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merunoniaさんのghostpia シーズンワンの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
ghostpia シーズンワン
ブランド
超水道
得点
88
参照数
33

一言コメント

カートゥーン、ノイズ調による、場面ごとに合わせた演出は、アクション映画のような臨場感を生み出す体験でした。さらにテキストやセリフ回しによる小夜子の心情描写や、暴力シーンが『幽霊の町』がゆえの倫理観と噛み合い、最初から最後まで飽きずに楽しめました。名作でした。ただ同時にクラーラの描かれ方が賛否両論ありそうだとも思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


同人サークル超水道さんによる『ghostpia シーズンワン』
私にとっては、今サークル初めての作品でしたが、最初から最後まで楽しむことができた名作でありました。
詳細については、下記URLより(公式サイト)
https://ghostpia.xyz/

○演出面
今作の大きな特徴といえば、公式サイトで言う『デンシ・グラフィックノベル』という演出でした。
これは実際にプレイしてみないと言葉にするのが難しい分部ではありますが、簡単に言えば、登場人物達の動きとテキスト(台詞)が連動して動く感覚と言いましょうか。とにかく動くこと。動くこと。
また雰囲気も大変心地よく、カートゥーン調、ノイズ調によるどこかノスタルジックな演出から、そのギャップによる暴力や陰鬱な心情描写によるバランスがどこか心地よく、最初から最後まで飽きずに読み切ることができるのが本当に素晴らしかったです。
例えば暴力が大きく描写される戦闘シーン。
例えば過激になっていく一対一の問答シーン。
例えば組織から追われて窓から脱出シーン。
それ以外にも、日常的な仲間との話し合いのシーン等。
そのどれもが、演出により臨場感が高まり、ノベルゲーでありながらも、まるでアクション映画を見ているような感覚は、唯一性のあるものだと感じます。
こう『ここで動かしてくるか』というか、読み手側がどこで【ハマるか】というのを、とても丁寧に考えて作られているのを感じます。
特にその中でも大好きなのは、窓から『主人公とヨル』が脱出するシーン。あそこの臨場感は堪らない物がありました。
私はsteamでやったのであれですが、スイッチだと、ゲーム機を傾けると一緒にCGも動くとか。すごい。

○テキストや展開
ただ今作品が面白いのは演出面だけではなく、テキスト、台詞回しも優れている点でした。
演出面でごまかすのではなく、小夜子の影のある心情描写や、『幽霊の町』であるからこその倫理観が外れた『寂しい暴力』などは、この世界観にとてもマッチをしていました。こうしたブラックな面を見せつつも、その中でほのかに見せる4人組の友情のお話なのはどこか暖かくとても好きでした。特に、4話のミェト&レーニャであったり、5話のアレク&『彼女』との関係性の描かれ方は、とても印象的です。
台詞回しも独特で、『ぬるぽぅ!』といった謎日本語叫びであったり、爆発オチのような展開であったり、最後まで飽きずに楽しめたのは、この部分もとても大きかったです。

○クラーラについて
この作品である意味特徴的な描かれ方をしていたのは、主人公サイドにとって敵であり『模範解答の姿』を体現したシスター、クラーラでした。いやぁ賛否両論ありそうなキャラでしたね……。
彼女自身は、無邪気、善意の塊であり、全くの悪意のない姿行動その全てに裏がなく、だからこそただいるだけで『愛される』存在であるという彼女。その彼女の姿は、主人公達にとっては『目につく』存在であり、彼女自身が悪くなくとも、ただそこにいるだけで疎まれ利用され、理不尽に殺されるという、まさに不憫ヒロインでありました。
まぁ、それはそれでなんとなく主人公とも『疎まれる』というある意味《繋がり》のある登場人物ではあったものの、5話ではクラーラが【無自覚な】神父のスパイという事が発覚し、完全に小夜子に《軽蔑》をされ、関係性を絶たれるという結末でした。当本人であるクラーラは最初から最後まで『なぜ自分が嫌われるのか』分からないほど最後まで『模範解答の善意の姿』でいるのがまさに特徴的。
ここまで徹底的な描かれ方は、ライターさんの思想、経験が強く色濃く出ているなぁとも思うほどでした。

最初に賛否両論と言いましたが、それはこの圧倒的なまでに『善意』である彼女のような存在を『疎ましく思ったことがあるかどうか』ですごい感想が変わりそうだなと思ったからです。彼女の立場からみても何も悪いことをしていないのに、『なぜ彼女がそこまで嫌われるか』。小夜子の描かれ方からすれば、クラーラの完璧なまでの模範解答の姿は、まるで『自分は間違っている』と叩きつけられるような感覚が少し分からないでもないので、そのまま読んでいましたが、ここまで徹底的な書かれ方は珍しいとも思います。
続編で彼女がどのような立ち位置で描かれるのか。ブチ切れて反抗をするのか。
いやきっと、どんな状況であったとしても、クラーラはきっと『最後まで模範解答であり続けてしまう』のだろうなぁと思ったり思わなかったり。


○OPとED
今作の心地よさの一つでもあるOPとEDの区切りは、まるでドラマのようでしたよね。特にEDの『シティポップ風』なのは、ある意味steamゲーらしいなぁとも思ったり。(私の偏見ですが)シティポップな演出は、海外勢にはすっごい人気があるなぁとは思っていて、今作のカートゥーン調とこのシティポップの組み合わせはすごい似合ってるなぁと。
一つ一つの話で小休憩が入るようなこのゆったりとしたEDがとても好きです。

○バックログについて
はい、これはもう私の好みの話です。
今作のシステムの特徴として、バックログが一面で表示されるのではなく、巻き戻し機能によって1つ1つの台詞やテキストが戻っていくのが特徴的でした。
私は物語の全体を見渡したいと思う事が何度もあるので、バックログで一面表示されないのが正直辛かったです。
ただ、今作の演出を考えればそれも致し方無いのだろうなぁと思いつつ。
今作は『テキスト』だけではなくて、『動きのある演出』が一体感になっているからこそのこの手法なんだろうなぁと。むしろここまで工夫したのはすごい大変だったんだろうなぁと思いつつ。
良い、悪いの話ではありませんが、気になった特徴だと思ったので書きました。

○まとめ
いや~~~~~~~~面白かった~~~~~~~!に尽きます。
最初に読み始めてから、最後まで飽きずに一気に読めるくらいにはハマりました。
むしろ続編が早く読みたくて仕方ありません。
ヨルの正体。なぜ彼女は、ロボットに対して嫌悪したのか。
小夜子とみんなで脱出した過去の真相。
シーズンワンで、最後の電車の女性の描写は。
合間合間に挟まれた女性(小夜子?)の描写の真相は。
等々。
まだまだ明かされていない謎だらけです。
ぜひ続編を期待してこの感想を終わりにします。
ありがとうございました。