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merunoniaさんのBLACK SHEEP TOWNの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
BLACK SHEEP TOWN
ブランド
BA-KU
得点
97
参照数
650

一言コメント

様々な視点から描かれる街の歴史の容赦のなさが何よりも好きでした。一つの出来事の裏には別の歴史の積み重ねがあって。一つの人生の裏には別の人生があって。こうした容赦のない出来事が積みあがって、この街の歴史があるのだと体感できる群像劇でした。楽しかったです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

何よりもここまでの世界観、物語それらを全部読み切った時の満足感が本当に楽しかったです。
できるならば、もっとこのY地区での物語を読んでいたかった……。

〇多すぎるほどの登場人物たちの視点
この作品の特徴、魅力といえば、多すぎるほどに多い登場人物の視点から語られる群像劇。
・YS初代龍頭のクリスツェー ・龍頭の息子である謝亮と妹であるシウ ・八龍会リーダーの見土道夫
・YSメンバーである、馬明、フェルナンデスファミリー、寥志明……
・シウの友人さくら ・正義だった探偵の路地 ・ドクター太刀川、武器商人エリー
・B収容所の職員、能美に内田広美 ・灰上姉妹にサーシェンカ ・汐松子

まだまだ全然書き切れてないほどの多くの登場人物から語られていく重厚な物語が本当に面白かったです。
ただ群像劇の面白さって、普通であればこれらの様々な視点から描かれた物語が、中盤~終盤にかけて交差して登場人物たちが関わっていくのが群像劇の醍醐味だと思っているんですが今作品はそれとは異質。
序盤に多くの視点で語り彼彼女たちに愛着が湧くようになってからこその、後半に容赦なく切り捨てていくことで命の軽さ、街の歴史を描いていくことこそが、本作品の醍醐味だと思います。


〇容赦のなさ
容赦のなさって何かっていうと、今作品、これでもかってくらい登場人物が出てくるんですけど、それに伴いに容赦なく登場人物が退場(死)しまくるんですよね。
それも、魅せ場があって退場する登場人物もあれば、これまでの功績に比べてもあっけなく退場してしまう登場人物もいる。
もちろん、容赦ない死に様でもそれまでにかけてきた登場人物たちの人生は描かれているため決して無駄ではないけれど、命の軽さが描かれるように死んでいく……。

特に私は序盤の結婚披露宴のシーンからフェルナンデス3姉妹が本当に大好きだったんですよ。
主人公である亮のことを慕う3人がどのようにフェルナンデスファミリーとしてYSに関わっていくのか……、世代交代を経て、見土達の八龍会とYSの若い世代はどのように関わっていくのか……序盤~中盤にかけてワクワクしながら読み進めていたんですよね。
主人公である亮が初代クリス・ツェーから3代目の龍頭になってどのように派閥を統一させていくのか……。
実際に描かれていたのはもうあまりにも容赦のない派閥の統一。
そして馬明もフェルナンデス3姉妹もその派閥統一に巻き込まれるように容赦なく殺されていくのがなぁもう辛かった。最後のリタですら容赦なく殺されていくのが……。

なまじ序盤から中盤にかけて、彼彼女たちの何気ない日常、それらの深堀りがあるから愛着が湧いちゃうんですよ……。
登場人物たちを増やせば増やすほど退場させればいいと思ってるな……?

〇B収容所と広美という少女
またもう一つ辛かったことを挙げるなら『B収容所』と八龍会解放軍の襲撃でした。
序盤~中盤にかけて、職員たちとBタイプたちの日常が描かれていて、特に内田広美と介護する能美の平和な日常が描かれていたからこその後半の皆殺しシーンがけっこう辛かった。
けれど、その後の広美視点による外伝がとても好きです。
八龍会解放軍によって、良かれと思って強制的にBタイプの症状を解放された広美が決意したのは、八龍会解放軍のリーダーである見土の殺害。
一見ただのBタイプ症状を発症した少女のままで終わるはずだった彼女が、勢力図に多大なる影響を及ぼすことになった結末、それはそもそも八龍会解放軍がB収容所を襲撃したからこそのこのやるせなさが、この物語らしくてすごい好きです。

エリオット「ようこそ、全てに価値がない世界へ」
広美「ありがとう」

一人の少女ですら、この町では一人の主人公であるようなこのシーンがとても好きです。


〇見土君という存在
この作品の感想を述べるには、その他にも最も中心である亮だったり灰上姉妹にドクターに松子ともうキリがないほどたくさんあるけれど、その中であえて挙げるなら見土君。
彼こそまさに私の中でこの作品を端的に表すような存在だったと思います。

序盤の彼の姿から、彼は亮に並んでW主人公の一人であるようでした。
亮が頭がキレるクールな策士主人公ならば、見土君はAタイプ&Bタイプのハイブリッド主人公。
きっと後半では、W主人公が対立しながらも世紀の対決を行うのか、もしくは最後には黒幕に対して協力しあうのか……。
結果は、あまりにもあっけのない退場。
八龍会解放軍としてこれからだという所で、広美によって殺されてしまう。
まさしくこの命のあっけなさ、容赦のなさこそがある意味この作品らしい。
けれど見土はこの終わり方に対して、花に囲まれながら終える人生に対して『こんな幸せなことがあるだろうか』
と述べて終わります。
こうした『どうしてこうなっちまったんだろう……』と思うような一見あっけのない死に様でも、それぞれの生き様を描くような形なのもこの作品らしいと思います。

また何が憎いかって、(灰上姉妹もそうでしたが)こうした生き様を描いた後に、亮や見土、灰上姉妹たちの幼少時代を描く構成になっているんですよね。
普通であれば、まず彼らの過去を読ませて深堀りをさせてきたところで最後にクライマックスを迎えていく所を、先に最後、ピークとなる部分を読ませた後に、彼彼女たちを理解するための過去の回想を読ませるのが憎い……。
特に見土&灰上姉妹は明らかに狙っていて本当にもうね……卑怯(誉め言葉)

こうした容赦のないような積みあがった物語があるからこその街だとも思います。
ココが何よりも好きなんですよね……。嫌いだけど好き。


〇総評
もっと色々面白かったこと書きたかったんだけど、
自分が印象的だった部分(=容赦のなさ)を挙げた感想となってしまいました。
けれどやっぱり『もっと読みたかった』これに尽きます。
妹であるシウのその後の姿はどうなったのだろうか、サクラのあの姿は
灰上姉妹のその後は
そもそもその後の派閥争いはどうなるんだろうか
もっと見てみたい部分が多くある、それくらい魅力がある物語でした。

けれど同時にこれ以上語られないのもこの作品らしいです。
公式HPやタイトル画面からの必要な物を一切そぎ落としたようなシンプルな作品。
一つの街の歴史でも、登場人物たちの視点によって見えてくるものが違うような
一つの出来事の裏には、別の出来事があって
一つの人生の裏には、別の人生があって
それをただただ眺めるだけである作品に、プレイし終えた今では雰囲気がとても似合っているように思います。

強いて言うなら、さっぽろももこさんのBGMがもう最高に良かっただけあって、もっと聞きたかった。

本当に面白かったです。
もっと読みたかった。
ありがとうございました。