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merunoniaさんのパラノマサイト FILE23 本所七不思議の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
パラノマサイト FILE23 本所七不思議
ブランド
スクウェア・エニックス
得点
88
参照数
4097

一言コメント

スクウェア・エニックスによるホラーADV。大丈夫か……?と一抹の不安がありましたが、プレイしたらなんのその。群像劇による物語が次々に繋がり解明されていく真相、これでもかとノベルゲームならではのふんだんなギミックに脳汁がどっぱどぱで8時間読み進めるのが止まらないほど面白かったです。結末自体が賛否両論になりそうなのはありますが、上質なノベルゲーのエンタメ経験を味わえました。ミヲさんが一番大好きでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前半はネタバレなし
後半はネタバレありで感想


スクウェア・エニックスが贈る、本格謎解きホラーアドベンチャー
『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』

スクウェアがADVということで「大丈夫か……?」と一抹の不安を覚えるものですが、
結論から言いますと、プレイ中は脳汁どっぱどぱになるほど楽しかったです。
群像劇システムによる、各視点の一つ一つの手がかりが物語の真相に繋がっていく面白さや、ノベルゲームならではのギミックがこれでもかと盛沢山に詰め込みすぎた面白さが、最後まで飽きさせずに興奮する楽しさがありました。

他のADVで言うと、『428』や『自転車創業』のような、ノベルゲームにギミックが組み込まれたようなノベルゲームが好きな人は、絶対楽しめると思います。
最初に何気ない内容、設定、おまけかと思ってスルーしていた内容が、『そこで繋がるのか……そのためにそこにあったのかっ……!』と繋がっていく、拾っていく快感は脳内麻薬どぱどぱです。
ネタバレ厳禁ゲーでもあります。ぜひネタバレを踏む前にやるゲームです。
2000円以下でこれだけ楽しめるなら満足です。

steamの感想とかが一番参考になると思うので、気になる人は、そちらを参考にするといいと思います(以下URL)
https://store.steampowered.com/app/2106840/_FILE23/


以下は公式からあらすじ
──────────────────
実在する怪談「本所七不思議」の伝説――
《蘇りの秘術》をめぐって”呪い合い”が始まる。

ごく普通の会社員・興家彰吾は、友人の福永葉子とともに、深夜の錦糸堀公園で、地元では有名な怪談、《本所七不思議》について調べていた。
《蘇りの秘術》と関係するという葉子の話を半信半疑で聞き流していた興家だったが、
目の前で次々と奇妙なことが起こり始める‥‥。
時を同じくして、《本所七不思議》を追う人々がいた。
連続変死事件を追う刑事、クラスメイトの自殺事件の真相を求める女子高生、そして失った息子の復讐を誓う母親。
本所七不思議を中心にそれぞれの思惑が絡みあい、物語は凄惨な呪い合いへと発展していく。
──────────────────

あらすじからだと、呪い合いによるホラーバトル系かとも思いますが、ホラー要素よりもむしろ、ミステリー系です。
一人ひとりの登場人物の背景、真相が一つの事件に繋がっていき、最後までプレイしたとき、俯瞰して見える全貌が心地よくなる俯瞰ゲーです。
そのため、群像劇ゲーが好きならお勧めできます。
プレイ時間は8時間~10時間ほど。私は8時間15分でした。
手軽にできるのもおすすめだと思います。








以下、ネタバレありで感想。(未プレイの方はネタバレ厳禁ゲーなので注意です)
〇楽しかった所
〇賛否両論の所
〇まとめ
〇自分の脳汁ポイント(初見時備忘録)
で書いていきます。






〇楽しかった所

①ノベルゲームならではのギミック

自分がプレイしてて一番楽しかったのがこれです。読み進める中でのギミックがとても楽しかった。
自分自身が俯瞰(プレイヤー)視点だからこその面白さ満載なんですよね。
例えばですが、
・群像劇ならでは、別視点から手がかりを拾い、詰まった√に持ってくるシステム
 例えば、他√の登場人物を移動させて、他√の登場人物と合流させたり。
 他にも、蝶澤さんの脱出ゲーの所で、他√からヒントをもらってくる所とか。
 特にファクシミリは「ああぁ~~~」って発狂しました。
・持ち物の有効活用だったり。
 某序盤のライターを捨てる所とか、蝶澤さんの持ち物の有効活用とか。
・BGMの設定変更
 最初に呪い殺された後に、ヒントをもらってからのギミックに気付いた時はえっぐ……ってなりました。序盤のノベルゲー初心者用の説明かと思ったら、このためか……って気づいた時の脳汁がほんと出た。
 
 他にも、呪い殺すためのトリガーだったり等々、ギミックが豊富。
 今までのノベルゲームの歴史で培われたギミックが、強欲なほどに全部ぶち込まれたような豊富さが、もう楽しかったです。解けたときのそういうことかぁ~~~感がね、ほんと、脳汁どっぱどぱでした。
 




②群像劇システムによる物語が繋がる面白さ
次に楽しかったのが群像劇の醍醐味でした。
最初はただの呪い合いによる殺し合いだけのゲームかと思ったら、様々な事件の真相が明らかになっていく面白さが、読む手が止まらない一因でした。

・『根島事件』による女子生徒惨殺事件
・『志岐間誘拐事件』による春恵の息子であり警官幹部の息子誘拐殺人事件。
・『白石美智代の自殺』全身挫滅状態で発見された自殺とされた事件。
・『吉見肇』警官の変死体事件。
・『本初七不思議』江戸時代より伝わる7つの怪談と真相と「禄命簿」

これらの事件を背景にしながら各登場人物の背景が一つに繋がっていく心地よさと言ったらもう……『だから群像劇って面白い!』となる繋がる面白さがふんだんでした。

一見関係なさそうなただの殺人事件が黒魔術を信奉するがゆえに引き起こされた事件であったり、また最後の黒幕『葉子』が霊夜祭前に引き起こした事件であったり、警察に報復したいがための事件であったり、ひき逃げ事件等々。

特に最後のつながりで言えば、最後の札を取る謎解きでは、それぞれを時系列に並び替えることで、最後の結末に繋がっていたのが本当に興奮しました。





③『美智代と約子のお別れ』、『津詰とあやめの親子関係』といった登場人物たちの関係性

また、魅力的な登場人物たちの関係図も面白かった点です。
その中でも特に、『美智代と約子』の関係や、『津詰とあやめ』の親子ならではのやり取りはとても良かったです。

そもそも、約子の中に美智代が憑依していたっていう展開がまず一番衝撃だったのを覚えています。
校庭のど真ん中で呪い殺されている城之内先生を見て、「祭囃子を30秒聞かせてないのに死んでる……いつのまに……?」となったり、その後同じ死に方をした岩井であったり徐々に脳裏によぎっていく可能性が確信に変わっていくのがもうすごい楽しかった記憶です。
特に最高潮に「そういうことだったの!?」となったのは、案内人の【美智代は朝8時にどこにいたのか】という質問。2回くらい間違えて、もしかしてとなった瞬間に正解を当てた時の「そういう話だったのか!!」になった瞬間がもうたまらんでした。

といった衝撃が大きかった美智代と約子のお話でしたが、それ以上に良かったのは二人の関係性を描いた結末。
美智代の過去は凄惨で、暴力と虐待の上、誘拐を脅迫の上で実行せざるを得ない挙句、最後にはひき逃げというとても凄惨すぎる物。
それでも最後には、こっくりさんで再会をして、親友としてお別れを告げるお話なのが本当に素敵なんですよね。
このシーンにはしんみりしてしまいました。
最後の二人の別れを忘れないようにするために『セーブ』をすることで、行動で示すという粋な演出がもうもうホント最高に良かった。

また、終盤の『津詰とあやめ』の親と子ならではのやり取りも好きでした。
そもそもこの物語の原因となった一つに、あやめが『葛飾北斎を復活させたい』というでたらめな理由があります。しかしこれはそもそもあやめ自身が、自分が養子であることを知り、津詰との関係が疎遠になり、自分の心の拠り所が『浮世絵』にしかないほど追いつめられていたのが本当の原因でした。

こうした経緯もありながら呪い合う『父親と子』の最後を迎えるわけですが、ここで生きてくる『呪う条件』の『相手が嘘をつくかどうか』が「このために合ったのか~~~!」となるのがすごい良かった。
例え津詰にとってあやめが養子であったとしても、本当の子でなかったとしても、『お前は……正真正銘俺たちの娘だ』と。

呪いがあるのを承知の上で、子として愛していたのだと証明する姿がもう~~~好きでした。
最初に予想していた『殺人鬼 vs警察』ではなく、『父vs子』という構図もとても上手だったと思います。



以上のような関係性も、このゲームの良さの一つでしたが、シンプルに登場人物たちの魅力も面白さの一つでした。
例えば、頼りになりまくるミヲさん&約子さんコンビは便りになる安心感がとても良かったですし、刑事コンビは、ボケ&ツッコミの津詰&襟尾組は、常時和ませてくれる面白さ。特にこの4人組では、あやめの恋人疑惑の話でたじたじになる津詰さんに、影で隠れながら総ツッコミをする3人の姿だったりがとても好きです。

探偵()&人妻の、利飛太&春恵コンビは、春恵の「まぁ……プロタンってすごいのね……」とマダムでありながらも、少女のような素朴な反応のギャップがとても可愛かったりしましたし。
また、なんといっても春恵エンドの結末は、別のエンドに劣らないほどの出来栄えだったと思います。
あやめvs春恵からの、春恵さん「清算してくださる?」の妖艶な色気といったらもうもうもう……ゾクゾクが止まりませんでした。
レイジングループ(他作品失礼)でもそうですが、我が子を想うがゆえに鬼となる母親の魅力、凄み、憂いを帯びた表情まですべてに色気を携わった春恵さんというキャラがとても素敵でした。

ちなみに自分の推しキャラはミヲ様です。頼りになる霊能キャラ大好き。






〇賛否両論の所(TRUEエンドの【全部なかったことになる】結末)

以上で良かったところ述べたように、群像劇、ギミック、登場人物の魅力と面白さはほとんど最高なんですが、賛否両論にしてしまう所がTRUEエンドの結末だったと思います。
そもそもTRUEエンドは、最後の最後に謎として残されたセイメイとアシノの末裔による、【今回の事件をそもそもなかったことにする結末】でした。

ギミック自体はめちゃくちゃ好きなんですよね。
『最初の主人公である興家vsヒロインかと思われた葉子』
という二人に対して、序盤は
「興家さんは最初殺されるって案内人にネタバレされて、殺されることで読み手を引き込ませる立ち位置かぁ~」
ぐらいの軽い考えだったのが、七不思議の根源に繋がる、セイメイ&アシノの二人だった時のやられたかぁ~~~~というのはゾックゾクしました。

また、最初に入力させられた自分の名前を再度入力するギミックだったり、最後まで唯一回収してなかった鬼火が最後の最後で回収されたりなど、終わったかと思わせた上で更に回収してくる作り込みはすごい良かったです。
(この鬼火は自分は最後まで気になってたのですぐ発見できたけど、ヒントが少ないので、ちょっと難易度高かったと思ったりもした)
今思えば、あの鬼火、蝶澤さんが監禁されていた近くにもいたんですよね……。


こうした最後の最後に『興家と葉子』の2人を持ってくるのがゾクゾクして好きだったんですが、その後のもって行き方がちょっとモヤってしまいました……。

まず、結末で迎えたノーマルエンドは、
【最後の最後にアシノの末裔である葉子が黒幕として登場し、葉子がミヲさん達を殺してしまう】、というノーマルエンドという名のBADENDでした。

それに対してのTRUEエンドでは、ノーマルエンドの結末を回避するがゆえにセイメイの末裔である興家が、今回の呪いの夜を解除するため、葉子を殺すことこそが、本当の結末という物でした。
つまり最序盤に葉子が死んだのは、【セイメイの末裔の興家によるものだった】というのが心地いいどんでん返しの展開という驚きの物でした。葉子がいる限り幸せがあり得ないのは悲しいですが……これはこれでとても良く練られていたなぁと楽しかったです。

しかしこのTRUEエンドは、ノーマルエンドで語られた『あやめと津詰』の二人お話だったり、約子と美智代の二人のやり取り等が、【全部なかったことになる】終わり方なんですよね......。
あの感動した【セーブデータ】で行動を示す体験、プレイヤーとして導いたこれまでの道筋、あの津詰とあやめの二人の葛藤、それらの実体験が自分の手から離れて語られてしまう寂しさと言いますか。

ただ野放しではなくてフォローされるように、最後には、今まで明かされてきた真相がTRUEエンド側でも解明されるようにダイジェストで語られていきます。
こっくりさんにより美智代さんの真相は明かされ、誘拐事件の真相からひき逃げの真相まで、そして津詰とあやめの二人も少しずつよくなっていくんだろうなと予想されるような終わり方です。
ただこれらも、自分自身がノーマルエンドで見てきた体験や感動が上書きされてしまうような、きっとそうなるのだろうなというまるでちょっとした夢オチエンドのようなもやる感があるんですよね……。
あれだけ脳汁でっぱなしの、感動した体験を自分で積み上げた物が全部上書きされてしまう寂しさ。


本当にプレイし終えた後でも、構成はすごい良く練られてたと思うんです。
でもだからこそ、こうノーマルエンドで積み上げてきた、語られてきた物を最後まで丁寧に扱って欲しかったなって、最後の最後の味気なさを覚えてしまったのがちょっともったいなかったなというのも正直な感想でした。

しかし、今振り返ればこの終わり方も、【プレイヤーの意思=セイメイの意識】から解放されたがゆえに、【本当の登場人物たちだけのお話】として語られるという妙なお話としては、俯瞰している自分だからこそ味わえる唯一の楽しさもあり、そこの一つの受け入れ方次第とも思います。
だからこそこのなんとも言えない気持ちも、ある意味ひとつの作品の魅力なのかもしれません。
ただやはり寂しいものは寂しいという感想も実際あったり……。






〇まとめ
何の気もなくやってみるかと思ってプレイしたら、ここまで熱中するとは思いませんでした。8時間くらいぶっ通しで遊んでました。
その間、脳汁が出ては先が気になり、読み進めるのが止まらないほど面白かったです。
何より序盤から魅せ方が本当に上手いんですよね。
次々と明かされる真相、呪い合いに緊迫感、謎(ギミック)が解けた時の快感、各視点ごとの交差する展開の面白さ、それらが全て詰まったノベルゲームとしての魅力がもう贅沢なほどに詰まった作品だと改めて思います。
お世辞抜きで最後まで読み進めるのが止まらない作品は久しぶりだったと思います。

だからこそ、めっちゃくちゃに皆さんにお勧めしたいところではあるんですけども、最後の結末が賛否両論に思えてしまい、おススメし辛い……というのもあったりです。
最終的な自分の中での感想は、9割がもう最高に楽しかったので、プレイして良かった……という感想に尽きるのですが、その最後の1割の結末部分が人によっては、このゲームの感想を左右するほどだとも思えるので、難しい作品だと思います。
正直、そこでやりやがった……最後の最後にこれは人を選んじゃうよ……ってもにゃった後味もあります。

しかしそれらがあったとしても、2000円以下でこのクオリティは破格だとも思います。それくらい楽しめました。
最後の『また次回お会いしましょう』という作品中の言葉がとても嬉しいほど、次回作に期待してしまいます。
またミヲさんをはじめ、魅力的な登場人物に出会い、またギミックに興奮し読み進めるのが止まらない体験をしたいと思います。
次回作が出たら絶対買います。
以上です。ありがとうございました。







以下は、自分がプレイした時の脳汁ポイント(蛇足)です。
〇自分の面白かったり脳汁ポイント(初見時備忘録)

・まず導入が上手い。案内人のノベルゲーム初心者への解説が始まったな?と思ってからの公園での呪い、そこから登場人物たちへの呪い合い、各呪いの条件を探るお話からがもうハマりまくり。
・BGMを消す演出があぁぁぁ~~~~~~となりました。
 案内人にノベルゲーム初心者用の説明で、『聞きたくない声を消すことが出来ますよ』と言われて、「過激な言い方だな……ww」と思っていたら、このためにあったんかぁ~~~~って時はやられた。
・案内人の『今まで殺した人数1人』も最後に分かるこの人数。
 本当の意味で『私』が殺してたんだなって分かる瞬間ね。ほんと。
 興家自身の意志で殺していたのは一人だったのかと。
・(脳汁じゃないけど)刑事BGMが太陽にほえろみたいなのが笑った
・女子高生二人組を調査の段階で高校に配置することで、刑事組の話が進む所は
 428じゃん~~~~~~~っって笑みになった。
・白石美智代が朝8時にどこにいた?と案内人に問われた所。
 3回目で気づいて、もしかして、なんで、駄菓子屋、だってあそこには、あっあっあっそういうこと!?ってリアルに喘いだ。
・蝶澤さん視点だけ最初から脱出ゲームで笑ったけれど、色んな√からヒントを持ってくるのが面白かった。ファクシミリだけ若干苦戦して、プロタン視点で見つけた時は「そこにあったんかーーーーー!!!」って叫んだ。
・こっくりさん演出は感動するよね……。自分無意識でセーブをしてたので、行動で示せって言われて、すぐにもう一回セーブすることになった。ほんと粋な演出だったと思う。
・あやめさんVS春恵さん戦の探り合いはゾクゾクした。大量の選択肢の演出もとてもゾクゾクした。
・札の順番当てが一番難しかった。3回目くらいで、仕組みには気付いたけれど、最初の人を勘違いしてたせいでずっと当てられなかった……。当てれたとき嬉しかった(ヒント出まくりの模様)
・最後の最後。案内人からの最後のテスト。自分の名前を入力させた理由はそこにあったのか~~~~~でぞくぞくした。
札当ての時もそうだったけれど、TIPS機能が補足だけではなくて、謎解きの資料として最後まで活用されている(特に七不思議関連)のが本当に楽しかった。