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michelseebachさんの暁の護衛 トリニティ コンプリートエディションの長文感想

ユーザー
michelseebach
ゲーム
暁の護衛 トリニティ コンプリートエディション
ブランド
あかべぇそふとすりぃ
得点
89
参照数
1240

一言コメント

魅力的なキャラ達と特異な世界観は素晴らしい名作、しかし熱いバトル作品を期待すれば完全な駄作。どこを重視するかで評価が一変する。三作品セットでの価格ということもあり個人的には満足できたが、他人に胸を張って勧められない問題があるのも事実。よくレビューなどで自分に合うかの確認してからの購入をオススメする

長文感想

この作品を簡潔に表現するならば、被差別階級の主人公と特権階級のヒロインのロミオとジュリエット。
しかし主人公が性格以外は顔・頭脳・肉体と超高スペックなので、
その身分の差に絶望するなどという暗い展開は殆どなく、
明るく笑って楽しめるコメディ作品となっている。


キャラクターの魅力や会話の面白さだけで評価するならば、
誰もが認める名作と呼ばれる作品群に勝るとも劣らない魅力があり90点以上をつけられる。
特にメイドのツキ、友人の尊との会話のクオリティは高く、
この部分だけでもこの作品を読む価値は十分にあると言える。

しかし、物語の後半で個別ルートに入って以降は、
結論を放棄したままで終了することが多く読後の満足感は薄い。
三部作完結編である「罪深き終末論」を全て終えても解決されなかった伏線が多く存在し、
これが作品に対する評価の足を引っ張る。
共通パートで点数を稼いで、個別からエピローグでマイナスになる先行逃げ切り型の作品と言える。

今作もコンプリートエディションを名乗るならば、
メインヒロインである麗華シナリオのエピローグだけでも、
満足のいく分量に加筆されていれば評価を上げられたので残念である。
反面、プリンシパルの休日でコンシューマ版から追加されたという麗華シナリオのクオリティの低さは異常であり、
追加されたCG以外には全く価値がないと断言できる酷い内容であった。
もし現状の制作体制ではこのような出来になってしまうならば、
下手な追加はしない方がまだ良いと言えるので難しい。


この作品には戦闘するシーンが多く存在するにも関わらず、
バトル描写は凄まじく投げやりで戦闘開始と思ったら暗転して終了などということも多数。
この部分を期待してプレイすれば駄作と認定されも仕方がない。

筆者も当初はこういった部分も期待していたので肩透かしを食らったが、
この作品の戦闘とは雰囲気を盛り上げる為の味付けの演出であり、
刑事ドラマの銃撃戦のように細かい考察を加えるのはナンセンスであると認識を持ってからは、
気にせずに楽しめるようになった。
ここを割り切れるかどうかが作品を楽しめるか否かの分水嶺になるだろう。

この作品に熱い戦いの描写を求めるのは、
らんま1/2に本格格闘漫画として格闘技のリアリティを要求するようなものだろう。
そこはあくまでキャラ設定についている補足であると割り切り脳内補完する必要がある。


その他には一部の背景のクオリティが極端に低いという点が上げられる。
主に罪深き終末論で使用される背景は頭が痛くなるような異常な遠近法になっており、
この素人以下の画力で描かれている背景に対しては、
そこまで背景にこだわりのない人間でもマイナスを付けたくなるだろう。


総じて、長所と短所が極端に別れる作品である。
長所の部分が会う人間ならば間違いなく楽しめるだろうし、
逆に短所が気になる人間から見ると辛い内容と言える。

89点という点数をつけたのもこの作品の長所が非常に気に入った為であり、
記載したように、私のようなファンになった人間でも擁護できない点も多々ある。
そんな駄目な部分を期待してプレイしていれば評価はかなり下がるだろう。