージが生じたのも事実です。孝之が最終的に水月を選択するのも仕方がない、というか自然の流れだと思いますし、ライターもそう考えていたのでしょう。だからこそ、第一章で遙とのHをあえて寸止めで終わらせたのでしょうし。

ただ、個人的にはそれでも水月をブッチ切って遙を選択するのも全然「アリ」だと思います。水月の言動によっては、そのアドバンテージが逆にハンデになってしまう可能性も十分ありますし、事実、遙ルートではそうなっていると思います。本当に良く出来たシナリオです。私は、むしろ遙ENDの方が感動しました。水月ENDのあの絵本は狙いすぎで少し退いてしまいます。

●経験者談
愚痴もあるのでスルーしていただいて結構です。
所詮わかってもらえないと思いつつ、書いてみます。

それまでの経緯がどうあれ、一度三角関係が成立してしまえばそう簡単に動けなくなってしまいます。どちらも同じくらい好きなら、そう簡単に結論なんか出ません。迷って当たり前ではないでしょうか。「当然、先に好きになった方をとるべきでしょ?」と考える人もいるかもしれませんが、実際そう簡単に割り切れるものではありませんし、もしそうなら、そもそも三角関係が出来るわけがありません。

私も実際にそうなるまではわかりませんでしたが、「同時に二人(以上)の異性を本気で好きになること」は「可能」です。逆に言えば、それがわからなかったからこそ三角関係になってしまった、とも言えます。今なら、一人の異性を好きになったら他の異性とは一定の距離を置く、という対応が可能です。経験しないとわからないことかもしれませんが、注意した方がいいです(^^;

もし、私が経験の範囲内で孝之にアドバイスするとしたら「きっかけを待て」です。いくら考えても結論は出ません。それまでは三角関係を維持するしかありません(でなければ両方切るか)。どちらも自分の好みの異性なのですから自分の言動に対する反応は似た傾向になりますので、日常ではなかなか決定的な差は出てきません。だから迷うのです。ただ、当然二人は同じ人間ではないので必ずどこかに違いがあります。ある程度重要なイベントもしくは自分がこだわっている(譲れない)事柄に関して、二人の言動に見逃せない違いがあった時が選択の機会です。

孝之の場合は水月も三角関係をわかっているので、特に水月の言動が鍵を握ります。水月が孝之を信用できなくなれば自滅するだけですし、辛くても信用し続ければ最後にはアドバンテージが生きてくるかもしれません。


それでは、この作品に対する個人的な評価ですが、
●絵について
十分水準以上の出来ですね。総じて綺麗です。個人的につり目はあまり好きではないので多少不安はありましたが、実際にプレイしてみて問題ありませんでした。水月も茜も大空寺も充分魅力的です(大空寺の顔のアップはちょっとイタい・・・)。ただ、たまに遙が別人に見えるのと、主人公の手がバランス的に大きすぎるのがちょっと気になりました。

●音楽について
まず、ヴォーカル曲がちょっと残念な出来です。「君が望む永遠」は一番盛り上がるところで声が出ていないのでガックリきました。ラストの盛り上がりに水を差しましたね、これは。「Blue Tears」は水月の方が声はかわいいと思いますが、いかんせん音程が不安定で所々外しています。その点、遥の方がマシですが上手いという程ではないような気がします。3曲とも曲自体の出来は悪くないと思います。

BGMは一周目のプレイではシナリオが凄すぎて記憶に残らなかった訳ですが、逆に言えばそれだけ場面に合っていて、違和感がなかったということだと思います。どこかで聞いたような感じの曲が多いですが、なかなか良い出来です。「願い」が一番気に入りましたが「記憶のざわめき」や「夜の吐息」も印象的です。

●シナリオについて
流石に良い出来です。読みやすいテキストも考慮すると私がプレイした中では最高の出来です。特に心理描写が丁寧で深く、説得力も十分です。ライターにある程度経験の裏付けがなければここまで描けないと思います。シナリオの展開も不自然な所がほとんどなく、安心してプレイに没頭できました。一周目のプレイ後では、どんなBGMがかかっていたか思い出せなかったほどです。こんなことは初めてでした。先の展開が気になる「月姫」に対して、じっくり読ませる「君望」という感じです。

唯一気になった点は、第一章で孝之が遙を好きになった理由(きっかけ)が描けていない事です。最初、孝之は好きでもないのに「今の(4人の)友人関係を壊したくない」一心で遙と付き合い、破局しかかる訳ですが、水月の話を聞いて「今の友人関係があるのは遙のおかげ」だと気づき、孝之の方から遙に告白します。しかし、「今の友人関係があるのは遙のおかげ」=「感謝」になるのが普通で、それが「恋愛感情」になってしまうのは飛躍しすぎと言わざるを得ません。少なくとも、私はそれだけの理由では遥を好きになれませんでしたので、違和感が残りました。最初に遙に告白された時と状況はたいして変わってないと思いますが・・・。
あと、茜のラストが思ったほど盛り上がらなかったのはちょっと残念でした。他の2人と差がついてしまいましたね。

さて、問題のサブシナリオについてですが、少し強引なところもありますが総じて良い出来です。極端な設定にして劇的な効果を狙っています。愛美エンド、水月奴隷エンド、水月犬エンドといった鬼畜なシナリオでさえも心理描写が丁寧で、ひょっとしたらそういう可能性もあるかもしれないと思わせる説得力があります。それだけに、エンド名を見ただけで酷いですが、純愛派にとっては大ダメージです。一切手抜きなし、逝くところまで逝ってます。他のシナリオとの調和という点でも疑問があり、個人的には減点対象ですが、出し惜しみはしてないと思います。


以上、非常に長くなってしまいましたがいい作品でした。自信を持って薦められる作品です。90点か95点か迷いましたが、最後にまとめてマナマナEDや水月鬼畜EDをプレイしたため90点に決定しました(^^;