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migakei1919さんの魔法使いの夜 -WITCH ON THE HOLY NIGHT-の長文感想

ユーザー
migakei1919
ゲーム
魔法使いの夜 -WITCH ON THE HOLY NIGHT-
ブランド
TYPE-MOON
得点
100
参照数
719

一言コメント

至高。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私は友人に進められてtype-moonの作品に触れだしたのだが、これは二番目にPLAYしたゲームである。
驚愕。興奮。至福。このゲームの感想は三語に尽きる。まず型月(めんどくさいので以下この俗称を使用する)のゲームに関して語る際に触れねばならぬ、きのこテクストであるが、良かった。何を当たり前のことをと嗤われるだろうが、実を言うととても良かったのである。月姫、fate、らっきょの文体と比較して「読みやすさ」が大幅に向上したと私は感じた。日常描写のきめ細かさが以前より繊細になっているというか、fateのお料理合戦のようなカタチに落とし込まず、さらにモブ達とや主人公、魔術師サイドの日常描写のウェイトを本編から減らしおまけシナリオへ移行させる事でテンポとボリュームの調整を図ったと考えて良いだろう。さらに文の一つ一つの質が上がったようにも感じられる。おそらく奈須氏が2000年以降大量の執筆を経て文章技巧の技量が上がったためだと考えられる。しかも以前より自分が持っていた文章の特性に関してはそのシャープさを一寸たりとも損なうことなくユーザーの液晶画面に叩きつけてくる。こりゃたまらん。やはりきのこ氏は作家買いしたくなるような一流クリエイターである。

論評を物語に移そう。

舞台は1980年代のどこか、奈須氏が10代で青春を過した時代である。CGに再現される時代の質感に関しても中々高度な物を感じる。奈須氏は90年代の質感の再現が上手いなあと思った記憶があるが、そのためかどこか80年代後半の雰囲気を感じてしまう。型月の九十年代感はらっきょと月姫が上手く再現している、メガテン1の自衛隊悪魔クーデターとハルマゲドンに始まり、酒鬼薔薇やオウムが暗躍した、どの時代よりも「都会の夜」という視覚イメージに共鳴する時代と、都市の闇が異形となって染み出してくる新伝奇、奈須きのこの真骨頂である。しかし今作はその「十八番」を封印し、80年代の郷愁を醸しだす事に専念している。ここで描かれる80年代に関して、島本和彦の「アオイホノオ」にたいな「同時代のオブジェクトと自分史との共時性を演出する」ような手法ではなく視覚イメージとしてCGの中に溶け込ませる手法を用いている。上手い手法だ、月姫もそうだったしらっきょアニメもそれだった。
主人公青崎青子と静希草十郎、久遠寺有珠の関係性や心情等に関しては私の拙い文章力では表記しきれないため「ありえんよさみましまし」とだけ書き置いておく。さてこの「ゲーム」で一二を争う論点となるのが「音」である。日常シーン等も当然であるが、なによる戦闘シーンに流れる「絢爛/finality」と「顕現/great three」の二曲はクラシックの技法を用いた傑作BGMで、ドイツのケルン大聖堂あたりで流したら荘厳な事請け合いである。他も良曲であること請け負いであるが、特にこの二つが100点のシナリオを200点にしている、さらに演出も加えて300点のゲームになっているのである。画面エフェクト演出の凄まじさに関しては有名なので詳しくはPLAYして頂きたい、言葉でつたわる凄さじゃないし。
さてそろそろキャラクターと設定の話に移ろう。奈須きのこのキャラクターに関しては作品ごとにその類似性が指摘されるが、この作品に出てくる久遠寺有珠は過去作に似たキャラクターは居なかったように感じるが、まだまだ私も新参者まので修行の至らなさなのかもしれない。余談であるが久遠寺の性は私も大好き、奈須氏も大好き京極夏彦先生の「姑獲鳥の夏」のメインヒロイン久遠寺涼子から取ったのだろう。彼女は月姫の琥珀さんのモデルだと確信している、チョウセンアサガオのくだりもクリソツだからこれは正しいと思うが。さて型月ヒロインに関していえば、基本的には「魔術師」か「人外」がヒロインの座に座っていると言えるだろう。しかし奈須氏はエロ描写が無いほうがいやらしい?いや、性の予感を漂わせてこっちがわくわくするような、まるで思春期に戻ったような気分を味あわせてくれる。今作だと燈子さんが一押しである、大人の色香なる使い古された形容詞を惜しみなく撒いてくれる。あと生徒会の槻司の設定や立ち居地などが青い性を感じさせられるがこの当たりも時代設定と噛み合ってて至高である。型月ヒロインsの「特別」感というのはなんとも言えぬ魅力である。「他とは違う特別な人間」などと言語化してしまえばそれまでではあるが、別に特殊能力や人外であることで特別というわけではないだろうなという気がするが、このあたりは上手く言語化できないので大変もどかしい。個人的にはらっきょの両儀式や月姫の秋葉、歌月の時南(娘)あたりが特別感強いと感じている。まほよだと強いて言うなら有珠とシスターズ(たぶんヒスコハの原型)かなぁと感じた。

さて次は伝奇に関してである。型月作品は現代伝奇の雄として伝奇小説界隈で隠然たる勢力を誇っているが、個人的には伝奇ファンタジーと呼称するほうがにあっていると感じる。そも伝奇とは「一般とは異なる歴史背景及び認知されていない歴史」を含むという部分が「伝奇」というジャンルの「核」であると私は考えている。例えば(別作品のネタバレになるのであまり表記しないほうがいいのだが)残された骨の正体が「太古の昔、日本神話の基になった豪族の骨」で「神格化された後、神の骨を巡って争いが起きる」とか「サンカの子孫が世界制服を企む結社と格闘技で戦う(今野敏だよね)」とかそういうものが伝奇だと思っているのである。これらの例だと「神の骨」や「サンカの子孫」が伝奇の伝奇たる部分になるが、型月の魔術バトルに関しては、中々どうして今作は「伝奇」要素がfateよりも濃いのではとほくそ笑んでいる。ネタバレになるが、ベオは伝奇モンスターそのものだし主人公の設定も伝奇っぽい。主人公のYAMAは、所謂退魔組織と関係があるのかと考察していくと、楽しい(まあ無いんだろうけどね)。実はきのこが好きな菊池秀行なんかは「伝奇アクション」であるが、なぜこの題材で伝奇を用いるのだろうと私は首をかしげでしまう。きのこ氏や夏彦先生はその点伝奇的題材の扱い方が上手いなと思う。

長々と書き連ねてしまったが、矢張りこの作品は最高であるという結論に至った。末永くPLAYしたい。続編を所望する次第である。