まさしく御伽噺でした。日本昔話を題材にした物語は、大石竜子氏、さっぽろももこ氏、松本慎一郎氏、海原望氏によって、日本の四季を表すように美麗に鮮やかに、そして御伽噺ならではの不気味さ奇妙さを同時に表現させながら、切なさや幸せさ等、日本昔話を読み終わった後のような様々な感情を思い出させてくれるお話でした。同時に『ノベルゲームの面白さ』を思い出させてくれるようなお話でもあったと思います。TRUEエンドはとても大好き。ライアーらしい演出も含め、素敵なお話でした。
前半はネタバレなし(微妙にあるかも)の感想、後半はネタバレあり
そして、二つのエンドについての感想です。
徒花異譚でまず何よりも素敵だったのが作品を彩る雰囲気でした。
大石先生による、まるで和紙に描かれた絵巻物の御伽噺を読んでいるかのような美麗さ。
さっぽろももこ氏、松本慎一郎氏によって彩られた、和風を基調とした音楽は、日本の四季等の美しさを感じさせてくれるような心地よさ。
そして海原望氏によって描かれた物語は、前半は日本昔話を読んでいるかのような表の心地よさと、昔話特有の残酷さや奇妙さといった不気味さの両者が混濁しながらも、それでいてなぜか読んでいて居心地が良いような物語。後半には、ドラマティックな展開をさせながらも、どちらが正しいのか、今までの物語がつながりながらも、登場人物たちの選び取る展開に思いを馳せるような、儚い物語に没入させてくれました。
プレイをし終えてこの感想を読んでくださる方々も、きっと同じように徒花異譚の美麗さを味わったのではないでしょうか。私自身魅了されて、もうプレイし終えた方と、語り合いたいくらいには魅了されました。
他の媒体と比較してノベルゲームの良さの一つでよく語られるのが、『テキスト・音・スチル』の3つを伴って楽しむことができることだとよく言われますが、まさしくこの作品はそれらに魅了されたと実感します。
ライアーソフトをプレイしたことがある方はきっと気に入ると思います。
特にフェアリーテイルレクイエム、こちらをプレイされた方はきっと気にいるのではないでしょうか。こちらの作品も、『不思議の国のアリス』等の童話を基調にしながら、それらの残酷さ、少女とR-18要素を含ませた気味悪さを感じさせながらも、表現しきる作品で素敵でしたが、今作の徒花異譚もそれらの奇妙さを演じながらも、一つの御伽噺を読んだような感情は素敵でした。
以下からはネタバレありの感想です。
最初に、私にとっての「徒花異譚」の面白さのもう一つ
後半は、『夢・現』各ルートについての感想(備忘録)
私にとってさらに面白かったのが、『物語を読むとは、読み手である自分を映し出すもの』と同時に、『ノベルゲームとは自分で選択することによって結末を見せてくれる』楽しさを思い出させてくれたこと。
今作では、日本昔話を登場人物と一緒に読み進めるわけですが、彼らの考え方と一緒に読み進めるのが何よりも面白かったんです。
私にとって、はなさかじいさんの物語に、『死ぬということ』について考えさせられたことはありませんでしたし、浦島太郎の物語に、乙姫はなぜ浦島太郎を離さなかったのか、だったり、瓜子姫とあまのじゃくについては物語を知らなかったのもありますが、一つの考え方として面白かったんですよね。
もちろん、話の裏としては、これらの物語に白姫である彼女の心の奥底にある思いが反映させられていたからこそのお話だったというのもありますが、何と言いますか、物語とは読み手である人の背景によってどのような姿にでもなるという面白さというか。
当たり前のことなんですけど、物語の受け取り方は読み手によって千差万別だからこそ面白いんだってことを実感させてくれたのが、私にとって「徒花異譚」の面白さの一つです。
だから、人によって『この物語はこうであったらいいのに』という願いも千差万別なのがあって。ここで更によかったのが繋げて『ノベルゲームは自分で選択することができる』という面白さを同時に教えてくれたことでした。
昔話一つ一つの選択肢では、彼らはどのように感じたのかというのを考えさせてくれたし、そして最後の『夢・現』の選択肢では、どちらが彼女たちにとってどのような影響を与えるのか、どちらを彼女は選ぶだろうか、そしてそれらはどちらもどのような展開を見せてくれるのだろうか。これらを期待しながらも、自分で決めなければいけないことがノベルゲームの面白さだったなって思い出させてくれたのが、私にとってのもう一つの「徒花異譚」の面白さの一つでした。
選択肢とは基本的にはエンディングを迎えるうえで、攻略キャラを決めるうえでのツールの一つでもあると同時に、世界観に没入させてくれたうえでの考えさせてくれる選択肢は面白いと、そう感じます。
次に、最後の『夢・現』のそれぞれのエンディングについて。
まさしく二つは対局な終わり方でしたよね。
夢のままで終わるのか、現のままで終わるのか。
どちらが好みかと言われると断然『現』なんですが、『夢』もメリーバッドエンドのように、読み手の受け取り方によって、この物語は『幸福』だったのか、それとも『不幸』だったのかと考えさせてくれるお話で、ある意味御伽噺の一つのようで好きです。
以下にそれぞれの感想。
〇夢エンドについて
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確かに夢は虚しいかもしれない。
いくら楽しい夢の中で遊びに興じても、弱りはてて死ぬという現実は変えられない。
(……だとしても。夢の中でなら、またあなたに会える)
嘘でもいい。まぼろしでもいい。
わたしはただ、あなたにもう一度会いたい
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夢エンドの終わり方は正直私にとって、とても美麗すぎてとてもグロいと感じます。
白姫である彼女は夢の中で黒筆や御伽噺の登場人物たちといつまでも幸せに暮らすという終わり方。彼女はもう死という概念におびえることもなく、黒筆と、御伽噺の登場人物たちと幸せに暮らしていく終わり方。
白姫の、現実に戻る苦しみ怖さを考えれば考えるほど、その選択自体に彼女を責めるものはなく、むしろ心地よい御伽噺を黒筆と駆け巡りたいという想いも、これまた共感できるものだと感じます。
また、この終わり方で印象深いと思えるのは、書生の在り方でした。
そもそも、現実に戻らず徒花郷にずっといてほしいと願ったのは、他ならぬ書生であって、それはもう死という痛みにおびえずにいてほしいという彼の優しさで。
病に伏した彼女の横で、彼女の希望になるように物語を読み聞かせる姿には心に来るものがありました。
そしてそれこそ彼の望み通りの終わり方であり、かつ彼女が心穏やかな顔で亡くなった後でも、物語をつづることで、徒花郷で二人共に永遠を過ごす終わり方は、彼女の想いを理解しているがゆえであり、切なく儚くもありながら、とても美麗でした。
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──この一瞬が永遠に続けばいい。
ふと、そんな思いが白姫の胸を突く。
──そう。
この一瞬を永遠に引き延ばすのは、実にたやすいことだ。
ただ単に、心から望めばいいのだから。
黒筆「いつものように、絵草子を読もう。読んでも読んでもきりがないからな」
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でもだからこそ、あの最後のCG、徒花郷で桜の木の下で二人幸せそうな笑顔を見て、あぁこれも幸せの一つの形なんだなと思わせたところで、書生の涙の姿がもうとてもつらい。
書生は表向きには、彼女が安らかでいてほしいと願うがゆえに、彼女を思い、徒花郷を描き出す。御伽噺が彼女の心を救うと知っているから。
しかしそれは同時に、もう一度彼女に会いたいと願う気持ちと相反するものであって。
まるで、瓜子姫の話であったあまのじゃくのようですよね。
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『彼女は最後まで、枕元にいる私に気がづきませんでした。私も、青白い瞼の奥にしまわれた、あの世界一美しい瞳を、再び見ることは叶いませんでした。
けれど、夢の中では、確かに、私の声に影響された私自身が、寄り添いつづけたはずです。
彼女の死に顔は穏やかでした。最後に呟いた言葉の通り、その口元は幸せそうに笑んでいました』
そう言う彼こそ、満たされた優しい笑みを浮かべている。
(中略)
『彼女は、この徒花異譚の世界で、今も遊んでいます。健やかな身体で、何にも邪魔されず、自由に駆け回っています』
(中略)
『そう。私の魂の半分も、未だ徒花郷にあるのですよ』
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本当に儚くてつらい。何よりも、これらのお話で、登場人物たちが幸せそうでハッピーエンドのように思えるのが辛い。これもまた一つ心地よさを感じてしまう自分が辛い。だぁら私にとって『グロい』
この心地よさと辛さの一体の奇妙さも、ほんとまるで一つの御伽噺のようなんですよね。
でも、やっぱりすべてを見渡せる読み手側としては、誰もが本当の意味で幸せになれる『ハッピーエンド』を見たいと思うんですよね。
〇現エンド
こうした感想を抱きながら、続いて見た現エンドは、もう私にとって救済でした。
やっぱりハッピーエンドなんですよね。特に卑怯なのが、最後の電車の語りでの、『享年〇〇歳』ってところがもうね!!!ほんと。
肩の力が一瞬抜けるといいますか、一瞬ポカーンとなった後で、あぁ~~~~~~~~そういうことなんだなぁ~~~~~~~~~って一気に安堵する感覚。
もう憎たらしいことしてくれるなぁって笑顔になりながら読み進めたのが一番印象深いです。
改めて現エンドを振り返ると、夢ではなく、現実に戻る選択をしたのがこの終わり方でした。
何がいいかって、白姫が現実に戻りたいと思わせてくれた理由が何よりも好きです。
確かに、白姫にとって『死の概念』とは物語中に見せてくれたようにとてつもなく恐ろしく、そして御伽噺の居心地の良さは何にも代えがたいもので。
でも何もかもを知ってしまった後、かつての過去である思い出をなくしたくないから。
っていう決断がもう何よりも好き。
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(……だとしても。夢に逃げれば、わたしはあなたの思い出すらも失うことになる。
あなたとの思い出はしあわせなものばかりではありません。時には、思い返すうちに、胸が張り裂けそうにもなります。
でも──それでもいい。忘れたくないのです)
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そしてまた夢から現実へ戻る過程がまたいいんですよね。
──花──
はなさかじいさんであった祖父からは、「人は死したところで終わるわけではない。その思いは、形を変えて生き続ける」という祖父の現実での思い出が形になって示してくれて。
──光──
浦島太郎の乙姫であった家庭教師の先生からは「そして、命が尽きるまで戦いなさい。一分一秒でも長く、生きるのよ」という、先生の現実での思い出が形になって示してくれて。
──鳥──
瓜子姫であった妹からは、「……もうはぐれないで。お願い」という、迷子である自分への妹の優しさの思い出が形になって示してくれて。
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そして最後には、桃太郎であるかつての婚約者が、奇妙な縁であり似た者同士でもある彼との思い出が形になって示してくれて。
かつての自分たちが巡ってきたおとぎ話が、最後に彼女を現実世界に戻るために後押しする。それぞれの物語がつながる気持ちよさ。
そして最後にたどり着くときに彼女を死の概念から救ってくれた、胸に咲いた花。それは、『現』を導いてくれた最後の一文字の『恋』と同じ色。
御伽噺の夢の中は居心地はいいけれど、でもその夢の中は、かつての白姫が現実の思い出があったからこそで。そして、彼女が最後に『現実に戻りたい』と思わせてくれたものは、『恋』という感情。
そして気付くのが、徒花郷は、黒筆とともに作り上げた物語であると同時に、現である『書生』が隣で語ってくれたからこそ作り上げられた物語だったのだと。
それは、かつての二人の秘密基地で、彼女たちが会えなくなる前に『約束したとおりに』
かつての約束を果たすように。あの頃のように。
彼女を導いたのは、恋。
恋に気付いた白姫さんには、もう死の概念の痛さなどなくて。
現に戻りたい、彼に会いたいという彼女の姿がなんてまぶしかったことか。
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(書生)
おれは……わかる、よな。
戻ってきたんだ。きみに会いたくて。
どうすればいいか、必死に考えて……時間をかけて。
(少女)
……おかえりなさい。
わ、たしも、もどって……きました。
あなた、だと、気づけたから。徒花郷を、抜け出して……。
(書生)
ああ。よく帰ってきた。
……おかえり。
そしてふたりは、胸の奥でひっそりと開いた徒花を、ついに手渡しあったのだった。
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二人の間でそれぞれ作り上げられた物語、徒花。それらを通わすことができた終わり方。
まさしく純愛の、恋物語。それが『徒花異譚』でした。
あぁなんて素敵な物語なのか。恋物語はハッピーエンドが本当に好きなんです。
そして極めつけで私が一番好きなフレーズがあります。
それは、絵草子で見れる『徒花異譚・現』の言葉。
『このお話は、結果として、ありふれた人たちのありふれた一生のお話となりました。
けれど、ある意味ではやはり御伽話なのでしょう。
何故なら、お話には欠かせない奇跡というものが起こったからです。
(中略)
そうして、まるきり物語じみた奇跡を起こしたふたりは、末永いとまではいえないかもしれませんが、命の尽きる限り、仲むつまじく幸せに過ごしました。
──いいえ。
命が尽きてもなお、ふたりは仲むつまじく幸せに寄り添いつづけました。
めでたし、めでたし。』
本当にあぁよかったなぁと思わせてくれました。
ハッピーエンドで本当に良かった。
だってこれは御伽話だから。
乙姫の言葉「ありがとうね。馬鹿馬鹿しいくらい幸せな結末を与えてくれて」
を思い出します。
同時にライアーソフトにスタッフ陣に同じ言葉を言いたいです。
〇最後に
面白かった。本当に濃密な時間でした。
最初に述べたように、物語の没入するようなBGMをはじめとした世界観から投げかけられた選択肢には、自分が登場人物の一人になったように読ませてくれる展開。
まさにノベルゲームの面白さが詰まった作品だったと思います。
そして白姫も好きだけど、書生さんの後からわかる魅力がもう。
白姫のために、彼女と結ばれたいと思うがゆえに努力して、そしていざ会った時には病に伏していた彼女のために、彼女が好きだったおとぎ話を語る。本当は彼女に会いたいのに、それよりも彼女には安らかでいてほしいという優しさがもう。
そして夢エンドでの彼女を思う姿と、現の幸せそうなすがたがもうもうもう。
たまらなく好き。
やっぱり純愛物は大好きで、だからこそみんな幸せになってほしいっていう願いを真っ向からかなえてくれたことに感謝しつつ。
また同じような制作スタッフで他作品もぜひ見てみたいと感じました。
昔のライアーみたいな作品も好きですが、こういった作品も面白いですね。
ありがとうございました。