不器用であり、弱い心を持つ少女の「わがまま」な物語。「鳥羽莉」のための作品でした。OPとのシンクロ、演出は素晴らしかったです。これは雰囲気&キャラゲー(心情を描く)だと思います
※前半はネタバレ薄め
後半はネタバレ全開で書いていこうと思います。
2006年より「130cm」から発売された「彼女たちの流儀」
OPの「Red-reduction division」が有名な本作品、
また主人公が女装ヒロインとして有名な作品ですが、
内容は完全に一人のヒロイン「鳥羽莉」のための作品でした。
最初は女装主人公と姉による背徳の関係がテーマかな?
と思ってましたが、そういう方向性ではなく、
むしろ鳥羽莉にスポットを当て、彼女の葛藤を描いた作品です。
OPの歌詞は彼女をなぞるような内容、ifルートまで完備されている待遇っぷりでして、
実際にプレイしてもストーリーの出来には他ヒロインと大きな格差がありました。
ですので、一人のメインヒロインに焦点を当てたことによる出来ということを
(悪く言えば、他ヒロインは鳥羽莉のための引き立て役)
良いと思うか、悪いと思うか、で評価が分かれる作品だったと思います。
ストレートに言ってしまえば、鳥羽莉以外のルートは、
鳥羽莉のために用意されたものだと言ってしまってもいいと思います。
(涼月ルートなどは独自に描かれて面白かったですが)
私自身は鳥羽莉ルートにはとても満足しています。
鳥羽莉という少女の、わがままで、不器用で、でもまっすぐで。
主人公が好きだからこそ、「演じ続ける」
そんな彼女が出した、「彼女なりの流儀」のお話。
「彼女の弱さ」を魅力的に描き出す物語、特に鳥羽莉ルートの後半からの勢いは
本当に面白かったです。
鳥羽莉役の涼森ちさとさんによる、クールな彼女の表側と、
揺れ動く感情によるせめぎあいや押し殺した嗚咽の演技も素晴らしく。
それに、みやま零先生の薄い塗りといいますか、儚げな特徴的な描かれ方。
それにBGMとの兼ね合いがうまくマッチして、作中に引き込まれました。
以上を踏まえて、このゲームは鳥羽莉ゲー・・と言ってしまえばおしまいですが、
シナリオゲーではなく、
雰囲気&キャラゲー(キャラの心情をうまく描く的な意味で)
だったと思います。
整合性に関して思うと、それを読み手に考えさせる暇を与えず、一気に駆け抜けて
勝ち逃げするような作品。
特に最後の演出はまさにその勢いにうまく乗せた作品でした。
エロゲでは最後がよければ高得点になりやすい(と思ってる)ものが多く感じますが、
今作品もその系統だったと思います。
また、最初はOPのイメージもあって、暗い話かな?とおもったら、けっこう日常は明るかったり。
ギャグも個人的にはけっこう面白かったです。
備考する形になりましたが、なにげにエロシーンもけっこう良かったです。
よく胡太郎(主人公)は姉の双子に襲われますが、
朱音(H大好き天真爛漫系)と鳥羽莉(クール系)
による二人のSのHは、言葉責めだったりで、姉上スキーにはなかなかでした。
胡太郎自身も本当に可愛くて可愛くて、特に着せ替え人形プレイの足コキは
なかなか好きです。
得点は正直悩みました・・。
鳥羽莉ルートだけの、最後だけ満足する余韻の採点なら80点ですが。
やはりそれ込みでも、もう少し他ヒロインの「流儀」をうまく描いて欲しかったので
77点にしました。
それぞれのキャラもけっこう個性的でいい設定だっただけに、丁寧に仕上げて欲しかったなと。
ただ、この作品の狙いでもあったと思う、鳥羽莉という彼女を使った、
人間でない彼女と人間らしい彼女による、不器用さをうまく描いたという方向では
とても完成度の作品であったと思います。
(以下 ネタバレありで各ルート(攻略順)の感想を書いていきます)
・日常(共通)
いや、予想以上に日常が面白かったです。
特に、せせりの好き好きアタックであったり。
合宿での、サラダに対する、貴重な鳥羽莉の胡太郎を気にする様子だったり。
正直もっと暗い話をよそうしていたので、思ったより普通な日常で、予想外でした。
また、時々見せる、胡太郎のシスコンっぷりもけっこう好きです。
演劇で誘いに断ったら、帳に「残念ね」と言われただけで
興味を持ってもらえたという事実が嬉しくなって答えたいと思うようになってしまう。
どんな反応でも、嬉しくなってしまう胡太郎ほんと可愛い。
本作の(可愛さ的な意味で)メインヒロイン。
こんな可愛い子が女の子なわけがない!
・千佐都ルート
彼女にいたってはあまり記憶がない・・・。のが正直な感想。
鳥羽莉との合気道試合で、吸血鬼による力負けをしながらも
胡太郎を勝ち取るというお話。
正直演劇欠席してまで、彼女を選び取る点などの主人公に共感ができませんでした。
鳥羽莉もあっさり引き下がる点がなんだかなぁという感じです。
これで鳥羽莉の存在を引き出す内容かと思えばそうでもなく・・
正直必要性をあまり感じないルートでした。
旧式スク水は評価できry
・せせりルート
こちらも正直フトゥーに終わった感じで。
合宿時にレミューリア役を練習するシーンが魅力的なのに、
その本番が全部カットでは、さすがに手抜きと思われても仕方ないかなと。。
彼女なりの成長が見たかっただけに残念です。
ただ彼女のキャラは私的にはけっこう好みだったので、
日常だったりや積極的で明るいところは好感もてました。
「それってすっごく最高です!」 ってセリフが好きです。
おたふくかぜで恥ずかしがる鳥羽莉がすごい可愛かった。
・涼月ルート
「だけど囚われている。あんたは部長に。鳥羽莉に囚われている。」
人間嫌いの彼女。
彼女自身の受け入れられない心情は、胡太郎に重ねた同族嫌悪でしょうか。
、
詳しくは語られませんでしたが、おそらく兄から強姦され、
「私は、あんた達にとっては綺麗な肉なのよ」
と言う涼月。
生理は彼女にとって悪夢であり、人間であることを望まない彼女。
人形のショーケースの対比もなまなましい雰囲気でした。
だけれど、最後には「ノリコ」として主人公の一部分を受けて、
彼女なりの流儀で主人公と接しようとする形。
「ウサギのことは、世界で3番目に嫌いじゃない」
彼女らしいひねくれた、独特なお話だったと思います。
正直話を理解できたとは思いませんが、雰囲気で言えばなかなか面白かったです。
譲れない部分と向き合って彼女なりの流儀を見せてくれたお話でした。
・朱音ルート
「今時それくらいはフトゥーだよ」
なによりもあさり☆さんの演技がよかったです!
独特の舌足らずの声からの、淫猥な雰囲気だったり、ささやき声にはゾクゾクしました。
あさり☆さんの声は本当に大好きです。
日常ではちょっと天然なキャラでもありますが、
全てを知った上での幼いキャラである彼女には、
自分に正直なキャラでありながらも狡猾なキャラに感じます。
ただ、それでもやはり姉であり、胡太郎も鳥羽莉も大好きな純粋な彼女が大好きです。
「朱音は逆に母親のことが嫌い
母さんも私たちのこと嫌ってたから」
と声のトーンが変わったところは鳥肌がたちました。
こういう使い分けが上手で独特な声を持つ声優さんは貴重だ
とも思い知ったルートでした。
話の内容としては、やはり鳥羽莉の設定を説明するルートではありましたが。
それでも、最後の双子だからこそ、役者が入れ替わる。
からの、主人公だけがそれを見抜くというギミックはベタながらも面白かったです。
「こたろーは私を見つけてくれるんだね。誰でもない、私自身をl
なら私も見つける、鳥羽莉ちゃんの大切な人じゃなくて、あたしにとってのこたろーを!」
・火乃香ルート
巨乳メイド。
キャラ的には好きだけど、あまり印象がないです・・。
鳥羽莉ルートのための吸血鬼が世界にとってはどういう存在かという方向での
説明はありましたが。
彼女自身の話はあまり山場もなく。
それに彼女がどうして胡太郎のことが好きなったのかもよくわからないために、
あまり面白く感じませんでした。
・鳥羽莉ルート
メインヒロイン。
恋する少女の、不器用で純粋で、主人公のことが好きだからこそ、知られるのが怖い。
表面上はクールで表に出さない彼女。
そんな彼女が、実は一番心の弱い乙女だった。
ギャップもあり、心が揺れ動く、とても面白いお話でした。
「なにも・・知らないくせにっ」
「嫌なら!あの時私を拒絶すれば良かったでしょ!!!」
「そうしなかったのは・・・あなたなのよ!!!!」
「彼女たちの流儀」というタイトルでしたが、
鳥羽莉にとっての流儀とは、わがままを押し通すことだったと思います。
胡太郎自身はなにも知らないのに、知ろうとする胡太郎に「関係ない」と突き放し。
傷つけてしまう自分を見られることが怖くて、胡太郎のことが大切で。
知らないまま、知って欲しくないから近づかないでと言い放つ。
だけれど好きで好きでたまらない。
彼女のことを知りたいのに、訳も分からず突き放される胡太郎は
かなりの困惑だったのだろうと思います。
このシーンは、彼女なりの素性が見えて、とても印象的でした。
涼森ちさとさんの迫真な演技も相まって、とても良かったです。
そしてエピローグ後も、
その後も離れては近づいて、また離れてを繰り返す。
彼女の不器用さがとても出ていました。
「メールは毎日のバロメーターになってしまうかもしれない。
もし空く間隔が大きくなっていくことを考えると、
恐怖になってしまってできない」
という1シーンが印象的です。(今ってラインでこういうのありませんよね・・)
胡太郎と連絡を取りたい、好きって言ってもらいたい。
だけれど、今はいいけれど、将来的に、もし言ってもらえなくなってきたら?
飽きられてしまったら?
その事実が怖い。
永遠を嫌う鳥羽莉らしい考え方だったと思います。
「つかの間の価値」に意味を見出そうとする彼女には
吸血鬼という存在は、自分だけでなく相手への不安も相まって
苦痛であったのだと思います。
「少しの間であっても想いを通じ合いたい」
「一瞬が永遠に勝ることがある。その一瞬を大切にして欲しい」
゛逃げられない運命だから せめて優しい夢を見せて…
時間の止まらない永遠に 君と2人生きること
儚いまま壊れていく…すれ違う距離を感じて
いつまでも続く幻影に 私1人生きること
今、私を切り裂いてく 痛みの中に潜む影
弱い自分を隠す為 愛する人を傷つけた…
終わりのない痛み抱いて 進まない時間を彷徨う
失う事を怖れる毎日 叶う事なく続いてく ゛
(Red -Reduction Division- 歌詞より)
吸血鬼という題材を、永遠と一時の価値、
そして不器用な彼女をうまく織り交ぜた、
とても面白い話でした。
正直後半の勢いで一気に持って行かれた感はありますが、
満足感はとても大きいです。
だから、これが私の第三の流儀
「恋する女の子はね 世界で一番わがままなんだよ」
・月の箱庭ルート(鳥羽莉ifルート)
救済ルートでしたね。
ただ、話の内容よりも、鳥羽莉ルートの途中までを、
鳥羽莉視点で物語が見れたことにとても価値がありました。とてもよかったです。
話の構成上、どうしても途中までは彼女の内面を伺うことはできませんでした。
そうした中で彼女視点で描かれたことにより、彼女の不器用さと
純粋さがより知れることができて、より鳥羽莉が好きになれました。
特に、紅茶を胡太郎が持ってきたときの
「胡太郎とふたりっきりになれるのに、嫌なわけないじゃない。」
「本当は特に理由もなく、部屋に来て欲しいのに」(ちょっと違うかも)
といった、デレ鳥羽莉が見れるのは2828して面白かったです。
また、彼女視点による、「着せ替え人形R」のエッチシーンもエロくて素敵でした。
なかなかヒロイン視点によるHシーンは見れないもので、
鳥羽莉のSな内面と、胡太郎の感じてる顔を見た鳥羽莉の心情がよりリアルに出てて、
「どちらも」可愛かったです。
if分岐後は、彼女のわがままによって強引に推し進めたようなお話。
自分自身が嫌っていた永遠である吸血鬼を胡太郎に押し付けて、
わがままを貫き通した終わり方でした。
この終わり方も、これはこれで良かったです。
本編が「一時の幸せ」なら
ifは「永遠の幸せ」でしょうか。
総評
上でも書きましたが、まさに鳥羽莉のための作品でしたね。
エンドロールのセリフとOPのフルが一緒に流れる演出など、
今でもあの時の鳥肌は思い出せます。
元々、OPを知っていて、興味があった作品で買ったものでした。
今思えば、OPの歌詞を見ずに歌えるほど、知っていたおかげで、
あの衝撃を受けることができたのではないかと思います。
またみやま零さんや、あさり☆さん、涼森ちさとさん、など
今では、あまり見かけなくなった声優さんや原画さんが活躍された作品でもありました。
どの方も魅力的なので、また活躍して欲しいと強く思います。
最大瞬間風速がとても強く、持って行かれた作品でした。
面白かったです。
ありがとうございました。
備考
少し関係なくなりますが、改めて、エロゲでの採点方法について考えさせられました。
上でも書きましたが、もしコンプ後の余韻重視でいくなら、今作品は80以上ですし、
全体の出来をみて点数をつけるなら、他ルートの出来からも見ると80ではないなぁ・・
と悩みました。
今更なことですが、こう思うと、人によって採点基準の重きも千差万別であるなぁと思います。
今作品の「彼女たちの流儀」は高評価でありますが、
やはり、低い評価の方も高い評価の方も、他ヒロインの薄さに言及しており、
エロゲへの評価の捉え方の違いを感じたなとおもいました。
(もちろん全ての方がこの2方面だけではありませんが・・・)