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merunoniaさんのCrescendo ~永遠だと思っていたあの頃~ Full Voice Versionの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
Crescendo ~永遠だと思っていたあの頃~ Full Voice Version
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
95
参照数
593

一言コメント

まさしく『濃密』な作品でした。卒業5日前より語られる物語は、いつもと同じ「日常」のはずなのに、今までに積み重なった想いが、彼女たちの関係を変えていく哀愁さ。学生時代にはこの日常が永遠に続くと思っていたのに、卒業前と言う特別な時間で、これまでの想いを清算し、そしてどのように変化していくのか。これらをえぐいほどまでに丁寧な心理描写や仕草で描き切る今作品は、まさに『濃密』の一言に尽きます。10年前の作品だからと決して見劣りしない作品でした。特に年上ヒロインである香織先生と、姉弟関係を描き切るあやめ姉さんは、私の中で衝撃がとても大きかった。素敵な作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

D.O.と言えば、家族計画のところかぁぐらいの知識しかありませんでしたが、知り合いの方から「姉ゲーが好きならぜひやってほしい」とお勧めしていただいたのが、今回の『crescendo』をプレイしたきっかけでした。
(今確認したら、家族計画より前の作品だったのですね)


結論から言うとすごい濃密で面白かったです。
今ではあまり見られないなぁと思うようなお話ばかりで、プレイして良かったなと思いました。
特に、あやめ姉さんと香織先生の√は、私の年上ヒロインエロゲとして、ランキング上位に上がるくらいささりました。



以下、こうした感想を自分用の備忘録として
①全体の感想
②各ヒロイン√の感想
③総括

で書いていきます。

①全体の感想


①全体の感想
卒業を控える高校生活最後の5日間を舞台にして描いた、青春の寂しさと哀愁さを感じることができるようなお話でした。

あと5日間で学園生活が終わってしまうことを予期するような、わずかな環境の変化。部活や友人とのやり取りの些細な変化。自分の心境の変化。
3年間過ごしてきた学園生活の『日常』と同じように見えるのに、でも最後の5日間という意識が、主人公やヒロインの秘めていた想いを明らかにしていくきっかけになっていく哀愁さが感じられてとても良かったです。

また、話の構成もとても良かったです。
主人公が、最後の5日間をどう過ごすかによって結末が変わっていくお話。
かつての属していた部活の同級生、後輩に会いに行くのか。
いつもお世話になった保健室に会いに行くのか。
学園生活の日常を過ごした教室へと出向いてみるのか。
いつもと同じように、姉が待つ家へと帰るのか。
卒業を前にして、自分にとっての何気ない、でも最後にしておきたいと思えるような行動が、各ヒロインや主人公の募らせた想いを成就させる、卒業までの特別な時間を感じさせるような雰囲気が、とてもグッドでした。

それに何よりも一番良かったのは、丁寧な心理描写や仕草を描き切るテキストでした。もうこの部分はえぐいほどに凄かったです。
そもそもこの作品の良さの一つに、綺麗なだけじゃない、人間らしさを感じさせる『醜い部分』を描き切ったところがあります。

「相手に理想の姿のままで見られたかったから」
「自分の想いは、他の誰かを傷つけることになるから」
と、『良い思い出のまま』で終わらせるつもりだった各ヒロインの想いが、『卒業』をきっかけに姿を現していく。どれも決して綺麗なだけではなくて、見ていてこちらも苦しくなるような想いばかりでした。

またこれらの感情が、各登場人物たちの仕草に生々しいほどに表現されるんですよね。目を伏せる、腕を組むなどの些細な仕草の裏に、どれほどの主人公やヒロインの葛藤が募っているのか。卒業までの時間で積み重なった想いや共有した時間が、最後の最後に姿を現していくような表現。
こうして語られる心の本音は、本当良い意味で生々しくあり、見ていて目をそむけたくなるような、けれどある意味純粋な想いで、綺麗だけじゃない青春模様を描いていました。
こうした生々しいまでの恋愛模様を描き切るテキストのレベルの高さには、どの√も本当に素晴らしかったです。
ここが一番crescendoという作品で刺さった感想でした。




②各ヒロイン√の感想
ここからは、攻略順ごとに各ヒロイン√の感想。


(1)芦原 杏子
同じ部活の後輩ヒロイン。三角関係ヒロインの一人。
背の高さがコンプレックスとして気にしてしまうあたりが可愛い後輩ちゃん。
彼女は他ヒロインの中では一番抱える重さがなく、純粋なヒロインだったなと思います。

『ずっと……ずっと、誰かそばにいてほしいと思ってました。淋しくて……一人でいるのが淋しくて。それが先輩だったらどんなに幸せだろうって……でも、あきらめてた……。
だって。先輩いい人だから。先輩のことよく知れば、きっとみんな先輩のこと好きになるって……思って。歌穂先輩だって……そしたら、わたしみたいな可愛げのない女……女らしくもない……』

特筆する物はないのだけれど、でも主人公と結ばれて素直に良かったなと思う良いヒロインでした。

また、歌穂さん√でも言えることですが、部活組のお話は共通する部分が多く、卒業式前の部活動の様子がとても好きでした。
卒業式前の最後の活動、後輩への引き継ぎ、追い出しコンパ。笑顔と寂しさとがないまぜになるようなあの空間がとても和やかで。永遠に続いてほしいと思うのに、それでも終わりが近づくようなあの時間がとても好きでした。

また、杏子√でより印象的なのは、もう一人の三角関係ヒロインの歌穂さん。
彼女の秘めた想いと、後輩の幸せを願う矛盾した想いの軋轢が響きました。
それが、歌穂さんの告白後の主人公に振られた後の1シーン。

──────────────────
「……うん。さ、行って行って。杏子ちゃんの涙、涸れちゃう前に」
残された歌穂はしばらくの間、閉じてしまった扉を見つめていた。
もう一度それが開き、涼が姿を現しはしないか。
あり得ないことだと理解しつつ、それでも望まずにはいられない自分の心を哀れと思う。
「……バカみたい……」
涼の机に手をついた。
そっと、なでてみる。
涙が一滴、その上に落ちた。
──────────────────

心では理解しているのに、主人公がもし自分の目の前に現れてくれたらと願う姿が本当に痛ましい。けれど、歌穂さんの杏子ちゃんのことも大切にしていることは、今までの回想からもすごい理解ができるからこそなお辛い。
主人公も杏子ちゃんのことも好きだからこそ、彼彼女たちの前では涙を見せない秘めた姿を現した1シーンが何よりも響きます。

こうして歌穂さんにはほろ苦く、杏子ちゃんには幸せな結末を迎える杏子√でした。けれど杏子ちゃんの一番好きなところって、こうした恋愛感情とは別に、尊敬する先輩や部活への純粋な想いが出ているところでもあるんですよね。
『もっと先輩たちと一緒にいたかった。一緒の時間をもっと過ごしたかった。』
この言葉を杏子ちゃんから聞いたときには、本当に良い子だと魅力に引き込まれた瞬間でもあります。

三角関係の3人ですが、卒業後にはきっとそれも良い思い出として昇華されていくことを感じさせてくれる、卒業式当日風景。
学園生活という時間が二度と繰り返されることはないけれど、甘酸っぱい青春の思い出として、また大人になった時に語られていくと感じさせてくれる最後の終わり方は、青春の物語としてとても良かったと思います。



(2)柳楽 歌穂√
同じ部活の同級生ヒロイン。三角関係のヒロイン二人目。
とても優しすぎるがゆえに不器用なヒロインでした。
杏子ちゃんのことを想うがゆえに、自分の想いを秘めたまま過ごそうとする姿。
主人公の想いが、自分に向いていないことへの絶望さゆえに、そして杏子ちゃんの想いを知るがゆえに、紹介された友達と付き合い始める姿。
最初に掛け違えた想いが、さらに後へと引きずり、やり直すことが出居ない今日まで来てしまい、そして卒業式を迎える最後の時間に、それらの想いを清算する√。
その姿どれもが、自分の素直な気持ちと結果が相反するような姿が、見ていて辛かった。

だから、泣きそうな顔で「ゴメン」と呟きながら、主人公へ身体を預けるシーンや、キスをするシーンは、彼女の立ち位置全てを物語っているシーンでとても好きです。
その後、自分のことを『最低な女』と自傷しながらも、それでも主人公に告白するシーンも、青春模様の一つとしてとても良かった。杏子ちゃんのことを考えると辛いけれど、でも歌穂さんも幸せになってほしいと思っていたから、この結末もすごい好きでした。

また、こちらの歌穂√でも、やはり杏子ちゃんの姿が印象的なんですよね……。
杏子ちゃんにとっても、先輩二人はとても尊敬する大好きな存在。
だからこそ、主人公の返事に対する杏子ちゃんの言葉が刺さる。

──────────────────
『……先輩なんて大嫌い』
───彼女は微笑む。
──────────────────
(主人公が去った後の廊下にて)
3歳の子供のように───
杏子は泣いた。
大声を上げて。
とめどもなく、涙は流れる。
拭おうともしない。そんなことさえ考えつかない。
ただ、泣いた。
──────────────────

二人共、決して主人公の前では悲痛の顔は見せないのは、同時に自分以外の二人の幸せを願っているからで。
だからこそ、その二人がいない場所でしか見せない彼女たちの姿がとても魅力的に映ります。

三角関係のヒロインは、彼女たちが選ばれなかったときの姿がとても魅力的に映ると痛感します。
ハッピーエンド主義目な自分には辛いですが、でも一番彼女たちの想いの深さが現れるその姿に魅力を感じます。それでも笑う彼女たちの姿がとても綺麗で、青春だと感じる二人でした。

どちらも魅力的なヒロインだったと思います。素敵でした。



(3)音羽 優佳√
天使に憧れた少女のお話。上記二人のヒロインとは違い、初っ端から男に身体を売っていたりする始まりはぶっ飛んでいましたね。しかしその実情は、過去の生い立ちによる、『自分など愛してもらう価値がない存在』、『幸せなことに慣れない不器用な少女』のお話でした。

──────────────────
(前半省略)
「どんどん噂は広まって、どんどんお金を持ってくる子も増えて。
べつにいいや、って思った。その間はあたしのこと考えてくれるんだもん。
身体だけでも必要とされてるなら、いいやって。こんなあたしでも、5000円の価値はあるんだなって。
でも、独りでいると淋しくて……そんなときはいつの間にか、ね。何度も」
──────────────────
──────────────────
「あたしずっと、幸せって怖いものだと思ってた。嬉しいときも楽しいときも、心のどこかで、それがなくなっちゃうときのこと考えて、哀しくなるの。
苦しくて、怖くて……それくらいなら、幸せなんていらないって。そんなことめったになかったけど……それでもときどき、もっと幸せになったら、あたし壊れちゃうんじゃないかと思ったよ。
───違うんだね」
──────────────────
「セックスって、気持ちいいんだね……」
──────────────────


こうした『寂しさ』と『幸せはいつかなくなってしまう怖さ』の想いを秘めているからこそ、彼女は、今のこの時間だけは少しでも大切にしようという想いの迫真さが一番印象に残っているなと感じます。
その姿が現れていたのが、主人公のとの遊園地デートシーンでした。


──────────────────
もし今このときの思い出が、将来にわたって消えずに残り続けると確信できる瞬間が真実存在するなら──今こそ『そのとき』だ。
身体から命の炎が吹き消えるその日まで、大切に暖めて、綺麗な小箱の中へしまっておく。
未来の記憶が、今は現実だ。
──────────────────

主人公にとっては、卒業式数日前の、学園生活最後の遊園地デート。
けれど、優佳にとっては、ただの学園生活最後という意味合いだけじゃなくて、『人生の大切な思い出』の一部としての幸せな時間。
それは彼女自身が、幸せの時間が続くことはないと知っているから。
また、最後の夜の観覧車でのセリフも印象的です。

──────────────────
優佳:「夜景嫌い」
主人公:「めずらしいな。女の子はこういうの好きだと思ってた」
優佳:「帰る家のある人ならそう思うかもね……」
(中略)
優佳:「楽しいときはすぐ終わるって、ほんとなんだ……」
──────────────────

遊園地の天使の像の話をはじめ、彼女の言葉には、幸せが永遠に続くものではない知っているからこその言葉が続きます。
だから、また来ればいい、また別の幸せが待っているというような、綺麗な最後の夜景が、彼女にとっては、別の意味合いを持つが故の言葉に見えてなりませんでした。

以上のような幸せを信じることができない少女だからこそ、彼女のハッピーエンドは素直に良かったです。こういう子こそ幸せになってほしい。幸せはずっと続くんだよって思ってほしい。
だから最後の主人公と腕を組んでのハッピーエンドは、安堵した気持ちになりました。

また優佳√は、BADENDやアナザーストーリーも秀逸。
BADENDは、彼女と身体を重ねることで、優佳さんが主人公に、所詮あなたも他の男と同じなんだね絶望エンド。
その後のエピローグで語られるのは、社会人になった後の、クラス会シーンでした。
優佳は風俗で今でも身体を売る生活。学生時代と同じで、身体を売ることで、自分の寂しさを埋める生活を窺わせるものでした。

──────────────────
「卒業の前。何を間違えたのかな、って。もしもっと、うまくやってたら……ううん、ちがうな。もっと素直になっていれば……違った人生、あったかな、とか……」
(中略)
「……ホントはね。今日、自分の中で賭をしてたんだ。もし、佐々木くんがクラス会に来てたら……人生やり直すって」
(中略)
やがて、彼女が泣き止む。
誰の力も借りずに、独りで。
涙を流すのは止められなくとも、泣き止むことはできるのだ。
───たとえ独りでも。
──────────────────
──────────────────
主人公:「……なあ、音羽さ」優佳「ん?」
主人公:「独りで頑張るのって、大変だろ」
優佳:「……だいじょうぶ。決めたもん」
主人公:「うん。でもさ、たとえばたまに電話なんかで、愚痴聞いてくれる友達がいると……少しは楽にならないか?」
優佳:「……そんな友達、いないよ、あたし…………」
(中略)
主人公:「電話、よこせよ。こうやって飲みに行くのでもいいけどさ。話くらい……愚痴くらい、聞くからさ」
優佳:「……ほんとうに、友達だって……思っても、いいの……?」
主人公:「音羽がそう思ってくれるなら」
優佳:『……もっと早く言ってよ…………』
────────────────── 『END』

ここの掛け合いの言葉と、最後の優佳さんのもっとあの時に言ってくれれば、人生が変わったかもしれなかったのにという想いと、けれどこれからの人生はきっともっとよりよい方向に変わっていくんだろうなと思わせてくれるような終わり方が素敵でした。
BADENDではありますが、不幸エンドではないと思います。
学生時代の出来事全てが無駄じゃないと、苦い思い出も含めてその繋がりが今の彼女の人生をまた作っていく終わり方を感じさせてくれる大人の終わり方が好きでした。


またアナザーストーリーも秀逸です。
アナザーストーリーの優佳√は、もし卒業前日よりももっと前に、主人公と優佳が付き合い始めたらどうなるかというお話でした。デートシーンをはじめ、ぬいぐるみをもらって抱きしめる笑顔の姿等、彼女の姿が本当に可愛かった……。

しかし、幸せなお話ではなくて、むしろ不幸のお話でもありました。
彼女は、今まで過去に誰かに愛されるということに慣れておらず、幸せな時間に慣れていないため、次第に主人公のことを束縛していくことになる。
その姿は、優佳さんの生い立ちを知っているからこそ、幸せに貪欲になる姿もわかるし、しかし主人公の学生の立場でこの付き合いはつらい……と読んでいて辛かった。
案の定、主人公と優佳は距離を離し、破局することになるのだけど、優佳の『どうして!?』という姿は見ていて辛かったです。
けれどだからこその、最後の卒業当日の優佳の言葉が好きです。

──────────────────
「……ごめんね。あたし、ひどい女だった。
佐々木くんのこと、好きだった。好きだったのに──自分が愛されることだけしか考えられなくて──。
佐々木くんの気持ちを考える余裕が、なかったの。
佐々木くんにとってはイヤなだけの想い出かもしれないけど、あたしは……。
……幸せだった。これからもたまに思い出すよ、きっと。
思い出して、もうぜったいあんな馬鹿なことしないって……。
好きな人に、好きな気持ちに寄りかかりすぎて、近づきすぎて、相手を苦しめるようなことしない、って……思うから。だから……。」
──────────────────

学園生活の主人公との時間は優佳さんにとって決して無駄な時間ではなくて、彼女が幸せになるために必要な時間だったと、思わせてくれるような最後。
幸せのなり方の一つを知った彼女の最後の幸せな姿が見れてすごいこの終わり方も好きなんですよね。
最後は違う男性の腕を握りながら、笑いかける彼女の笑顔がどこまでも綺麗でした。

優佳√って、今だと絶対に炎上しそうですよね……。
こういう話も結構好きなんですけどね。
ハッピー、BAD、アナザーと、どれも彼女の心に秘めた想いがゆえの姿を見せてくれるお話でした。良かったです。



(4)紫籐 香織√
保健室の先生。北都南さんことぺー姉さんヒロイン。ビバ年上ヒロイン。
やぁ~~~~~~もぉ~~~~~~~~~~~~めちゃくちゃに可愛かったです。
何よりも北都南さんが素晴らしい。普段はクールな声、しかし本音や恥ずかしがるシーンでは、素の声で高めの声になる使い分けが、この香織先生という年上ヒロインの魅力を見事に表現しており、まさに適役でした。

そして、年上ヒロインとしての魅力も最高に良かったです。
主人公がよく授業をさぼりに来ていた保健室の先生という、王道シチュ。
香織先生√の前半は、卒業式前のデートから始まるんですよね。
先生のドライブに、映画に、バーに。
学生である主人公が、大人である香織先生の隣に必死に並ぼうとする姿と
「まだまだ子供だね」ってあしらうような二人のやり取りが随所に感じられる関係がも~~~~~~~~~~~好き。

──────────────────
香織:「合格」主人公:「……なにがさ」
香織:「お前の態度」主人公:「……学校じゃないんだから。採点はやめてくれ」
香織:「今の態度は減点だな」
──────────────────
(映画鑑賞後、号泣する主人公にて)
香織:「かわいげのないヤツだと思っていたが……そうでもないな。ええ、佐々木クンよ」
主人公:「……男が可愛いって言われても嬉しかないよ」
目をふてくされた風を装う。そうしないと、鼓動の高鳴りを聞かれてしまいそうだったから。
香織:「褒めてやればすぐこれだ」
──────────────────

も~~~~~~~~~~~~~全部のやり取りが本当に可愛くて好きです。
卒業式前日を迎える特別な時間に起きた出来事。決してかなうとは思わなかった、保健室の先生との、憧れた年上の女性とのデート。
必死に釣り合おうとする姿や、子供にみられまいとしてもどうしても大人との違いを見せられてしまう悲しさ。それでもドキドキしてしまう少年心。
その全ての心理描写を描き切る、デートシーンの随所随所が本当に、見ていてニヤニヤするほど好きでした。

特に主人公の殺し文句がまたいいんですよね。
『そうさ、オレはガキだよ。でも、ガキだって誰かを好きになるんだ!それが先生で、なにが悪いんだよ!!』
前半3人のヒロインで見せた、学生同士だからこそのイケメンの姿も好きだけど、年上ヒロインに見せる子供のような姿を持つ主人公の姿が、等身大に眩しくて、もういい。こういう関係を見たかったって思わせてくれる素直な良い主人公です。

けれど、でもでもでも。香織先生の√の何が最高かって、香織先生の想いを知った後の先生がもう最高に可愛いんですよね。

──────────────────
「コーヒーを飲ませてやるくらい、いいだろう。最初はその程度だった。お前がちゃんと礼を言ったから。
そのうち、マグカップを買った。客用のカップを割られちゃかなわんと思って……ちがう、自分に言い訳して。
気が付いたら心のどこかでお前が来るのを待っているようになった」
──────────────────

香織先生にとっても、主人公に想いを寄せていたわけですよ。
マグカップを買ってわざわざ待っていたわけですよ。
卒業式前日に、保健室に来た主人公の姿を見て香織先生はどれほど嬉しかっただろうか、どれほど葛藤しただろうか、むしろあのデートシーンで、香織先生はどれだけ嬉しかったんだろうと考えると、も~~~~~~~~可愛すぎて。

後に語られることになるアナザーストーリーの香織先生の姿で更に拍車をかけるように可愛くなるんですよね‥‥‥。
保健室に近付く足音がするたびに喜んでしまう姿
マグカップ売り場で、自分に言い訳をしながら主人公のためにマグカップを選ぶ姿。
緊張しながらも何気ない様子で料理をふるまう姿。
も~~~~~~~~全部が本当に可愛いんですよ……めちゃくちゃ可愛いんですよ……。もう悶えました。ほんと。

香織先生:「どちらかといえばずっと年上の渋い男が好みだと思ってた」
主人公:「……悪うござんした、理想とぜんぜん違って」
香織先生:『そんなこともない。この3年でお前が理想になってしまったから』

彼女の√は内容については深く語るまい、ただただ、年上ヒロインの秘められた想いの可愛さと、憧れの先生の隣に立ちたいとする主人公の可愛さがもうあふれんばかりに詰まった√でした。最高でした。本当に楽しかった……。

(余談)
お見合いシーンの、杏子の「……お腹……赤ちゃんが…………」
はよじれるほど笑いました。名シーンだと思います(真顔)



(5)あやめ姉さん√
姉さん√。彼女の√は、香織先生とは別の方向性で規格外の内容でした。
何よりも一色ヒカルさんによる表現力がもう化け物級に凄かった。
ただでさえcrescendoは心理描写やセリフの秀逸なのに、そこに迫真に迫る声優の力が入り、破壊力が高すぎました。
このように、この√は私の中で衝撃が一番大きくて、忘れたくないと思わせてくれる内容だったため、時系列に感想の記録を残していきます。
そのため、長文になってしまいますが、残します。

最近はあまり読むことがなかった、ド直球にまで直球な、『姉と弟』の関係に焦点を当てたお話でした。
ここまで直球なお話は久しぶりだった気がする……。
本当に姉の愛情と、家族として、そして両親の約束を守るため。
そして何よりも『涼のことを本当に幸せにしてあげたい』がゆえの気持ちと
『涼を男性として愛している』という気持ちの葛藤具合の描写が本当に濃密でした。

序盤の共通√から、あやめ姉さんの愛情を感じられるような日常がすごい好きなんですよね。
朝のごはんのシーンから、いってらっしゃいの言葉から。
あやめ姉さんの口癖の「バカなこと言ってんじゃないの」だったりにはすごい愛情を感じられて。
一色ヒカルさんの感情の込め方も良いんですよね。
愛情を感じる『バカ』の声や。姉弟の距離感をつかみかねるような声の困惑具合。
見守る優しさを感じるような声色。全ての声の使い分けが、もう本当に素晴らしかった。

でも同時に少し違和感もあって。
最初に語られる両親の事故死のお話や、お互いに肉体的接触を極端に避けているって描写も違和感があって。
あやめ姉さんの√を読む前は、
「あぁ~きっと主人公の学生特有の姉ちゃんを恋愛対象と家族の境界線でさまようような葛藤かなぁ」
って、そしてあやめ姉さんもきっとその類のものなのかなぁって軽く考えてました。

まぁそんな簡単な想いを抱きつつ、他√を攻略していく中で、いよいよあやめ姉さんのターン。香織先生の時のような年上を相手にする主人公の描写が好きだったので、ワクワクしながらプレイしました。


前半は、主人公側からの、姉に対する気持ちの葛藤部分が描かれていました。
姉に感謝の気持ちを伝えるために贈り物を考えるわけですが、その時に、道中姉が知らない男性と歩いていることにもやもやした気持ちを抱いてしまったり。
こうしたきっかけから、自分はこれほどまでに姉のことが大好きなのに、姉にとっては自分は『義務で優しくしているだけなのかもしれない』という疑念だったり。

オルゴールを送ったあとの手紙もね……普段できない照れくささと、手紙だからこそ伝える直球な感謝な想いが、すごい素敵でした。
けれど、このプレゼントにも、あやめ姉さんの口癖の『バカ』の一言ですれ違ってしまうという悲しさ。
この言葉も、あやめ姉さんの、『自分のためにお金を使ってほしい』という想いの空回りだったんですよね。
この時点で、この√、「あっこれひたすらすれ違いまくるやつだ」って思った。

その後にcrescendo定番の過去回想が挟まれていく。
他√だと、学園生活の積み重ねを表現する方法として、過去回想が良い具合な演出なんですけどもね。
あやめ姉さんのお話もなにがくるんだろうなぁと思っていたら

(゜Д゜)

ちょっと予想をはるかに上回るお話だった。
弟である主人公が、血がつながっていないことにショックを覚える過去のお話だとは思っていたけれど、まさかそこまで、体つながるまで言ってたのは予想外。
けれど、それ以上に私がゾクゾクっとしたのは、回想が終わった後。

──────────────────
「涼は自分を殺したくなった。
過去の自分を、ではない。現在の自分を。
3年前の記憶をなぞった涼は────勃起していた。
姉を強姦し、両親を殺したというのに、自分は────」
──────────────────

本当にすごいゾクゾクっとした。
家族としての『姉』ではなく、一人の魅力的な『女性』として姉を見てしまうことへの嫌悪感。誤解されそうだけど、主人公のことを一気に好きになった瞬間でもありました。

その後の、本当の母親に会いに行く展開もね。母親の言葉がえぐい。

──────────────────
「……でもね、涼くん。お姉さん、まだ23歳よ。お姉さんにも自分の人生があるし、あなたのためだけに生きるわけにはいかないと、思わない?」
──────────────────

きっと母親は涼のためを思っての言葉には違いないのだけど、主人公にとって、「自分は姉の傍にいない方があやめ姉さんにとって幸せなんじゃないのか」と思ってしまう残酷な言葉です。
でも同時に、「もし自分がいなくなったら誰も帰ってこない部屋で一人、食事をすることになる。そんな寂しい目には会わせたくない」と思う気持ちもあるのが、主人公の姉への愛情の深さが感じられます。

後でわかるんですけど、ここの葛藤、思いっきりあやめ姉さんが抱く想いと同じなんですよね。
あやめ姉さんも、弟にとって自分は離れたほうがいい?でも寂しい目に合わせるの?という葛藤をずっと秘めてきたわけで。
この血の繋がっていないけれど、お互いに似た感情を持つが故のすれ違いの対比が本当に素晴らしいです。

この後はあやめ姉さん中心の後半。
ここからは、私の中のあやめ姉さんへの予感がどんどん形になっていく感覚がすごい良かった。

まず最初の違和感。あやめ姉さんの写真立てに向かっての言葉。

──────────────────
「ごめん……ごめんね。私、約束守れない……父さんと母さんの代わりにも────なれなかったよ────」
──────────────────

両親の約束を守れない、ごめんの言葉の真意とは何?

次の違和感。それは、本当の母親へ向かう涼のためにあてた手紙。

──────────────────
「……書こうかどうか迷ったけれど、書いてしまうことにします。
正直に言えば、あなたと暮らすのはもう、限界でした。」
(中略)
「私の心の中にある汚い部分が、いつか自分を押しつぶしてしまいそうで、怖い。
その予感におびえながら、これからもあなたと暮らしていく自信が、私にはありませんでした。
私は弱い人間だから。
涼。私は                           」

──────────────────

この手紙の瞬間、最初はえ?ってなり、その後今までの予感、違和感が一気に形になった感覚が今でも忘れられないです。

どうして、過剰なまでにあやめ姉さんからも肉体接触を避けていたのか
どうして、父さん、母さんの約束を守れないのか
どうして、ごめん。と謝るのか。

その後のあやめ姉さんの真実の告白。
それは、あやめ姉さんが、主人公を一人の『男』として愛してしまったから。

その後の告白は、姉の深い愛情と、『姉であるがゆえの葛藤』と、一色ヒカルさんの感情の込められた言葉の一つ一つが本当に濃密。

なぜ、両親が主人公に血がつながっていないことを伝えることを止めたのか。
それは、本当の事を知られて、弟が姉である自分を相手にしてくれなくなるのが怖かったから。
なぜ、抵抗しようと思えばできたのに、弟になすがままに犯されたのか。
それは、弟が自分のことを求めてくれるなら身体くらい好きにさせても良いと思ったから。
いやそれすらも嘘で、本当は、自分も一緒に抱かれたいと思ったから。
なぜ、両親が死んだ時、主人公の本当の母親からの提案を悩むことなく即断で拒否したのか。
それは、弟である主人公と、もう引き離されることなく暮らすことができると思ったから。
両親が死んだとき、悲しさと同時に、弟と引き離されることがなくなったことに安堵してしまったから。
……etc.etc.

──────────────────
「あんたがそのテーブルで、私の作ったご飯を食べてるのを見ながら、姉ちゃんがなに考えてたか知ったら、かならず。箸を持つあんたの綺麗な指先や、その唇を見て……私がなに考えてたと思う?
あの夜のこと思い出して、自分の部屋で何してたと思う?どれだけの下着を汚したと思う!?」
──────────────────

かつて主人公が、姉との過去を想い勃起をしたように。
姉である彼女も、弟との過去を想い自分を慰めていた真実。

涼に母親の所に行くように提案したのは、弟である主人公にとって、姉の姿が、理想の優しい「ねーちゃん」と思われたかったから。
軽蔑されたくなかったから。
葬式の日に誓った、両親の代わりに弟をちゃんと育てる約束が守れなくなるから。
これ以上は自分が止められなくなるから。
これ以上踏み込むと、弟と姉で溺れてしまい、甘えたままの不幸になってしまうから。

ここまでの弟である主人公と、姉であるあやめ姉さんの気持ちの対比が本当に綺麗。
見事にお互い考えてることが同じ。
情欲と、家族として幸せになってほしい想いと、葛藤と。
血がつながっていなくても、お互いに似た者同士の姉弟である証明。
深い愛情をお互いに想うがゆえのすれ違いの連鎖。
ここはR-18だからこそ表現できる姉弟のお話として、まっすぐに心理描写がえぐいほどまで描かれていて本当に素晴らしかった。



そして、とうとう、ここで、最後の選択肢
それはシンプルに。姉を『姉』のままとして、想いを閉じ込めて、世間で言う『理想の姉と弟のまま』でいるのか。
それとも、姉を『女性』として、想いをそのまま受け入れるのか。
あーシンプルがゆえにえぐい……ここまで来て、姉と弟のままでいるのが正直私にはうぅぅっていう所。

まずは、上の姉弟エンド。
「これからもオレのねーちゃんでいてくれよ。
ずっとねーちゃんでいてくれよ……ふたりきり残った家族なんだから……」
「……それでいいの?こんな姉ちゃんでも、まだ姉ちゃんと思ってくれるの……?」
「尊敬する。俺だったら……きっと襲ってる」
「……そうだったらよかったのに」
(中略)
弟を抱きしめながら「いいじゃない。失恋したばっかりなのよ、姉ちゃん」

あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
も~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この時点で辛い。心の慟哭。辛い。どうして。ってすっごい。いったんゲームを閉じかけたくらいには。

そして卒業式を迎えるわけなんですが。ここの最後の終わり方が本当に憎い。
綺麗すぎて憎い。
ここでかつての過去の約束が語られます。

──────────────────
「ねーちゃんさ。あれ、憶えてる?
……たとえどんなことがあっても……姉ちゃんは涼の姉ちゃんだから、って」
「覚えてるよ……」
「あれ……まだ有効かな」
「バカね……
『死ぬまで有効よ』」
──────────────────

とても綺麗な終わり方なんですよね。本当に綺麗。だからこそ切ない。
ここで述べている約束ですが、それはあやめ姉さんと主人公がまだ学生だったころの下校シーンの約束のことなんですよね。

──────────────────
『……あんたが大人になっても、もし結婚して家から離れちゃっても、たとえどんなことがあっても……姉ちゃんは涼の姉ちゃんだからね。それだけは忘れないで』
このセリフは、二人が身体を重ねる言葉の前のセリフで。
この約束は、あの頃のようにあのお互いにただ純粋に『姉弟の愛情』をもって過ごす日々の時の約束。
──────────────────

この約束は、まだ主人公と姉が、身体を重ねる前の、ある意味『姉弟』の関係だけであった時の約束なんですよね。
『死ぬまで有効』というのは、姉弟の関係のままで死ぬまでいるという約束でもあって。
それは想いを秘めたまま二人の関係は『姉弟』だけで続いていく。
そう考えてしまうのは穿ちすぎでしょうか。
そして最後のCGは、かつての写真立ての姿が成長したまま、
弟におんぶされる姉の姿。

何度も言いますが、本当に綺麗な終わり方なんですよね。
かつての関係を清算して綺麗に『卒業』していくお話。
でもだからこそ残酷にも感じる。マリーバッドエンド。私にとっての姉弟エンドの感想。


次に下の姉弟をお互いに想いを打ちあけて受け入れていく選択。
ここは前の選択と違って、あやめ姉さんの拒否する姿がとても痛痛しかった……。
自分のことを良く知っているがゆえに、もし涼を受け入れてしまったら、自分と一緒に涼も溺れてしまい、大人になれないまま弟を不幸にしてしまうという、最後まで弟を想うがゆえの拒否する姿に、本当に弟への愛情を感じます。

でもそれでも、受け入れた後のHシーンが本当に良かった……。
仏壇の扉を閉めてHシーンを迎える所は、両親への罪悪感が良くにじみ出ててえぐみ……。
何よりも好きなのが、姉弟の関係を忘れるのではなく、姉弟の関係を受け入れた上で身体を重ねるシーン。

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「今日だけ姉弟ってこと忘れて……なんていい加減なこと、私言わないわよ?
ずっと姉弟だったのに、今更そんなことできないし、そんな言い訳したくない。」
「これが罪なら、一生背負って────罪を支えにして生きる。私はそうするよ」
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その後のHシーンも、彼女が秘めてきた想いを打ちあけるがごとく女性としてのの姿を見せてく描写が本当に良かった……。
同時に、Hシーン後の、姉として彼を拒絶しなければならない姿の辛さが本当にもう……。
孤独に怯えながらも、姉として弟の幸せを願うがゆえの姿が本当にもう……。


そして卒業を迎えて最後のシーンへ。
その後の主人公の決断が良かったです。

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「一人前になればいいんだろ?独りで暮らして、ちゃんと学校出て、自分の食い扶持自分で稼いで……自分と、もう一人くらい養えるようになれば……
……大人になったって、認めてくれるかな
そしたら、また一緒に暮らそう。ねーちゃんのこと迎えに行くよ。かならず」
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あぁ~~~~~~~~~~~~~~~。
良き。良き良き良き。
あの感情を振り回されまくっていた弟である主人公が、
大人になって迎えに行くよ、と決めてくれる終わり方。
本当の意味で、子供から『卒業』して、大人になって姉を迎えに行く終わり方。

そう。そうそうそう。これですよ。これが見たかった……本当に見たかった……。
その後の最後のCGもね、弟である主人公が姉を受け止める姿が、これからの未来の姿を現すようで。
最初の姉弟エンドの、かつての写真立ての姿のように姉弟のままでも良いけれど。
でも、今回の終わり方のCGが表すような二人の未来が見たかった。

この対比も含めて、あぁ~~~~~~~~~~~~どちらのエンドも好きになった瞬間でした。

ここまでが本編の感想。
次からがアナザーストーリーの感想です。


読み始める前、本編がすごい良かったのもあって、どんなお話かなぁってすごいワクワクしてました。
香織先生のアナザーを例に見ると、本編で香織先生の真意(ベタぼれ)が隠れていたのもあって、アナザーストーリーでは、もう序盤からベタぼれ全開の年上ヒロインの可愛さ全開ですごい楽しくて。

あやめ姉さんは、どんなお話なのかな……社会人になって主人公が迎えに行く幸せな生活の姿なのかな……。
とこう色々妄想を膨らまして余韻に浸りながら、アナザーストーリーを読み始めたんですよね。

そして最初のスチルですごい興奮しました。
主人公が工事現場で夜遅くまで働く姿。
卒業式の最後の約束通り、大人の一人前になって『ねーちゃん』を迎えに行くために、自立しようと奮闘する姿。
主人公宣言通りに頑張ってるやん……ってこう少しジーンとしました。

その後、あやめ姉さんの視点に写るんですよね。
空気が変わるんですよね。あれ、なんかこれ違うあっこれそういう。あっあっ。

散らかった部屋。コンビニ弁当の山。脱ぎ散らかした衣服。
『いつ戻ってきても良いようになっている弟の部屋』

 ( ゚д゚ ) (゜д゜) ( ゚д゚)

いやもう心はリアルでポカーン状態でした。
えっえっえっ?あっそういうこと。そこまで、そこまであやめ姉さんの愛情は深かったのかと。
正直油断してたのが本音……。
本編で幸せな姿な結末が描かれていたから、このまま幸せな二人の姿で行くのかと。
『そんな簡単な関係じゃないから』
とささやかれるがごとく、更に二段構えで描いてくるのが本当に衝撃だった。

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片づけなければ、と思っていた。涼がくる前に。
けれど気力を奮い起こすことさえできず、連絡があってから、と延ばし延ばしにして……結果がこれだ。
見られた。涼に。
荒んだ生活、片づけどころか食事さえ満足に作ることの出来ない、今の自分。
原因はわかっている。
──涼がいない。この家のどこにも。
帰ってくる弟のために食事を用意し、部屋を掃除し、洗濯物を綺麗に折りたたんで──
つらい、と思ったことは一度もなかった。むしろ喜びさえ感じていた。
それがどうだろう。
涼がいない部屋を片付ける気にならず。
涼が口にすることもない料理を作る気にもならず。
──自分のためだけに行うハウスキーピングは、ただの味気ない作業でしかなかったと、初めて知った。
涼のために。それだけが自分の動機だったのだ、と思い知らされて。
……だからないがしろにしてきた。見られてしまった。
だらしのない、情けない自分を。
「なにやってるんだろ、私……」
偉そうに宣言したのは誰だったのか。自分が涼を一人前にする、などと。
思い上がりでしかなかった。涼は当たり前のように一人で生きている。経済的にもあやめから自立してしまった。
ひるがえって自分は────
本当に自立していなったのは誰なのか。涼がいなくなって思い知った、真実。
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ここのシーンの破壊力がもう、目の前がくらくらしました。
弟である涼は、卒業後、姉に甘え続けることからも卒業し、一人の男として隣に立てるように自立することで、二人一緒に幸せになれると信じて、本当に命を削るほど奮闘するんですよね。
私自身もこの姿を見て、きっと幸せになると思い込んでいました。

姉であるあやめ姉さんへの影響を全く考えていませんでした。
ここまであやめ姉さん自身が弟に依存しているほど愛情が深いとは。
『姉として世話をしている』自分の立ち位置に依存しているとは。

弟である涼は、姉を一人の女性として隣に立ちたいがゆえに自立して大人になろうとすればするほど、姉であるあやめ姉さんは、弟にとって自分は必要ないんだと、自分の存在が邪魔でしかないと思い込んでしまうループ。

こうしてメッタメタになったところで、大学生活の描写が入るんですよね。
飯島先輩がまた本当に良い人。良い主人公の周りには良い人が集まるんだろうかと思うくらい良い先輩。
その先輩が主人公の部屋にお邪魔するんですよね。(この時点でちょっと予感はしてました)
そしてタイミング良く(?)その部屋に入ってきちゃうあやめ姉さん。
いやもう追い打ちが、追い打ちが、リアルで声にならない声がでました。もう「ひうっ」って感じの。

さらに悪循環していく思考ループ。
自分は、弟に世話をすることに存在意義を感じるほど幸せになれるけれど。
でもその状態では、弟はいつまでも『姉に甘やかされる弟』のまま自立することができなくなってしまう矛盾。
自分はどうあっても弟である涼を不幸にしてしまう。

姉弟であることを理由に、本音を覆い隠したまま、関係を終わらそうとするあやめ姉さんの姿がもう……ほんともう。
弟である涼がここまで必死に頑張れるのも、卒業まで支えたあやめ姉さんがいてこそなのに、それを『自分のエゴ』だと自責の念に変えてしまう姿が本当に辛い。

すごい良い意味でも、ここのシーンの一色ヒカルさんの表現がすごい。
この辺りからもう私のSAN値0。

その後は選択肢によって、ハッピーエンドか、堕落エンドか。

堕落エンドも、ある意味エロゲの意味合いとしては好きなんですよね。
あやめ姉さんが、自分の気持ちの整理をつけれないままに、ただ快楽のままに弟に依存し続けて、主従関係のように何も考えないまま堕落していく終わり方。ただ涙を流しながら堕ちていくHシーンの言葉には、あやめ姉さんの蠱惑的な魅力と、やるせなさとが詰まった一つの名シーンだと思います。
ただし、自分のために生きる意味を見出せず、弟のためだけにしか存在意義を見出せないまま終わるあやめ姉さんの姿は、見ていて辛かった……。主人公の自立への覚悟も無駄になってしまうと思うと、悲しい……。


ハッピーエンドはどう結末をつけるのかなぁと、HPが赤ゲージ状態で読み進めてたら、主人公が車に轢かれてしまってさらに衝撃。
これ、もしかして、主人公死んでしまうのか?って一瞬くらってしましたけどそんなことはなかった。

でもこの出来事もあって、あやめ姉さんが自分の気持ちに正直になる姿がほんと安心したんですよね……。

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『大好き。世界でいちばん好き。どうしていいかわからないくらい……好き……。
あんたと離れても生きているけど……そう思ったけど……。
……でも、あんたのいない世界じゃ生きていけない。そんな世界に、生きてる価値なんか……ないよ……』
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あぁやっとすれ違いの気持ちが少しずつほどけていく姿が本当に、これが見たかった……。そしてまたこの後の主人公のセリフがもう一番大好きなんですよね。

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あやめ:「もう、ただの女になっちゃうのかな……って。嬉しいけどちょっと寂しいなって……思ったの」
涼:「姉貴だから好きになったんじゃない。好きになった女がたまたま姉弟だったんでもない」
『オレは佐々木あやめが……『ねーちゃん』が……好きなんだ。
そりゃあんまり褒められたことじゃないだろうけど……ねーちゃんが好きだよ。
母親とか姉とか女とか、切り離せない。そのまんまのねーちゃんが全部……好きだ』
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あぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~好き(直球)
私が一番理想で好きな姉弟像を描いてくれて本当に、ここであやめ姉√の評価がさらにバク上がりした瞬間です。
今までの過去の繋がり、姉と弟の関係、それら全てを否定するわけではなくて、それらを受け入れて維持したうえで、また一人の女性としてあやめ姉さんを受け入れるセリフ。
決して姉としての姿を切り捨てるわけではない答えに、もう好き。
そうなんですよね。姉としての弟との関係を否定してほしくないんです。その繋がり支え合い思い出を受け入れた上で、またそこから派生する形で二人結ばれてほしいんです。それが私にとっての理想の姉弟の姿。
だからこの答えのセリフを見た瞬間のもう喜びといったら、言葉にならないくらいこのシーンが良かった。


その後の結末のシーン。ここの素晴らしくて良き。
結末としては涼は社会人1年目として働きだして、あやめ姉さんは、大学にまた通いだす終わり方。
それは、かつてあやめ姉さんが高校卒業まで涼を支えたように、今度は涼があやめ姉さんを支える関係。
また、あやめ姉さんの姿も、これまでの弟のためだけに生きるのではなくて、かつての夢だった看護師になるという『自分のため』に生きる選択を選んだ姿が本当に良かったです。
でもそれだけじゃなくて、今までの姉弟の姿のように、綺麗な台所と部屋で、コンビニ弁当じゃない朝食をつくるあやめ姉さんの姿。

それは、今までのように弟に依存するだけじゃなくて、でも依存自体を否定するわけじゃなくて。

【あやめ姉さん】
依存(世話をする)した関係性を持ちながら(姉としての姿)、自分のために生きる姿(自立して看護師を目指す大人としての姿)
               ↑↓
【涼】
依存(世話を焼かれる)される関係性を持ちながら(弟としての姿)自分のために生きる(社会人として支える姿)

決して姉弟関係のエゴを否定するわけではなくて。
どちらの姿もあって良いんだよと受け入れてくれる、両立できた姿を最後に見せてくれる終わり方として、
最後のあやめ姉さんと主人公の姿がとても嬉しかったです。

こうしてあやめ姉さん√をアナザーまで読み終えたんですが、まず思ったことは、濃密、本当に濃密。
久しぶりにここまで『姉弟』をテーマにして描いたお話を読んだ気がします。
そもそも自分がここずっとプレイした姉ゲーは、萌傾向の強い、弟LOVE!な作品が多かったので、本当に久しぶりだったなぁと。
特に、アナザーストーリーで描かれたように、姉ヒロインが、弟と距離を離れた場合、どのような姿を見せるのか、という部分を見たのが一番衝撃で上手な描き方だったなぁと。
あえて一度距離を離すことで、姉目線から見た、愛情の深さと距離の苦悩、さらにただでさえ素晴らしい心理描写がこの距離感の描き方にさらにフィットして、さらにさらに一色ヒカルさんの表現力のすばらしさが光る。これらが合わさって描かれる心の機微、すれ違いのちょっとした仕草等の濃密さが本当にえぐみがでるほどすごかった。すごすぎて、読み進めるのにちょっと辛かったほど……(小声)

もちろん、姉『属性』(あえてこの表現を)としてのヒロインも好きです。こういったエロゲには、何度も楽しませてもらいました。
ただ、この愛情の深さ、LOVE!の度合いを、萌えの『日常風景』として馴染ませるのではなく、今作のように『すれ違い』の対比させて描く濃密さも新鮮で面白いです。
こういうテーマって重くなりがちで、下手したら、外部の価値観等の押し付けといった地雷や、ヒロインと主人公たちの行動に共感できないと、物語に没入できなくて、なかなか難しいと思うんですよね。

そこを、あくまであやめ姉さんと主人公の二人の関係だけに重点を置いて二人の心理描写を丁寧に描き切ることが本当に良かった。
crescendoの、テキストの良さと声優の良さがかみ合って、没入して説得力を持たしてくれる作品のレベルの高さに昇華して初めてこのテーマを描き切ることができるとも思います。
それほど、説得力を持たせてくれる作品として面白かったです。

crescendoには、年上ヒロインの香織先生と、姉ヒロインのあやめ姉さんがいますが、二人は全く方向性が違うと感じます。
それこそ香織先生は、年上ヒロインの『属性』の可愛さとしてもう最高でしたし
あやめ姉さんは姉ヒロインの『関係性の描かれ方』としてもう最高でした。
どちらが良いという話ではなくて、どちらも方向性が違う中で高品質で、楽しめて、一粒で二つ美味しい?ような。
姉スキーであり、年上スキーの自分にはどちらも刺さるお話でありました。



(6)静原 美夢
隠しヒロイン枠。病弱入院ヒロイン。
声優が佐々留美子さんというのもあって、お久し。この方の声好きなんですよね。
最初は家族計画の春花で一目ぼれだったかな。この独特の声の高さがとても好き。

彼女の√に至っては、上手く感想を書くことが難しいのが本音です……。
正直私にはあまり深くまで刺さらなかったのがあります。

彼女の√は、入院から退院したことで、学校に戻ってきた卒業前の数日間を主人公と過ごすことになります。デートシーンの遊園地や、アンティーク屋のお話等、面白い話でした。

ただ、やはり、彼女は実は2週間前から昏睡状態で亡くなっていたという事実があまりに辛かったです。

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「お願い。私のこと────忘れてくださいね。
……わがままだと……思いませんか?
ずぅっと憶えていてほしい、って。誰かの心を縛りつけておこう、って
わがままはひとつだけって、約束しました。
私、佐々木さんの重荷になりたくない……負担にも
……翼がほしかった、私。
どんな嵐にも負けないで、空を飛べる強さが……ほしかった……だったら佐々木さんにも憶えていてもらっても、苦しくなかったのに……」
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自分の死によって、好きな相手を縛り付けたくないとする優しさ。
もっと、素直な気持ちを言えたらどれだけ良かっただろうか。
その彼女なりの優しさがあふれ出るばかりの言葉が『忘れてほしい』という想いでした。
けれど、彼女の秘める想いは最後に明かされることになります。
最後の結末シーン。それは彼女が残したフロッピーディスクに詰まった、彼女の演奏した曲でした。

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美夢の心に、最後まで自分はいたのだろうか。
わずかな心のふれあいを、大切に想ってくれたのだろうか。
(中略)
写真と同じ笑顔のまま、美夢の記憶へ焼き付いた自分を想う。
優しい想い出だけでできた、幻の涼を。
ほんとうの彼は、共に写真を撮ったことさえ忘れかけていたのに。
重ねるごとに過ぎ去った美夢の日々。
忘却と憧れに柔らかく霞んでしまった記憶と、それだけは真実だった彼女の淡い恋心が──あまりに哀しい。
(中略)
『佐々木さん』
『お願い 私のこと──────』
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彼女の最後まで秘め続けた想いは、フロッピーディスクに残した曲が全てでした。

彼女の√の途中で、スコット・ジョプリンの本人が作ったディスク(かな)により本当に彼が演奏したとして再現されます。
それは、時代を超えて、それでも音楽として彼の存在は残り続けるとしたお話でした。
同じように、美夢さんの曲も、彼女がいなくなっても、確かに彼女そこにいた証明として残り続けます。その曲は、主人公が、『まるで美夢さんに似合う曲だね』と言ってくれた曲でした。
彼女にとって、主人公が似合うと言ってくれた曲こそが、そして主人公にしか伝わることのない、この曲こそが、彼女の『憶えていてほしい』という心の叫びでもありました。

彼女の√はあまりにも哀しいです。
アナザーストーリーで救いの話があったとしても、それは正直もしも、という形にしか捉えることができず、とても悲しい。
きっと卒業式を終え、大人になっていく中で、この想いは主人公の中にきっと残り続けていくのだと思います。
あなたの重荷にはなりたくない、けれど憶えていてほしい。
彼女にとって、お見舞いのあのひと時、そして卒業までの時間がどれほど彼女にとって有意義な時間であったか。
綺麗なお話だと思うけれど、けれど本編で救いがあってほしかった、と思わずにはいられないほど、美夢さんには幸せになってほしいからこそ、ただただ悲しかったです。

③総括
濃密だった……の一言が全てだったと思います。
何だろう、今だったらここまでえぐく濃密に表現できるのかなって思うくらいえぐいんですよね。
それほどに読み応えがあって、面白かったのはライターのレベルの高さが本当にすごかったんだなって思います。
特に、香織先生とあやめ姉さんの2ルートは、私の中でも衝撃が大きかったです。
ここまでの年上ヒロインのお話は、今だとなかなかお目にかかれないのではと思うほど。

今のエロゲを決して否定するわけじゃないんですけども、2001年という10年前の当時だからこそ描ける話だったかなと思います。
今ここまでえぐく書き上げたらユーザー受けするのかなって思うと、ライト層には受けないんじゃないだろうかと思います。
当時の作風だからこそ、ここまで濃密な作品に触れられることができたと思うと、やはり昔のエロゲも名作と言われる所以があって、楽しいと思わせてくれる作品でした。

本当に素敵な作品でした。
内容を忘れたくない、大切な思い出の一つとしてこのエロゲを挙げたいと思わせてくれるお話でもあります。
ありがとうございました。