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merunoniaさんのIt was a human.の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
It was a human.
ブランド
Loser/s
得点
77
参照数
203

一言コメント

あまりにも内省的な作品はとても劇薬だった。脳裏にあるような目を背けていたモノを直視させられた。濃縮したナニカをもう見たくないと思った。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

同サークルさんの作品は、よくSNS等で見かけてはいたけれどノータッチです。
なので、最後の方に『奇跡論のエッダ』という言葉があったり、元ネタが色々あるかもだけど、全く拾えてません。

今作品については前情報は全くない状態でした。
強いていうなら、SNSで流れてきた情報から、クトゥルフ神話で出てきそうな狂気さを含む少女を尋問することで、事件の真相を理解するのか、もしくは彼女のことを理解するお話なのかなぐらいの予想。

まさかここまで、内省的な、こう見たくない部分を直視させられるような話だとは思わなかった。
最初は彼女のことを、この世界のことを理解するために文字列を読み解こうとした。途中から「もしかして、主人公はメタ的な『自分(プレイヤー)』でもあり、彼女も主人公も(略)」と気づいた辺りから、もうきつかった。少しでも共感すると引きずり込まれそうだとも思います。。
あえてスルーしてきたような、囁き続ける心の奥底にあるどろどろしたナニカを、あえて形にしてくるような醜悪さまで感じられる。
たぶん、刺さる人には刺さる系の特有のあれ。



以下はネタバレ全開で

このゲーム、一応エンドに分岐があるわけですけど、正解√以外は全て強制終了させられるんですよね。
最初はビビったんですけど、その中でも一番好きなのが彼女も自分自身も『幸せな結末』を選んだパターン。(最初これを選びました)
どれだけ彼女自身が醜い存在だったとしても、主人公と彼女が幸せになるだろうという終わり方。結末。
『いいわけないだろいいわけないだろいいわけないだろいいわけないだろ』
今思えば許すわけがない。そりゃそうだろうなという。
自分の心の奥底に眠る醜悪な部分が幸せになるような話を選ぶわけがない。
だからこその終わり方がとても好き。

TRUEエンドは、この世界の秘密を暴くこと。
主人公も彼女も同一の存在。
彼女自身は『罪、弱さ、惨めさ』
主人公は『決意、決断、意思決定』
主人公はプレイヤー自身でもあり、全てを決めてきた彼女と自分は同一の存在。
彼女自身を理解しようとする構図が、いつの間にか、主人公(プレイヤー)自身の心の奥底に眠る『罪や弱さ』の部分を直視させられるような構図にすり替わっているように思えたのは考えすぎでしょうか。

そして始まる最後の決闘。主人公と彼女の決闘。
それは心の中の決闘。罪や弱さという優しさに溺れて終えるか、彼女(弱さ)を乗り越えることが出来るかのお話。
それは痛みを伴う、一番大事な物を代償にするからこそ乗り越えられるものだと作中では語られました。
主人公(彼女)にとって一番大事な物は『左手の薬指』。
持病で亡くした彼(夫)を愛した証明の指でしょうか。

そして最後には『人間はどんな絶望でも『夢と希望』に手を伸ばし続けることができる【化け物】』であるとも表現されました。
心の奥底には、彼女のような『罪、弱さ、惨めさ』を内包しながらも、同時に『夢や希望』にも手を伸ばすことができる、矛盾めいた不可解な存在なのが人間であると語られたようにも思えます。


このゲームで一番印象的な台詞は何と問われたとき、自分は最後の彼女の言葉。
『自分を騙してなあなあにして、なんとなく折り合いをつけるのじゃダメだったのか』
なんとなく心の奥底に眠るこの【醜悪な部分】を見なかったふりをして、折り合いをつけて生きても良かったのではないかと。
まさに自分自身が無意識に思っていたことだったので、この言葉を作中に問われたことが、まさに一番衝撃だったのです。
けれど、作品中の主人公達は、それを見なかったことにするのはできなかったのだなというのがこの物語なんだなとも思います。
彼女(罪、弱さ、惨めさ)という存在は、心の奥底で忌避するものでありながら、同時に見えない所で隣にいる存在であり、同時に自分を作り上げる存在でもあり。
作中にも何度も出てくる【汚い部屋=誇り】と表現する言葉も、存在の一部として受け入れられる存在になっているのだなぁとも思ったりするわけです。

はっきり言えば、私はこの作品が苦手です。
が、しかしながら、何となく言語化がされていないナニカを、形として描かれそして認識させられたことは、素直に面白かったなという感情もあります。
こういう体験はなかなか出来ないモノでもあるので、やって良かったとも思う、不思議な作品でありました。
以上です。
ありがとうございました。


以下は余談。
某ルフィの像、調べたら本当にあって笑ってしまった。
確かにイチョウ並木にいきなり出てきたら笑ってしまいそう。

AI絵が多くつくられてるなぁというのがすごい分かりやすいですが、自分は特にAI絵については何の意見もないので、これはこれで良かったと思います。
むしろ今作品の『願いが叶えられてしまった世界』を、あえて人の手が及ばないような無機質さに描くには、ピッタリだったとも思います。