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mifuyu_rainさんのランスIX -ヘルマン革命-の長文感想

ユーザー
mifuyu_rain
ゲーム
ランスIX -ヘルマン革命-
ブランド
ALICESOFT
得点
95
参照数
136

一言コメント

パットンの物語、シーラの物語

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ランス3以来、長年の因縁のあるヘルマンの物語。積みあがった設定と伏線にきちんとケジメをつけてくれたアリスソフトスタッフの皆さんに、まずはお疲れ様と言いたい。

【ゲームシステム】
10年前、リアルタイムで着手してはいたのだが、何故かクリアせず放置しており10年ぶりのプレイとなった。10年前に何故放置していたのは謎……。熟練度による強化とかGOLDでの武器強化とかのちまちました要素が性に合わなかったのかも。自分の中ではアリスソフト=TADAさんのゲームなのだが、TADAゲーではあんまりそういう要素ないように思うので。本作はディレクターのぷりんさんの色が強いのかもしれない。今回もそのちまちま要素に最初は面食らいはしたのだが、慣れてくるとこれはこれで面白い。

難易度は、初見で工夫せずに突っ込むとGAMEOVERになるステージもそこそこあるが、頭を使えばクリア出来る程度でちょうど良く感じた。1周目で正史√、2周目は各ヒロイン√&真正史√を×2難易度で回収したが、強くてニューゲーム状態だと×2でも難しすぎず、新鮮な歯ごたえで楽しめた。シーラ√のバレンタイン戦は流石に苦戦したが。アイテムの引きによってかなり難易度が違うようなので自分は良いアイテムテーブルを引いたのかもしれない。ただ、終盤でヒロイン√をやり直す際には出来れば色んなアイテムを試して見たかったので、普通にセーブロードのたびにアイテムの引きが変わる仕組みで良かったのでは?とも思った。

無法者がゲリラ的少数の戦いで国をひっくり返す、というシナリオ上しょうがないところはあるのだが、欲を言えば、敵の大勢力VS味方の全勢力、みたいな決戦ステージをプレイしてみたかったかも。14章の「帝都」がタイトル的にそういう感じなのかなと思ったら、城門の地味な戦いで終わってしまったので…。その後に待ち構える最後の通常戦闘ステージは金持ち強奪という火事場泥棒まがいのシナリオだったし若干の欲求不満感があった。あと、レリューコフやバステトとの戦闘ステージは欲しかった。ストーリーが非常に盛り上がるところなのに凡百のエロゲのごとくテキストで片づけられてしまうのはちょっと。このへんは開発リソースの問題から苦渋の判断の結果な気もするが。

【シナリオ】
ランスのシナリオって主人公の性格を反映してあっちにこっちに寄り道する、脇役・ちょい役・可愛い女の子てんこ盛りなのが特徴だと思っていたが、今作は革命に向けて突き進むシンプルにしてシリアスなシナリオだった。ランス自身に、ヘルマンの国宝を使って氷漬けのシィルを助けるという明確な目的があるので、それがシナリオにも反映されているように思う。真正史√でついにシィルの氷が解けて、らしくもなくどう言葉をかけて良いか分からず緊張するシーンでは不覚にも感動してしまった。ランスに対してここまで「存在の空白」を認識させるの彼女だけだし、やっぱりシリーズのメインヒロインはシィルちゃんなんや…。

そして、もはやゲーム名「パットン」でも良いのでは?と思うくらいに、パットンの物語でもあった。ランス3以来の成長を、プレイヤー側も(自分自身は戦国の時代から入った新参だが)制作者側も、もはや息子を見守るような気持ちで見ているのでは。ランスシリーズのタイトル画面は元々硬派路線が多かった気がするが、今回ついに男二人になってしまって、初見で「いやエロゲなのにタイトル画面男だけかい」とツッコミを入れそうにもなったが、プレイし終わると確かにこれはランスとパットンのゲームだと納得。章切り替えの演出や音楽も硬派であり、全体的に漢々しい演出が作品にマッチしていた。

個人的には最も魅力的だったヒロインがシーラ。皇帝であれど自分の意思を持たない操り人形から、奴隷であれど誇り高さを持った女性へと成長する、シーラの物語としても本作は楽しめた。鬼畜王では根本的な救済のなかった彼女を今作で救済することが出来たのは感激である。それだけに、自分の意思を失って鬼畜王と同じ末路を辿ってしまう薬漬けBADエンドの悲しさは胸に突き刺さる。セーフ√では「自分で考えられない奴は要らん」とランスに言われる、その対比がまたエモかった。ヒロイン周りではついに歴年のヒロインのかなみちゃんや志津香がデレ始めたのは衝撃であり可愛かった。と同時に、ランス10に向けて色んなヒロインとの関係性や伏線を畳みに来ている感もあって少し寂しい。寄り道が少なかったのも、ランス10に出せるキャラが限られているのでもうこれ以上キャラ増やせないという事情もあるのかなと思ったりもする。その一方で新ヒロインのミラクル√は、設定的に好き勝手やれるところを使って好き勝手やっているのが伝わって来て面白かった。執事ランスとか禿げた中年イケオジランスとかスタッフの誰の趣味なのやら……笑

もはや何も支配する対象のなくなった玉座で待ち構える狂気の女帝ミネバが事実上のラスボスという流れは鬼畜王から変えずに踏襲してくれたのは良かった。ただ、濃密だった鬼畜王のシナリオがゲーム一本分に引き延ばされた分、ミネバの存在感と末恐ろしさみたいなものは薄れてしまったかなとも思う。作中でも独特の緊張感・退廃感が漂う鬼畜王のヘルマンシナリオは本当に良かったので、自分の中でハードルが上がっていたのかもしれないが…。過去の亡霊であるMMルーンを別にすれば人類圏のラスボスでもあるのだから、ミネバの過去はもうちょっと掘り下げても良かったのではとも感じた。ヘルマンの将軍勢で言うとアリストテレスの扱いも若干不満。ランス10に出すつもりが無いので安易に殺されてしまった感は否めない。フリークもよく見返すと死亡フラグ立っていたのかもしれないがここで退場することになるとは思わず…いやそれにしてもフリーク抜きでレッドアイ戦どうするんだろう…(はよランス10やれ)

全体的に、パットンの物語、シーラの物語に最高解像度で焦点を当てた分、敵役や脇役は鬼畜王と比べて多少割を食ったかなという印象を受けた(まあエロゲなので美少女の方を優先するのは圧倒的に正しいが。漢々しいヘルマン編なので敵役脇役の魅力を求めていた層も一定以上いるのではないかと推測。とはいえもちろん、中盤の壁として立ちはだかるレリューコフ、最終戦で格好良さを見せたリック、飄々とした中に信頼関係と熱さのあるロレックス&オルオレのバディなど、魅力的な部分もたくさんある)。何だかんだ続きが気になって一気にシナリオを読み切ってしまったので、戦記物、英雄物としての面白さは十二分であった。

【総括】
圧倒的に評判の良い完結編ランス10をやる前に、ストーリー的には消化しておかないとな…くらいのモチベーションで再開したのではあったが、想像以上に楽しめた。また万全に時間が取れる時にでもランス10に取り組んでみたいと思う。

パットンが漢になる物語をしっかりと描き切ったアリスソフトスタッフ(特にぷりん氏)もまた漢であった。