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merunoniaさんのサクヤはパスタが食べたかったのにの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
サクヤはパスタが食べたかったのに
ブランド
3 on 10
得点
77
参照数
90

一言コメント

《パスタが食べたかったのに》というタイトル、全てを読んでから分かる、心に染み渡るような物語が、サークルさんの作品らしくて好きでした。軽快な会話が小気味よく、パスタが食べたくなりました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※情報登録「非18禁」にしちゃいました……。すみません。修正依頼してあります。

《サクヤはパスタが食べたかったのに》
たぶん全エンド回収した(?)と思うので感想……。
(取り逃しないと良いけど……)

3on10さん15周年の記念作品ということで、今回も3on10さんらしい作品だったと思います。

私が思う3on10さんの一番の特徴は、はやり登場人物達の独特の掛け合いのはっちゃけ具合。今回の登場人物、サクヤとクララ二人の軽快なやり取りは、過去作品に比べるとはっちゃけ度は控えめなものの、大好きなクララとパスタを食べたいと奮闘する姿と、自分が一番超絶可愛い美少女だと自覚するクララのサクヤをあしらうやり取り等は、「あぁ3on10さんらしいなぁ」というやり取りで面白かったです。

またBGMもとても欧州(?)感満載なのも結構お気に入りだったり。
軽快なBGMが、二人の会話をより引き立てるのが、今回もすごい良かったです。

その他、クララ役で演じていた亜久城皐月さんがすごい良かったですね。
亜久城皐月さんと言えば、『世界一、受けたい虚◯を。』の渡会綾瀬さん役で、あのあやややと慌てはっちゃける姿がすっごい好きだったんですが、かえって今作の気高い美少女キャラというのもお似合いでした。

最後までプレイすれば『サクヤはパスタが(クララと)食べたかったのに』というタイトルの意味合いが変わってくる構成もらしくて面白かったですね。

あとパスタの精可愛かった……。

※以下からは内容含めてネタバレあり








またもう一つの3on10さんらしい、表エンドと裏エンドの、周回するからこそこの作品の全貌が分かる仕組みも、このサークルさんならではでした。

〇表エンド
表エンドでは、クララの事が大好きなサクヤが、クララと一緒にパスタを食べたいがために奮闘するお話。
「スパゲティが最後まで単語として喋れない」サクヤと、「パスタをスパゲッティと呼ぶ、スパゲティしか許さない、かつ乳製品を自分の目の前で食べる事を許さない」とするクララの独特な設定の二人の掛け合いがとても小気味よくて面白かったです。
また、サクヤがクララのことを大好きで猛烈にアタックするのに対して、クララが満更でもなさそうにしながらもあしらう会話とかもすごい楽しいんですよね。
例えば、
──────────────────
クララ
「じゃあ熱心なファンのひとは、推しに『キミは迷惑だから死んで』って言われたらどうするの?」
サクヤ
「僕の推しはそんなこと言わない!」
クララ
「厄介ファンが湧いてるわね」
サクヤ
「だって僕の推しのクーちゃんは、すっごく優しくってとってもかわいいんだぞ!」
──────────────────
みたいなちょっとしたやり取りも、3on10さんらしさが溢れていて、面白かったです。その他にも、ストーカーのやり取りだったり、パスタ開発のパスタの精だったり小気味いい日常シーンがいくつもありました。
同時に(裏エンドに繋がる)輸入と輸出の政治的な話、不穏な気配を同時並行に進める辺りも、このサークルさんらしさ。結構この政治パートも真面目で面白いのが、らしいですよね。

こうした日常シーンを経ての表エンドも、クララの事が理解できるようになる終わり方でした。
なぜ、クララがそれまでにスパゲッティにこだわるのか。
それは、赤いトマトソースのスパゲッティが、今はいない大好きだった母親との大切な思い出だったから。
けれど、サクヤが用意した白いトマトソースのスパゲッティ。
それはクララが最初「パスタ」だと思い込んだもので、でもそれでもこれは確かに『スパゲッティ』だったと。
クララ自身にとって、スパゲッティはそこまでこだわりや思い入れ等があるものではなくて、それに気づかせてくれたのがサクヤが用意した『特別な白いスパゲッティ』。そんなサクヤが、クララにとって『特別な存在』になったのだとする終わり方が好きでした。
クララが『クララ自身もパスタを食べる』ことがサクヤの望みだと思い込んでいたら、サクヤ自身は、クララではなくサクヤ自身がクララの目の前でパスタを食べるだけで良いというお互いの誤解だったり。
クララがサクヤのことを、『キープくん』とする終わり方が、より二人の関係らしくてとても良かったですね。
独特の特別な関係を思わせてくれるような終わり方で良かったです。


〇裏エンド
と、このままですんなり終わらないのが3on10さんの作品ならではでございまして。
《最終章》。始める時に、二回警告がされるという時点で、ちょっと嫌な気配がしてくるわけですが。
やはりこうなってしまったかという戦争の始まりでした。
またこの裏エンドにあたって、共通√で語られた『パスタがグラノ語』で『スパゲッティがデュラム語(クララの母の国の言葉)』という設定が、ここで活きてくるのが上手だなぁって思います。
表エンドで語られた、「なぜクララにとって、スパゲッティという言葉が大切な物か」が、母親との大切な思い出(単語)だからという過程を踏まえて、その『スパゲッティ』という言葉が、戦争によって弾圧で使えなくなる、というのがとてもこう皮肉が効いてました。
パンケーキにホットケーキ等、似たような単語を、国による発祥の単語の違いという面を持たして、物語に生かすのが面白いなぁとなりました。

一見すれば、作品を読み始めた最初は『パスタとスパゲッティの譲れない言い合い』ぐらいに感じていた単語のやり取りが、ここにきて《単語を使うことすら許されない》=《クララにとっての大切な思い出を抱くことすら許されない》という出来事を表すようになるのが。ここまで読んで重みを増すのが、サークルさんらしくて面白い仕組みでした。

その後の展開は、クララと再会した喜びもつかの間、パパを救出しようとするも、パパは亡くなってしまい、大切な家畜や家なども無残に壊されてしまう状況。
クララ自身は、自分が父親の代わりになれば良かったのだと、そんな自分が犯されるべきだったのだとサクヤ自身に縋る姿はとても悲痛。
サクヤはそれでもクララのためになるのならと、クララを愛しているからこそつなぎ留めたいとするその姿は、無力さがにじみ出るものでした。

ただその後のエピローグは、(解釈が色々できそうですが)二人が互いに色違いの『パスタとスパゲッティ』の両方を食べているという終わり方が洒落でした。
最初に始まった『サクヤはパスタが(クララと)食べたかったのに』から始まる物語が、パスタとスパゲッティを一緒になって食べられるようになったという意味合いが、どれだけ大きい物だろうか。
ここまで読んだからこそ分かる、タイトルの大きな意味合いが変わるこの感覚がとても好きです。


〇まとめ
久しぶりの3on10さんの作品でしたが、サークルさんらしい言い回しに、物語の構成や皮肉が効いていて面白かったです。
何気に、最初の注意事項だったり、既読部分のスキップであらすじがあったり、口パク要素であったり、『3on10』さんクオリティがとても効いておりました。
今回もとても面白かったです。
ありがとうございました。