お互いの大切な人を上書きすることから始まる、百合ノベルゲーム。 予想以上に重いシナリオ部分もありましたが、彼女達が出会ったからこそ『自分の気持ち』に向き合い、変わる姿が青春の夏らしいお話でした。 また、学生中心のお話だからこそ、『大人』の登場人物達も際立つ、『大人と子供』・『家族』の物語でした。またアニメーションにも力を入れており、ぬるぬる動く立ち絵と感情表現がとても丁寧なのも素敵でした。一番好きなキャラは深玲センセイと莉久です。
※最初からネタバレ全開です。
『噓から始まる恋の夏』
貴重な百合ノベルゲームです。
最初は、元恋人や、友達以上恋人未満な、イチャイチャや嫉妬だったりの三角関係が描かれていくのかな?と前半の薫・栞里・莉久の友達同士で仲良しな所がすごい楽しかったです。特に、コスプレ中華街だったり、みんなでホラー鑑賞だったり、カレー作りに、学生らしい思い出ばかりですごい楽しめました。
(読みながら、すごい中華街行きたくなったり、ドーナツ食べたくなりました……)
また、薫がセンセイの事を想いつつも、栞里との出会いで、二つの恋心をに戸惑い苦悩する姿もまた青春らしくてとても好きでした。(栞里を想いながらセンセイとの出会いで喜んでしまう、仕草を目で追ってしまう姿のなんていじらしいことか)
そして後半になると予想以上に『思春期と家族』をテーマにしながら重いお話だったのが予想外でした。
薫のお話はまだ読むのがマシ(それでも重いですが)でしたが、栞里の父親とのお話が本当に辛かった……。
最後の15話では、真正面に描いてくれて、栞里のお父さんも彼なりに栞里の事を大切に想っていることは理解できるのですが、それでも栞里の姿等を見ると、許せない気持ちもあってもやもやするんですよね……。
(栞里の場合は、お兄ちゃん(自分ではなく愛する彼女を選んで死んでしまった)の事もあって、恋心に懐疑的になってしまう部分もあったのですが)
最近、こうした家族、特に子供と親の関係を重く描いた作品を読んでいなかったのもあって、久々にボディーブローを喰らった気分です。
ただその部分を描きつつ、『栞里と薫』の二人が出会ったからこそ、『自分の気持ちに嘘をつき続けた』自分自身から変わることが出来た、青春らしいお話と幸せな姿が見られたのがとても良かったです。
最後のED(アコギver)の歌詞がまたマッチして良いんですよね……。
その後のエピローグまでセットで、とても夏らしい清々しい気持ちで読み終えることができたのが素敵でした。
また噓から始まる恋の夏を語るにあたって、絶対に外せないのが、莉久と深玲センセイの二人です。
まず莉久ですが、本当にめちゃくちゃ優しい良いキャラなんですよね……(ドーナツ狂()だけど)
日常シーンでは、栞里と薫のやり取りのツッコミキャラ、常識人な所、でもホラー苦手だったり可愛い部分が満載でめちゃくちゃ可愛い……。
また恋部分で言えば、莉久自身、出会った時から栞里の事が好きで、彼女のことを一番に想っている、けれど同時に栞里には幸せになってほしいと願う、あの真っすぐな気持ちが本当に優しくて。
特に温泉旅行での莉久が栞里に告白するシーンは、すごい心を引きずられるくらい印象的です。
ただ、『栞里を変えてくれるのは薫』だと知っているからこそ、友達として薫のことも大好きだからこそ、栞里と薫を応援する背中を押す莉久が本当に大好きです。
莉久については、『熱心な後輩(女性)』がアタックをしている描写も最後にはあって、展開が気になる所でもあります……。
深玲センセイについては……。もう感情が壊れてしまうんよ……。
序盤部分は、薫視点で友達以上恋人未満としてそっけない態度を取る、余裕な大人の姿が印象的でした。
薫の学生だからセンセイのことしか見えない真っすぐさがあるからこそ、深玲さんは余裕でその恋の想いをひらりひらりと避けていたのかと思ったら……。
深玲センセイ自身も『家族』の問題をある意味抱えていた一人でした。
そして祭り後の深玲センセイの告白シーンですよ。
『ホントはね、ずっと好きだったんだ、薫のこと』
『キラキラした薫がわたしみたいなダメな大人にズルズルと引っ張られて欲しくなかった。
でも今なら──ううん、違うな』
『薫に断られるのが怖かったんだ。だからわたしは自分の気持ちにずっと嘘をつき続けてきた』
『わたしは薫に、こんな気持ちを強要してたんだね。それも1回じゃなくて、何回も』
薫「やっと私を──対等に見てくれたんだね。ううん、そのことにようやく私が気付けたんだね」
──────────────────
深玲「わたしの嘘は、上手だった?」
薫「……上手過ぎて、最悪だった」
──────────────────
『思った以上に、好きだったんだな、薫のこと』
『…………幸せになれよ、青春高校生』
いやぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~もうぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
壊れてしまうんよ……。
これら全てを知った上で、分かった上で、第1話からの序章部分、深玲センセイはどんな気持ちで薫と向き合っていたのかとか、色々考えちゃうともう壊れてしまうんよ……。
そっけなくアイス食べ合ったり、間接キスとか色々してた時どんな気持ちだったんだろうね……。
大人な自分自身が、学生である薫のことを本気で好きだという気持ちをひた隠ししていた気持ち。
こっちの情緒が壊れてしまうんよ……。
15話で描いたように、薫と深玲センセイも今後関わりがあって欲しいなと思います。
そして二人だけで分かる思い出話に華を咲かせて、栞里さんにめっちゃ嫉妬されてほしい……。
そんな日常風景を妄想するのであります……。
以上が内容の感想でしたが、それ以外の要素もとても良かったです。
何といっても、Spineのアニメーションはとても丁寧。
ただアニメーションでよく動くだけではなくて、テキスト描写と合わせて丁寧に作られているなって。
例えば、照れる描写から目を逸らす描写を、テキストだけでなくてアニメーションもつけられていたり。
ふとしたような動きや間を、アニメーションで合わせることで、より深みが増すような丁寧さが素敵でした。
また、すごいと思ったのが立ち絵の豊富さ。
普段着、私服、寝間着等々、これら一つ一つがキャラクターに合った服で、どれもめっちゃ可愛いんですよね。
ここにアニメーションも加わるから可愛さが増して良かったです。
他にも、声優さんもすごい似合っていて素敵でした。
ボーイッシュな薫から、クール大人な深玲センセイ、おっとり可愛い系な栞里さんから、ツッコミ元気キャラな莉久だったり、どの声優さんも、すごいお似合い。
ある意味これらが高レベルなので、同人らしくないほどなんですよね……。
商業作品らしいというか。
とても濃密な作品であったと思います。
強いていうなら、百合イチャイチャや嫉妬描写等のアフターなお話が読みたかったのもありますが、青春×大人という読み応えのある作品だったと思います。
家族の重いお話は、自分のトップクラスに苦手要素なので、途中血反吐を吐きながら読んではいましたが……最後には清々しい気持ちになれました。
ありがとうございました。
※追記
前日譚の薫と深玲センセイの
百合ボイスドラマ『恋、降る』を聞きました
『ねぇ、先生、今日も振られに来たよ』
噓から始まる恋の夏 前日譚にあたる、薫と深玲センセイのお話
どれだけ先生との出会いが彼女の居場所となったのかが分かるお話と同時に、深玲センセイのことを理解した今、泣いてしまいましたわ。