『彼女のセイイキ』や『星空のメモリア』を手がけたライター「なかひろ氏」のArt時代の作品。MMOを舞台とした伏線ゲー。前半にネタバレなしで概要、後半に各ルートの感想です。伏線ゲーの難しさを思い知り、同時に『伏線ゲー』と『各ルートに意義を持たせる、徐々に明かす情報の過程』の絶妙さが良かった。MMOと聞いて皆さんはどんな話を思い浮かべるでしょうか? こうして思い浮かべた予想的な展開を覆してくれます。
Art(解散)より2005年に発売された『Heaven’s Cage 』
ジャンルは『仮想世界冒険恋愛ADV』
というのもあって、MMOの世界を舞台としたエロゲになっています。
MMOと聞くと、皆さんはどんな話を思い浮かべるでしょうか。
私はエロゲではありませんが、SAOといった作品を思い浮かべます。
俺TUEEEだったり、ハーレムゲーだったり。スキルバンバン発動だったり。
あらすじの方を見てみると(getchuサイトより)
仮想の世界にログインする―――
この『ヘブンズケージ』の世界では、剣士や魔法使い、シスターや巫女などのファンタジーな人々が暮ら している。
かわいらしいモンスターをぽこぽこたたき、アイテムを拾ってはお金に換え、新しい装備を整えてダンジョンに出かける。
凶暴なモンスターにやられたって、バーチャルだから痛くない。
それがこの世界のルール。
恋愛だって同じ。
仮想の世界では、失恋だって怖くない。
だからみんな活き活きと冒険する。
それがこの、ヘブンズケージの世界―――
となっており、MMOの中で活躍する話なのかな?と思いプレイしました。
(簡潔な概要)
結論から言うと、そう言ったMMOだからこその爽快感といったゲームではありませんでした。
むしろ、伏線ゲーのシナリオゲーです。
現実世界と仮想空間を行き来する中で始まる、現実世界への違和感。
そして始まる仮想空間、ヘブンズケージでの探求ゲーム。
プレイヤーキル警告。
その中で織りなす、各登場人物の思惑。
願い。
『ヘブンズケージの呪い』
ちょっとずれますが、5pbの科学ADVのような面白さがありました。
あまり言うとネタバレになるので控えますが、現実世界と仮想空間、
といったプレイヤー視点を覆してくれる展開はとても面白かったです。
MMOという仮想空間のギミックを上手く調理してくれました。
けっして主人公TUEEではなかったのが嬉しかったです。
伏線も仕組みに関してはしっかり回収してくれるのも良かったです。
こうした世界の中で、ヒロイン達は、どのように願うのか。
それぞれのヒロインは、ヘブンズケージの世界になにを望むのか。
そういった面白さもありました。
時には心に刺さるセリフだったりも会って、輝くことがありました。
一人一人の登場人物の立ち位置をライターがきっちり回すのもよくできています。
(良かった点)
①
特に一番この作品ですごいと思ったのは、「なかひろ氏」による、真相の明かし方です。
普通伏線ゲーってTRUEルートによって、最後一気に回収する圧倒感が面白さだと思います。
それと変わって、この『ヘブンズケージ』では、「各ヒロインのルートごとに
必要な情報を徐々に公開していく」という、伏線ゲーなのが独特だったと思います。
情報を各ルートごとに一定ごとに出していくという感じでしょうか。
ですので、それぞれのルートの主人公が、
真相の受け取り方にもバリエーションが出て面白さがありました。
また、それに伴う、各ヒロインの立ち位置、関係図(敵対関係など)も、
各ルートによって変わるバリエーションの豊富さも、ダレることなかった面白さがあったかなと思います。
伏線ゲーにおけるルートって、どうしても同一な展開になりがちです。
また、TRUEのおまけにヒロインルートがちょろっとあったり
いっそのことTRUEはTRUEで割り切り、ヒロインルートはイチャラブに徹しよう
という手法が多いと思います。
他作品ですと、『あした出逢った少女』だったり、『HHG』だったりは
そう感じました。
やはりヒロインルートごとにに伏線的な意義を持たせることは難しかったのだと思います。
(というのも、そういう風に作られた方が上だという優劣の話ではありませんが)
(というのも、伏線ゲーは一本道に、分岐でヒロインルートという手法のため
比べることがお門違いかもしれませんが)
しかし、この『ヘブンズケージ』では、ヒロインとしての各ルートの意義と、
物語としての伏線ゲーを上手く両立させていました。
これって本当に難しいことだと思います。(文章を書いたことがあまりない人間ですが・・)
各ルートにおいてどこまで情報を公開したか、それに対して登場人物はどのように受け止めるのか
それぞれに矛盾なく展開させることができるのって相当労力がいると思います。
こうした登場人物の役回りをきちっと把握して、
各ルートに違う魅せ方をしてくれるおかげで、各ルートに飽きが来ず、
同時に伏線ゲーとして見せてくれました。
本当にそこはすごかったと思います。
②
もう一つ面白かった点として、各登場人物の視点で繰り広げられる
「マルチサイトシステム」が面白かったなと思います。
ちょっと時系列が把握するのに大変だったのもありましたが、
より各登場人物の思いが交錯する様子が現れて、臨場感が出ました。
(気になる点)
①
ただ、どうしても各ルートに情報制限がされている展開な分、
ご都合主義に感じることもけっこうあります。
また一部ヒロイン(ナオルート)は、動機(伏線の中核)
を語ることなく主人公が好きだったり、過去が語られることがあり
どうしても感情移入がしづらい、説得力が薄いということがありました。
伏線ゲーの宿命でもありますが、そういう面でキャラゲーとしての両立は難しかったかと感じます。
②
またこれは良いことでも悪いことでもありますが。
なかひろ氏の伏線ゲーとしての設定の説明は、抑揚もなくさらりと語られるため見逃しがちです。
説明というよりは、登場人物が気づく、または語る中でさらりと明かされるので
注意深く読む必要がありました。
逆から言えば、いきなり説明口調になったり、世界観を壊すことなく、
真相が明かされていくテキストは面白かったです。
③
もう一つとして、伏線ゲーにありがちではありますが
どうしても最初に世界観がよくわからず、慣れにくい点があります。
頻繁にMMO世界に入るわけではなく、現実世界の話が序盤に多く
MMO的な面白さを期待された方は、序盤は肩透かしを食らうかもと感じます。
ただ、ここを乗り越えたあとの面白さは良かったため、
やはり序盤が難儀だったかと感じます。
Hシーンは処女Hの血が出すぎです。
それ以外はまぁ良かったかなと。
(総論)
以上ネタバレなしで、良かった点、気になった点を挙げました。
各ルートに意義を持たせる独特な伏線ゲーとしてよくできていたと思います。
また、上記では上げてませんでしたが、環境部分も一度読んだ章をスキップなど
2005年作品としては、なかなかに出来ていたかと思います。
隠れた良ゲーとしては面白かったです。
Art時代のなかひろさん作品は初めてでしたが、好きになりました。
また前作とのつながりもちょこちょこあるみたいなので、
ナイーブもやってみたいなと思います。
ありがとうございました。
──以下はネタバレ込みで、一部のルートの感想を──
伏線ゲーのため、未プレイは見ないことを推奨します。
後半は備忘録も兼ねてます。
①奈央ルート
奈央ルートは、妹キャラとしての立ち位置であり。
同時に最初に明かされる伏線ゲーとしてのヒロインでもありました。
彼女は「なぜか」プレイヤーキルをしているヒロインとして
展開されていくキャラでした。(実際はキル=現実世界へ戻る方法)
ただ、どうしてプレイヤーキルをするのか、その真相は明かさない。
でも、主人公たちと一緒にいる。主人公達も奈央を信じる、
という話の展開がちょっと違和感があり、感情移入しづらかったかな
と思います。
その真相を明かさない理由も「どうせ信じてくれるわけがない」の一言
というだけで、説得力が足りなかったかなと思います。
まだ、クリオネのように「過去に信じられなくなる理由があったから」
というように裏付けがあれば、説得力が増したのに惜しかったかなと感じます。
伏線ゲーっていうのはそのヒロインの行動理由が核心部分にあると。
その動機が隠されたまま当事者(ヒロイン)の行動をただ見せつけられて。
そこに納得しづらいから、そのキャラに感情移入しづらいのが伏線ゲーの弱点だなぁと
奈央ルートで感じました。(その分設定による面白さはあるのですが)
伏線ゲーで、かつそのヒロインの隠した行動のままキャラの魅力を伝えられるシナリオを
書ける人って本当にすごいと思います。
シナリオに翻弄される側のヒロインだったり主人公だったりかは、
まだ幾分描きやすいとは思いますが、翻弄する側の当事者だと大変だなぁと感じます。
ただ、奈央ルートの告白のシーン。そこはとても良かったです。
奈央はMMO世界にそばにいたい、守られたいと願った。だから妹になって。
でも守られる立場になって、マコにいに助けられてばかりいる自分が嫌いで。
そうした彼女の主人公と一緒にいたい、でもいられない健気な姿が素敵でした。
初Hシーンも可愛かったです。
同時に、実は序盤の現実世界が実はMMO世界でもあったという前提条件が覆された
のも面白かったです。
ヘブンズケージの呪いとは、仮想世界の月の都ティルスを現実世界と思い込む。
現実と仮想空間の区別がなくなること面白かった。
②彩子ルート
彩子ルートは、彼女の願った世界と、そのMMOの世界で変わりゆく話でありました。
最初はナオキが好きで。私だけの正義のヒーローだと思って。
しかしナオキにとって、姉が全てであって。(2章で話を組み込んでいたのが良かった)
彼女の場合は、最初は主人公ではなく別のキャラが好きというルートですが、
許容範囲です。
そしてナオキに一喝するシーンは印象的です。
>この私を、そこのお姉さんの代わりとしてみようとする
あなたの腐った根性が嫌なのよ!
あなたを肉親として扱いたがっていた私の腐った根性も、
大っきらいなのよ!
両親が嫌いだった!でも本当は好きだった!
その好きって気持ちがあなたに向いた!
その気持ちを恋だって勘違いしていた私の馬鹿さ加減に嫌いを通り越して
呆れてるのよ!!
彩子ルートは彼女の明るさとその裏腹の冷たさのギャップ、
そしてそれを受け入れる主人公と変わろうとする彩子が魅力的に描かれていて好きです。
同時にナオキ&四季のお話としても面白かったです。
もう少し二人を語って欲しかったかなとも思いますが。
(余談ではありますが、ナオキの水恐怖症で、飲み物にすら恐怖するってそれ生きていけないのでは)
彼女のMMO世界への願いは、主人公と奈央とのあたたかい雰囲気で一緒にいたくて。
芹園みやさんが、本当にはまり役でした。
猫耳の話大好きです。
このルートでのヘブンズケージの考え方
願いを叶える『ヘブンズケージ』、鳥が羽休めのような世界というお話は好きでした。
彼女のルートが一番好きです。
③沙緒里ルート
彼女は、タイタニック()で沈んでからnewゲームとして、もう一度繰り返すところからが
始まりでした。
(どうしてまたやり直せるのか不明・・?実は何回もやり直してる?読解不足だったらごめんなさい)
彼女の願いは、MMO世界で仲良し4人組として永遠に生きること。
また、友人たちに自分の存在を刻み付けること。
現実世界では寿命が設定されており、逃避(とは違うかもだけど)としての
MMOという設定が上手に生かされていました。
また繰り返された序盤の現実世界編(月の都ティルス編)の解答編でもありました。
ただ、本当に同じ文章が多かったので、もう少し変化をつけて欲しかったと思いつつ。
あえて原文のままでの捉え方の違いを味あわせたかったのかもしれませんが。
沙緒里は、舞羽(妹)のことを想って体を熱くするとバグを召喚して暴走させていた。
また、学校を無意識に壊したいと思った。憧れであり、憎しみの対象であったから。
こうした設定の中、自覚する前と自覚したあとの微妙な変化を実際に見て取れたのは面白かったです。
図書館襲撃時には、さおりは自覚していなかったが、
視聴覚室と科学室が破壊されていたときにはさおりは自覚していた。
>「さおりは舞羽の後ろに隠れるように
被害に遭った科学室前のひとだかりを静観していた。」
こういった発見は楽しかったなと感じます。
その後の展開はちょっと急だったかなと。
こゆきにとって、好きな人に思いを伝えるために必要な世界で。(おそらく前作)
相補性構築世界仮設のため、
時間が流れる速度が現実とは異なるこの夢の世界は、時間操作のための大きな研究材料
だからこの街を破壊されるわけにはいかないと。
また管理者(=主人公の父)は妻と永遠に暮らすことを野望として。
誰かの夢が必要だったから、妻を死に至らしめた親会社のご息女の夢を借りて(復讐も兼ねて)
ただ、この世界のバグ的存在である沙緒里が邪魔だから消す。
ちょっと追いつくのが必死でした。
その後の沙緒里のシーンは好きです。
>リアルに帰るよ。想い出があるから。
>虚勢だった。
全部が全部虚勢だった。
怖くないわけがない。
でもそれを誠くんに見せたくなかった。
笑っていて欲しかった。
彼女のルートは、きっと前作をやっているとまた感じ方が変わるのかなと思います。
特に最後の終わり方は、薬の「Naive 」が登場した終わり方であり。
ビターエンド感がありました。
終わり方は正直好みじゃないです。
ただ、MMO世界を理想として、現実世界には死しかないとした、
ある意味MMO設定が一番活かせたルートだと思います。
必死な思いが一番出ていたかなと思います。
④舞羽ルート
野球してた。ひたすら野球でした。
面白かったけど。なんか今までが緊張した感じだったから、力が抜けた楽しさというか。
最後の5年間(でしたっけ?)を待ち続けたあとの向日葵の立ち絵は大好きです。
彼女はよく待ちました。
彼女の願いは奈央ルートで明かされていました。
告白する勇気がなくて、でもせめて友達になりたいと。
あの街によって違うキャラクターを演じること。それが願い。
ビバツンデレ。
⑤その他
メルアリアルート。正直あまり覚えてないです・・。ごめんなさい。
自由でありたいからこその方向音痴というスキルだったり。
現実では縛られている中で、MMOという自由な世界を憧れたのが彼女の理想だったでしょうか。
>私は・・・代わりですか?
あなたの大切なヒトの、代わりですか?
あ、いえ。深い意味はないんです。
代わりでも・・それでもいいです。
という膝枕のシーンは印象的。
また、脇役として操さん、登場は少ないけれど良いキャラしてました。
>あなた生きてるんでしょ、まだ生きてるんでしょ。
なら生きることに忙しくなりなさい。
それがいやなら、急いで死んだ方がいいわ。
という言葉には本当に刺さりました。
こういったグサリと刺さるセリフを出してくるのが油断ならない・・。
(総論)
MMO=理想の世界として。
まさに『仮想世界冒険恋愛ADV』でした。
伏線としてのギミックの中で、
それぞれの各登場人物のそれぞれの願い(自由、変化、逃避、一緒にいること)
を上手く両立させて作り上げる作品として面白かったです。
今って、流行りのSAOだったり、MMO世界で俺TUEEだったりが流行りな感じがあると思います。
(昔からそうだったのかもだけど)
そうした中だからこそ、違った方向からの切り口がまた面白かったのかなと思いつつ。
感動するというものや、衝撃的というものでは残らない作品ですが、
ただ、それでも登場人物たちに何か思いを馳せるような感じを残してくれる作品。
本当に独特でした。
ありがとうございました。