(GiveUp) 共通ルートはなかなか面白かったと思いますが、個別ルートは独善と言いたくなるほど不自然な展開でがっかりしました。とても感動どころではなかったです。青葉と茉莉のみクリア。●絵(良い)●音楽(非常に良い)●シナリオ(良い)/ネタバレ度:大
●絵について
キャラデザは悪くありませんが、あまり上手くないですね。塗りも色の数が少なくて立体感がなく、色自体もあまり良くないですね。比較してはいけないのかもしれませんが、「Canvas」(2000年11月)とは雲泥の差です。おそらく、当時としても低レベルだったはずで、同人の「月姫」(2000年12月)と大差ないと思います。
●音楽について
BGM:ピアノ中心のシンプルな編曲ですが、良い曲が多いと思います。
歌:2曲とも出だしは音が低すぎる感じもしますが、そこから徐々に音を上げていってサビで盛り上げるという有りがちな作りですね。サビはまあまあ良いのでまあまあ良い曲に聞こえます。ただ、2曲ともBGM用にアレンジされた曲のほうが良い出来のような気がします。
●シナリオについて
設定が設定だけに、多少強引な展開になってしまうのは仕方がないと思いますが(特に寛の登場の仕方は意味不明(^^;)、それでもテンポが良く、キャラの描写は丁寧でなかなか読み応えがあったと思います。ギャグも思ったより面白かったので楽しめました。
家族肯定派のほうが多いので、他人同士が一緒に暮らす難しさはそれほど感じられず、早い段階から大家族の良さが感じられました。おかげで、一人ずつ去っていく過程ではしっかり寂しさが感じられて良かったです。
共通ルートはなかなか良かったと思いますが、個別ルートは一転して不自然な展開が続き、無理矢理トラブルを作り出しているような印象を受けました。
【青葉ルート】
突っ込みたいところは沢山ありますが、長くなりそうなので竹とんぼ関連の4点に絞って書きたいと思います。
①竹とんぼを外に持ち出して飛ばした挙句、それを鳥に持っていかれてしまったこと
飛ばないことは屋根裏部屋で見つけたときにわかっているはずなのに、何故大切な竹とんぼをわざわざ外に持ち出して飛ばそうとするのか。謎です。そして、竹とんぼを飛ばした瞬間にカラスがくわえて持ち去ってしまう・・・。ギャグならまだわかりますが、シリアスでこれはないでしょう(^^; 子供が考えそうな稚拙な展開ですね。手抜きとしか思えません。それに、銀色の竹とんぼって実在するんですかね?まさか、この展開のためのご都合設定でしょうか(カラスは光り物を集めるそうなので)?銀色の竹とんぼって竹とんぼに見えないような気がしますが(^^;
また、このシーンで司が「一番まっとうな推理」を披露しますが、全然まっとうではありません。ミスリードのつもりでしょうか?この点については下の③で。
②司が青葉の日記の内容に矛盾があるというだけで、実は宗太郎氏が青葉を無視していたと断言したこと
青葉の日記の内容に矛盾がある→青葉が記憶を捏造した→実は宗太郎氏は青葉を無視していた、ということでしょうが、この考えには飛躍があると思います。もちろん可能性としては考えられるかもしれませんが、こう断言できるほどの根拠はないのではないでしょうか。確かに、宗太郎氏はたくさんのおもちゃを買ってくれなかったかもしれませんが、竹とんぼをくれたのは事実ですし、絵をおしえてくれなかったかもしれませんが、一度だけとはいえアドバイスしてくれたのは事実です。それに、日記にはあちこちに「じじいはやさしい」という記述があります。これで宗太郎氏が青葉を無視していたと断言できるでしょうか?私は司の推理には無理があると思います(結果的には正解ですが)。
また、日記には他人に言えない本音を書くのが普通です。日記に嘘を書く人なんて存在するんでしょうか?青葉の日記の設定も不自然だと思います。
③竹とんぼが飛ばないことを確認して(宗太郎氏が直していないと考えて)、竹とんぼをタイムカプセルに入れて庭に埋めたという青葉の日記の内容を捏造だと決め付けて、他の可能性を全く考えないこと
>司「だからたぶん、子供だった青葉が直してから、それを宗太郎氏に渡したんだ」
>司「宗太郎氏はそれを手直しすることもせず引き出しに突っ込んだままに・・・・・・亡くなった」
①の時点での「一番まっとうな推理」は、宗太郎氏がタイムカプセルを掘り出して竹とんぼを引き出しにしまった、でしょう。私も含めて多くのプレイヤーがそう考えたと思いますが、司はその可能性には全く触れません。ご都合主義ですね。
おそらく司の考えは、宗太郎氏が竹とんぼを直していない→青葉に竹とんぼを返していない→青葉はタイムカプセルに竹とんぼを入れていない→だから日記の記述は捏造、ということだと思いますが、この考えが正しいとは限りません。前述したように、宗太郎氏がタイムカプセルを掘り出して竹とんぼを引き出しにしまい(つまり日記の記述は正しい)、そしてそれを直す前に亡くなったと考えても全然問題はありません。「宗太郎氏が竹とんぼを直していない→青葉に竹とんぼを返していない」のところが強引です。
また、竹とんぼが鍵の掛かる引き出しにしまってあったことを考えても司の推理には賛成できません。このシーンの流れでは、上記の司のセリフは、青葉を無視していた宗太郎氏が竹とんぼを直さず机に入れて放置していた、というニュアンスに取れますが、それならわざわざ鍵つきの引き出しにしまうでしょうか?宗太郎氏にとって大事なものだったから鍵付きの引き出しにしまったと考えるのが自然ではないでしょうか。
後の④のシーンでわかることですが、このことは、結局宗太郎氏が青葉のことを大切に思っていたことを示す伏線のようなのですが、この伏線が②と③のミスリードを台無しにしていると思います。
なので、私は②も③も全然納得できませんでした。プレイヤーを納得させられなかったということは、ミスリードとしては失敗です。プレイヤーを混乱させただけで何の役にも立っていません。
④結局、青葉が竹とんぼをタイムカプセルに入れたのは真実だったのですが、そうだとすると・・・。
司は竹とんぼを取り戻した後、青葉に、宗太郎氏が直した跡があることを確認してから、「なら、俺はみんなわかったよ」と言い放ち、「青葉は竹とんぼをタイムカプセルに入れた。それも真実だ」と断言しますが、上の③で書いたように、宗太郎氏が竹とんぼを直したかどうかは、青葉がタイムカプセルに竹とんぼを入れたかどうかの判断基準にはなりません。仮に、司のように日記が捏造だと考えても(青葉はタイムカプセルに竹とんぼを入れていないと考えても)、宗太郎氏が竹とんぼを直すことはもちろん可能です。
まあ、とにかく青葉が竹とんぼをタイムカプセルに入れたのは事実だったようで、やっぱりそうだったじゃないか・・・で話は終わりません(^^; 青葉の行動に重大な矛盾が生じます。青葉が竹とんぼをタイムカプセルに入れたのが事実だとすると、宗太郎氏がタイムカプセルを掘り出してそこから竹とんぼを取り出したのも事実ですが、青葉はその事実を知りません。とすると、何故青葉はタイムカプセルを見つけることを恐れていたのでしょうか?
青葉の日記を読んだ後、司は青葉の様子を見て
>あるいは、と思う。
>わざと避けているようにも感じられてならない。
>青葉は何かを恐れていた。
②の直前に、司は雨の中、庭を掘り続ける青葉を見て、
>そうして確信した。
>青葉は意識の奥底で真実に気づいていて、故意にその場所を避けているんだと。
間違っているとはいえ、司がこう考えるのは仕方が無いと思います。竹とんぼが庭に埋まっていないことを知っている司から見れば、青葉の行動はそう見えても不思議ではありません。しかし、青葉自身は宗太郎氏が竹とんぼを掘り出したことを知りません。それなら、その「意識の奥底の真実」では竹とんぼはタイムカプセルに入っているはずですし、故に「その場所を避け」る理由もありません。
避ける理由がなければ、青葉はすぐにタイムカプセルを見つけるでしょう。埋めた場所はわかっているのですから。それに、タイムカプセルが空であることがわかったとき、青葉が司の推測どおり「あ~あ、やっぱり無かった」という反応を見せるのはおかしいです。青葉は宗太郎氏が竹とんぼを掘り出したことを知らないのですから。
つまり、②から③の感動の(?)シーンは全く成立しなくなります。言うまでもなく、このシーンは司と青葉が接近するきっかけとなる重要なもので、このシーンが成立しないということは青葉シナリオが根本的におかしいということではないでしょうか。私にはこれが些細な問題とは思えません。
【茉莉ルート】
青葉ルートほどではありませんが、特に家出してから準と景が入れ替わるあたりまでが不自然ですね。青葉ルートの茉莉の言動のほうが自然ではないでしょうか。また、青葉ルートと違って他キャラの言動や出来事の流れにも辻褄の合わない点が目立ちます。作り込みが甘いとしか言い様がありません。
ただ、Hシーンは良かったですね。茉莉の「……せっくす……すごい……」というセリフにやられた人は多いのではないでしょうか。
●テキストについて
この業界では定評のあるライターですが、日本語の正確な意味がわかっていないミスが多いですね。例えば、司は高屋敷家の庭を「中庭」と言っていますが、「中庭」とは「建物と建物の間につくった庭」であって、高屋敷家の庭は「中庭」ではありません。「ここは変わらず危険で、気が置けない」の「気が置けない」は「気を使うことなく、気楽につきあえる」という意味なので、明らかな誤用です。
また、ライターの性なのかもしれませんが、凝った表現にしようとして変な日本語になっているところも多いですね。凝った表現を使う前に正しい日本語を覚えてくれと言いたいです。
こういったミスを一つ一つ数えたら、おそらく3桁になるのではないでしょうか。この業界のレベルの低さを痛感します。
●声優さんの演技について(A~Eと+-の評価)
青葉・・・北都氏はロリもこなせますが、やっぱりお姉さん役がベストという気がします。性格はアレですがキャラデザと声が良く、とても魅力的なキャラになっていると思います。(A+)
春花・・・声が無ければただの電波キャラだったかもしれませんが、この声のおかげで可愛く感じられました。もちろん演技も問題ないです。(A)
茉莉・・・これはこれで良いと思いますが、声質的に他に適任者がいるかもしれないという気もします。(B)
寛・・・必ずしも満足しているわけではありませんが、他にこの役をこなせそうな人がいないので仕方がないというところでしょうか.。(B)
真純・・・悪くないと思いますが、たまに言い方が違うと感じる箇所がありますね。(B-)
準・・・どちらかというと下手な方ですね。滑舌もあまりよくないと思います。(D)
劉・・・表の世界と違って裏の世界ではこういう軽いキャラを演じることが多いようですが、いまいちハマっていないような気がします。(C+)
●まとめ
このテキストとシナリオを見ると、実はこのライターはそれほど頭が良くないのではないかという気がしてしまいます。ただ、共通ルートの出来を考えると、個別ルートもやろうと思えばもっと無理のない展開に出来たのではないかという気もします。要するに作り込みが甘かったということかもしれません。残念ながら「加奈」同様、今回も感動は出来ませんでした。