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merunoniaさんの蛟の巫女の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
蛟の巫女
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
75
参照数
798

一言コメント

見知らぬ君との『再会』から始まる、1000年の時を超えた「執念と執着」が連なる物語。いわゆる孤島の伝奇物。序盤から散りばめられた謎が、話を進めていく事に繋がっていく面白さが良かったです。終盤が、少々説明一辺倒な部分や終わり方は好みではありませんでしたが、設定ゲーとして面白かったです。あと飛鳥が聖人すぎて。美純と透の二人の描かれ方が最高に好きでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※前半ネタバレなし 
 後半ネタバレあり の感想です。


         その日僕は、見知らぬ君と『再会』した。


ライアーソフトより発売されました「蛟の巫女」。
シナリオライターさんが「由又かつお」さんで、「かおり憑きの少女」が好評のライターさん抜擢という今作。
公式ジャンルは『ドラマティック青春伝奇譚』と謳っていますが、いわゆる孤島の島ミステリー。
私にとっては初めてのライターさんですが、テキストに癖もなく設定ゲーとして楽しめました。

あらすじを以下公式サイトより
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 一人旅を趣味とする少年、鍔貴伊織(つばきいおり)。
  彼は愛されることを諦めた孤独な少年だった。今までもこれからも、自分は誰とも深く繋がることなく生きて、そして死んでいく。
  そうなるだろうと思っていた。それでいいと納得していた。
  『彼女』と廻り逢う、その時までは―
(中略)
  少年を待っていたのは、不可解な既視感や偶然とは思えない『繋がり』の数々。
  やがて彼は知ることになる。
  この出会いが、1000年の時が織り成した呪いと情念の集大成であることを。
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あらすじに「1000年の時」とあるように、今作では「現代」・「平安編」・「昭和編」と3つの時代を軸に語られていく設定ゲーです。
序盤の現代編では理解できなかった謎が、中盤の平安編・昭和編を経て繋がっていく面白さが今作の魅力だったなと思います。
中盤まで進めると、「あぁそういう話なんだな」となる所を終盤でまた上手にひっくり返されたり等、設定部分としてはよく練られていたと思いました。
また、詳細はネタバレになりますが、『現代と過去が重なるお話』だからこその、登場人物達の「執着」にじみ出る部分であったり、思惑がぶつかり合う、執着がさらに執着へと連なっていく物語でした。
登場人物がヒロインに執着をするからこそ、『選ばれない執着』だったりのお話が好きでした。

反面、設定ゲーであるがゆえにどうしても(特に終盤)説明一辺倒に感じる所もあるのがちょっと惜しかったなと思いつつ。登場人物が少し置いてけぼりというか。ただそこまではひどくないです。

また、ライアーソフトならではのさっぽろももこさんのBGMだったり、雰囲気はとても良かったと思います。
反面、原画はちょっと崩れてる違和感があったかなというのが正直。
特にHシーンの構図だったりは微妙でした。私がこの原画家さんが好みじゃないのがありますが。
あと、HシーンサンプルだったりでNTR要素があったりはしますけれど、そこまで多くはありません。Hシーン短めでしたし。
そっち方面ではなくて、あくまで伝奇設定ゲーでした。


※以下からはネタバレありの備忘録感想です


①シナリオ面
②登場人物たちそれぞれ
で分けて書きます。






①シナリオ面
結論から言うと、序盤、中盤、終盤と好きでしたが、最後の締めだけは好きになれなかったなぁという感想です。
と同時に、透や美純といった『主人公に選ばれなかったヒロイン』の描かれ方が秀逸です。
ピカイチです。この部分が最高に好きでした。


公式SNSから「7つの謎」として出されていましたが、序盤~中盤はこれらの謎が繋がっていくのが面白かったですね。
(1)再会の謎 (2)湊志津香の謎 (3)綿津蛟の謎
(4)冴白美純の謎 (5)設楽飛鳥の謎 (6)痣の謎
(7)過去の惨劇(兄妹)の謎 等

特に平安編が始まってから、「そういう話だったのか」となってから一気に面白くなったと思います。
なぜ、伊織は記憶を保ったまま転生できるのか。
古くから続く、蛟と縛螺島の伝奇とは何なのか 等。
こうした謎が繋がるのが良かったです。

ただ個人的に一番好きだったのは、これらの謎が繋がったからこそ、登場人物たちの執着が交差する部分でした。
平安編では「伊緒が静珂を時を超えて救う」執着から始まり。
昭和編では「転生した伊緒(兄)に救われた透の愛」の執着。
現代編では「伊緒と静珂・伊織と志津香」と、同化したからこその、伊緒と伊織の執着同士のぶつかり合い。同化したからこその、伊織の業の深さを受け止めきれない伊緒の姿等。
ただ蛟を討ってヒロインを取り戻す、という綺麗なお話だけではなくて、1000年の時を重ねたからこその、「救うなら、愛されるなら何でもしよう」とした人の執着という業が好きでした。
(登場人物の立ち位置上、伊緒は好きになれませんでしたが……。でもシカタナイネ……)

特に、一番大好きだったのが透でしたので、蛟を討った後のクライマックスに透の話があったのも個人的に嬉しかったです。
兄(伊緒)に救われたからこそ、透にとって伊緒が全てだった彼女の姿。
特に、蛟のことを「……なんて、羨ましい」と呟く姿がもう一番好きです。
あの蛟の執着した呪いすら、透にとっては愛として一番羨ましい行為であり。
そしてこれら全ては、透による執着のための物語。
蛟による執着の始まりから、伊緒による静珂への執着へと繋がり、そして透から伊緒へと執着へと繋がっていく物語。
最初には予想もつかなかった展開を、これまでの設定を拾いながら語られていくのが終始楽しめました。よく練られていたと思います。


ただ、(好みの問題ですが)終盤の締めがあまり好きじゃなかったなという本音でした。
以下は備忘録に最後の展開。
最後は、静珂による『仕込み』により、自分自身を式として現代へ『移し』を行い、伊織と静珂と協力して、志津香に乗っ取った透を倒すことで、本当の戦いが終わります。
そして、伊織は透とともに、静流を自分自身に刺すことで、今までの縁を断ち切り、これまでの因果を全てなくそうとする。
それは、この物語で語られてきた、伊緒から始まる縁がなくなることであり、全てを忘れ去る『逃避』するということでした。

なぜ伊織がこのような縁を断つ行為をしたか。
それは『伊緒と同化したことで、これまで伊緒が背負ってきた業(人肉行為等)を受け止めきれるだけの精神力を持っていないこと』
また『手に入れた先の未来が今より幸福な保証がない(志津香のことを好きじゃならなくなるかもしれない等)』として、いっそ全て消してしまえばと考えたのが理由でした。
これらに対して、「縁を無くすとイレギュラーになってしまう美純」という存在をきっかけに介入した志津香たちが『最後まで責任とれぇーーーー!!』と手を伸ばす。こうして、全ての縁がなくなってしまうとしても、伊織という存在を救い出すのが最後の結末でした。(透は兄の宗と、伊緒は静珂と魂が常世に還ることでgoodエンド)

その後は、縁が無くなったことで、伊織、志津香、美純、飛鳥がこの2週間の記憶を失くした状態で、島で目を覚ます。
呪いは消え、呪いを受けたことから始まる絆も縁も全て消えた。それでも、また彼ら4人は(静珂の仕込みの助けもあり)縁を繋いでいく。伊織は志津香と美純と取り合いをされながらも幸せそうな姿で。そして一番最後は志津香を外の世界へ連れ出してエンドでした。

こう見るととても綺麗なエンドで、終わりよければすべて良しなんですけど、結局今まで見てきた物語が全部無かったことになると感じてしまいました。
もちろん一度紡いだ縁は無くなってもまた紡がれていくという意味では良かったと思うんですけど、こうこれまで重ねてきた伝承的なお話にあまり関連してこなかったなと言いますか。
伊緒と静珂、宗と透も、goodエンドではあるんですけども、最後の退場があっさりだったなぁという感じも否めず。
なんだろう、終盤まで語られてきた『執着と縁』の物語だからこそ、設定ゲーとしての面白さがあったからこそ、最後の終わり方にもう少し上手に絡めて欲しかったなぁと思ってしまいました。
私自身がここまで読んできて、最後あっさりだったことが寂しかったのもあるかもしれません。

あと中途半端に人肉要素っぽい事とか書くなら、もうちょっとダークにNTR要素が強くてもよかtt(ry

以上シナリオの感想でした。



②登場人物達の簡単な感想を適当に
飛鳥さん、美純さん、透さんがめちゃくちゃ好きでした。

(1)伊織
「またしても何も知らない伊織君」
何だろう、正直伊織君の事は好きにも嫌いにもならなかったなぁという感想。
と言いますか、ここで言ってしまうと今作はあまり登場人物達に感想を持つことがなかったなという感じでした。

一応今作の主人公。今作一の被害者の一人。
縁切りの力により、人から愛されることを諦めたり、両親が離婚したり等、不幸感満載。
また、本編でも何も知らないはずなのに、相手は自分のことを知っていたり、前世の伊緒のせいで、自分じゃない発言をしてしまう等、色々大変。でも、ヒロインには一目惚れされたりなど美味しい所もあったり。でも不幸。
また過去編が終わった後の伊緒と同化したりすると、伊緒が背負ってきた罪(人肉等)を全て背負うことになり更に苦悩する。並の人なら壊れる。
最後はうじうじしたところを志津香に助けられる。
アフターで美純ちゃんとくっつくシナリオありませんか……ないですか……。

(2)志津香
今作のメインヒロイン。両親の借金により蛟の巫女にされてしまう、島の被害者の一人。正直志津香さんのことはそこまで好感がなかった……。登場多いのに……。
全部美純さんという魅力的なヒロインが悪い。
弥太郎に手を付けられたり、透に乗っ取られたり大変な子。


(3)飛鳥
今作一の聖人。ほんと良い人。今作で人気投票があったら1位を取ってしまうのではというくらいの良い人っぷり。
静珂との付き合いは伊緒よりも古くからで、伊緒のことも弟分としての愛している兄貴分。大好き。
志津香のことを救いたい想いは伊緒と一緒だが、昭和編では、透のことを道具のように扱う伊緒に「もっと透のことを優しくしてあげてくれ」だったり、現代編でも伊緒に対して「今を生きる伊織や志津香のことを残してあげてくれ」と優しい。
さらに伊緒を差し置いて、梨子という存在と幸せになることへの罪悪感すら抱いてしまう。優しさの塊。
幸せになるべき男ナンバーワン。梨子ちゃんも良い子なので、二人で幸せになって欲しい。

(4)美純
今作の被害者の一人(被害者しかいないな?)
父親が豹変しちゃってからさぁ大変な子。また、透の生まれ変わりだと思っていたら、実はとてもイレギュラーな存在な子。
大好きです。暗い女の子で、メインヒロインの志津香を目の敵にしている(理由がある)のに主人公には一目惚れで態度が変わっちゃう(理由がある)姿可愛すぎないですか。初登場ですぐに好きになりました。
その後も、自分が不幸の目に合っているのに志津香が幸せになることを許さない姿とかね……。
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初めて好きになった男の人が、この世で一番嫌いな女と結ばれる──それだけは絶対に、絶対に認めたくないのよ。
……鍔貴くんのこと、諦めてくれるよね──志津香?
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一目みたその時から、鍔貴くんのことしか考えられなくなった。私に向けられる言葉は全て……どんなに些細な一言でも、宝物みたいに感じられた。
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ねえ……教えて……報われない想いは……どう足掻いても、どうしたって諦められない恋心は、どうすればいいの?
簡単なことだった……諦められないのなら、諦めなければいい。
他は全部あげるから……いくらでも幸せになっていいから……この人だけは奪わないで。お願いだから……鍔貴くんは……!
───鍔貴くんだけは、絶ッッッ対、誰にも譲らない──!
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もう、台詞全部が強い……。
その他にも、伊緒(伊織の姿)にちょろく墜とされちゃう所とかも可愛すぎました。大好きです(2回目)
美純さんが終盤、自力で蛟の汚染を振り切ったのはいまだによくわかっていない。
最後には、台詞通り、志津香さんに負けずに伊織を奪い取って欲しい(修羅場)


(5)伊緒
平安編から始まる主人公。今作の悪鬼枠。
1000年の時を経て静珂を救おうとする、執着三人衆の一人。
深くまで語られていないけど、静珂を救うためなら、人肉とかもしてる。
正直精神が逝ってしまっているので、現代編後半の、伊緒視点だったりすると、彼への好感度が下がっていく。飛鳥や透さんだったりが好きだったので、ちょっと辛かった。
志津香に「……あなたが愛しているのは、自分だけでしょう?」と言われた時はスカッとした。(伊緒のこれまでたどった修羅の道を考えるとまぁねぇとは思うけど)
伊緒の敬意、立ち位置からすると仕方ないとは思う。
明らかに描かれ方が、伊緒と伊織を対比するように人物像が描かれてしまう、ちょっと可哀想な方。

(6)静珂
伊緒のメインヒロイン。静珂の珂って白瑪瑙って意味なんですね。
大天才。予知夢が使えたりする。また寫しと移しの能力によって、今作でどんでん返しの仕込みを何回もした人。
寫しによって、伊緒は1000年の転生ができるようになったし、移しによって、現代に式として蘇り、透を討つことができたりした。
もしかして、寫しをせずに静珂が封神だけしていればこの物語は始まっていなかった(BADEND)とは考えていけない。
志津香と違ってテンション高めなヒロインらしさがあって可愛い。

(7)宗
彼のことはよくわからない……。
けれど彼なりに透のことを愛していたのだとわかる。

(8)透
昭和編の、美純さんに並ぶ好感度トップのヒロイン。大好き。執着三人衆の一人。
規格外の力を持つことで、好きな人に好きになってもらうことができないという、辛さを抱えた少女。

また、伊緒ほどではないが、兄と二人っきりになるために執着のためにとんでもないことをした一人。
昭和編で蛟を支配下に置いた上で、自分をあえて呪い殺すことで、痣を持つことで、魂だけの存在となり現世に留まる。
さらに、冴白家の代表を傀儡にして、蛇の力で自作自演の祟りを演出し、信仰を復活させる(兄を魂寄せするため。なお、伊緒の縁を断つ能力により島では生まれなかった。かつなぜか美純が生まれてしまい、二重な状態になってしまった)
静珂の転生である志津香が生まれてからは、その中を魂のすみかにした。
そのため、志津香が伊織の姿を見て、再会したような喜びの反応をしたのは透が中にいたから。
なお、弥太郎が下半身だけのような存在になったのは、透が自我や知性も空っぽにして操っていたから。
静流の武器を渡したり等、宿敵であった綿津蛟を倒すまでの流れも、全ては透の手の上。チート。でも、すぐに篭絡できるはずが、兄への想いもあってか猶予を待ったりするといった面もある。

また、伊緒(兄)によって救われたことで、伊緒を愛する姿が本当に好き。
いやーーーーーーーーーもうーーーーーーーー最高のヒロインです。
最後の選択肢のBADEND3の透「ええっ……!私幸せよ、凄く……!」という彼女の笑顔を見たら、更に好きになってしまう。これはBADENDではないです(過激)

特に昭和編の透視点は読んでいて本当に楽しかったです。
伊緒君、クズだけど、透のことを(例え嘘だとしても)救ってくれた(?)のはとてもグッジョブだったよ。
また透さんの台詞も美純さん同様全部好きです……。
特に、伊緒(兄)を失った後の彼女の台詞がもう全部最高です。
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いやだ、いや、だよぅ。置いてかないで、兄さん、兄さぁんっ……!
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(生きても死んでも虜にする蛟に対して)
………………なんて、羨ましい。
あの夢のような時間を永遠にすることができる。ううん、あの夢よりもっと、ずっと完全な理想を形にすることだって。
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あなたの嘘を、私の力で真実に変えてしまってもいいわよね?兄さん……。
私達の愛を、今度こそ本物に───永遠にしましょうね。
兄さん……。
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めちゃくちゃ好きなヒロインでした。
最後は宗と一緒に還っていくエンド。少しアッサリ気味ですが、透の本当の願いが叶った終わり方であるとするなら、良かったと思います。


以上です。




③まとめ
執着がさらに執着を呼んで、さらに次の執着へと繋がっていく。
1000年への執着が多くの影響を与えていくというお話と言いますか。
少々設定ゲーだからこそのこじつけ感もありましたが、概ね楽しめたと思います。
もっとダークな雰囲気の方が好みだったかなぁと思いつつ。
謎が明かされていく設定ゲーとして面白かったです。
ただそれ以上に、透や美純といった『愛されることを選ばれなかったヒロイン』の描かれ方が秀逸なので、こちら方面をもっと見たくなる作品でした。

ライアーソフトの作品は好きなので、次回も楽しみです。
ありがとうございました。