百合&ミステリーホラーADVですが、何よりも3章からの伏線回収としてすごい面白かったなぁ。百合要素メインではないものの、少女たちの不器用な一途な想いと物語の明かされていく真相とのバランスがとても良くて楽しかったです。海原望氏の作品では一番好きかもしれない。またとなけめ。
今回のエヴァ―メイデンは、大石竜子氏&海原望氏タッグの、徒花異譚やフェアレクを思い出すタッグでの、『百合ミスティックホラーADV』
ライアーソフトの百合作品と言えば、『屋上の百合霊さん』や『サフィズムの舷窓』が思いつくところ。
屋上の百合霊さんでは、群青劇による様々な恋愛模様を楽しむ作品でしたし、サフィズムの舷窓では、アンリを軸にした、ライアー初期頃特有の、癖がありすぎるハーレム模様が楽しい作品でありました。
打って変わって今回のエヴァ―メイデンでは、確かに少女たちだけの学園を舞台ではあるものの、百合要素というよりかは、『ミステリーホラーADV』の要素が強め。
むしろ、過去作品でいう、フェアリーテイルレクイエム、徒花異譚、バタフライシーカーといった、ホラーチックな序盤と、後半になるにつれ謎が解明されていく伏線回収として今回も面白かったです。
以下
①伏線回収としての面白さ
②百合要素としての面白さ
にわけて感想
①伏線回収としての面白さ
序盤~2章までは、不可思議な現象やホラーとしての要素が強めでした。
不気味な大いなる乙女像や、夜になると徘徊する大いなる乙女。
造化術、智見種、学習装置。
現代とはねじ曲がった価値観。
プエラリウムの七不思議。メイデンコルセット。
少女たちの暴走と、ルクの夜の姿。白い欠片。
主人公であるアルエットが裸のまま校門の前に現れ。
学園の鐘が鳴り響く。
その後のクレマチスの乙女から、マコー&パヴォ―ネの悲劇まで……。
少女たちの想いのすれ違いから、マコーがいなくなった後のパヴォ―ネの姿からもう、プレイしていた時には、「救いはないのですか……」と辛かった……。
しかし、3章から一気に謎が提示されて解明されて面白くなるのがすごい良かったです。
キャナリー&ロビンの二人が明かしていく地下の謎。
メイデンコルセットによって不要情報として阻害する仕組みと智見種と。
かつての地下の崩落事故。夢=過去と記憶がなぜないのかという謎と。
さらに4章からは、今までの答え合わせで、小さな伏線まで回収されていくのがとても良かった。
ネヴァーメイデンとアルヴェラ。エヴァ―メイデンとルク。
カルロと学園七不思議の真相。
なぜ性欲を封じていたメイデンコルセットの役割が、現在では変わったのか。
なぜ不要情報として今まで完璧に処理できていた今ほころびが出てきたのか。
どうして鐘が鳴るのか。
ルクの行動、抱きしめ、キスして、婚礼ドレスを着て突き落とした真意は。
これらが全部解明されていくのが一番読んでて面白かったなと思います。
特に機械人形がなぁやられたなぁという。
アドラー先生=機械人形までは何となくそうだろうなぁとは思っていたんですけども、アルエットが予想外だったなぁという。
作中での、ルクの行動の全てが、アルエットを機械人形として破壊しようとする行動だったというのが一番「そうきたかぁ!」となりました。
今思えば、アルエットが機械人形だからこその描写がけっこう点在してたりもしてて、上手でしたね。
またこうした伏線回収部分もありながら、これらに登場人物たちの行動理念や感情が上手に合っていてより楽しかったんですよね。
すごいここが上手なのは、さすが海原望氏だったなぁ。
今までの作品に「フェアリーテイルレクイエム」や、「徒花異譚」、「バタフライシーカー」等ありますが、伏線回収という面白さでは今までで一番好きでした。
②百合要素としての面白さ
伏線回収としての面白さもあったんですけど、百合要素としても良かったですね。不器用な少女たちの恋のすれ違い模様があったからこその悲劇や物語だったと思います。
〇キャナリー&ロビン
特に好きだったのは、キャナリー&ロビンの組み合わせでした。
キャナリー&ロビンの話は、主にプエラリウムからの脱出計画がメインになってきますが、お互いにお互いを想うがゆえにすれ違っていくのが本当に好き。
キャナリーはロビンと一緒に脱出することを拒否することですれ違うけれど、それはプエラリウムに残ってロビンを支援するためで。
逆にロビンがあえてキャナリーをふるのは、キャナリーのことを想っての演技で。
こうした二人のすれ違いを埋めるための、機械鳥の演出がね……キャナリーの歌声の後のロビンの告白がなんて二人らしいのか……すごい好きでした。
〇ルク&アルエット
また、この物語のメインヒロインの一人でもあるルク。彼女も本当に不器用。
クールで中央寄りな無感情に見えて、実はアルエットを見かけてしまうたびに動揺して鐘を鳴らしてしまう姿とか。
最後、自分がアルエットを殺していないと、だれも殺していないという事実に、無邪気な笑顔になる姿とか。
エクストラシナリオで、自分も人間らしくアルエットのことを求める姿とか。
ただルク&アルエットのペアは、アルエットの姿もこれまた好きなんですよね……。。
ルクがエヴァ―メイデンとして、心を殺してく姿を悲痛の姿見て『私のわがまま』として、アルエットの意志でルクに人間の心を取り戻そうとする姿がすごい好き。
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『私は、私の願いを叶える。ルクをエヴァ―メイデンにはさせないわ。
こっちの世界に引きずりこむの!』
『あなたが好きだから、一緒にいたいの』
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ルクほど不器用なヒロインだからこそ、アルエットの強引さがよく似合う。
まさしくメインヒロインはルクだったと思います。
〇アヴェルラ
けれどそれに引けを取らないほどの魅力を持っていたのがアヴェルラでした。
彼女の魅力も本当にすごかった。
特に彼女のことが理解できるようになるのは、屋上でルクの思い通りにアルエットが消えることを決めた分岐後。
その後のアルヴェラの回想シーンからがね……卑怯でした。
最初はアルエットのことも嫌っていたはずなのに。
勘違いもあって、自分から罰を与えるほど憎かったアルエットのことを、徐々に棘すらも受け入れてくれたアルエットに惹かれていくアルヴェラ。
候補生の群れの中からたやすくアルエットの姿を見出すことが出来てしまう描写や、惹かれているからこそ、アルエットがルクの事を好いていることが分かってしまう描写。
エヴァ―メイデンには決してなれないと、死ぬことすら受け入れて、自暴自棄気味にネヴァーメイデンになった彼女だったのに。アルエットのことを忘れてしまうことだけは許されないと、ルクに代わってエヴァ―メイデンになるしかないとする姿。
その全ての行動にアルエット中心の行動だったと思うと、もうなんて本当に不器用な、一途な想いなのかという。
そしてアヴェルラendに分岐した後の彼女の姿……、エヴァ―メイデンになり、機械人形としてアルエットを生み出した後の。
その全てが現れているのが、アルエット(機械人形)とアルヴェラのHシーンでした。
アルエットとのHシーンで、あえて彼女が
「ゲームをしましょう。お人形のように振る舞えなかったら、アルエットの負け」と提示したシーン。
その後、お人形らしく振る舞えないアルエットの姿を見て
『全く、何ひとつなってないじゃない。……しょうがないわね』
と嬉しそうな声で語るアヴェルラの姿。
それは、アルエットが人形ではないと思いたいからアヴェルラの口から出てしまった言葉。
その後にご褒美として
『命令されてばかりのあなたには、望めるべくもない特権でしょう。思う存分行使するといいわ』
とおねだりをしても良いと語り掛けるアヴェルラの姿。
それは、アルエットは自分が生み出した存在ではなくて自分を好いてくれると願ったからの提案。
その後の、アルエットのセリフ
『ほんとは……意地悪なアヴェルラのほうが、好き』
と話す姿。
それに戸惑うアヴェルラ。
それは、今のアルエットは【機械人形として自分の理想としたアルエット】を写す鏡で、過去にアヴェルラが抱いた、『意地悪な棘の自分すらも受け入れてくれたこと嬉しかった恋心』を体現してしまった証明で。
そして、首を絞めることで、本当に人間のように生命の鼓動を感じようとするアヴェルラ。
『アルエット……愛してるわ。あなたを愛してる……』
と首を絞めながら語るアヴェルラ。
『死ぬかと思ったわ』というアルエットのセリフに、『そう、死ぬかと思ったのね』と感慨深そうにつぶやくアヴェルラ。
それは、生きている、人形ではないと自覚したいから。
同時にまがい物である人形と自覚している自分が壊してしまいそうになる狂気。
本当に濃密なHシーンだった。人形じゃない、でも人形にしてしまったという苦悩。
自分が作り出したある意味『人形』であるアルエットは、自分の理想とする振る舞いをすることがわかってしまう。けれど、まがい物の人形ではなくて、アルエット自身が傍にいてくれると願いたいからこその言動、行動だと思うと、なんて彼女は不器用で、一途だろうかと思うと。
アヴェルラさんがどれだけ、アルエットの事を想っていて、同時に、人形にしてしまった苦悩と、これで良かったのだという想いのせめぎ合いが永遠に続いていくのだろうと感じられる終わり方。
これはアヴェルラさんにとってハッピーエンドか、マリーバッドエンドか。
改めてルクの場合と比較して考えてみると、カルロが生み出した機械人形(アルエット)は、アルエットの生身の姿から生み出しているので、彼女の言葉は彼女自身の想いであると思われます。
だから、ルクの勘違いである
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自分がアルエットのことを想うがゆえに『ルク自身がアルエットを機械人形として生み出してしまった、全てのアルエットの行動はルクの願望でしかない』
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だとして、彼女は苛まれてしまうわけですが、実はそうではなかったとしてハッピーエンドに繋がっていきました。
しかし、アルヴェラエンドの場合は、完全に自分がエヴァ―メイデンとして、自分の理想通りにアルエットのことを生み出してしまう。
この二人の終わり方の差が、このなんともしがたい感想です。
ルクエンドのTRUEでは、アルヴェラが復活するかもということがあったと思いますが、彼女が復活したらどうなるのか。パヴォ―ネの集の考え方があったように、今度こそは、素直に3人で幸せになってほしいなぁと思いつつ。
〇まとめ
改めて、感想を書いて面白かったなぁと素直に思います。
何よりバランスが良かったですね。
伏線回収としての面白さと、登場人物たちの不器用な感情の揺れ動きと。
展開もテンポよく、テキストも読みやすく丁寧で。
やはり海原望さんの作品は楽しい。大石竜子さんの絵と雰囲気づくりと、さっぽろももこさんはじめとするBGM作りが素晴らしい。
また声優陣も、特に今回は野月まひるさんが良かったなぁと。
アドラー先生&パヴォ―ネの1人2役がお見事。
ライアーソフトの作品は、かわしまりのさん&野月まひるさんが絶対出演されるのが良さの一つだと思うわけですが、今回もすばらでした。
プレイして良かったと満足です。
次の海原望さんの作品もぜひ買ってプレイしたいですと思わせてくれる作品でした。
ありがとうございました。