【日常】と【非日常】を描いた作品。高級諜報官としての交渉、駆け引きはドラマのように楽しく、同時に《日常と非日常》を二人の主人公が交差しながら生き方を描くお話として渋く素敵な結末でした。同時に主人公たちに寄り添うヒロイン達も魅力的であり面白かったです。私にとっての初めてのねこねこソフトでしたが楽しめました。
『スカーレット』
私にとってのはじめてプレイした『ねこねこソフト』の作品でしたが、とても読みやすく、一気にプレイしてしまえるほど楽しかったです。
〇【日常】と【非日常】を対比させた二人の主人公
その中でも一番印象的であったのが、【日常と非日常】を比較しながら読み進める、高級諜報官として、交渉、駆け引きをこなしていくお話がとても面白くて魅力的でした。
今作では二人主人公がおり、まず普通の学生である《明人》が一人目の主人公でした。
明人にとっての【日常】は、私たちが想う日常と同じで、駆け引き・争いごととは無縁の生活で、そして『何か変わりたい本物と出会いたい』=【非日常】を求めるのが、このお話の始まりです。
沖縄でのしずかとの出会い、嘉手納基地の侵入、しずかのタイミング通りに登場するB-2。
そして1章の最後には、九郎から【日常へ戻るかどうするか】の選択を突きつけられます。その中で第3の選択肢として明人が日常のと非日常の境界線を飛び越え、九郎からベレッタの銃を受け取り、【非日常】の世界へと飛び込んでいくのが、ワクワクさせる1章でした。
同時に二人目の主人公が高級諜報官である《九郎》でした。
明人を1章の最後に【非日常】へと迎え入れた人物でもあります。
そして、九郎にとっては、生まれた時か高級諜報官として国家間よりも強力な権力を持っていたため、明人にとっての【非日常】=九郎にとっての【日常】でした。
そして何よりも魅力的なのが、高級諜報官として活躍する九郎が本当にかっこいいんですよね……!!
1章での『絶対に破られない完璧な暗証番号』を高級諜報官同士の交渉として解決する姿、2章での『南アフリカの国の選挙争い』で裏で暗躍しながら候補者を支援することで国の政治的安定を支援するお話までの、交渉、駆け引きシーンが渋くてかっこいい。
決して戦いシーンだったり派手ではなく、物語中でも『交渉とはすでに勝敗が決した後に行われるものだ』とあるように、スマートに物事が進んでいく所がまた本当に渋くて、とても面白い。
そういう意味では、スカーレットの1章、2章は高級諜報官としての活躍を一つのドラマを見ているかのような面白さがあり、特に最後の『解決、物事の落としどころ』のスマートさが本当に最高に面白かったです。
〇4章【日常と非日常】の終わり
そして今作の最大の魅力が、この【日常】と【非日常】を上手く絡めながら、二人の主人公の生き方を対比させた展開だったと思います。
何よりも上手いなぁと思ったのが、3章の幕間に見せる『非日常』っていう短編があるんですけど、その内容が九郎と美月、アメリアの3人のデート回があるんですよね。彼ら3人にとっての平和な日常は、【非日常】であるということを実感する言葉回しの皮肉さが本当に楽しい。
こうした内容も経て4章の最後では、このお互いにとっての【日常と非日常】の生き方が元に戻っていく渋い終わり方がもうめちゃくちゃ好きなんですよね。
4章では、明人が相手の高級諜報官の罠に嵌められて、相手の高級諜報官に発砲したことで【ルール】を破り、島流しにあったところをまずしずかが一人で明人の元に行き、そして助ける算段がついた後に九郎&美月が助けに行くお話でした。
その中で、しずかが明人と二人で島生活を過ごすことで、二人の両想いが恋人同士になることでかけがえのない存在となり、また九郎は「自分自身、明人のような平和な日常に羨望を抱きつつ」、自分がきっかけで明人をここまで【九郎の日常】に引き寄せてしまったことを責任に思い、明人を助けるのが4章の展開でした。
そして最後に九郎はもう一度明人に【日常か非日常か】どちらかの選択を突きつけます。ただし今回は『しずかとの日常を選ぶか』、『高級諜報官との危険な非日常を選ぶか』の、自分だけではない背景が出来たからこその二択。
3章のしずかの過去のお話(クローニングを経て生まれた子供)が背景にある中、『しずかは本当は平和な日常で過ごすべきだ』と想う二人の主人公は、明人は元の【平和な日常】に戻り、九郎は【高級諜報官としての日常】に戻る。
元々、二人の出会いはイレギュラーだったと感じさせるような最後の元の形に戻る寂寥感を感じさせるような終わり方がもう……ED曲も相まって本当に渋い……。
何よりも最後、二人の生き方が元に戻った後に、明人は九郎&美月の二人に出会いますが、明人が二人に声をかけても九郎&美月は「人間違いじゃないか?」と無視するんですよね。本来あった形のように、互いに交わるべきはないと九郎&美月は分かっているからこそ、明人&しずかに幸せな【日常】を過ごしてほしいからこそ無視をする。
その姿に明人は、寂寥感を抱き二人の元を去ろうとする中での、最後の最後の去り際に
「元気でな……明人……」
と名前と一緒にケーキを渡すのがもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう本当に最高に渋い。
もう交わることがないはずの最後の九郎の言葉。弟と妹に向けた最後の言葉。
もう二人が交わることは今後ないとしても、【今の日常】をお互いに幸せに生きていくのだろうと思わせてくれるような終わり方。
ED曲も相まって、とても静かにスマートに終わるのが本当にこの作品らしくて、最高に良いな……って思える終わり方でした。本当に素敵でした。
〇それぞれの主人公の【日常】に寄り添うヒロイン
そして今作の感想を語る上で外せないのが、ヒロインである『しずかと美月』の二人だったと思います。
特に九郎の隣に十数年も寄り添ってきた、32歳美月さんがね……本当に強い。
彼女も多少普通の日常とは違ったとしても、明人と同じ【平和な日常】側のヒロインでしたが、九郎のことが好きで彼の隣に並びたいからこそ【非日常】側へと飛び込み、隣にい続けることができる想いの強さが本当に魅力的なんですよね。
普通であればあり得ないほどの行動力、想いの深さがあるからこそ、高級諜報官としての九郎の隣にい続けることができる美月さんは最強ヒロインだと思います。
明人&しずかの二人は、最後に【平和な日常】を選んでいきますが、美月は最後のシーンまで九郎と一緒に二人でいる姿を見て、このまま幸せな【高級諜報官としての日常】を過ごしてほしいとも思います。
また、3章のお話の中心であったしずかも明人のヒロインとして重要でした。
彼女は特殊な生い立ちでした。かつてのレオン、エレナ、イリカの3人の物語の中で生まれた《クローニング》されたしずかは、ベットウ性に引き取られることで、最初から高級諜報官の妹としての日常が、彼女にとっての【日常】でした。
こうした中で、明人と出会い4章の最後には、明人とともに【平和な日常】をしずかは過ごすことになるのがしずかの結末。
明人視点から見ると、かつて憧れた【非日常】との別れを想う寂寥を感じさせる終わり方ですが、しずかにとってはハッピーエンドであったと思います。
なぜなら、しずかにとっての【平和な日常】は、かつて特殊な生い立ちであるがゆえに寂しい結末を迎えた、《レオン、エレナ、イリカ》にとっては、しずかが【平和な日常】を過ごしてくれることこそが夢であり、あの丘の上で最後しずかがレオンに語った「私は渡り鳥ではなく普通が良いな」という夢が叶った結末だと思ったからです。
こうしてみると、明人と共に【平和な日常】を過ごすしずかの姿は、3章から繋がる終わり方でもあり、とても幸せな今を過ごすハッピーエンドで素敵だったなと思います。
〇まとめ&駄文
最初にも述べましたが、一気に読み終えるほど面白かったです。
すらすらと読みやすく、登場人物たちの魅力、展開も面白くて、何よりも終わり方が本当に渋い……。
私にとって初めてのねこねこソフトでしたが、「こんなにもねこねこソフトって面白いんか!!」となるくらいには楽しめました。
ここからは駄文になりますが、最後プレイを終えた後に、おまけモードを閲覧したら、ねこねこソフトの他作品のおまけばかりで「な、何一つわからん……」となりました()
また声優コメントを覗いてみると、スカーレットの感想というよりかは、ねこねこソフトへの愛を込めた感想ばかりでした。
というのも、よくよくコメントを聴いてみると、当時のねこねこソフトは、今作の【スカーレット】を最後に休止(という名の解散)をしていたんですね。
その後、3年を経て開発再開をしたようですが、そのことを知らなかった自分は、声優たちのコメントで、『解散してたっけ!?』と動揺しました。
声優たちがねこねこソフト好きでした!愛してます!と溢れていたり、おまけが他のねこねこソフト作品であふれていたのも納得です。
それらも含めて、いかにねこねこソフトがファンから、スタッフ陣から愛されていたのかがわかる要素でもありました。
こういった物も含め、他のねこねこソフトの作品もプレイしてみたいなと思うくらいには楽しめた作品であったと思います。
素敵な作品でした。
ありがとうございました。