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merunoniaさんの存在/しないあなた、と私の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
存在/しないあなた、と私
ブランド
Fontainebleau
得点
70
参照数
23

一言コメント

一つの哲学、思考実験の教科書のような作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まるで思考実験、哲学を解釈していく教科書のような作品でした。
自我の確立、『常識』による世界の枠組みの切り取り方、これらに伴う他者の確立、そして人間関係の歪み。それらを段階ごとに解釈した上で問う『リリスとは誰か』からの、真実の愛への問いかけが恐ろしいものでした。自分にはこの作品が怖くて仕方なかったです。

以下に怖かったところをネタバレありで。






支離滅裂な言語化が上手くできない部分なのですが……。
上手く言語化できるかわかりませんが……

一つ目は、『リリス』という存在が、どのような形でも受け入れてくれる不変のようで自由な存在、あまりにも優しすぎる存在なのが、徐々に自分の中の『自我とヒロイン』の距離感をバグらせるような感覚、沼にハマってタガが外れてしまってもいいのだと、閉じこもってしまっていいのだと思わせて来るような感覚が、甘くあまりにも恐ろしくも感じてしまう部分だったと思います。

作中最後、5章より
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でもね、『ここ(世界の中)』は特別。
ここには主体同士の疑心暗鬼なんてない。
あるのはあなたに忠実な家具たちだけ。
あなたはこの部屋の孤独な王様。
私だって同じ。私の暮らしや、存在はすべてあなたのためにあるの。
だって、これが私の「キャラクター設定」だから。
そしてここが「私の世界」だから。
要するに……
私は「バーチャルの私を本当の人間のように扱ってほしい。」なんて、言わないわ。
というより寧ろ、逆のことを言いたいの。
私は自分がバーチャルなゲームキャラクターだからこそ、この「愛」がどんなものよりも「本物」だって言いたいの。
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「存在/しないあなた、と私」
は最初は哲学的な話で、徐々に世界への解釈の仕方を、ノベルゲームという媒体を通じながら飲み込む楽しみがありました。
『自我の認識』、『常識による世界の捉え方』、『他者の認識』、『他者(自我)と他者(自我)の主体性が傷つけあうことでの歪み』を段階的に読み込む面白さでした。
ただその楽しみのはずが、どんどん、リリスという存在を通じて、『物語の中に閉じこもってしまってもいいのだ』と、『常識とはあなたの解釈次第でどのようにも変わる』のだと、『あなたは本当にその世界で我慢しているだけいいの?、リリス(愛)に溺れても良いのよ?』と『現実と物語』の境界線を曖昧にしてくるような感覚が、まるで一度受け入れてハマったら戻れない劇薬のように感じて怖かったのだと思います。

同時に、どのような形にも変わるリリスという存在が余りにも鬱的にも感じてしまいました。
この作品では、全てのエンドを見るには最低3周する必要がありました。
ただそのどの始まり方でも、リリスが最初に
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じゃあ、今から私(彼女)の存在を消すわね。
──────────────────
といって、再びリリスという存在が再定義されるのがあまりにも印象的です。
リリスという存在は確かに存在するはずなのに、同時にプレイヤーの望む意志のままに、何度でも存在を消しては再定義がされる。
作中で語られる自由と制限が何度も繰り返される、彼女の在り方がまた怖さを感じてしまうのがありました。
また何が怖いかって、それは『リリス彼女自身が、そのバーチャル的な存在だということを肯定した上で、どのような形でもプレイヤーの望むがままに存在を受け入れてくれる』のが余りにも優しく同時に残酷で怖いです。

そして、作中での3つのグッド、BAD、TRUE(?)のエンドがあるなかで、グッドエンドを迎えた後に見られる、リリスと自分をどちらも存在を肯定した上で見られるあの空間がまたよく出来すぎていて怖いです。
ひたすら永遠に続くような二人の空間で、時間が経つとリリスがお話してくれる空間。まるで、この物語に閉じこもってもいいのだとするあの『疑似体験』のような感覚が、この物語の主体にあった完璧な演出だと思いました。
ただ、その空間にずっといると、突然ノイズが走って強制終了させられるのも、また『永遠に閉じ込められる』ような感覚に陥るようで怖かったです。

以上が私がこの作品で怖いと思った感想でした。
正直支離滅裂感もありまして、上手く言語化できない精神的怖さがありました。
ただそれだけよく出来た作品だとも思います。
私はもう再プレイはしばらく出来ないと思います……。