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merunoniaさんの鏖呪ノ嶼の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
鏖呪ノ嶼
ブランド
CLOCKUP
得点
88
参照数
980

一言コメント

複数視点により、様々な因縁と因縁が繋がることで、全体像が見えてくる展開が何よりも面白かった。『呪い』がテーマであり、呪いこそが誰にでもできる唯一の行為で生きがいにも成りえるからこそのお話なのが面白かったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

待望の昏式龍也氏のエロゲだーーーー!
というわけで、鏖呪ノ嶼 プレイした感想です。
※ネタバレ全開です。


結論から言えば、一気に読み終えるくらいには面白かったです。
共通√85点、文鳴√90点、吐月√75点 な感じでした。
以下、3つに分けて備忘録の感想。


①共通√
今作の特徴と言えば、「文鳴視点」、「吐月視点」、「その他過去編等」の複数視点を読み進めるシステム。これがすごい面白かった。
複数視点を読み進めながら、様々な謎が繋がっていく、真相が明らかになっていくバランスがすごい良かった。
売春島のシステムの真相、文鳴と槐の過去、吐月の過去、カノの過去、槐と刑部の因縁……。
それらが徐々に明らかになっていく面白さが、複数視点ならではでした。
色々な話の面白さはあったけれど、インパクトで言えばやっぱり金平糖でしたかね……。そりゃシヅさんも怨霊化しちゃいますわ……。
あと、カノちゃんのナイスファイトっぷりがね。島に来たら、軍神島送りにされてドロドロになって、それでも生還するガッツさよ……。

しかし呪術めっちゃ強いのなんの。手を触れたらアウト。名前を呼びあったらアウト。何かしらの縁が結ばれたらアウト。ほんと強すぎる。

あとエログロHシーンもブランドならではではありますが、ただエログロにしただけではなくて、この作品のテーマにより合っていたのもとても良かったです。呪術を生業にした『死ぬことよりも恐ろしいことがあるのだ』とするからこそのシーンと言いますか。そこもすばらでした。


②文鳴√エンド
文鳴√自身が、刑部や菊乃の二人の真実が明らかになる面白さもありますが、何より文鳴自身の、最初から最後まで『槐』(母親)という存在があっての生き様が見られたのが本当に面白かった。

文鳴√は、刑部と菊乃の過去の因縁、真相が明らかになるお話でした。
まずは二人について、備忘録。
呪術師にとっての恐怖は、死んだ後地獄に落ちること。
そこで、菊乃は『槐(二ツ栗流子)と文鳴』の魂を地獄送りし、自分の魂を地獄から現世に生還させることで、呪術師としての恐怖から逃れようとしたのが、菊乃の真相。(二人の魂が必要なのは、槐が双子の片割れのため。ちなみにもう片方の宗孝は種ナシのため不可)
ちなみに、菊乃の魂が現世に戻っても肉体がないため、そのまま解放されるだけですが、それでも呪術師の恐怖から解放されるというものなのか……。

そして刑部は菊乃から契り(脱糞と血)を結ばされた。内容は『文鳴を殺すこと』
これにより、菊乃が現世からいなくなろうとも、刑部が文鳴を殺すことで、魂二つ分を生贄にし地獄から解放されようとした。
しかし、刑部は菊乃の言いなりになることを拒絶。文鳴を一度殺すが、菊乃に利用される前にすぐに魂を地獄から引き戻す事で、文鳴は復活。
刑部は『文鳴を殺す』という契りを果たし、かつ菊乃の思惑は外れることとなる。
ちなみにこの時点で『文鳴は死んだ』という事実は変わらないため、刑部がもし死んでしまった場合、文鳴も一緒に地獄行きという一蓮托生状態。

結果、槐が恋人をあてがわれ子供を産まされ殺されたのも。
文鳴が産まれ一度殺されまた生かされたのも。
全ては、菊乃と刑部の呪術師同士の因縁によるものに過ぎなかったのが真相でした。
文鳴にとっては、『生まれた時から、刑部と菊乃の二人の呪術争いの将棋の駒のように利用される存在でしかなかった』呪いのような運命」であり、無力感に打ちひしがれるようなあまりな人生(呪い)。それでも運命に抗うように生き様が描かれたのが、文鳴√でした。

文鳴にとって、この人生に抗うとしたのが、『珠夜を軍神から救うこと』と『自分(槐)を利用した菊乃や刑部ですら成し得なかったシヅを調伏させること』の二つでした。
珠夜は父を守るために、自分を軍神島に送り軍神強くさせ、シヅに対抗しようとする。
文鳴にとって、その珠夜の『自分を犠牲にしてまでも大切な者(父)を守ろうとする姿』が、かつての槐と重なるものでした。槐と同じ呪いのような運命から珠夜を救うことこそが、文鳴にとってのくそったれな運命に抗うこととなり。
同時に、刑部と菊乃が成し得なかったシヅの調伏を成し遂げることで、この二人ですら達成できなかった『呪いから逃れるために利用された仕組みに抗う証明とする』ことであり。
この二つを成し遂げることが、生まれた時から死ぬまで、利用されるしかなかった人生に抗うとした、『文鳴の物語の生き様』が何よりも魅力的でした。

たとえ、槐が自分を贖罪として愛してくれた母親だったことを、死んだ後に気付いたとしても。
たとえ、刑部と菊乃の二人に利用されるだけでしかなかった真実を知ってしまったとしても。
たとえ、刑部が死ぬことで、一蓮托生の存在となった文鳴自身が死んでしまうとしても。
それでも、「ただこの呪いの運命の思い通りに終わらせない」と、「槐のような珠夜を、槐と同じように運命の犠牲にはさせない」とする、最後のあだ花を咲かせる姿がもう本当に面白かったです。
共通√を読み終えた時には、ここまで魅力的な主人公になるとは思いもしなかった。最後の槐と文鳴の笑顔で締める最後はとても美しかった。

ただ最後のスマホは予想外でびっくり。まぁ令和では、こうした因縁や壮絶な過去ですら娯楽の消費の一部でしかなくなってしまったという皮肉を込めてという意味ではらしかったかもしれない……(多分)
あとコロナの驚愕な真実もある意味面白かった。

文鳴√での吐月さんはBADENDよなっとも思ったり。
運命に諦観し、流され続けた人生に、終止符を打つとして覚悟を決めてきたのに、結果最初から最後まで文鳴の物語のまま終わり、きっかけを失くした吐月さんはきっとこのまま諦観したまま生きていくのだろうかと思いつつ。
ただ、カノちゃんは娼婦街で幸せそうに生きているし、偲さんは復讐を無事自分で成し遂げることができて、ハッピーエンド勢もいる感じ。

あと何気に文鳴さん関連で一番好きなのは、珠夜との初Hシーン(凌辱)だったり。
『普段は自分以外は全て敵』とする仮面が、珠夜とのHで、珠夜と槐の姿が重なってしまい『槐が自己犠牲にする姿』やるせなさと、『槐の自己犠牲により生かされている』自分への無力感のかつての感情が彷彿され暴走してしまうのが、文鳴の良さが出てて、めっちゃ好きでした。



③吐月√エンド
吐月√は正直あっさり目だったなぁという。というか展開が急。
シヅを利用した刑部というラスボスを倒して、シヅは二ツ栗家を末代まで滅ぼし、全てが無に帰す終わり方。
と言うよりかは、あくまで今回のお話は吐月さんの人生の『鏖呪ノ嶼編』の一部だったというか。
偲と吐月の関係性はすごい好きだったんですけどね。
むしろここまでが序章で、ここから偲を背中に背負いながら、呪術師としてまた生きていく吐月の人生を見たいというか。吐月編アフターを出してください。


一応、吐月という主人公がどういう人物だったかを整理するために以下備忘録。
吐月のそもそもの始まりは、当時警察だった若かりし頃、恋人である希美が強姦されそれにより自殺することになったのが始まり。
当然吐月は怒り狂うが、強姦相手は文鳴によって呪殺され(希美が依頼主)、怒りの矛先は文鳴へ。文鳴を正義の執行として逮捕することこそが、最愛の恋人を無くした吐月にとっての生きがいでした。
しかし当然呪術は法で裁けるはずもなく、『法の正義は虚構でしかない』と絶望した吐月は『呪いこそがこの世で確かなものである』と。同時に、呪いともいえる感情によって『生きることができた』吐月は、呪いこそ悪こそが唯一人生で『確かにある』ものだとして、諦観した想いを抱きつつ呪術師になるのが、彼のきっかけでした。

その後も諦めたような人生を呪術師として二ツ栗家で送るが、珠夜の母親でもある月夜との邂逅により、月夜を島から逃がそうとする等の過去もありました。しかしそれも失敗。過去と同じようにまた『守りたい女性を救えなかった』と、やはり諦めていればよかったのにと、ますます人生に期待せず諦観する姿が、吐月という人物像。
こうして、一見全てを諦めた主人公に見えるが、吐月の『歪み』は全てを諦めたように見えて、『全てを諦めて生きたくない』ことこそが、呪術師としての彼の素養部分。彼の覚醒は珠夜の強烈な台詞。
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珠夜『呪いの道に首まで浸かりながら、今も向こう側にいるような善人ぶろうとするあなたよりも……私には文鳴さんのほうがずっと誠実だと思えますし、信用できます』
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全くの無関係だとばっさり切られる台詞。これまで守りたかった希美、月夜を守れず諦めてきた自分の人生が全く無関係だったとされた吐月は怒る。
もうこれ以上諦観して、何もかも諦めたはずの人生に、また女性が犠牲になっていくこの呪いのシステムなんて崩壊させてやるよ、としたのが吐月√エンドへのお話でした。

こうして吐月√へとお話が繋がる訳ですが。
√に入った後でも、また守るべき女性となったはずの『偲』も救えず見送ることになったのが彼のお話でした。
偲は、戦いの中で刑部への復讐を果たすことができず、鬼と化してしまう。そして偲が果たしたかった刑部への復讐の想いを吐月が受け継ぐ。
偲の想いを受け継いだ吐月は、軍神と一体化する刑部を(カノのおかげで)倒すことができ、そして軍神の抑えがなくなったシヅを止める存在はもうなく、二ツ栗家を滅ぼし、復讐も終わり、全てが綺麗に。
結果、生き残ったのは吐月と荒忌さんのみという結果。

吐月は、『希美、月夜、偲』と守りたかった女性を全て守れず見送りつつも、それでも生きていく。この先も、きっと『また救えなかった』という無力感と諦観しつつも、また諦めきれない想いを根底に抱くという、この『呪い』に付き合いながらしぶとく生きていく。これが吐月√による姿でした。
うん、やっぱり感想書いて思うのが、今回のお話は吐月という人生の一部だったなという感じ。

ただ、吐月という男の考え方が表れているのが、偲とのやり取りでありました。
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『幸と不幸ってのは正反対の対極にあるもんじゃない。いつも重なり合っていて、時々裏返るだけなんじゃないかなってな。つまり、幸福ってのは状態のことだ。一時のな。(中略)
平和ってのは戦争の反対にあるもんじゃなくて、たまたま今そうであるという状態のことで……戦争の中でも楽しいことや嬉しい瞬間はあると思う』
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これは偲との最後のHシーンの前のやり取りでした。
吐月という呪われたような人生の中でも、こうした幸福の瞬間はあった。それは月夜や偲とのやり取りにあったように。
きっとこの先も、やりきれない、諦めたはずなのに諦めないそしてまた後悔することもあるかもしれないが、きっとこの繰り返しが『人生(呪い)』なのだとして生きていくのが、吐月という男の人生なのだなと実感します。

やっぱり、吐月という男の人生は、この√のお話のその後がより魅力的になるお話だと思うので、続きが見たいです。

あとは吐月ではないですが、吐月√の不二彦さんが好きです。
例え刑部に操られようとも、珠夜を護ろうとする想いがぶれないのがとてもかっこよかった。(金○をつぶされるシーンは思わず悲鳴をあげましたが)
良いキャラでした。



④まとめ
文鳴エンド⇒吐月エンドという順番で読み終えたわけですが、やっぱり対照的だなぁという感じです。
文鳴エンドが彼自身の人生として、最初から最後まで綺麗に描き切る分、どうしても吐月の方は半ば途中のように感じられてしまうのが正直な感想。

しかし全体の完成度から言えばすっごい満足です。めっちゃ面白かった。
世界観への設定の練り込み具合がすごくて、読み進めるほどに明らかになっていく事実や真相が本当に面白かった。島の伝奇ってやっぱり良い。
少々展開に都合のよい設定感が終盤あったりもしますが、違和感はそこまでなく最後まで楽しむことが出来ました。
また、作中の一番好きな台詞『呪いこそが人が唯一許された行為である』というのがめっちゃ好きです。呪いという行為ができるからこそ、それを生きがいに生きてしまうからこそ成り立つお話でもあったと思います。

同じ昏式氏の作品でいえば、狼羊の「あざみとたけちゃん」の二人の関係性が最高でしたが、物語の魅せ方、展開の仕方言えば今作の鏖呪ノ嶼は間違いなく面白かったです。
ぜひ羊狼のように吐月アフターが見たい。FDが見たい。お願いします。

以上です。
ありがとうございました。