寂しさの中で少しの優しさを教えてくれるような、心地よい雰囲気を与えてくれる作品でした。あなたの世界はそこだけじゃないよと、思春期の心の奥底に眠る感情を優しくほどいてくれるような作品でもあったと思います。ミュージックビデオが素敵でした。
同サークル作品の『ナツノカナタ』と同様、淡い世界観の中、寂しくもどこか暖かいような優しさを味わえるような作品であったと思います。
作中では、月の砂漠、コーヒー屋、草原と様々な世界に立ち会いながら、それぞれの雰囲気を味わいました。
そのどれもが、どこか寂しい諦観のようなものがありながらも、ただそのままの姿で良いんだよと教えてくれるような話だったと思います。
マドベとの会話は、同じ世界で一緒にいられない寂しさと同時に、『その世界とそれ以外』ではなくて『様々な世界』で生きるものなのだと優しく諭してくれました。
喫茶店では、出会いと別れ、思い出は将来的には自分を縛ったり、厄介なものになるかもしれないと同時に、それでもそんなこともあったのだと思い返すものにもなるのだと教えてくれました。
原っぱと小屋では、変わることが怖いそれでも変わっていってしまう寂しさと同時に、それでも変わりたくないと願うことは悪くないことだと優しく教えてくれるお話だったと思います。
それぞれの世界の中で、寂寥感とじわりとした優しさを味わえるのがとても好きでした。
この作品を終えて感じたことは、思春期時代の心の奥底にありそうな、苦々しい感情を、優しくほどいてくれるような作品だったと感じます。
作中の昼の世界では、かつての幼馴染と久しぶりに邂逅しても、どこか話が弾まない。
他の世界のマドベとの会話の方がどこか居心地がいいと感じてしまう。
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彼女と話していてこんな苦しい思いをしたことはなかった。
マドベに突拍子もないことを言われても、ヨミチはなんでもなく返事ができる。
彼女の方が、ずっと違う世界にいるはずなのに。
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作中のかつての幼馴染との会話は、他の世界が語られるなかで一番現実的なシーンでした。
こうした現実的な部分を描き、かつ他世界への複雑な心境を描きながらも、後半ではそれぞれの世界を描く中で、『私はこの世界それぞれに寂しさがありつつも、それらも含めて好きになって良いのだ、そういうものなのだ』と優しく描いてくれたのが、私にとっての『ムーンレスムーン』という作品でした。
以上です。
ありがとうございました。