色々スタイリッシュになった令和版「大悪司」
【総評】
正直ゲームとして未完成だったのでは?という箇所や不満点はいくつかあるものの、それらを差し引いてもめちゃめちゃ面白かった。というか、あの「はるうられ」を手掛けたいってんちろく氏の作品である。つまらないはずがない。アリスソフトもTADAさん引退後どうなることやらと思っていたが、これからはいってんちろく氏が後継者として盛り立てていってくれるだろう…と思ったら氏は今作を最後にアリスソフトを退社しているらしい。何とも残念である。転職先は明言していないようだが、是非またどこかで氏の作ったゲームを遊んでみたい。
【OP】
説明不要。めちゃめちゃかっこいい。特にイントロのスピード感。現代風の「わるいおんなのこ」というコンセプトもかなり好き。ゲーム中に収録されているのは1番のみだが、サントラ収録のフルも最高に良い。「角砂糖みたいに甘さを残して姿を消してしまえたらいいのに」←この歌詞良すぎてひっくり返った
【ヒトカリ】
シンプルながら奥深くてやりごたえがあった。キャラ毎に近距離/中距離/遠距離と得意な距離がありキャラ交代が自由のため、ほぼ全てのキャラに活躍の場があり、「このタイミングでデバッファーを前に上げてデバフを入れられれば勝ち確、でも敵前衛の攻撃を食らったら落ちる可能性がある」「敵の後衛に高火力がいるので、スピード早いキャラで先手を取り、交代してこちらも後衛を高火力で狙えるキャラを出して先に潰す」みたいな読み合いや戦略が発生するのが面白かった。アリスソフトお得意の賛否両論ある時間制限要素は、今回は一部の章で時間経過で凌辱イベントが発生する以外は無い模様。でも実績狙いで自主的に時間制限付けてプレイした方がスリリングな難易度になって面白い。低レベルでリソース管理に四苦八苦しながらボス戦を突破出来た時の喜びはひとしお。ギリギリで強敵を倒した時の脳汁出る感じを存分に味わえる。MPの概念があり、MPがマイナスになっても攻撃は繰り出せるけど各種ステータスはガクンと下がっていく仕様のため、ダンジョンの奥深くに行く程に厳しい戦いになるゲームバランスがこれに拍車をかけている。実際のところ自分はゆったりレベル上げしてプレイしていた一周目よりも100日以内の速解き狙いをしていた二周目の方が面白く感じた。
【ハルウリ】
ハルウリのジンザイにはルックス・テクニック・メンタルの3つのステータスがあり、ルックスが低いと客を取れない、テクニックが無いと稼げない、メンタルが無いとすぐに潰れてしまう…とそれぞれに役割があるのでバランスよく育てていく必要があり、しかもルックスとメンタルは客を取るたびに下がってしまうので、計画性と戦略性が要求される。工夫してリソース管理を上手く回しつつ、運良く良属性をくれるコキャクを引けて最強のジンザイを作れた時の喜びは代えがたいものがある。
と上記のようにヒトカリパートとハルウリパートはそれぞれ独立したゲームとしては面白いのだが、パート同士があんまり噛み合ってない点は不満だった。ハルウリでお金を稼ぐとヒトカリが有利に進められる、ヒトカリが進むと良い人材が手に入ってハルウリに還元される…という関係だと面白かったのだが、現状あんまりそうはなっていない。ハルウリで稼いだお金は専らハルウリを強化するのに消費されてしまうが、お金をかけてナユタの味方達を強化できる要素があれば良かったのにと思う(武器強化はランダム素材が拾えないと意味が無いし、最終盤にでもならない限り武器強化にそこまでのお金を必要としない)。またヒトカリで手に入るジンザイは序盤から最終盤までステータス的にそこまで変化が無いので、「強くなったおかげで良い女を手に入れたぜ!」という感動がない。個人的にはジンザイの能力はC~S+の10段階評価ではなくもっと細かくスケール分けしたら良かったのではないかと思う。
【世界観】
令和版「大悪司」とも言うべきぶっ飛んだ世界観構築に痺れた。タイトルも「大きな悪を司る」⇔「いっしょにわるいことしよう」で対になっている感。大悪司は日本の敗戦という分かりやすく暗い出来事がバックグラウンドにあって、どちらかというと湿っぽい世界観だったが、ドーナドーナはカラッと乾いて見た目は明るい、しかし一皮めくるとダークなディストピアという世界観。あの大悪司の独特の世界観を令和風にチューニングするとこういう感じになるのかなぁみたいなことを考えながらプレイしていた。
また、登場人物全員、倫理観の無さが凄い。敵役である他のクランや亜総義市の幹部達は言わずもがなとして、味方であるナユタのメンバーも基本行動原理が日々をいかに楽しむか、なので、ハルウリにせよヒトカリにせよ罪悪感を覚えている描写があんまりなし。一応主人公であるクマは大きな目的のために敢えて悪事に手を染めているっぽい描写があり、より大きな悪の打倒のために自分も悪になって良いのか、という葛藤をかつてはしていたようだが…あくまでサブストーリーで語られる程度で、基本的にはガンガン「わるいこと」に手を染めていく。やっていることはほぼテロリストで暴力団である。普通にシナリオを読ませるだけのゲームだとそういう主人公に感情移入するのは中々難しいが、そこでこのゲームがシミュレーション&RPGであることが効いてくる。ハルウリパートをプレイしていると「うーん、この娘はルックスだけは良いけどテクニックはいまいちで稼げないしメンタルも脆いから、ピルなしでハルウリに出して適当に稼げたところで使い捨てるか…」みたいな思考回路になっていくのはプレイヤー側も悪そのもの。プレイヤーの倫理観もゼロになっていき、こんな主人公達のところにまでいつの間にか堕ちてきているという仕掛けが面白かった。また、条件を満たせなかった場合の凌辱展開やバッドエンドがかなりえげつなく(特にポルノの公園凌辱のやつは本当に恐ろしく可哀想だった…普段のポルノが飄々としたキャラだけにあそこまでえげつなく犯されるのはショック)、ある意味では味方の側もちゃんと報いを受けているので、悪とはいえ一方的に嫌な奴にはなっていないというのはあるかもしれない。
【ストーリー】
アリスの館かどこかで語られていたと思うけど、地の文をほぼ抜きにしたのが功を奏していてテンポが良い。序盤は個性的なナユタのメンバーが物語のエンジンをかけ、中盤はトリックスターの終名がアクセルを踏み、終盤はいよいよ満を持して亜総義との対決に至る構成で隙が無い。ただ、未回収の伏線っぽいのがいくつもあったのは不満点か(クマの姉、ジョーカーの抗体、外人の思惑など)。ポルノの過去とリーチとの関係も個別イベントで多少掘り下げてはいるがもうちょっと読みたかったところ。いってんちろく氏の退職挨拶でも「もっとこの世界観を書きたかった」みたいなことを言っていたので、本来ファンディスクや続編で補完されるべきものが語られないで終わってしまったのかなと思う。