『選ぶ』という事は、同時に『選ばない』ということ。二つの恋物語が繋ぐ『選択』の物語。それは『選択』の重みを知り、痛みを知り、後悔を知り、正解(間違い)を知り、未来を得るための物語でした。そして、感情が揺さぶられ、サハナとスイリンの慟哭と笑顔に幾度も胸を締め付けられる物語でした。
えぐかった。まず読み終えて終わった感想がこの一言でした。
ここまで選択を迫られ、考えさせられることになるとは。
まず何よりも、あの選択肢画面の演出が本当に憎い演出でした。
サハナとスイリンをどちらを選ぶのか。
片方を選び幸せにするということは、同時に片方を選ばず、幸せにしないということ。
カーソルを『選ぶ』片方の彼女に当てると、もう片方は『選ばない』と表示される。
それは「お前の選択は、選ぶだけじゃなくて、選ばないことも同時に求められているのだ」と突きつけられる演出がもう本当ににくい。
どちらにもカーソルを当てないでいると、どちらにも『選ばない』と残酷にも表示されるのが、まるで「どちらも選ばないという選択肢は許さない」と言っているかのようにも見え、えぐ上手いなぁ……となりました。
また何がずるいかって、もうこの作品の構図なんですよね。
まず前編、二つの恋物語『彼岸花ノ章』(サハナ)、『睡蓮ノ章』(スイリン)を読むことになりますが、その二つが本当に綺麗な関係性の変化を描いていて、すごい微笑ましくて。
サハナとの関係は、お互いに使命等から『諦観』より始まる物語。お互いをよりよく知ることで、『互いに護りたい』と思える関係になり。流されるだけじゃない、あなたのために生きるのだと、出会いがあったからこそ、前を向くことが出来るようになった物語。
スイリンとの話は、赤の他人だった二人が、優しさに触れて家族になって。そして悲しみに触れたことで、互いに支え合う関係になっていく。独りだけだった悲しみが、二人が出会ったからこそ、支え合い幸せへと変わることが出来るようになった物語。
「あぁどちらも出会うべくして出会ったお似合いの二人だ」と思わせてくれる関係で、
だからこそ「本当にどちらも幸せになって欲しい」と全力で思わせてくれたからこその、後半が本当にえぐい。
このヒロインには、この主人公にしかありえないほどお似合いだ、と描いてくれたからこその反動がえぐくてえぐくて。本当に。
特に自分は後半始まる前「二人とも幸せになってほしいなー、どんな感じで話が関わっていくのかなー(のんき)」しか思っていなくて、その後サハナといた主人公が船から落ちるところで、「( ゚д゚)ハッ!もしかしてそういう話!?嘘だよな?????」って鈍感でぎりぎりまで構図に気付きませんでした。その後の事実が発覚してからのOPの入りがもう。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~やられた~~~~~~~~~~~~~そんな気したけどさ~~~~~~~~~~~~~~~でもそれはさぁ~~~~~~~~~~凪ノ恋~~~~~~~~~~」
って心の中で発狂してました。(その後、発狂から落ち着くためにお風呂にいったん入りました)
完璧かっていうくらいに、ここで心が壊れかけました。
そこからはもう、何度も呻きながら読み進めました。
サハナの笑顔を知っているから。サハナの長年の想いを募らせて慕ってきた想いの深さを知っているから。
主人公はサハナと出会うことで、使命ではない護りたい存在が、自分の存在意義を知ることができたとみてきたから。サハナの、愛する人を探し続けた深い愛情を知っているから。
スイリンの笑顔を知っているから。村で出会い、家族と出会い、そして失い。スイリンの無理をした寂しい笑顔を知っているから。父親から託された想いを知っているから。
スイリンの、歪じゃない、スイリンの心から幸せの笑顔を知っているから。
その想いの深さをより再確認しながらも、ただそれでも逃げることは許されず選ぶしかないのだと、迫られる後半がもう本当に……。本当に辛かった……。
最後のあの選択画面、本当に数分戸惑っていたと思います。
気持ちは、刃物で首を掻き切られたような感覚でした。
その後で語られる、サハナエンドとスイリンエンド、そのどちらもが、最後の本当の幸せな笑顔が印象的です。
サハナ『共に、往きましょう』
サハナ√では、アオイや父親と和解し、国を作り直し、本当の家族の笑顔が伴う終わり方。
特に私は、アオイちゃんが本当に大好きだったので、みんなが幸せな終わり方がすごい嬉しかったです。
子どもとサハナの二人が幸せそうに眠る姿、これからも幸せになるのだと思わせてくれる終わり方でした。
スイリン『やっぱり、カイの匂いだ』
ただそれでも頭によぎるのは、スイリンの涙の姿です。
笑顔のまま泣かなかったスイリンが、涙を流す姿。
カイを抱きしめる姿。その愛しい姿。
記憶を取り戻しても、一緒にいるのだと約束した彼女を『選ばない』とした、スイリンの姿が、本当に辛くて、心が痛くて。
どうして、涙を流す女の子の姿って、とても綺麗で心を打たれるんでしょうね。
スイリン『私と、生きて』
スイリン√では、国を捨て、家を捨て、スイリンと、あの村と、あの家族を選ぶとした終わり方。
スイリンの父親が亡くなり、独りにしないとした約束を守り、シェンファに「おかえり」と伝える姿が、「スイリンを二度と独りにしないで良かった」と思わせてくれる終わり方です。
父親の手紙、シェンファの想い、スイリンの笑顔を知っているからこそ、最後の笑顔が本当に良かったと思わせてくれるお話でした。
サハナ『私を、独りにしないで』
同時に、こちらでもよぎるのは、あの慟哭の姿、サハナの表情でした。
本当に愛しているからこそ、止めたい。今からでもやり直したい。
優しさがあるからこそ、カイの事を殺すことができない。カイはその優しさを無碍にして、切り捨て、別の未来を選ぶ。
サハナの深い愛情を知っているからこその、あの本音の叫びが表情が本当に辛くて。
あのサハナの苦悶の表情が焼き付いてしまう。
改めて感想を書いていて、あぁ~~~~~~~えぐいな~~~~~~~~って思いです。
どちらの終わり方も好きでキライで好きって言いますか。
本当に究極の選択で選ぶなら、スイリンエンドの方が好きです。
スイリンの無理をした笑顔と、本当の笑顔を知っているから、涙を知っているから、だから幸せの笑顔を、もう独りにはならないのだと思わせてくれる終わり方です。
でも、本当の僅差で、サハナの終わり方も好きです。歪な環境から本当の幸せを手に入れることが出来た終わり方が好きです。
いやどっちも幸せになれよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
誤解を恐れずにいうなら、今作品は、好きで嫌いです。手放しには褒められないです。
幸せ至上主義な自分には、幸せなままの気持ちで終わらせてくれない今作が好きで嫌いです。
けれど、感情が、心がそれだけ揺さぶられたのは確かでした。
作品に魅入られたからこその揺さぶりだったと思います。
それだけの魅力が、この作品にありました。
この悶えの感想を書き終えて昇華します。
以上です。
ありがとうございました。