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merunoniaさんの黄昏トロイメライ -Twilight with U-の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
黄昏トロイメライ -Twilight with U-
ブランド
OverFlowers
得点
88
参照数
169

一言コメント

黄昏の中で待ち続ける少女の、『永遠』を誓うお話。とても丁寧な演出と声優さんとBGMにより、内容はとても直球なのに、最後少し泣いてしまいました。そこには『永遠の愛』が確かにありました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※最初からネタバレ全開感想です。

以下、備忘録のための感想。



自分の好きな回想シーンの引用から。
※幼少期の汐雫と昏斗回想より
──────────────────
汐雫
『その時ね、気付いたの。
ずっと一緒にいるって思ってた人も、いつかはいなくなる。
……永遠なんてないんだって
……でもね。
永遠なんてないかもしれないけど……憶えておくことは、できるでしょ?』
昏斗
『憶えて……』
汐雫
『うん。忘れなければ、きっとその人の中では永遠でいられると思うから。
だからわたしは、ずっとおばあちゃんのことを憶えておこうと思うの』
──────────────────
──────────────────
汐雫
『──ねえ、くれと。あなたは……『えいえん』ってあると思う?』
昏斗
『えいえん?それってずっと一緒ってこと?』
汐雫
『うん。なんだって、始まりがあれば、終わりがあるわ。
だから、聞きたいの……「えいえん」の存在を、あなたは信じるのか、どうか』
昏斗
『しずくの言うことはいつも難しいなぁ。うーーん…………そうだなぁ。
「えいえん」があるかどうかなんて、よくわかんないけど、
でもぼくは、しずくとずっと一緒にいたいよ。ぼくが言えるのは、それだけ。』
(略)
汐雫
『…………じゃあ、私たちはずっと一緒よ。
だってわたし、あなたから離れるつもりなんて無いもの。
ずっと、ずーーーっと、ね』
──────────────────

永遠はないとしながらも、『憶えている限りそこに永遠はある』と
永遠がなくても、ただ一緒にいたいと願うこと
これらの回想こそがこの作品の根幹を表しててとても好きです。
                for get me not
               『私を忘れないで』




まず何よりも、とても真っすぐで王道なお話のに、とても丁寧な演出、BGM、ボイスとバランスがとても良かったです

特にテキストの演出は素晴らしかった。
黄昏を『ゆめ』、記憶を『おもいで』、現実を『いま』等と当て字で表現したり、
色分けをした演出等がとても物語の演出として盛り上げてくれました。

特に2周目になり、汐雫の想いが赤字であふれていたりするところは、中々にくるものがありました。
1周目で見てきた昏斗や茉莉のやり取りの中で、どれだけ汐雫が嫉妬し、羨み、昏斗の姿を愛おしく感じていたのか。1周目では分からなかった想いがとてもえぐられました。
だからこそ、最後の『chapter□』・『for get me not』の所はゾクゾクと一気に興奮するんですよね……。
汐雫の事を忘れない、常識なんてものを打ち破る、本当のchapterを見つけ出すような、『忘れないで』とうあの演出がもうすごい好きでした。

話の内容は泣きゲーに近い王道的なものなのに、これだけ楽しめたのは、サウンドノベルらしい要素どれもがバランスが良かったからだと思います。
一気に読み切ってしまいあっという間の時間でした。



また今作のテーマの内容『永遠』というお話もとても面白かったです。
備忘録として話の内容も感想を交えながら書いていきます。
※完全にネタバレ全開注意です。未プレイは絶対に読まないでください。








今作は、死んだ少女と、それを忘れてしまった少年のお話でした。
昏斗が川で溺れた所、助けに来た汐雫が代わりに溺れてしまい亡くなってしまう悲劇。
昏斗は両親を交通事故で亡くしており、人が亡くなる痛みを知っているがゆえに、
汐雫を『自分が殺してしまった』としてあまりの内容に汐雫のことを『忘れてしまう』。
そして忘れた状態で、故郷の町に、かつていた幼馴染の所へ帰って来るのが、このお話のはじまりでした。

こうした中、『黄昏時』あの世とこの世を繋ぐこの時間にだけ、会うことができる少女。汐雫。
なぜか昏斗の事を知っている汐雫との邂逅を果たす中、本当の記憶を取り戻していく。
死者と触れ合えるこの『異常』とも言える状況で、昏斗はどのような選択をするのか。

というのがお話の内容でした。

こうしたお話でも、自分がめちゃくちゃ好きなのが、2周目の選択肢を選び、『永遠の愛』を誓う最後の終わり方です。
最初、汐雫が、『本当は、ずっと一緒にいたかった』と、中学、高校の二人で一緒にいる夢を語る部分はとても心に刺さる物がありました……。
しかしそれが叶わない現実、汐雫は、最初の願いは、悲劇がゆえに『汐雫の事を忘れてしまった昏斗に、自分のことを思い出してもらう中で、昏斗の中で永遠に生きる』ことでした。
それは、この感想最初に述べた幼少期の回想の通り、永遠はなく必ずはじまりがあれば終わりもあると知っていたからこその願い。

本編より。
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「あなたの記憶を、思い出させる」
逢崎昏斗が、黄間汐雫を思い出すための夢。
それが、『黄昏』の存在理由だって
(略)
『夢は、いつか覚めるものだって』
(略)
私はもう、この『存在しなかった時間』を、充分楽しんだわ。
あなたがいたから生まれた、私だけの特別な時間……。
──もう、満足よ。悔しいけど、あなたのことは茉莉に譲るわ。
ホント、あの娘ったら感謝してほしいくらい。
(略)
──ありがとう、昏斗。こんな私につきあってくれて。
あなたとまた過ごせたこの夏が、私は幸せだった。
生きている時と同じくらい……ううん、生きている時よりも。
私は──しあわせ、だったよ。
──────────────────
──────────────────
あなたに忘れて欲しくなかった。
あなたの中から消えたくなかった。
私を……ずっと、永遠に、覚えておいてほしいだけ。
夕哉や茉莉が忘れたとしても──あなたにだけは、私を忘れて欲しくなかったから。
──────────────────


ここでプレイ中の私は「あぁこれで昏斗は彼女のこと思い出しながらも、新しい生者としての道を、悲劇から立ち直るための、茉莉達と歩む物語なのかなぁ」と思いながら読んでいたんですよね。
けれど、このままで終わらなかったのが、めちゃくちゃすごい大好きなんです。


──────────────────
それにこれは、終わりじゃないわ。
私はずっと、あなたの中にいるもの。
私を忘れないまま、あなたは最期まで生きて。
──そうして、向こう側で逢ったとき。
私達は、本当に、永遠になれる。

──だから私は、あなたの現世(いま)を諦める。
どうせ最後には、あなたは私の隣にいるもの。
だったら、ほんの少しの間くらい茉莉に譲ったっていいわ。
──────────────────
──────────────────
(汐雫)
好き、好き、好きすき、だいすき……っ。
──離れたく、ない……っ
あいしてる…………っ
(昏斗)
僕は、君が好きだ──愛してる。
この世界で、誰よりも。
ああ──やっと言えた。やっと、『思い出せた……っ!』
──────────────────


もうここであぁ~~~~って。汐雫が素直に自分の感情をぶつける姿からもう結構来るものがありました。
そして、その後黄昏と死者と生者が抱き合うという禁忌を犯して二人が抱き合い、昏斗が愛しているという本当の気持ちを『思い出す』ことで、永遠へと繋がるお話。それは、一人で哀しみから歩み出すのではなく、『ずっと二人で一緒にいるために、ずっと覚えている』ための物語だったんだなって。


──────────────────
……これはきっと、常人からすれば理解できないモノだ。
ひどく異常な、僕たちだけの『永遠』になる方法。
言葉は呪いだ。逢崎昏斗はこれから一生、黄間汐雫が残した呪いを背に生きていく。
だが──僕にとってみれば、ソレは。
間違いなく、愛に溢れた、誓いの言葉だ。
──────────────────
またね。
また、後で。
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これは死の哀しみから立ち上がるお話ではなく。
愛した死者を永遠に愛するお話で、永遠の愛を黄昏の中で誓うお話。
はじまりと終わりは必ずあるという世界の中で、
それでも『忘れないことで永遠に一緒にいられる』ことを願ったお話。

人によってはBADENDなのかもしれない。けれど、昏斗と汐雫の二人にはハッピーエンドな終わり方。

王道な真っすぐなお話かもしれないけれど、すごい久々にこういうお話を読んだ気がします。
とても丁寧な演出で作られたからこそ、より響いたのもあるんだろうなとも思います。

とても面白かったです。
ありがとうございました。









(余談)
茉莉さん、すごい好きだったんですけどね……これは勝てません……。
相手は永遠ですからね……。茉莉さん……。(かける言葉がない