『ボクは地球を救わなくちゃいけないんだ──』『──地球にわたしも含まれますか……?』ロボットの少女と少年の物語。物語を読み終えた後、読み始めたときから今までを見返した清涼さが駆け巡るような物語でした。何よりもアトリに関わることで主人公が変わっていくのが一番好きでした。
アニプレックスから発売されたノベルゲーム。
「徒花異譚」がとてもよかったので、こちらも一緒にプレイしました。
方向性は違うものの、こちらはまた別の方向性で良いノベルゲームでしたね。
夏の空、廃墟、沈みゆく世界。でも決して悲観的ではなくて、夏らしい明るさまぶしさはあって。
退廃が進む世界観で、少年がロボットの少女を歩むことで変わっていく物語。
清涼さがあるような、夏らしい物語でした。
前半に、ATRIの作品自体の感想。
後半に、徒花異譚とATRIの両作品を読み終えて、の感想です。
まず何よりも良かったのは、やはりタイトルにもなっているアトリちゃんの魅力でしたね。赤尾ひかるさんが演じるアトリちゃんのセリフ一つ一つが本当に可愛らしくて。
「ふっふっふー!」だったり、「カニー!!」だったり、「ふんす!」だったりがいつも和ませてくれる可愛さでしたよね。
また、周りのキャラみんなも素敵なキャラが多いんですよね。水菜萌ちゃんだったり、竜司やキャサリン先生、凜々花と。
特に竜司の相棒さや凜々花ちゃんの純粋さにはもうすごい刺さりました。保健体育の話がもう最高に好き……。
同ライター作品の見上げてだったりも思いましたが、本当に優しい世界で。
この良さがまず、この作品をはじめるにあたってとても読んでいて楽しくさせてくれる部分でした。
また同時にビジュアル面がまたとても美麗でしたよね。
夏らしい物語にマッチした、夕焼け、夜空、水辺と、物語を彩る一枚一枚のスチル。
何よりも、色の鮮やかさと光の明暗の美しさがもう本当にすごかったですよね。
徒花異譚では、日本昔話を題材にしたお話もあり、和紙を感じさせてくれるスチルも素敵でしたが、ATRIでは光の明暗が美しさを彩ってくれて、今思い起こせるほどこちらも素敵でした。
ある意味よくも悪くも、雰囲気に乗っかって進む作品だったと思います。
なので私にとって今作品は考えさせられるSF作品というよりかは、キャラに愛着を持ちながら、主人公たちの姿を見ていく青春のお話でした。
以下からはネタバレ含んで感想を記載していきます。
こうした上記の内容があって、世界観の構成さは素敵でした。
その後、アトリと関わる中で、前半で主人公が変わっていき、そして後半にアトリの真実に気付きながら物語が進むわけですが……。
私が何よりも印象深かったのが、『アトリと出会って変わっていく主人公の姿』でした。
主人公はアトリと出会うことで、ひねくれていたような性格からどんどん素直になっていく前半部分、話のきっかけとなる『学校での発電機製作』のお話はとても好きです。
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水菜萌「……町はもうダメなんだって思ってたの。人もどんどんいなくなって、学校も廃校になって……。大人たちもみんな諦めてて、学校の事も真剣には考えてくれなくて……」
竜司「ああ……。俺たちは所詮、大人の言いなり。自分たちで何かを変える力なんかないって思ってた」
(中略)
竜司「俺たちだけでできたんだ」
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竜司は『自分たちで何かを変える力なんてないって思ってた』と言ったが、俺も同じだったんだ。でもできた。小さな事だが、何かを変えられると気付かされた。
だからだろう、今の俺はこう答える。
「面白そうだな、やってみよう」
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今まで過去の事件から、過去ばかりを積み重ねてきた主人公は、どうせ勉強しても無駄だと、自分には地球は救えないと嘆く姿から、アトリをはじめ周りのみんなによって変わっていく姿。王道ながらとても好きです。
本当に優しい世界だと、安心したのは今でも覚えています。
こうした過程を経て物語が進むわけですが、何よりも刺さったのが
『ボクは地球を救わなくちゃいけないんだ──』という言葉の意味合いです。
この言葉は、かつてアトリに最初出会った幼少時代の質問。
かつて過去に囚われた主人公にとって『ボクは地球を救わなくちゃいけないんだ──』とは、自分を救いたいがゆえの言葉でした。
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『ボクは地球を救わなくちゃいけないんだ──
でないと……ボクが救われない』
ボクが可哀想すぎる。
父は俺を捨てたんじゃない。
地球を救わないと、俺も救われないから。
だから仕方なく、俺に逢いにこないんだ。
ボクは可哀想なんかじゃない。
だったら自分の手で地球を救えばいい。
それが、自分自身の救いになる。
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父親に見捨てられたのは、地球を救わないと、自分も結果的に救われないから、地球を優先しているのは当然なんだと。自分に言い聞かせるための言葉でした。
そしてアトリの言葉『『地球にわたしも含まれますか?』
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『何が君の救いになるの?』
『……喜びを教えてください。わたしが喜ぶ事ができたら、マスターは救われます』
『ねえ、笑って見せてよ。人は喜びを得たとき、笑うものだろう?じゃあ笑えるなら、喜びを得た事になる』
その瞬間、今まで知らなかった感情が胸に湧き起こった。
不思議な昂ぶり。もっともっと生きたいと切実に願う生命の叫び。
生まれてはじめて芽吹いた『恋する』気持ち。
重くまとわりつく絶望の霧が、一条の目映い光によって霧散していった
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アトリにとって、この質問は、かつての過去の悲しみから救われたいと、喜びの感情を理解できなかったがゆえに、知りたいと願うがゆえの言葉でした。
お互いに過去があるがゆえの受け答えだったのは、すべての真相がわかった後だからわかる掛け合い。
こうしたやり取りも好きでしたが、何よりもすべてが理解した後に最後、もう一度同じ掛け合いをするんですよね。
それは44日目の、最後の掛け合い。
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「いつか必ず逢いに来る。地球を救ったら」
「……地球にわたしも含まれますか?」
『俺にとっては、おまえが地球の中心だ』
「……抽象的な概念ですね。
でも、今のわたしになら理解できます。
沢山、学習してきましたから」
「アトリは高性能だもんな」
「ムフン、その通りです♪」
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アトリに出会った今、地球を救いたいと思うのは、もう一度アトリに会うために。
かつては過去のためだった主人公が、アトリと出会い、仲間たちと出会い、未来のために歩もうとする姿。
そのすべてがこの掛け合いに詰まっているようでもうとても好き。
(他の作品をここで述べるのも恐縮ですが)
Missing-X-Linkであったように、アンドロイドのヒロインによって主人公の心が癒されていく、変わっていく姿は本当に大好きなんですよね。
言葉を重ねていく、一緒に時間を過ごしていく上で、人間とアンドロイドの違い、最後にはアトリの寿命問題の切なさを背景にしながらも、それでも「未来に進む」姿に変わっていく主人公がもうたまらなく好きです。
そしてそしてそして何よりも良かったのが、TRUEのお話。
もはや始まりからもう卑怯な展開(ほめ)だったわけですが、
アトリとの再会の仕方がもうたまらなく卑怯。
アトリと出会うためにはログからもう一度構築していくのですが、その時のきっかけは、主人公とアトリが歩んだ44日間なんですよね。
それは、読み手である自分自身が、見てきた物語そのもので。
かつてのスチルが、夕焼けの姿、夏空の下で二人手をつなぐ姿、星空の下での姿、そのそれぞれが蘇りながら、アトリと再会していく。
自分自身、一枚一枚の美麗なスチルには魅了されてきた今、それぞれが凝縮されてまた最後の45日目、最後の1日の瞬間といったらもう震えました。
あぁこのためにあったのだと。
そしてその姿は、かつての義足のままで。
過去の自分が義足のままの理由は、学費のためという言い訳をしながら逃げていた自分の象徴だったけれど。
未来に生きる自分は、自らの欠損を意識することで、それを克服するためには『いつも誰かの力を借りてきた』ことを忘れないようにするためで。
そして何よりも、アトリにもう一度会いたいと願う気持ちを忘れないようにするためで。
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「俺は傲慢で嫌な奴だからな。自分の傷を認識していた方が、人に優しくなれる」
そして、いつかアトリを取り戻したいという気持ちが消えぬようにしてきた。
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主人公自身の姿は同じでも、アトリに出会うことで過去ではなく、未来に生きようとした姿が今の主人公なのだと。
そう思わせてくれた最後の終わり方は、私の中でドはまりでもうたまらなく良かったです。
この物語の根幹にある、もう一つの部分も備忘録として記載。
それは、アトリちゃんの心の感情問題。
そもそも読み進めているうえで、アトリちゃんに違和感はあったんですよね。
アトリちゃんの反応の可愛さとは別に、カレンダーに×をつけていくためらわなさ、や、主人公へのlikeとloveの保健体育の話とか。
感情の問題に触れてこない前半はそういうもの前提か、とあえて気にせず見ていたんですが、実際に後半に入った時は、やはりそこに触れてきたかー!という感じ。
アンドロイドと心、どこまでを感情とよぶのか等様々なSFで語られてきたテーマではありますが、ATRIではそこまで深く触れてこなかったですね。
でも作風から行くと、むしろそこではなく、重要視されているのは気付いた中で主人公である夏生はどう思うのか、という物語だと思うので、まぁそこはあまり気にしてないかなぁという感じです。
そもそも舞台背景からして衰退した世界観の中で、優しい平和な世界が語られる中、設定ではなく語られるのは、『彼ら人間像』と『二人の関係』ですしね。
でも逆にSF部分、そもそもアンドロイドヒロインという部分について期待してしまうと厳しそう。
でもこうした過程を経て、最後に『自分は最初から感情を持っている』と自覚してからの
アトリちゃんがもうね、めっちゃ可愛かった。主人公が気付いた理由も、ログの涙の跡ってのがまたいいですよね。あの涙のシーンは心揺さぶられるものがありました。
その後の初めての『恋の感情』に戸惑いながら、水菜萌ちゃんに教えてもらいながら、次こそはお互いに相思相愛を自覚しながらデートをする1シーン。夏生のことが好きだからとあなたと離れたくないと思うシーン。
もう可愛さの塊で。ここで本当の意味で違和感なくアトリちゃんが好きになれたのだと思います。
そして、みんなで誕生日を迎えて、『この記憶が消えてしまう前に、未来に1日残して44日目で終える』お別れのシーン。
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「わたし、夏生さんの事が心配です……。わたしなしで、一人で歩けますか?」
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いつか必ず逢いに来る。地球を救ったら。
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そして45日目を未来に預けて。
未来を歩んだ先に最後のTRUE、迎える『45日目』
確かに『心を宿したロボットの少女と、少女を愛した一人の少年の物語』でした。
〇総評
前半は夏生中心に、後半はアトリ中心に、そして二人の関係性が変わっていく中で、夏生はアトリと出会い、過去ではなく未来を歩むことができるようになるお話。
こういったお話はとても好みなので楽しむことができました。
プレイはじめはアトリちゃんの可愛さの魅力が良かったですが、後半にはもう夏生さんの少年らしさの素直になっていくところが可愛くて好きになっていくような作品でした。
そして最後に繋がるシーンがもう卑怯ですよね。OPの歌詞の意味がわかっていく感覚。
SFの作品というよりかは、アンドロイドの少女に出会った少年の物語として、『過去から未来へ歩む物語』として楽しかったです。こういう優しい世界のお話も良いですね。
夏らしい作品だったとも思います。
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ここからは、『徒花異譚』と『ATRI』の両作品を読み終えての自分用の感想です。
徒花異譚のネタバレも入るかもですがご容赦ください。
アニプレックスから2000円台と一般的にロープライスという価格帯で出された両作品でしたが、どちらも質として高水準で発売されたのはさすがでしたね。
一般的に手が出しやすく、エロゲ(ノベルゲーム)って面白そうだけど手が出しにくいなぁっていう人たちも、SNSなどの口コミで少し遊んでみようと思うには十分だと実感します。
両作品をプレイし終えた今ですが、それぞれの良さが詰まっていたなぁと思います。
まず『徒花異譚』は『物語の没入感』と『選択肢により自分で結末を選ぶ』ノベルゲームの面白さを詰め込んだお話でした。作品すべてにのめりこんでいく楽しさと言いますか。
もちろんスチル、音楽面も言わずもがな素晴らしく。
そして物語を読み進めるにつれて、『あなたならどう思う?』と読み手側にも投げかけられるような面白さ、最後の結末は自分が選ぶような楽しさは、まさにライアーらしい作品でもあったと思います。
そして今回の『ATRI』は、まさに『登場人物の魅力』と『登場人物たちの関係性、心情が変わっていく気持ちよさ』が詰まった作品だと思います。ATRIという魅力的なヒロインをはじめ周りの登場人物たちの優しい世界に愛着が沸いてくる中で、主人公・ヒロインそれぞれの課題を持ち込みながら解決することで、彼らの姿を見守っていく楽しさ。
もちろんこちらも、徒花異譚とは別方向で、スチルと音楽のバランスが心地よく、清涼な物語にぴったしでした。
また、ATRIの方はとっつきやすさという部分でも強いでしょうね。実際批評空間のデータ登録数でもわかりますが……。可愛いわかりやすいメインヒロインには万人受けがしやすく、実際プレイすると登場人物に魅了されていく。広くノベルゲームの窓口を開けるにはぴったしじゃないでしょうか。
宣伝もしやすいですしね。
両者どちらも方向性は違うのだけど、でもそれぞれの良さがあるんですよね。
こう思うと、ATRIでノベルゲームの手軽さ、気軽さをつかみつつ、そして徒花異譚でノベルゲームの奥深さを知ってもらいたいという狙いがあるのかなぁなんて思ったり。考えすぎだとは思いますが。
どちらが好きかって言われると、どっちも好きだけど、好みの方向性で行くと徒花異譚だなぁって印象。こう選択肢に意味合いを持たせてくれる、選択肢を考えさせてくれる作品はノベルゲームならではで好きなんですよね。
でも登場人物たちの彼らの姿、青春、心情を、立ち絵とともに見守っていく読み進めるのもノベルゲームの面白さだとも思うのでとても良きです。
両者とも音楽面、スチル面は本当に素晴らしかったですしね。ここはノベルゲームの強さ。
またアニプレックスでこの価格帯で作品が出てくるならぜひ買いたいなぁと思います。
そう思わせてくれる作品でした。
またsteamでも発売されているので、きっと海外勢も反応が出てくる頃合いだと思います。steam勢の海外の人たちのノベルゲーム熱もなかなかすごいですしね。
こうしてまたノベルゲーム界隈が盛り上がるといいですよね。
と思いました。