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midriffさんの大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherdの長文感想

ユーザー
midriff
ゲーム
大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherd
ブランド
AUGUST
得点
95
参照数
1156

一言コメント

旧来の萌えエロゲの延長線上にあるひとつの完成型でありながら、同時に萌えフィクションとしての社会的責任を果たして行こうとした、新たな方向性を示す意欲作であった。これは素晴らしい。

長文感想

特にゼロ年代の効率化かつ矮小化された物語の機能、例えば「過去」や「トラウマ」ですべてを駆動するやり方や、セカイ系の「集合的感傷」を用いた表層的な(しかし効率的で効果的な)非コミュ感覚への揺さぶりかけといった、再生産につぐ再生産で今となっては安易になってしまった手法を用いずに、個々の人間の生き生きとした生をもって萌えフィクションを一歩先へと進めようとし、またそれに成功していることは、物語機能の停滞からミクロな萌えを無数に組み合わせて楽しむところへと後退してしまった萌えフィクションが、また現代から近い将来にかけての物語メディアとして復権できる可能性を見せる、素晴らしい作品でした。

生の全肯定のものがたり、これは瀬戸口廉也とかそういう、手練だけれどその分自分の手法に意識的に過ぎて普通の萌えエロゲが書けない人の手口。そんな領域に、直球萌えエロゲが一歩踏み込んだのはとにかくすごい到達だと思う。畸形じみた特殊なカタルシスがなくても、萌えデータベースが無くても、生を描けば物語は作れる、ということを萌えエロゲブランドが証明してくれたことはとてつもない安心でもあります。