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merunoniaさんのカタハネの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
カタハネ
ブランド
Tarte
得点
90
参照数
157

一言コメント

例え長い時間が経とうとも、想いは、記憶は、約束は、『ココ』に一緒にあるんだよと優しく教えてくれる作品でした。何よりもココが可愛くて可愛くて仕方なくて、だからこそ最後の繋がる瞬間が気持ちよく。素敵な物語でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

一つの物語は終わりを告げ、過去から未来へ─
物語は『ココ』から始まる─

『カタハネ』は、現代編である「シロハネ編」が前半に語られ、後半に過去編である『クロハネ編』が語られ、そして最後のココ√で全ての真相が明らかに回収されていくお話でした。
結論から言えば、最後のココ√で全部持ってかれました。
一気にこの最後を読んで好きになりました。
以下は備忘録に感想を書いてきます。


〇ココの可愛さ
まず何といってもココが可愛い。めちゃくちゃに可愛いです。
本当に読んでてずっと楽しかった一番の理由がココの存在と言っても過言じゃないです。
最初の起動したときの『かたは、ねー』のボイスからもうもうもう。
最初に登場した時は、独特の言葉の区切り方から姿から戸惑ったりしたものの、それも少しの間だけ。読み進めたらもう一気に虜になりました。
ココの「おてつ、だーい」、「えへ、へー」、「やたたー」、「ボ~ク、ある、よー」からもう、全部の仕草やお話が全部可愛くて可愛くて。
かくれんぼや遊びが好きなところ、セロや周りのみんなが本当に大好きなんだなって分かる掛け合い。
また周りのセロやワカバ、ライトをはじめ、クロハネ編のアインや姫、エファやデュア等みんなもココに癒される掛け合いは、見ていてこっちも癒される掛け合いでした。
ココの純粋さ、心の優しさがとても癒しで暖かいからこそ、クロハネ編のデュアやアインとのシーン、シロハネ編でのレイン(じーじ)やお墓のシーンがまっすぐに伝えてくるんですよね……。
デュアの話の「──ねぇねぇ、アイン。ボク、どうして、ないてるの?」と不意の涙を流すシーンはとても来るものがあります。
カタハネを読み終えた後でも、ココがぶっちぎりで大好きなキャラです。


〇シロハネ編の旅行を通して語られる物語とクロハネ編を通して語られる歴史

カタハネを読み終えた今、この物語で面白かった所を思い返すと色々な感想があったなと思います。
シンプルに、シロハネ編の『ワカバやセロ、ライト』達による旅行や、セロの前だと大人しくなるワカバの姿とセロの二人の様子は微笑ましい楽しさがありました。
ドタバタ旅行は、ココをはじめみんなの暖かい雰囲気がとても和みます。
今思えば、アインのココへの台詞に『いつか一緒に他の国を見て回ろう』と、他の国を知らないココを誘うシーンがありました。今回のココと共にめぐる旅は、かつてできなかった約束を果たす、『現代』のお話だったのかもしれません。

また、『ベルとアンジェリナ』の二人の物語は、クロハネ編の姫様&エファの二人を思い返しながらも、人形と人間の恋を描くお話としても印象的でした。
人形であるベルにとって、人間は『自分の横に並ぶものではなく通り過ぎる存在』であり、村の小さな子供たちもやがて大人になり自分の元を過ぎ去ってしまう存在。しかしこうした中でも、アンジェリナは『横に並び共に生きる』と旅の思い出と共に愛の告白を劇の最中に伝えるシーンはとても印象的でした。
また、ベルにとっても、自分が『エファなのかベルなのか』と記憶石によって混同する中で、二人の愛を確かめ合うシーンはとても印象的なシーンだったと思います。

また後半(中盤)にあったクロハネ編は、今までの雰囲気と異なり、赤の国と青の国に挟まれた白の国を舞台にしながらも、黒幕の存在に脅かされながらも生き抜くアイン達の物語として楽しかったです。一つの歴史の劇中を見ている楽しさがありました。
特にアインの主人公っぷりと最後の雄姿を見てしまったら、あの背中を見てしまったら、好きになるに決まってます。

しかしこれらを通しても、私の中で、ぶっちぎりに大好きなのは、3週目のココ√。クロハネ編で語られなかった最後のアインの真相が語られながら、現在と過去のお話が全て『ココ』に繋がる瞬間が最高でした。


〇シロハネ(現在)とクロハネ(過去)を繋げる『ココ』の物語

『アーイーンー。ボクー、バイバイして、ない、よー』
まずクロハネ編が唐突に始まった時、最初はこのココの言葉から始まるのがとても印象的でした。
ココがなぜアインと別れの言葉を告げないままのシーンから始まるのか。
それらの最後のアインの姿、全てが繋がる瞬間がもう好きなんですよね。


ココの最後、アインのお墓の前のシーンより。
──────────────────
「こんにちはー」
やっぱり、みんなと同じ。お墓に入るとお話できません。
だから、ボクだけ話します。
「……あのね、ボク、アインとのやくそく、まもりました」
「ヒメサマとエファ、ちゃんとまもりました」
「……ジージとのやくそくも、まもるよ」
「わすれないし、ダレにも、はなしません」
「でもでも、ここにきておはなしするのは、いいよ、ね?」
「……じゃ、みんながまってるから、かえります」
ボクは、お墓の前でお辞儀をしてから帰ります。
……と、その前に。
ふたりに言いそびれちゃった挨拶、しておかないとね。
「アーイーン。……バイ、バイ」
──────────────────
※その後、『Memories are here』(記憶はここに)のEDへ


最初に語られた、アインとの約束。
それは、『姫様を守って欲しい』という約束のことで、それは最後の逃亡時に、ココに託された(逃げる時に持たされた)『ドルンの記憶』とエファの記憶石の事でした。

かつてデュアとアインのどちらもが、ココと約束をした『ヒメをまもってくれ』という約束。
最初はデュアが亡くなる前にココの額にキスをしながら姫様を守るよう約束をし、
そしてアインも、キスをした同じ場所である額にキスをしながら約束を交わしました。

その約束であった二つのうちの一つ、『ドルンの記憶』は先祖がドルン王家の親戚であるワカバに渡ることで守られ。
そしてもう一つのエファの記憶石は、ココからベルに渡されました。
そしてシロハネ編の最後、二つが繋がることで、記憶が蘇り、全てが集まることで約束が果たされたのが、最後の結末になります。

それは、姫様とエファの二人が悲劇の別れがあったクロハネ編から、長い時間を経て、未来へ記憶と想いが受け継がれていくことで、今『ココ』に約束が果たされた結末でもあります。
エファと姫様の二人の心が、全ては記憶とともに『ココ』にあるのだと。
それが、この最後の台詞に集約された、二つの物語が繋がった瞬間でした。

ココのことが可愛くて可愛くて仕方ないからこその、最後のココの言葉が本当にくるものがあります。
ココが記憶を取り戻し、一つ一つゆっくりと語られていく中で、ワカバの台詞に、
「……ココ。あなた、ほんとうに、大変、だったの、ね……」
と涙ぐむシーンがありますが、ココが記憶を失おうとも、どれだけ長い間見守ってきたのか。約束を守るために大事にしてきたのか。
それらが分かるからこそ、最後、ココ、よくここまで見守ってくれたんだねと、愛おしくなります。


そして最後の最後、アインと今度こそ別れ、バイバイを告げる最後。
今までココは、人の死という概念に曖昧でした。
今でもはっきりと理解しているかどうかは分かりません。
それでも、別れを告げることができなかったココが、最後にアインにバイバイと伝えることができた時、全てのクロハネ編での想い、約束が果たされたときだったと思います。
きっとこの先も物語は続いていくのだと思いつつ、クロハネ編の物語がシロハネ編に繋がった、一人の男アインの物語が確かにココに繋がったのだと思う最後の言葉が、何よりも大好きで大好きです。


〇まとめ
カタハネ、自分にとってのこの作品は、
『例えどれだけ時間が過ぎ去っても、忘れ去られても、記憶は、想いは、約束はいつまでも一緒にココにあるよ』と優しく教えてくれる作品でした。
めちゃくちゃに感動して泣きまくる作品ではなくとも、未来に想いを馳せることができる作品と言いますか、優しい気持ちになれる作品だったと思います。

作中でもあったように、例え過去のお話が忘れ去られようとも、全てがココに集まる。

・エファからココへ託された記憶石。
・姫様からココ、そしてワカバの先祖へたどり着いたドルンの記憶。
・エファをよみがえらせてベルを作り出したアイン。
・アンジェリナとベルの恋物語は、姫様とエファの二人の想いに繋がり。
・ココの記憶は、歴史としてセロに伝わっていく。
・かつての歴史は、ワカバによって『劇』として再現される。

こうしたいくつもの『きっかけ』が、現在にも繋がってるんだよと
『ココ』にあるんだよと。
そして同時にシロハネ編で語られた『現代』のセロや、またベル&アンジェリナの二人、みんなもきっとかつてのクロハネ編のように『永遠はなくても、繋がるんだよ』と思わせてくれるような優しい作品だったと思います。

素敵な作品でした。
とても綺麗な、澄んだ水のような物語だったと思います。
楽しかったです。
ありがとうございました。