「わたくしは、お姉様の代わりですか?」主人公の過去に、『演劇』という要素が加わることで話に深みが増していく、展開もとても丁寧でとても面白かったです。読了感の余韻が気持ちいい作品でした。
「わたくしは、お姉様の代わりですか?」
※最初からネタバレ全開の備忘録の感想です。
Controlの二人目となる真百合√。
結論から言うと、めっちゃくちゃ良かったです。
『演劇』物による「役に演じる」ことと、主人公の姉を想い続ける過去の要素が常時にハマって、話に深みが増していくのが読んでいて面白かったです。
※以下からはネタバレ全開です。
未プレイの方には致命的なネタバレもありますので、ご注意ください。
最愛の姉「八重ねえ」を亡くした今でも、愛する姉を想い続ける主人公。
こうした「似た自分(真百合)を通して主人公は姉の過去を見ている」と真百合さんは知っていながらも、それでも姉と同じほど自分を愛してくれることが嬉しくて。
八重ねえのような姿を振る舞ったり「姉に囚われ続ける主人公」のその全てを愛しようとする真百合さんの姿がどこか切なくも愛らしくて。
「姉のことが好きだった延長線上に代わりの私を見ていたとしても、それでも私のことを愛してほしい」という想いが愛おしく。
しかし、同時に主人公には『本当の自分を見て欲しい』という想いの切なさも溢れる複雑な胸中。
こうした真百合さんの主人公に対する複雑な胸中を、真百合さんが演じる『イラを想うルクスリア』という配役を通して重なっていく描かれ方がまた本当に上手でした。
イラとルクスリアとリリという三角関係の中、リリという女性を好むイラを何としても自分に振り向かせたいルクスリアが、リリのように振る舞う。
それは、まるで、八重ねえ(リリ)に囚われ続ける主人公(イラ)を、『自分だけを見て欲しい』とする真百合さん(ルクスリア)の姿と重なり、現実の胸中と演劇のお話がより関わり合うことで話が深まっていく面白さが本当に綺麗です。
そして、何といってもこの挙げた二つの要素、現実での『真百合さんと主人公の関係性』と『演劇におけるルクスリアを演じる真百合さん』を掛け合わせた最後に出した、真百合さんの姿(答え)がまた最高に良かったんですよね……。
ルクスリアの最後、ルクスリアの台詞のはずなのに、その配役を通して、主人公に届ける想いの台詞。
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イラが……ようやく、わたしのことを、見てくれた。
あの時、イラの心は確かに、わたしの方を向いていた。
心が、揺れ動いていた……っ。
ようやくここまで、たどり着いた……。
あと少し。あと少し……!
イラ……イラ…………もっと、見て……?
本当のわたしを、もっと、見て……っ!
わたしの想い、届いて……っっ!!
イラの、企みは……きっと、失敗に、終わる……。
……愛して、います。貴男、だけ、を……。
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これは、ルクスリアの想いと真百合さんの想いが重なり合ったからこその台詞。
そして演劇を終えての真百合さんの最後の言葉が最高潮に響く。
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『こんなことで、私が喜ぶと思ってるの!?』
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まるで八重ねえのような姿で届ける、真百合さんの最後の言葉。
八重ねえへの想いの果て、元凶である宮田に復讐を果たそうとする計画が破綻した後に放たれた言葉でした。
それは『八重ねえ』を演じ、そして現実と重なるように『ルクスリア』を演じた中でも、それでも『自分を見て欲しい』とも想う真百合さんだからこその言葉。まさに『演じてきた』からこその言葉。
主人公を刺すようなこの言葉が、本当に最高でした。
こうして八重ねえの想いから一つの決着がついて、本当の意味で真百合さんのことを愛することが出来るようになったエピローグのテキストがまた良いんですよね。
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やっぱり俺は、大切な女性に心配をさせるダメな男で。
いつまで経っても成長しない、ただのガキだ。
それでも、一つだけ変わりつつあるのは。
八重ねえ、ごめん。俺……。
いま目の前にいるこの女性を
一番に愛しても、いいかな?
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八重ねえへの想いをいつまでも抱いてて、どうしようもない気持ちもあって。
ただそれでも、一つの形として、真百合さんのことを愛したいとするこの終わり方がね~~~~~~~~も~~~~~~~~本当に好き。良い。
こうした姉に想いを抱き続ける姿すらも愛してくれる真百合さんといい、何だろう、主人公のダメ男さ加減(暴言)もありながらも、それすらも愛されてしまうんだろうなぁ感がめちゃくちゃこの最後のエピローグに詰まってて良いですよね。
こう書いていて思うんですけど、ここら辺の関係性や胸中、大学生主人公というのも相まって、本当にホワルバ2を思い出します。(他作品ごめんなさい)
三角関係の要素であったり、他の人への想いに引きずられながらも、そんな姿も愛おしく。でも同時に自分を見て欲しいという想い。それらがぐるぐるとめぐりながらも、それでも愛し合うような関係性の描かれ方が本当に魅力的だと感じる√です。
そして最後まで読んだからこそ分かる、真百合さん編の曲の歌詞がまた響くんですよね……。
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手を伸ばし抱きしめてほしいのあなたに
仮初めの恋に 咲いた歪な花
あなたの中で私は代わりなんでしょう
光は闇の底で 生まれを待つの
たとえそれが過去の影だったとしても
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またEDではOPと違う(2番でしょうか)の歌詞もまた良くて。
最後の終わり方が本当にオシャレで読了感がとても良かったです。
まるで一つの演劇が終わったかのような読了感でした。
以上が真百合さん編の感想でした。
感想書いてて改めて面白かったなと思います。
ヒロイン的にも、ご婦人なお嬢様キャラのようでありながらも、嫉妬する姿だったり、主人公にいたずらをする姿のギャップの可愛らしい所があったり。
特に主人公が運転してるときの
「運転、お上手ですわね。……ご婦人の扱いと同じで」
というセリフは、すごい茶目っ気で笑いました。
また話への感想は既に述べた通りですが、より主人公自身の過去に絡んでいた分、話に深みが出ていたのが良かったですよね。
せっちゃん√はヒロインの可愛さはとても良かった分、どうしても主人公の過去はあまり触れることがなかったので、どうしても可愛さの表部分だけで終わってしまう所がありました。そこに比べ、真百合さんはより踏み込んだ話なのがとても良かったです。
(√の構成上仕方ない部分もありますが……)
あとせっちゃん√を一度読んで、演劇のおおまかな流れ、登場人物達が把握できたことで、より真百合さん役のルクスリアやリリ、イラの関係性が把握できたのも上手だったと思います。
逆に、ここまで真百合さんのお話で主人公の過去を綺麗に描いている分、残りの夏美√ではどのような描かれ方がされるのだろう……と楽しみです。
ヒロインの好み的には夏美さんが一番好きなので、楽しみです。
楽しみに待ってます。
以上です。
ありがとうございました。
以下は、次回夏美編の備忘録用に、
上で書ききれなかった真百合さん編の好きだったシーン集。
①真百合編序盤、ルクスリアの想いが分からなくなるシーンより。
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どれほど愛しても、どれほど尽くしても……。
身体は流されて受け入れても、心は決して受け入れてくれない、他に一番の想い人がいるイラに……。
それでもなお尽くそうとするルクスリアの想いが、分からなくなってしまったのです。
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……そうしたわたくしへの想いは、正志さんのお姉さまにも、同じように抱いていらっしゃったのでは、ありませんか?
わたしくは……お姉様の、代わりですか?
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……でも、正志、さんは……
それほどまでに、お姉さまのことを、深く、愛して……
そして、お姉さまと同じくらい、わたくしを……
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私は姉の代わりですか?というセリフで、この√にぴしゃりと、何といいますか気持ちが入った瞬間でした。とても印象的です。
またその後の、自分(真百合さん)が主人公から姉の代わりに見られたとされつつも、『姉が主人公のことを本当に愛していた』と知っていたからこそ、その姿に重ねられることが複雑にも嬉しい気持ちになるこの真百合さんの可愛さよ……。
②悩めるルクスリアという配役に対する一つの答え
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「……ですが、そんな疑問の数々にも、つい先ほど、答えがでました。」
わたくしからの質問に対する、正志さんのお答えで、わたくしが考えたことへの裏付けも、取ることができました。
わたくしも……正志さんを、愛しています。
お姉様を一番に愛していることも含めて……全部。
ですが、わたくしにも……つい最近気づいたのですが、自分にはないものを持つ他の方を妬む気持ちが、あります。
本当に浅ましい、醜いことと、自己嫌悪に陥りますが……。
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……わたくしに、教えてくださいませ。貴男の……他に想い人がいる方の、一番になるために必要なこと、全部。
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ルクスリアという立ち位置と自分の境遇が重なることで、自分の想いに一つの答えが出た時の真百合さんのシーン。
真百合さんの正直な想いを打ち明けつつ、それでも愛していますとするシーンでとても好きなシーンの一つです。
③八重ねえのお墓参りのシーンより。
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正志さんがご自分を許せなくとも、世界中の誰もが許さなくとも、わたくしだけは、赦しますから……っ。
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姉を追い求め続ける姿、その全てすらも赦して愛しましょうとする姿。
こういうヒロイン像のなんていう負のスパイラル(だがそれが良いんですよね……)※誉め言葉のつもりです。
④真百合さんが八重ねえのように演じることになったシーン
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正志
「いや……こんな風な接し方で、本当にいいのかなって」
真百合
「なんで?いいに決まってるじゃない。私が頼んだんだし」
正志
「でも……」
真百合
「いいの」
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店長
「なあ、岩永さん。
愛しい溝口のためにやってんのかもしんねえけど、ほどほどにしときな」
真百合
「むっ……」
店長
「でないと自分に戻れなくなるぞ。
……本当のお前さんは誰なんだい?それを忘れるな」
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この言葉によって素に戻る真百合さん。
何気に、真百合さん√の店長って、結構なMVPですよねって思います。
④リリのように振る舞おうとするルクスリアの可能性に気付いた真百合さんより
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わたし、イラのためなら、何だってしてあげられるわ。
……それに、どんな女にだって、なってみせるわ。
(だから、俺のために、何でもしてくれた。……どんな女性にも、なってくれた。)
…………愛しています、イラ。
ずっと、貴男だけを見ています。……これまでも、これからも。
ですから……イラも、わたくしだけを、見てください。
わたくしと二人で、この屋敷を出て……二人だけで、ずっと生きていきましょう?
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まるで、リリのように振る舞う姿から出た台詞。
このシーン後、イラは「リリのように振る舞う姿は見たくない!」と突き放す流れですが、そのセリフを主人公はいうことが出来ずに叫んでしまうシーンがまた好きです。
ルクスリアがイラを惹かせようとリリのように振る舞う姿が、真百合さんが主人公を慰めようとするために(同時に惹かせようとする想いもあるでしょうが)八重ねえのように振る舞う姿と重なり、自分のためにしてくれた姿を、自分が「やめてくれ!」と引き離すことができるわけがない。
こうした複雑な胸中が浮き出たこのシーンがすごい印象的で好きです。
⑤最後の真百合さんとルクスリアの想いが重なる最後のシーン
ここは、上記感想で述べた通りなので割愛。
真百合さん編は印象的なシーンがとても多いですね……本当に。
以上、備忘録シーン集でした。